玉国別の一行は、ライオン河を渡るやバラモン軍の残党に襲われ、伊太彦は槍に刺されて傷を負い生死のほどもわからなくなり、玉国別と真純彦もどこに行ったかわからなくなってしまった。三千彦は一人先に進み、テルモン山のアン・ブラック川までやってきた。
三千彦は師や仲間たちの無事を神様に祈っている。このときにわかに強い川風が吹いて、堤の上にいた三千彦は泥田の中に転げ込んでしまった。泥にはまって苦しむ三千彦を、霊犬スマートが救い上げた。これは初稚姫が三千彦の難儀を前知して、救援に向かわせたのであった。
三千彦の着物にはヒルが喰いついてはなれない。困っていると、スマートがバラモン教の宣伝使服をくわえてきた。三千彦はこれも神様の思し召しだろうと、服を着てバラモン教の宣伝使の格好になった。スマートはすでにはるか遠くの山を駆け上って行ってしまった。
三千彦はバラモンの経文を唱えながら進んで行く。するとテルモン山の神館を守る小国別の妻・小国姫と名乗る老婆の一行に出会った。小国姫は三千彦を館に招いた。
名を尋ねられた三千彦は、自分は鬼春別の軍に同行していた従軍宣伝使であったが、鬼春別敗北よりここまで逃げてきたと身の上を語り、とっさに名前を川から取ってアン・ブラックと名乗った。
小国姫は、アン・ブラック川の岸辺に行けば自分を助けてくれる真人に会える、という夢のお告げがあったことを語り、川と同じ名前の宣伝使に会えたことを喜んだ。
三千彦の背中にはいつのまにか、ブクブクとしたこぶができて猫背のようになっていた。案内されて館に入ると、いつの間にか猫背は元のとおりに直っていた。これはスマートの霊が三千彦を無事に館内に送り、かつその身辺を守るためであった。スマートは館の床下に隠れて守っている。