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文献名1霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
文献名2第4篇 三五開道よみ(新仮名遣い)あなないかいどう
文献名3第19章 痴漢〔1449〕よみ(新仮名遣い)ちかん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
小国姫は如意宝珠の玉を持ってオールスチン、ワックス、三千彦と共に玉発見の報告に小国別の病床を訪れた。三千彦は病人に、娘たちがもうすぐ帰還することを予言した。

オールスチンと看護人に病床を任せ、小国姫、三千彦、ワックスは居間に戻ってきた。三千彦はワックスに改心を促し、小国姫も反省を迫ったが、ワックスはかえって、自分は玉の紛失にはかかわっておらず、発見者である自分こそデビス姫と結婚する権利があると強弁を始めた。

三千彦は怒って、ワックスがそういう心づもりであれば赦すことはできないと言い渡した。ワックスは自棄になって一目散に逃げ出した。小国姫は僕のエルに追跡を命じた。しかしエルは牛の尻にぶつかって人事不省になってしまった。

慌て者のエルは、小国別はすでに亡くなり、跡継ぎは家令の息子ワックスに決まったと根拠のないことを語りだした。城下の人々はこれを伝え聞いて、小国別お訃報に悲しみ、また跡継ぎの婚礼を祝い、辻辻に幟を立ててはやしまわった。

町はずれの方から宣伝歌の声が涼しく聞こえてきた。これは求道居士がデビス姫、ケリナ姫を連れて帰ってきたのであった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所竜宮館 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月3日 愛善世界社版267頁 八幡書店版第10輯 245頁 修補版 校定版282頁 普及版128頁 初版 ページ備考
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本文  館の主人、小国別はソフアーの上に横はり息も絶え絶えに苦しんでゐる。二人の看護手は寝食を忘れて介抱に余念なかつた。小国姫はオールスチン、三千彦、ワツクスを伴ひ入り来り、
姫『旦那様、喜んで下さいませ。三五教の宣伝使三千彦様のお蔭によりまして如意宝珠の神宝が帰りまして厶います。之を御覧なさいませ』
と包みを解いて目の前につきつけた。小国別は病み疲れ、衰へたる目の光りに玉を眺めてニヤリと笑ひ双手を合せて感涙に咽んでゐる。そして只「有難う」と一言云つたきり後の語を次ぐ事は出来なかつた。これは衰弱の甚だしき上に、余りの喜びに打たれたからである。三千彦は病人の側近く寄り、
三千『この通り御神宝が帰りました上は、又もや神様の御恵によりまして、屹度ケリナ姫様も近い中にお帰りになるでせう。御安心なさいませ』
と詞優しく慰むれば小国別は掌を合せ、娘の近い中に帰ると云ふ証言を聞くより、稍元気づき、
小国『娘が帰りますか。それは有難う厶います。到底私は今度は、もう旅立をせなくてはなりませぬ。せめてそれ迄に紛失した如意宝珠を、もとに還し、娘の顔を生前に一目なりと見て此世を去り度いと思うて居りましたが、斯う弱りきつては、もう三日も命が続きますまい。成る事ならば一時も早う引寄せて頂き度う厶います』
三千『もう間もなくお帰りになりませう。私の耳の側で神様がさう仰せになりました。併し乍ら御病気に障るとなりませぬから、吾々は控へさして頂きませう』
小国『何卒御自由にお休み下さいませ』
と微の声で挨拶する。家令のオールスチンは病人の側近くより、
オールス『旦那様、何卒気を確りして下さいませ。そして如意宝珠の玉を盗んで匿して居つたのは私の悴ワツクスで厶りました。誠に偉い御心配をかけまして申訳が厶いませぬ。此皺腹を切つて申訳を致さむと覚悟を定めた所を奥様に止められ、惜からぬ命を少時延ばしましたが、何卒貴方が命数尽きてお国替遊ばすやうの事あれば屹度私もお伴致します。何卒何処迄も主従の縁を断らぬやうにして下さいませ』
 小国別は微に首肯いた。三千彦はワツクスの手を曳いて自分の居間へと帰つて行く。二人の看護人とオールスチンに小国別の介抱を頼み置き、小国姫は又もや三千彦の居間に来り心配さうな顔をして、
姫『三千彦様、誠に御心配許りかけまして申訳が厶いませぬが、主人は到底あきますまいかな』
三千『お気の毒乍ら到底駄目で厶いませう。併し乍ら仮令肉体はなくなつても精霊は活々として若やぎ、霊界に於て神様の為に大活動を成されますから、御心配なさいますな。人は諦めが肝腎で厶いますからな』
姫『ハイ、有難う厶います。最早覚悟は致して居ります。然し乍ら、も一つ心配な事が厶いますが一寸伺つて貰ふ訳には行きませぬか』
三千『何事か存じませぬが一寸云つて御覧なさいませ』
姫『実の所は私の娘デビス姫と申すのが、今日で三七二十一日の間、昼さへ人のよう行かぬアンブラツクの滝へ、玉の所在を知らして下さるやう、父の病気が癒るやう、も一つは妹の所在が判るやうと、繊弱き女の身を以て毎晩二里の道を往復致し、何時も夜明け方に帰つて参りますが、今日は如何したものかまだ帰つて参りませぬ。大方滝壺に落ちて命を捨てたのでは厶いますまいか。但しは猛獣に殺されたのではありますまいか。俄に胸騒ぎがして気が気ぢやありませぬ』
三千『決して御心配なさいますな。半時経たない間に御姉妹打揃ふて、一人の修験者に送られて無事に帰られます。間違ひは厶いませぬからな』
姫『左様で厶いますかな。娘二人が帰つて呉れたならば、最早心配事は厶いませぬ。ああ南無大慈大自在天様、何卒々々一時も早く娘二人の顔を夫の命のある間に見せて下さいますやうお願ひ致します』
と涙を流して祈り入る。
三千『これ、ワツクスさま、お前は大それた悪い事を成さつたが、これと云ふのもお前の副守護神がやつたのだから、茲に神直日大直日に見直し聞直して頂き、内分で済ます事になつてゐますから、之から心得て貰はねばなりませぬぞ』
ワツクス『ハイ、有難う厶ります。誠に申訳のない不調法を致しました。今度私の罪をお助け下さいますならば、無い命と心得て如何様なる働きも致し、屹度御恩返しを致します。モシ奥様、屹度お赦し下さいますか』
姫『赦し難い罪人なれど三千彦様のお計らひにより内証で済ます事にして上げよう。之からキツと心得たがよいぞや。年寄つた一人の親に心配をかけ、本当にお前は不孝な者だ。親ばかりか、吾々夫婦や娘に迄も心配苦労をかけて困らしたのだから、今後は屹度慎んで貰はねばならぬぞや』
ワツクス『ハイ、有難う厶います。これから貴方様を親様として真心を尽しお仕へ申します』
姫『これ、ワツクス、お前は親があるぢやないか、妾を主人として仕へるべきものだ。親として仕へる等とはチツと可笑しいぢやないか』
ワツクス『義に於ては御主人で厶ります。然し情に於ては親様と存じてツヒ不都合な事を申しました。然しお赦し下さつた以上は私を子として下さいませうな。実の所はエキス、ヘルマンの両人が盗み出したので厶いますが、私が種々と苦心をして玉の所在を白状させ、お家の為に働いたので厶います。二人の者を助けたさに私が盗つたと父に申しましたが、その実はヘルマン、エキスの両人が盗み出したので厶います。それをば父に匿して金をやり、酒を飲まして白状させ、ヤツとの事で如意宝珠を手に入れたので厶います。貴女はお忘れでも厶いますまいが家中一般に如意宝珠の玉の所在を探し、持つて来たものはデビス姫の養子にすると仰有つたぢや厶いませぬか、さすれば仰せの通り私は御養子にして頂くべき資格があらうと存じます』
姫『そりや、お前の云ふ通り、如意宝珠の玉を探し、持つて来たものは養子にすると云ふて置いた。然しお前は親一人、子一人、家令の家を継がねばならぬ身の上だから、それは出来ますまい。先祖の家を忽かにする訳には行くまいからな』
ワツクス『いえ、そんな心配は要りませぬ。私が養子になり、デビスさまとの間に三人や五人は子が出来ませうから、其中の一人を頂いて、私の家を継がせば宜しいぢやありませぬか』
姫『もし三千彦様、あんな事を申しますが如何したら宜しう厶いませうかな』
 三千彦はワツクスの顔をギユツと睨みつけ口をヘの字に結んでゐる。ワツクスは怖相に少しばかり声を慄はし乍ら、
ワツクス『モシ、宣伝使様、何卒私を約束通り、玉の発見人ですから養子にして下さるやう御とり成しを願ひます』
三千『これ、ワツクス、お前は吾々を盲にするのか、否御夫婦を騙る積りか。今云つた言葉は皆詐りだらうがな。お前はお家の重宝を匿し、御夫婦を困らし、往生づくめでデビス姫様の夫にならうとの計略をやつたのであらう。そんな事に誤魔化される三千彦ぢやありませぬぞ』
ワツクス『メメメ滅相な。さう誤解をされては困ります。あれ丈苦心してお家の為めになる宝を手に入れた此忠臣を、悪人扱ひにされては根つから勘定が合ひませぬ。何卒も一度お考へ直しを願ひます』
三千『お黙りなさい。左様の事を仰有ると最早容赦はしませぬぞ。高手小手に縛め唐丸籠に乗せてハルナの都へ送り届けませうか。又何程お前がデビス姫様に恋慕して居つても、肝腎の姫様がお嫌ひ遊ばしたら如何する積りだ。愛なき結婚でもお前は快う思ふのか。家令の悴にも似ず、訳の分らぬ事を仰有るぢやないか』
ワツクス『吾々を威喝して二人の恋仲を遮り後にヌツケリコとお前さまが養子に這入りこむ考へだらう。そんな事あチヤーンと此のワツクスは腹の底まで読んで居りますぞ』
三千『これはしたり、迷惑千万、何と云ふ失礼な事を仰せられるか。吾々は三五教の宣伝使、大切なるメツセージを受けて或所まで進まねばならぬ身の上、女を連れるなどとは思ひも寄らぬ事。お前の心を以て吾々の心を測量するとは些と失礼では厶らぬか』
ワツクス『宣伝使と云ふものは、そんな事をよく云ふものです。口でこそ立派に女嫌ひの様な事を云つて居ますが蔭に廻ると、もとが人間ですから駄目ですわい。デビス姫様が欲しけりや欲しいとハツキリ云ひなさい』
姫『これ、ワツクス、何と云ふ失礼な事を申すのだ。玉盗人はお前に違ひない。現在お前の親が証明して居るのぢやないか』
 ワツクスは自棄糞になり、尻をクレツと捲つて此場を後に、一目散に表門を潜つて駆け出した。小国姫は手を拍つてエルを招きワツクスの後を追跡せよと命じた。狼狽者のエルは皆まで聞かず、『ハイ、承知しました』と又もや此処を飛び出し地響きさせ乍らドンドンドンと門外へ駆け出し、道の鍵の手になつた所を、頭を先につき出し体を横にして走る途端に、あまり広くもない道端の柿の木に大牛が繋いであつた。其牛の尻にドンと、頭突をかました。牛は驚いてポンと蹴つた拍子にエルはウンと許り倒れた。牛は二つ三つ尻を振つて再びエルの睾丸の端をグツと踏み、力を入れてグーツと捻た。エルはキヤツキヤツと悲鳴を挙げてゐる。通りかかつた旅人や近所の家からドヤドヤと集まつて来てエルを助け、傍の或家に担ぎ込み、様子を聞けばエルは顔を顰め乍ら、
エル『皆さま、如意宝珠のお宝が手に入りました。そして様子を聞けばワツクスが玉の所在を探した御褒美に、デビス姫さまの婿になると云ふ事ですよ。それから小国別様は御危篤で何時息を引きとられるか分りませぬ。大方今頃は絶命れたかも知れませぬ、大変で厶います。何皆さま、一時も早う各自に町内を触れまはり城内に悔みに行つて下さい』
とまだ死んでも居ないのに、手まはしよく死んだものと仮定して吹聴した。之を聞いた老若男女は次から次へと、尻はし折り駄賃とらずの郵便配達となつて、
『如意宝珠の玉が手に入つた。そして小国別が国替へをなさつて、ワツクスがデビス姫様の婿にきまつた』
と一軒も残らず、御丁寧に布令まはつた。
 テルモン山の麓の町は俄にガヤガヤと騒ぎ出し、衣裳を着替へて館へ悔みに行くもの引きもきらず、俄に大騒動が起つた様になつて来た。エルは睾丸の端を牛の爪にむしりとられ、益々体中に熱が高まつて『死んだ死んだ』と囈言ばかり囀つて居る。
 俄に小国別の訃を聞いて泣く老若男女もあれば、馬鹿息子のワツクスがデビス姫の婿になるげなと驚いて触れる奴もあり、如意宝珠の玉が帰つたと喜ぶものもあり、テルモン山の麓の宮町は此噂で持ちきりとなつた。気の早い男は早くも幟を立て「神司小国別の御他界を弔ふ」とか、「如意宝珠再出現」とか、「デビス姫ワツクスとの御結婚を祝す」とか云ふ長い幟を立てて、ワツシヨ ワツシヨと辻々を廻り初めた。
 かかる所へ宣伝歌の声涼しく町外れの方から聞えて来た。此声は求道居士がデビス姫、ケリナ姫を助けて帰り来るにぞありける。
(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 北村隆光録)
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