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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第2篇 顕幽両通よみ(新仮名遣い)けんゆうりょうつう
文献名3第13章 悪酔怪〔1463〕よみ(新仮名遣い)あくすいかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-12 12:54:05
あらすじ
ワックスは、悪友のエキスとヘルマンや、三五教の三千彦、また水平会なる団体を敵視し、これらに対抗するために悪酔怪なる団体を考え出した。弱きをくじき強気に従うという奇妙奇天烈な結社である。

ワックスは創立委員長としてテルモン山の議事堂に集まり、オークスに開会の辞を朗読せしめた。そして一条の演説を試み、三五教の三千彦、エキス、ヘルマンらは弱者なるがゆえに、悪酔怪設立の趣旨にしたがって彼らを除くべく会員たちに協力を願いたてた。

群衆の中からエキスが怒って現れ、我々に六百両を脅し取られたワックスこそ弱者だと述べ立てた。そして宮町の家々の宝が盗まれたのはワックスの仕業だと暴露した。

ワックスは経緯を詳しく知っているエキスこそ犯人に違いないと言い返した。群衆はこのやり取りを聞いて、ワックスとエキスをなぐり殺せと猛り狂った。ワックス、エキス、オークス、ビルマは細くなって抜け出し、テルモン山の山奥に逃げて行ってしまった。

エルが演壇に登って大声で演説を始め、ワックスとエキスは皆の肝玉を試そうとわざと活劇を演じて見せたのだ、と群衆を抑えにかかった。そして三五教の宣伝使こそが我々の共通の敵だとなだめた。

そして悪酔怪の設立を祝して酒宴を開くことを提案した。集まった荒くれ男たちは歓呼の声とともに踊り狂い、議事堂はたちまち床が墜落し、数百の鼠がおどろいて戸外に飛び出し、草むらに逃げて行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月25日(旧02月9日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版171頁 八幡書店版第10輯 322頁 修補版 校定版179頁 普及版83頁 初版 ページ備考
OBC rm5713
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本文  ワックスは父の病旦夕に迫り、嬉しうもあり悲しうもあり、大事の嬶を死なして同時に美人の芸者を後連れに貰うたやうな、悲喜交々の体であつた。其処へ、エキス、ヘルマンの二人が幾度となくなつて来て、金をむしり取り、今又大枚六百両強奪して立ち去り、三十日の後には再び無心に来ると下駄を預けて帰つたので、心も心ならず、何とかして強力なる団体を造り、二人の害を免れむものと苦心惨憺の結果、無い智恵を搾り出して悪酔怪なるものを編み出したのである。そして一方にはアンブラック川に投げ込んだる、三五教の三千彦が、スマートに助けられ、何処かに姿を隠したと云ふ事を聞いて心も心ならず、今の中に強力なる団体を組織し、三千彦を威喝し又自分の悪事の暴露したる時は、この団体の力を以て防がむと千思万慮の結果、同志を糾合して本会を設立したのである。本会の敵とする所は三千彦のみならず、水平会をも唯一の敵と見做し、弱きを挫き強きに従ふと云ふ、奇妙奇天烈な結社である。
 ワックスは創立委員長としてテルモン山の議事堂に集まり、オークスを臨時痴爺として開怪の辞を朗読せしめたのである。今左に開怪の辞と縮辞、並に挨拶を摘記する事にした。アア叶はぬから霊幸倍坐世。

  弱きを挫き強きを助く、天晴男の悪酔怪
      痴爺の縮辞と怪長の瞹擦
 大テルモン国、悪酔怪、スマネーケン凡夫発怪色は、鬼報の通り、二重惨日午後一爺より待合に於て開催されたが、尾皮怪長の辞、並に痴爺の縮辞は左の通りであつた。

      開怪の辞
隔靴、並に頭掻位の臨場を忝なふし、怪員笑死の出席を得、茲に大テルモン国、悪酔怪スマネーケン凡夫発怪式を狂行するに至りたるは金睾とする所也。思ふに我テルモン国は一大蚊属国にして、バラモン神祖以来歴代盗を垂れ蛮民を撫育し、化身哀哭の心情を発露し上下不和もつて辛うじて国家を支持し国威を中外に失墜し、烈国平和の攪乱をなす。これ我国の情弊にして、宇内に冠絶する所以なり。然るにバラモン軍と、三五軍との大戦以来、死葬怪悪化の影響を受け、仁義道徳漸く廃れ、盛んに弱肉強食行はれ、社会の秩序全く紊乱せむとす。加ふるに物質的卑吝の発達と学研的陋説の横行とは正にテルモン国の人民を犯して今や正に解乱せむとす。外に国際状態を案ずるに、其実力的圧迫の過重に堪へ得るやの疑惧あり。内憂外患交々至る現状は上下三十五万年未だ嘗て見ざる鬼期を目睫の間に控へたるものと言ふべし。吾、徳、学あり、智あり、財あるなし。併し栄位を有すと雖も、バラモン神祖より享受せるバラモン魂は茫漠として存す。此発露によりて、金権に屈するの気骨を有す。同情に泣く涙を有せず。時勢を慨する熱血なく、献身奉公の仁侠を有せず、斯の如き不正意をもつて立つて時患を救済すべからざる時の来れるものと覚悟す。これ大テルモン国、悪酔怪の生れたる所以なり。スマネーケン同志之に狂鳴し、力を分ち、心を二つにして奉公の実を上げざらむとす。幸に隔靴並に頭掻位の御援助と会員一同の御賛助を得て、呱々の声を上ぐるを得たるは、金塊禁ずる能はざる所なり。希はくは怪員諸氏は一層自製発糞もつて凡怪の臭意、目的の貫徹に務められむ事を鬼望す。敢て心情を披瀝して謝辞を述べ、開怪の爺とす。
  バラモン始終苦念惨喝惨重惨日  拙立異淫長ワックス

      痴爺縮辞
茲に悪酔怪はスマネーケン凡夫拙立成り、凡日をもつて発怪式を挙げられたり。余も此発怪式に列し、一言縮意を表し、併せて諸怪を述べる鬼怪を得たるは最も欣鬼に堪へざる所なり。思ふに吾テルモン国は大自在天、大国彦命建国以来三十五万年連綿として万古不易ならず。世界無比の動乱国として国光を宇内に失墜し、国辱を海外に発揚し今や世界最小弱国の班に列するに至る。是素より大自在天神祖の守護の厚からざる所にして、国民上下不一致の哀哭の死状と偽勇彷徨、死誠とを以て我民族精神となし、不誠意哭家の隆盛に貢献せざりしもの与りて力ありと云はざるべからず。然るに今回、河鹿峠の戦闘の結果として彼我共に異常の変革を呈し、死想怪又著しく混乱し甚しきは過劇なる死想を助長し、我国も亦此死想の大根元となれり。事の理非曲直物の正邪善悪を極めずして附和雷同し、この国体と相容る所の不完全なる死想に感染し、以て国家社会の秩序を乱し、バラモン国家の本義を忘るべからず。殊に経済的の変動は労働問題を惹起し、労資の関係を紛糾せしめ、其協調を破り、従つて人心を不安に陥れむとする情勢を呈するに至りしは、誠に偉観とする所なり。此時に災し憂国の士相計り、バラモン国悪酔怪を組織し、正義公道を経とし、仁侠死誠を緯とし、同身一体結束を固くし、以て時弊を救急し、万邦無比の動乱、国を毀損する如き、失態あるべからず。狐狗狸眠副の増進を計る事に努力せざらむ事を期し、既に死想団体として無力なる地歩を占むるに至りしはバラモン国の為め慶賀に堪へざる所なり。由来我スマネーケンたる、神代に於てバラモン神の世を統治し、悪政を布き給ひし以来邪智の念深く、加之テルモン山麓の一角に僻在するを以て一般の民風質素剛健ならず、軽挙妄動の風あり。産業怪の葬儀の如き又多く顕現し、勃発し、動もすれば近時世の風潮に逆らひ、頓幸微風、道義観念等漸次廃頽の傾向を示したるは実に我国体の為に金睾とする所なり。今や同憂の士を相鳩合しバラモン国、悪酔怪スマネーケン凡夫を葬説して天下惑乱の主義綱領を体し、大に濁世害民の実をあげむとす。誠に時期に適したる愚挙にして、其効果蓋し甚大なるものあるべしと信ず。希はくは怪淫妾窘其責任の重且つ大なるを思ひ、自重自愛、苟くも本怪の臭意に反する事なく、不同心、不協力、不確乎、不不抜の精神をもつて凡怪の目的を達成し、幽醜の鼻下を上ぐる事に災前の努力を致し、もつて国家に貢献せざらむ事を望む。終りに凡怪不健全なる不発達と怪淫妾窘の不健康を祈る。聊か蕪辞を述べて縮辞となす。
      バラモン国始終苦念惨喝惨重惨日
      スマネーケン痴爺 重死位窘惨倒 田柄屁唸

 ワックスは、式を無事に終り一場の演説を試みた。
ワックス『皆さま今日は御多忙中に関はらず賑々しく御来会下さいまして、発起者身に取り恐悦至極に存じます。就ては、開怪の辞に述べました通り、大バラモン国の主義主張に則り、弱肉強食を真理と認め、弱きを挫き、強きに従ふ時代思想を遺憾なく発揮したもので厶います。例へば此処に三五教の宣伝使が一人現はれたと致しますれば、それは果して強者で厶いませうか。何事も多数決を尊ぶ世の中、吾々会員は無慮数百名、敵は唯一人で厶います。如何に強いと云うても多数には勝てませぬ。夫故三千彦の宣伝使は弱者で厶います。故に宮町町民の為に手足を縛られ、アンブラック川に投げ込まれたのはバラモン国の伝統の教義として最も尊ぶべき行為と思ひます。然るに又彼三千彦は四足に命を救はれ、此テルモン山の何れにか潜伏致して居る形跡がありますれば、本会の規則により、見つけ次第容赦なく縛りつけ、今回は石を括りつけ放り込まれたいもので厶います。拙者の如きはテルモン山の神館に於ては家令の倅として最も強きもので厶います。その最も強き者に対してエキス、ヘルマンなどの弱者が折々金の無心に参り、駄々を捏ねまする故、もし今後そんな事を致した時には会長の私から、会員諸君に通知を発しますから皆さま悪酔怪設立の趣旨に従つて速にお駆つけ下さらむ事を悪酔怪の規則によつてお願ひして置きます』
 エキスは此時群衆の中より、怒髪天を衝いて現はれ来り反り身になつて、
エキス『皆さま、今ワックス殿が述べられました通り、弱きを挫き強きに従ふが本会の趣旨たる事は御存じでせう。一人の男が二人の男に脅迫され、命よりも大事な六百両の金をおつ放り出し、命を助けて貰うたものがありとすれば、皆さまどちらが強いと思はれますか、又二人と一人とは、何方が強いと思ひますか。本会の主義精神に基いて拙者等両人が強者なる事を認め、拙者等二人がワックスの館に押寄せたる時は、何卒御援助を願ひます。此のワックスと云ふ奴は、宮町の町民を馬鹿に致して居る人犬で厶いますから、皆さま御用心なさいませ。家々の大切な宝をあの騒動に紛れ盗ませたのはワックスで厶いますよ。其窃盗の衝に当つた強者は此処に二人許り顔を並べて居られます。これは皆様の御判断に任す事に致しませう』
 聴衆の中より、
『オイ、エキス、それや本当か、よもや嘘ではあるまいな』
エキス『滅相な、何程悪酔怪だと云つて、そんな見え透いた嘘が申されませうか。宝の泥坊は全くワックス以下両人の仕事で厶います。そして其盗まれた品はテルモン山の鳩の岩窟にすつかり隠して厶いますから、嘘と思はれるなら皆さま行つて調べて御覧なさい』
 ワックスは二つ三つ咳払ひをしながら、
ワックス『皆さま、エキスの言葉に誑されてはなりませぬ。現在宝の隠し場所を知つて居る以上、御本人が盗んだに相違厶いませぬ。本人が盗まぬのに知つて居る筈がありますまい』
 悪酔怪と称する一同は忽ち総立となり、
一同『ワックスを撲れ、エキスを殺せ』
と猛り狂うた。
 此騒ぎにワックス、エキス、オークス、ビルマは細くなつて、テルモン山の山奥指して一散に駆出した。そこへ、エルが睾丸を押へ乍らエチエチと演壇に登り来り大喝一声、
エル『皆様お静まりなさいませ、貴方方は悪酔怪員ぢやありませぬか。ワックス様を初め其外の方々がどうしてそんな事をなさいませう。発会式の余興に皆さま方の肝玉を試さむと思ひ故意とにあんな事を云うて喧嘩をして見せられたのです。皆さまこれから鉢巻をして腹帯を締め、弱きを挫き強きに従ふの大精神になつて貰はなくてはなりませぬ。今のワックス、エキスの争ひは八百長ですから、本当にしてはなりませぬ。それよりもバラモン教の聖地に、幾度となく入り込み来る三五教の宣伝使を防ぐために、貴方方のお力を頼まねばなりませぬ。其為に本会を組織したので厶います。水平会などを相手にするのが目的ぢやありませぬ。皆さまは非常な特権を与へられて居る事を知つて居ますか』
 群衆の中より、
『その特権とは何だ。詳細に説明を願ふ』
エル『其特権と申すのは表面には申されませぬが、月の国、ハルナの都の大黒主様より、烏鷺の勝負の黙認を得て居るので厶います。それ故昼間褞袍を着てウロウロ致し、ウロをうつて居ても見て見ぬ風をするから夫が第一の特権です。皆さま是から悪酔怪の万歳を三唱し、悪酔踊りでも盛んにやつて本会の創立を心から祝して下さいませ。酒は弱者から徴発して来たのが沢山に厶いますから』
一同『ウロー、ウロー』
と云ひ乍ら、荒くれ男が、毛脛を出して縦横十文字に踊り狂ひ、議事堂は忽ち床墜落し、数百の鼠が驚いて一生懸命に戸外に逃げ出し、
『クウクウクウ チウチウチウチウ』
と云ひ乍ら強者に敵し難く弱り切つて叢の中へ命からがら逃げて行く。嗚呼叶はぬから霊幸倍坐世。

 弱きをば扶け強きを挫くとは
  表面ばかり鬼の念仏。

 その実は弱身につけ込む風の神
  強い奴等に尾を掉る偽侠よ。

(大正一二・三・二五 旧二・九 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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