ワックスは猛犬スマートにくわえられて門外に運び出され、気も遠くなって夏草の上に身を横たえて呻いていた。
ビルマは月を誉め鼻歌を歌いながらやってきた。たちまち一天掻き曇り、大空は墨を流したごとくさっと月光を包んでしまった。
ビルマはこわごわと述懐を歌いながらふるえている。にわかに黒雲はぱっと晴れて月の光があたりを昼のように照らした。ビルマは足元の黒い影をうかがい、人間だと気が付いた。二つ三つゆするとワックスは気が付き、むくむくと起き上がった。
ワックスはビルマが助けてくれたことに礼を言った。そして、あの黒い犬が出て来たのは、三五教の魔法使いが館に忍び込んでいるに違いないと述べたてた。ワックスは腰がいたいのも我慢して、町民を扇動して館から三千彦を追い出さなければならない、とビルマをせきたてた。
ワックスは驢馬にまたがり、ビルマが太鼓や打ち鐘ではやしたて、夜中町内を触れ回った。瞬く間にに三百のあわて者たちが飛び出して、ワックスについて館に押し寄せた。
この物音に不審を起こした三千彦は、小国姫に病人を看護させて門外に出て来た。ワックスは群衆に下知すると、三千彦を捕えさせた。三千彦は縛られて、アンブラック川に投げ込まれてしまった。