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文献名1霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
文献名2第4篇 三五開道よみ(新仮名遣い)あなないかいどう
文献名3第20章 犬嘘〔1450〕よみ(新仮名遣い)けんきょ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-07-18 17:07:11
あらすじ
テルモン山の館をエルが飛び出してから半時ばかり経つと、各宮町の町民たちが礼服を整えてやって来た。小国姫が何事かと対応すると、町総代が、エルから聞いたと言って小国別のお悔やみを上げ、またワックスとデビス姫の祝言の祝を述べたてた。

小国姫は驚いて、如意宝珠の玉が戻ったこと以外は事実ではないことを総代に説明した。総代は戻って町民たちに、小国別は健在であること、如意宝珠の玉が戻ったことを報告した。

ワックスは角辻に立って演説をやり始め、小国別夫婦が三五教の宣伝使を館に連れ込んで悪事を企んでいると事実無根の話をでっち上げ、攻撃の演説を始めた。群衆は三五教の宣伝使がテルモン山館に招かれていると聞いて怒り、館に押し寄せた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所竜宮館 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月3日 愛善世界社版278頁 八幡書店版第10輯 250頁 修補版 校定版293頁 普及版134頁 初版 ページ備考
OBC rm5620
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本文  テルモン山の館をエルが飛び出してから半時許り経つと各宮町の住民が、礼服を整へ扇をきちんと手に握り玄関口にチクチクと集まり来り、
『頼もう頼もう』
と呶鳴り立てて居る。小国姫は何事の突発せしならむかと玄関口へ出て見れば町総代のパインと云ふ男、叮嚀に辞儀をしながら、
パイン『これはこれは奥様で厶いますか。旦那様は誠にお気毒で厶いました。嘸お力落しで厶いませう。此の通り沢山の町民がお悔に参りましたが、一々御挨拶を致すのも御迷惑と存じ私が総代に出ました。承はれば旦那様は御昇天との事で御歎きの所へ如意宝珠の玉が還り、ワツクス様とお嬢様の御婚礼が調ひましたさうで、お喜び申てよいやら、お悔み申てよいやら、盆と正月が一緒に来たやうに、喜びと悲しみに打たれて居ます。何卒御用があつたら仰つけ下さいませ』
姫『貴方は町総代のパイン様、ようお出下さいました。併し誰がそんな事を申したか知りませぬが、旦那様はまだお国替になつて居ませぬから御安心下さいませ』
 パインは驚いて顔を赤らめ乍ら、
『エエ何と仰有いますか、旦那様はまだお達者で居らつしやいますか、それは何より結構で厶います。誠に申訳のない事を申して失礼で厶いました。何卒お許し下さいませ。併し如意宝珠が再びお手に入つたと云ふ事は事実で厶いますか』
姫『ハイ有難う、それは事実で厶います。まあまあこれでこの館も一安心で厶います』
パイン『それは何よりもお目出度い事で厶います。吾々町民一同もこんな喜ばしい事は厶いませぬ。就ては御家令の御子息様がお嬢様の御養子になられると云ふ事を承はりましたが、それは事実で厶いますか』
姫『そんな事を誰にお聞きになりましたか、此方にはそんな噂もして居りませぬが』
パイン『ヤ、それを聞いて町内の者も安心を致すで厶いませう。斯う申すと何で厶いますが、御家令様の御子息は町内中での憎まれもの、根性が悪くて、馬鹿で、極道で、悪い奴を友達にして、町民を困らせて居る仕方のないお方ですから、若しもそんなお方を御養子にでもお貰ひにならうものなら、お家は忽ち潰れて仕舞ひ、宮町の氏子は皆、小国別家に背くで厶いませう。併し乍ら今承はつてお家のため、実に安心を致しました。如何なる事情が厶いましても、御如才は厶いますまいが、義理人情に搦まれて、あのやうな男を御養子になさる事は止めて頂きたう厶います。是はパイン一人の意見ではなく、町内一般の意見で厶いますから』
姫『ハイ御親切有難う厶います。何卒町内の御一同様にも宜敷く言つて下さいませ。又夫小国別は何分老齢の事で厶いますから、何時変が来ないとも分りませぬ。其時には何卒宜敷く皆様にお頼み申すと、妾が言ふたと仰有つて下さいませ』
パイン『これはこれは失礼致しました。左様ならば是で御免を蒙ります。町内のものが旦那様がお国替になつたと云つて各自に仕事を休み、又立花、生花などの用意にかかつて居りますから、早くこの事を知らしてやらねばなりませぬから』
姫『もしパイン様、誰がそんな事を申したので厶いませうねえ、怪しからん奴があるでは厶いませぬか』
パイン『現にお家の受付をやつてゐるエルさまが大勢の前でそんな事を云つたものですから、忽ち町中に拡がつたので厶います』
姫『何といふまア、チヨカ助だらう。さうして何処に居りますかなア』
パイン『ハイ、今エルさまは牛に睾丸を蹴られて綿打屋の座敷に担ぎ込まれ、大熱を出して訳の分らぬ事許り云つて居られます。併し乍ら隣に藪井竹庵が厶つたものだから診察して貰つた所、二三日静養さして置けば癒るだらう、仮令間が要つても生命に別条は無いからと仰有いました。エルさまの事は吾々がお世話を致しますから御心配下さいますな。それよりも旦那様に気をつけて下さいませ』
 斯く話す所へ、黒山の如く弔ひ客や祝ひ客が門を潜つて押し寄せて来る。小国姫はパインに後を頼み置き、夫の傍に走り行く。
 パインは町民一同に向ひ大きな声を張り上げて、
パイン『皆様御親切によくも来て下さいました。館の奥様のお頼みによつて私が代理となり御挨拶を致します。旦那様はまだ御昇天遊ばしたのぢや厶いませぬ。番頭のエルが御存じの通りの慌者で厶いますから、慌て左様な事を喋つたので厶いませう。何卒皆様安心して下さいませ。さうして一つ喜んで貰ふ事は如意宝珠の玉が再びお館へ還つた事で厶います。皆様の御親切を当お館の奥様に代つてパインが有難く感謝を致します』
と述べ終り、
『小国別館万歳ー』
を三唱した。数多の群集は声を揃へて万歳を三唱し、各呆気に取られ、ブツブツ小言を云ひながら拍子の抜けた顔をして帰り行く。
 ワツクスは宮町の四辻に立つて盛に演説をやり始めた。大勢の者は館からの帰りがけ馬鹿息子が又もや何だか喋り出したと、面白半分やつて来た。ワツクスは手を振り乍ら、
ワツクス『皆さま、テルモン山の館には大変事が突発致しましたが御存じですか、よもやお分りでは厶いますまい。噂にもお聞きで厶いませうが三五教の三千彦と云ふ悪神が飛んで参り、金剛不壊の如意宝珠を夜密に盗み出し、小国別夫婦を初め一族郎党に不調法をさせ、大黒主様の命令をもつて館は云ふに及ばず、宮町一般の人民を小国別の同類と見做し、片端から首をチヨン切らすと云ふ悪い計劃を致して居りますぞ。そしてその三千彦と云ふ悪者は、今お館に大きな面をして居据り、魔法をもつて小国姫をチヨロまかし小国別様を病気に致し、ジリジリ弱りに弱らせて命を取り、デビス姫の婿にならうとして悪い企みを致して居りますぞ。皆さま、テルモン山のお館を思ひ、又貴方方自身のお家や、体や子孫をお思ひなさるなら、これから一同力を合せ、お館に押し寄せ、三千彦と云ふ悪人を懲しめて下さい、否殺して下さい。一日も猶予はして居れませぬぞ。グヅグヅして居ると貴方方の難儀になりますぞや。幸ひ拙者はその三千彦と云ふ奴の顔を存じて居りますから、是から御案内を致します、皆さま私の云ふ事が御承知が出来ますなら、何卒従いて来て下さい』
と呶鳴つた。群集の中には全部真実と信ずるものもあり、又半信半疑の者もあつた。併し乍ら、バラモン教の館の中に三五教の者が来て居ると云ふ事が分り、俄に皆が怒り出し老爺も老婆も子供も、脛腰の立つ奴は群衆心理とやらで再び館に取つて返し、潮の押し寄するが如く館の表門にヒシヒシと詰めかけた。
 ワツクスの口から出任せの虚構演説によつて忽ち一同憤慨し、館に押寄せ三千彦を袋叩にした事や、其外いろいろの面白き物語は之にて尽きませぬが、紙面の都合によりて後巻に譲ります。
(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館階上 加藤明子録)
(昭和一〇・六・一四 王仁校正)

 本日は故井上明澄君の五十日祭に就き口述者参列す。明澄氏神霊の請求に依り白扇一本を霊前に贈る、氏の神霊は第一霊国の天使として教祖の傍近く奉仕し給へり。
   大正十二年三月十七日旧二月一日
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