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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第3篇 天上天下よみ(新仮名遣い)てんじょうてんか
文献名3第19章 抱月〔1469〕よみ(新仮名遣い)だきつき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
求道居士は月夜の庭園をケリナ姫に導かれて逍遥した。ケリナ姫は求道居士に思いのたけを打ち明けた。求道居士はのらりくらりとかわしていたが、ケリナ姫は次第に気焔が上がってきて、求道居士の不甲斐なさを攻め立ててきた。

求道居士はとうとう降伏し、たとえ神罰をこうむってもケリナ姫の熱愛に応えて夫婦の約束をすることに決心した。二人は歌を交わして手を固く握り、頬を合わせて千代のかためとした。

ヘルは退屈まぎれに月を眺めながらぶらぶらとこの場に現れ来たり、二人を見つけてからかっている。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月26日(旧02月10日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版241頁 八幡書店版第10輯 347頁 修補版 校定版250頁 普及版113頁 初版 ページ備考
OBC rm5719
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本文  求道居士は月夜の庭園をブラリブラリとケリナ姫に導かれ逍遥した。ケリナ姫は遥に西南方を指し、
ケリナ姫『求道さま遥向ふの方に霞の如く、鏡の如く白く光つて居る物が見えませう。あれはテルモン湖水と申してアンブラック川の水の落ち込む東西百里、南北二百里と称へらるる大湖水で厶います。深さは竜宮城迄届いて居ると昔から申しますが、どうかあの湖水の様に広く、深く、清き者となり度いもので厶いますなア。それに月の影が水面に浮んだ時には、得も云はれぬ絶景で厶います。常磐堅磐のパインの老木は湖水の周囲に環の如く取り巻き、白砂青松の得も云はれぬ風景で厶います。一度貴方が御全快遊ばしたら御案内申上たいもので厶いますわ』
求道居士『ハイ有難う厶います。嘸景色のよい事で厶いませうなア』
ケリナ姫『求道様、貴方は妾を永遠に愛して下さるでせうなア』
求道居士『これは又不思議な事を承はります。貴女に限らず、天下万民は申すに及ばず、草の片葉に至る迄神様の愛を取りつぐ私は比丘で厶いますから、力限り愛善の徳を施したいと願つて居ります』
ケリナ姫『貴方は広い世界の中で特別に愛を注ぐものが一人厶いませう』
求道居士『神の愛は平等愛です、つまり博愛ですから愛に依怙贔屓は厶いませぬ。老若男女禽獣虫魚に至る迄力一杯愛する考へで厶います。愛に偏頗があれば愛自体は既に不完全のもので厶いますからなア』
ケリナ姫『ハイ、それは分つて居ります。併し乍ら貴方は、ラブ イズ ベストを何とお心得で厶いますか』
求道居士『今迄のバラモン軍のカーネルならば盛んにラブ イズ ベストを唱へました。併し御覧の通り円頂緇衣の修験者となり、忍辱の衣を身につけた上からは、ラブなどは夢にも思つた事は厶いませぬ』
ケリナ姫『思ひきやラブせし人は隼の
  羽ばたき強しパインの林に。

 常磐木の松の心のさきくあれと
  祈りし君を恨めしくぞ思ふ』

求道居士『皇神の道を畏み進む身は
  如何で女に心うつさむ』

ケリナ姫『求道様、どうしても妾の願は聞いて下さいませぬか。貴方は三千彦様とは違つて宣伝使では厶いますまい。又大切な使命を帯びて征途に上らるる御身でもありますまいに、この憐な女を見殺しに遊ばす御所存で厶いますか。貴方のお考へ一つで妾は天国に遊び、又は地獄の底に陥るので厶います。可憐な乙女を地獄に堕しても比丘のお役目が勤まりますか、それから承はりたう厶います。妾のラブは九寸五分式、岩をも射貫く大決心で厶います』
求道居士『アハハハハハ姫様冗談云つてはいけませぬよ。好い加減に揶揄つて置いて下さいませ』
ケリナ姫『動くこそ人の赤心動かずと
  云ひて誇らふ人は石木か

と云ふ歌が厶いませう、夫を何と考へなさいますか。人間の身体はよもや石木では厶いますまい。愛情の炎が心中に燃えて居らねば衆生済度も出来ますまい。理論のみに走つて冷やかな態度のみを保つのが決して貴方の御本心では厶いますまい』
求道居士『アア、迷惑な事が出来たものだなア。又一つ煩悶の種が殖へて来たワイ』
ケリナ姫『卑ない愚な女にラブされて嘸御迷惑で厶いませう。貴方に愛の無いのを妾はたつてとは申しませぬ』
求道居士『姫様さう悪取をして貰つては求道も本当に困ります。貴方のやうな才媛をどうして嫌ひませうか。私だつて未だ年若い有情の男子で厶いますよ。併し乍ら一旦神様にお任せした身で厶いますから、さう勝手に恋愛味を吸収する訳には参りますまい』
ケリナ姫『モシ求道様、貴方はまだ或物に捉はれて居られますなア。それでは解脱なされたとは申されますまい。況て比丘は宣伝使ではなく、半俗半聖の御身の上で厶いませぬか。神様のお道は総て解放的では厶いませぬか。何物にも捉へらるる事なく、坦々たる大道を自由自在に進み得るのが仁慈無限の神様のお道でせう。情を知らぬは決して男子とは申されますまい』
求道居士『さう短兵急に大手搦手から追撃されてはこの円坊主も逃げ道が厶いませぬワイ、今日は何卒大目に見て許して下さいませ』
ケリナ姫『ホホホホ、貴方は比較的卑怯なお方で厶いますなア。そんな事でどうして衆生済度が出来ますか。貴方は平和の女神を一人堕落さす考へですか。比丘と云ふ雅号を取り除けば普通の人間ぢや厶いませぬか。大神様は変化の術を用ひて衆生を済度遊ばすでせう、貴方も暫く観自在天の境地になつて憐れな女を救ふお考へは厶いませぬか。女に関係して行力が落ちるなぞと頑迷固陋の思想に、失礼ながら囚はれてお出なさるのでは厶いますまいか』
求道居士『何分私の両親が一夜の間に粗製濫造してくれた代物で厶いますから、今時の新しい婦人方のお考へは、容易に頭に滲みませぬ。実に時代後れの骨董品で厶います。何れ徴古館に陳列される代物ですからなア、アハハハハ』
ケリナ姫『エエ辛気臭い、ジレツたい、何と仰有つても妾は初心を貫徹せなくては現代婦人に対しても妾の顔が立ちませぬ。婦人の面貌に泥を塗つては済みませぬ。妾が貴方に擯斥せられたのは決して妾一人ではございませぬ、現代婦人の代表的侮辱を受けたやうなもので厶いますから、そのお覚悟で居て下さい』
と自棄気味になり、猛烈な気焔を吐きかけた。
求道居士『アア夢では無からうかなア。バラモン軍に居つた時には、干瓢に目鼻をつけたやうな女にさへ嫌はれたものだが、修験者の身になつて女を断念したと思へば、生れてから無いやうな、婦人の方からラブされるとは、世の中も変つたものだ、否私の境遇も地異天変が起つたやうなものだ。エエ仕方がない、仮令神罰を蒙つて根の国底の国へ堕ちるとも貴方の熱愛に酬いませう』
ケリナ姫『求道様、決して根底の国へは妾が堕しませぬ。夜なく冬なき天国の楽しみを此世乍らに楽しみ、大神の御用に夫婦和合して仕へませう、御安心下さいませ。夫について男の心と秋の空とか云ひますから、此処で一つ誓つて下さいませ』
求道居士『然らば大空に澄み渡る麗しき月に向つて誓ひませう』
ケリナ姫『月には盈つると虧くるの変化が厶います。途中に変られては困りますから、何卒この庭先の千引岩に誓つて下さいませ』
求道居士『千代八千代千引の岩の動きなく
  君を愛でむと誓ふ今日かな』

ケリナ姫『千引岩押せども引けども動きなき
  吾背の君と千代を契らむ』

と歌ひ終り、求道の手を固く握り二つ三つ上下左右に強く揺つた。求道も亦姫の手を取り、頬と頬とをピタリと合し、千代の固めとした。暫く両人はパインの蔭に直立し手を握り合つて無言の儘ハートに浪を打たせて居る。ヘルは退屈紛れに月を眺めながらブラリブラリと此場に現はれ来り、
ヘル『イヤ、御両所様、お祝ひ申します』
ケリナ姫『ヤア貴方はヘルさまで厶いましたか。月の景色がよいので求道様とブラついて居ましたのですよ』
ヘル『何卒毎晩月夜で厶いますからお楽しみ遊ばしませ。私は気を利かして控へて居ましたのですよ、アハハハハ』
求道居士『…………』
ケリナ姫『ホホホホ、お月様が可笑しさうにニコニコと笑つてゐらつしやいますわ』
ヘル『貴女も嬉しさうに笑つてゐらつしやいましたね』
(大正一二・三・二六 旧二・一〇 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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