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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第2篇 顕幽両通よみ(新仮名遣い)けんゆうりょうつう
文献名3第15章 糸瓜〔1465〕よみ(新仮名遣い)へちま
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
一方エキスとヘルマンもテルモン山の山中に来ていた。二人はワックスが押し込めた姫を助け出し、姫の歓心を得て恋の勝者となろうと相談をしていた。

二人はケリナ姫が閉じ込められている岩窟に来て、姫の歓心を買おうと歌を歌いかけたが、お互いにお互いをけなしはじめ、ワックスと共に企んだ悪事の中身まで歌ってしまう。

エキスとヘルマンは互いにののしり合い、大喧嘩となって取っ組み合いを始めてしまう。ケリナは二人が悪事を自ら明かし勝手に喧嘩を始めたのを聞いて思わず笑ってしまった。ケリナ姫は述懐を歌い、求道居士の無事を祈った。

エキスとヘルマンは格闘のうちに息も絶え絶えになってしまった。そこにスマートを連れた三千彦がやってきた。三千彦はケリナ姫に名乗りかけ、あたりの岩片で岩窟の錠前を打ち壊して姫を助け出した。

三千彦は倒れていたエキスとヘルマンを岩窟に投げ込むと、棒でつっかいをした。ケリナ姫は岩窟に閉じ込められて足が立たず、三千彦に負われてデビス姫の岩窟に向かった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月25日(旧02月9日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版194頁 八幡書店版第10輯 331頁 修補版 校定版202頁 普及版95頁 初版 ページ備考
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本文  テルモン山の夜嵐に  染黒い顔を煽られて
 スタスタ来る二人連れ  鳩の岩窟の入口に
 少時佇み息凝らし  中の様子を窺へば
 押籠められしケリナ姫  鈴の鳴るやうな声をして
 何か述懐歌ひ居る  エキス、ヘルマン両人は
 胸ををどらし入口の  鉄門に身をばよせ乍ら
 叶はぬ恋と知らずして  訪ね来るぞ可笑しけれ
 岩窟の外に人ありと  知らぬが仏のケリナ姫
 其身の不運を歎ちつつ  湿り勝なる歌ひ声
 秋野にすだく虫の音か  但は駒の鈴の音か
 紛ふべらなる憂音に  語り出すぞ可憐しき。
 二人は声を秘め乍ら、
エキス『オイ、ヘルマン、ワックスの奴、テルモン山の奥へ悪酔怪の演説が祟つて逃げ失せたのを幸、貴様と俺と二人で探し出し、姫の歓心を得て恋の優勝者とならうぢやないか、こんな機会は又とあるものぢやない』
ヘルマン『ウン、それやさうだ。六百両の金はぼつたくり、又テルモン山の花と謳はれた美人を娶り楽しく嬉しく暮すのも亦乙ぢやないか。併しこれは借りて来た知恵では駄目かも知れない。迂つかり肱鉄をかまされては取返しがつかぬからなア。何とかして知恵を絞り出して、甘くやらねばならぬ。余り近くによつてケリナ姫さまの耳に入つては大変だ。四五間ここを離れて悠くり相談しようかい』
エキス『ウン、それが上分別だ』
と云ひ乍ら、四五間傍の雑草の中にドツカリと腰を下ろし、
エキス『オイ、後の喧嘩を先にして置くのだが、甘く手に入つた時には貴様は何方を取るのだ』
ヘルマン『ウン、俺はデビス姫を申受ける積りだ』
エキス『ヘン、些と面と相談をして見よ。デビス姫の夫になれば、小国別様の御世継だぞ。貴様のやうな野呂作がどうして左様な事が勤まらうかい』
ヘルマン『マア何方でもよいわ、取らぬ狸の皮算用して居た所で面白くない。それより姉妹のナイスに選ましたらよいではないか、それが一番公平だからなア』
エキス『それも面白からう、併し先方に選ませるなら姉妹共、俺の方に秋波を送るに定つて居る。其時には一寸加減を見て貴様にお古を譲つてやらうか』
ヘルマン『馬鹿云ふな、貴様のやうな糸瓜に目鼻をつけたやうな細長い顔をしながら自惚れた事を云ふな』
エキス『俺が糸瓜なら貴様は南瓜だ』
ヘルマン『南瓜も糸瓜もあつたものかい。マア見て居れ、この南瓜がどんな事をするか、歌にも云ふだらう、

 今年南瓜の当り年、

糸瓜の当り年とは開闢以来聞いた事はないわ、エヘヘヘヘ』
エキス『コリヤどて南瓜、何をごうたく吐きやがるのだ。マア兎も角俺が年嵩だから長上を敬ふ礼儀に従つて俺に任して置いたらよからう。未だ先方の意向も分らぬのに喧嘩したつて仕方が無いからのう』
ヘルマン『ウンさうだ。こんな所で角目立つて喧嘩して居た所で面白くない。まづ第一ケリナ姫をチヨロまかし、先方の意志に任す事にしよう。サアこれから岩窟の前に立つて歌を歌ひ、ケリナさまに思ひつかすのだ』
と二人は足音を忍ばせ岩窟の傍に躙寄り、
エキス『悪者に誘拐されて岩窟に
  押込められし君ぞいとしき』

ヘルマン『天照す皇大神よ岩窟を
  一日も早く立ち出でませよ』

エキス『手力男神の命の現はれて
  ケリナの姫が岩戸を開かむ』

ヘルマン『あなさやけあな面白の御姿を
  拝む吾こそ楽しかりけり』

エキス『テルモンの神の館にあれましし
  ケリナの姫の姿やさしき』

ヘルマン『此君は天下無双のナイスなり
  如何でかエキスに靡き給はむ』

エキス『ヘルマンの醜の司が偉さうに
  ケリナの姫を慕ひ来るかな』

ヘルマン『こらエキス余り口が過ぎるぞや
  如意の宝珠は誰が盗んだ』

エキス『如意宝珠盗んだ奴はワックスよ
  エキスの為に館に納まる』

ヘルマン『馬鹿云ふな宝珠の玉は三五の
  三千彦司の手柄ならずや』

エキス『そんな事、こんな所で云ふ馬鹿が
  又と世界に一人あらうか』

ヘルマン『是はしたりケリナの姫の隠れます
  岩窟の前をうかと忘れて』

エキス『それだからトンマ男の南瓜面
  訳も糸瓜もないと云ふのだ』

ヘルマン『糸瓜野郎青い顔して何と云ふ
  擂のやうな頭かかへて』

エキス『斯うなれば義理も糸瓜もあるものか
  サア来い勝負力比べだ』

ヘルマン『言論の尊ばれつる世の中に
  直接行動は野蛮の骨頂』

エキス『馬鹿云ふな最後の勝利は実力だ
  見事ケリナを取つて見せうぞ』

ヘルマン『糸瓜野郎、何程姫に惚れたとて
  先方がきかねば馬鹿を見るのみ』

エキス『此上は南瓜頭をかち割つて
  鬱憤晴らさにや男が立たぬ』

 ヘルマン『こりや糸瓜南瓜の腕を知つて居るか』
 エキス……『知つて居れやこそ喧嘩するのだ』

 たうとう終には大喧嘩となり、ケリナ姫の事はそつちのけにして長い男と短い太い男とが組んず組まれつ、ウンウンキヤーキヤーと喚きながら毛をむしつたり睾丸を掴んだり、一生懸命に格闘をして居る。ケリナ姫は二人の問答を聞いて自分の苦しき岩窟内にあるのもうち忘れ、思はず知らずホホホホホと笑ふ。ケリナ姫は静に歌ふ。
ケリナ姫『人里離れしテルモンの  深山の奥の岩窟に
 情なき男に攫はれて  不運を歎つ吾身にも
 心の慰む時は来ぬ  悪に長けたる二人連れ
 神の館の御宝を  盗み出して父母を
 苦しめまつりワックスの  悪魔と共に怖ろしき
 企みを致す馬鹿男  妾の色香に目が眩み
 岩窟の前に塞がりて  互に心の黒幕を
 捲り上げたる浅はかさ  如何に曇りし世の中の
 盲聾と云ふとても  これ程馬鹿が世にあろか
 自分の企みを吾前に  一つも残らず曝け出し
 あた汚らはしき色恋と  糸瓜や南瓜のお化等が
 囁く声ぞ憐れなり  馬鹿に与ふる薬はないと
 世の諺も目の当り  眺めし妾の可笑しさよ
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  吾身の命は失するとも
 神力無双の求道さま  二世の夫と村肝の
 心の中に定めてゆ  何程綺麗な男でも
 妾の目には鬼瓦  顧みるだに嫌らしき
 エキス、ヘルマン二人の馬鹿奴  互に命の奪り合を
 始めて苦しむ可笑しさよ  アア惟神々々
 神の御霊の幸はひて  一日も早く吾身をば
 救はせ給へ求道さま  教司の身の上を
 守らせ給へと大神の  御前に畏み願ぎまつる』
 外には、エキス、ヘルマンの二人血塗になつて顔を掻きむしられ、息も絶え絶えに格闘して居る。其処へスマートを連れてやつてきたのは、三五教の三千彦であつた。スマートは矢場に岩窟の入口に近より、フンフンと鋭敏な嗅覚で嗅つけ乍ら、ケリナ姫の居る事を確めたものの如く、頻りに尾を掉つて、ウーウーと唸り出した。三千彦は岩窟の入口より声をかけ、
三千彦『私は三五教の神司三千彦で厶います。先日よりお館にお世話になり貴女のお行衛を探して居りましたが、漸く此処にお隠れと判明し、お迎ひに参りました。暫くお待ち下さい。今此入口の戸を開けますから』
 ケリナ姫は暫し無言の儘考へ込んで居た。
ケリナ姫『さしこもる岩窟の中の姫神は
  如何でか靡かむ見知らぬ人に。

 今の先も怪しき男が只二人
  来りて吾を誘はむとせし。

 身はたとへ岩窟の中に朽つるとも
  仇し男に身をな任さじ』

三千彦『これはしたりケリナの姫の御言葉
  神の使にかざり言なし。

 村肝の心鎮めて出でませよ
  神のまにまに吾は来りぬ』

ケリナ姫『情けある人の言葉に従ひて
  岩窟を出でむ早開きませ』

 三千彦は四辺の岩片を手に取るより早く錠前をへし折り、漸くにしてカツと開ひた。
ケリナ姫『ヤア三千彦様とやら、好くマア助けに来て下さいました。此御恩は決して忘れませぬ』
三千彦『サア早く帰りませう。御両親がお待ち兼で厶います。就いてはお姉様も助け出さねばなりませず、求道様も助け出さねばなりませぬから、サア早く出て下さい』
ケリナ姫『ハイ、有難う厶いますが、足がワナワナ致しまして些とも立ちませぬので、困つて居ります』
三千彦『アアさうでせう。斯んな処に閉ぢ籠められて居てはお足も弱つたでせう。サア私の背に負さつて下さい。此処に居る犬はスマートと申しまして、幾度も私を助けて呉れた義犬です。これさへ居れば大丈夫で厶います』
と背を突き出す。ケリナ姫は大舟に乗つたやうに安心して素直に三千彦の背に背負はれ、漸くにして苦き岩窟を出た。星の光は金砂銀砂を鏤めた如く、満天に輝いて居る。
ケリナ姫『モシ三千彦様、此処に悪漢が二人斃れて居ますが、この儘見逃して置いても宜敷いでせうか』
三千彦『成程余り貴女の方に気を取られて居ましたので悪漢の仕末を忘れて居ました。サア姫様、一寸下りて居て下さい。漸く貴女の旧宅に閉ぢ込めて置きませう、アハハハハハ』
ケリナ姫『オホホホホホ、三千彦様、随分好からぬ奴ですから、改心する迄大事に放り込んで置いて下さいませ』
 三千彦は『宜敷い』と云ひ乍ら二人の足を剛力に任せて左右の手に片足づつ握り、芝草の上を引ずり来り。猫でも引きずるやうにポイと放り込み、入口の戸をカチリと閉め、丁寧に突張をかひ、
三千彦『オイ金剛不壊の玉の大盗人、エキス、ヘルマンの両人暫く此処に楽隠居でもして居るがよからう。改心が出来たら又出してやらうまいものでもない。俺は悪酔怪員でないから、弱き女を助け、悪に強き奴を懲らしてやるのだ。斯うなるのも皆身から出た錆だと思うて観念したがよからう』
エキス『モシモシ三千彦様、何卒吾等二人を助けて下さいませ。其代りワックスを此処へ捉まへて来て入れるやうに致しますから、実の所はワックスの命令によつて盗んだので厶います。張本人はワックスで厶います』
三千彦『アハハハハハ、マア気の毒だけれど些と御休息なさいませ。サア姫様帰りませう』
と背に負ひ、スマートに道案内されて、デビス姫の閉ぢ籠められた岩窟を指して進み行く。二人は入口の戸を無性矢鱈に叩き、
両人『助けて呉れエ助けて呉れエ、此世に神や仏は無いものか。エエ残念や口惜しやなア』
と身勝手な事許り愚痴つて居る。岩窟の奥の方から『ケラ ケラ ケラ』と嫌らしい、身の毛のよだつやうな笑ひ声が聞えて来た。
(大正一二・三・二五 旧二・九 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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