テルモン山の館から十七八丁奥の谷あいに大蛇の岩窟という深い穴があり、そこに三千彦たちは閉じ込められていた。番卒たちが三千彦を恐ろしい魔法使いだと噂していると、はるか上の森林の方から頭の割れるような宣伝歌が聞こえてきた。
三千彦はワックスの悪事を歌いながら、猛犬スマートと共に下ってきた。二人の番卒は大地に頭をこすりつけて謝罪の意を表しながらふるえている。三千彦は二人に案内させて、抜け道から館を指して帰ってゆく。
ワックス、オークス、ビルマ、エルの四人は会議室で昼間から野心計画の打ち合わせをやっていた。スマートは、四人の悪者が密談していることを三千彦に知らせた。三千彦は案内させた番卒を霊縛しておいて、そっと小国姫の居間に進み入った。
悪者たちに囲まれて悲しんでいた小国姫は、三千彦が戻ってきたので驚き喜んだ。ワックスたち悪人が会議室にいるので、三千彦が帰ってきたことが悟られないよう、病室の上の秘密の間にこもって相談をすることになった。
三千彦は、おそらく二人の娘たちが帰ってこないのは、ワックスが岩窟に隠して往生づくめに結婚を納得させようとしているのではないか、と小国姫に話した。そして小国別の病状も四五日は落ち着いているはずだから、しばらく待ってワックスの陰謀が表れたところで娘たちを助け出そうという計画を打ち明けた。
三千彦は、家令のオールスチンは大けがをしており、もう命は助からないことを小国姫に明かした。小国姫は、息子のワックスの悪業が親に報いたのだろうかと心配するが、三千彦は、神様は公平無私にいらっしゃるから、決して子の罪が親に報いるという不合理なことはないと諭した。
かくひそひそ話をしていると、ワックスたち四人は酒をあおってドヤドヤと病室に入ってきた。ワックスは、三千彦はすでに岩窟に放り込んだから観念するようにと小国別を脅した。小国別は怒ってワックスを叱りつけるが、ワックスは勝手に書いた遺言に拇印を押させようと小国別に迫った。三千彦はワックスが早く帰るようにと大神に祈っている。
看護婦のセールはみかねて、病人の前では控えるようにとワックスに注意した。小国別は読まずに印を押すわけにゆかないと、セールにワックスが書いた遺言状を読ませた。そこには、ワックスがデビス姫の夫となってテルモン山神館の跡継ぎとなるべし等、ワックスに都合がよいことばかりが書かれていた。
小国別は怒って、遺言状を引き裂くようセールに命じた。ワックスは無理矢理遺言状を奪い、力づくで小国別に拇印を押させようとした。すると大きな猛犬がウーウーと叫びながら飛んできて、ワックスの腰帯をくわえると館の外に引きずり出してしまった。
オークス、ビルマ、エルの三人は顔色を変え、受付の間に退散すると蒼い顔をしてふるえている。小国姫はやっと安心してあたりをうかがいながら病室に下りてきた。