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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第3篇 天上天下よみ(新仮名遣い)てんじょうてんか
文献名3第20章 犬闘〔1470〕よみ(新仮名遣い)けんとう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
悪酔怪員はあちらこちらに三々五々集まり、犬に噛まれた無念話の花を咲かせており、中には怒る者もあり、酒をあおって蛮声を張り上げ、自暴自棄的にさざめいている。

そこへワックスが、包帯を腕に巻き付けて驢馬にまたがり、オークスとビルマをしたがえてやってきた。ワックスは十字街頭に立ち、豆太鼓と摺り鉦をはやし立て、馬上に立って大喝し、悪酔怪員を呼び集めた。

またたくうちに怒れる老若男女は数百人集まってきて鬨の声を上げた。オークスがまず大道演説を始め、三五教をやっつけよと群衆をたきつけた。群衆がオークスに賛同すると、ワックスは包帯をほどいて傷を見せ、自分の働きを語って鼓舞した。

ワックスはめいめい得物をもって館に押し寄せ、三千彦を捕えようと言葉巧みに説きたてた。群衆は竹槍や長剣をふるって、ワックス指揮のもとに列を正して館の門前に押し寄せた。

門前に押し寄せた群衆を前に、ワックスはふたたび馬上演説をなし、小国別、、小国姫、姫たちをはじめ、三千彦ら三五教徒を捕縛するよう下知した。群衆がわっと門内に乱入しようとするとき、スマートがいずこよりともなく現れて、山岳も揺れるばかりの唸り声を発した。

群衆がこの唸り声に辟易して進みかねていると、スマートは群衆の中に矢のように飛び入って縦横無尽に駆け回り、悪酔怪員のみを目がけて咬み倒した。

群衆は驚きあわてて色を失い、おのおの思い思いに命からがら逃げ散って行った。ワックスはオークス、ビルマ、エルをしたがえて自分の館に帰って行く。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月26日(旧02月10日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版249頁 八幡書店版第10輯 350頁 修補版 校定版259頁 普及版117頁 初版 ページ備考
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本文  空はドンヨリと曇り、濃淡の雲片雲塊は所斑に満天を包み、少し許りの雲の破れから青雲の肌をチラチラと七八箇所許り見せて居る。風もなく木の葉のそよぎも止まり、体一面に汗が滲り出る。湿つぽい空気が天地を充塞して居る。悪酔怪員は彼方に三人、此方に五人と集り犬に噛まれた無念話の花を咲かし、目を釣り上げ額に青筋を立て、中には歯ぎしり噛んで怒り狂ふ者もあつた。余り腹立たしさに何れも酒をあふり苦痛を紛らす為とて銅羅の様な蛮声を張り上げ、自暴自棄的にさざめいて居る。そこへ白き繃帯を腕に巻きつけ驢馬に跨りオークス、ビルマを従へてやつて来たのはワックスであつた。ワックスは十字街頭に立ち、薄つぺらな豆太鼓を誓願寺の遍歴者が叩く様に、「ドンドン、ドンドンドン、チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン」と、擦鉦と共に囃し立て乍ら現はれ来り、馬上にツツと立ち乍ら、
ワックス『一大事突発せり。悪酔怪員は申すに及ばず脛腰の立つ者は何れも鐘路に集まれ』
と大喝するや、怒り立つたる老若男女は瞬く間に数百人集まり来り、「ワーイ ワーイ」と鬨の声を挙げ、ワックスの演説を聞かむと囃し立ててゐる。オークスは太鼓の手をやめて馬上に衝ツ立ち乍ら、大手を左右に振り、鰐口をあけて大道演説を始め出した。
オークス『皆さま、神館の門番頭、未来の家令職オークスで厶る、今ここへ現はれ玉うたワックス先生は、御覧の如く三五教の魔法使が使役する狂犬に腕を咬まれ、又吾々は此通り足を噛み切られ、散々の目に合はされました。否や吾々のみならず悪酔怪員の大部分は皆彼の狂犬に傷つけられたでは厶らぬか。吾々テルモン山の霊地に住居致す神の選民が、どうして之を不問に附する事が出来ませうか。悪酔怪員は申すに及ばず、水平会員並に本町の老若男女は此霊地を守るべく身を挺して館につめよせ、魔法使の三千彦、求道居士を召捕り彼の狂犬を撲殺し、霊地を清むる御所存は厶いませぬか。誠に残念至極で厶います。これが何ともない様な人間なら、それは木石に等しきもので厶いませう。人は感情の動物です。どうか皆さま、バラモン魂を発揮し、吾々の後に跟いて此壮挙に賛同あらむ事を希望致します』
 悪酔怪員の中より、へべれけに酔うた男、繃帯し乍ら現はれ来り、
男『ヤア門番、オークス、御苦労御苦労、お前がそんな事云はずとも此トンクさまが一人でも敵を討たなくちや悪酔怪員の顔が立たねーだ。然し乍ら暫く足の癒る迄此攻撃は待つて呉れ。此トンク一人の力でも美ん事、やつつけて見せる。本当に怪体の悪い、これが黙つて居られやうかい』
 群衆の中より、
『尤もだ尤もだ。猶予はならぬ。やつつけよ やつつけよ』
と口々に叫び罵る。ワックスは潮時を見すまし繃帯を解き傷所を現はし乍ら、
ワックス『皆さま、私は魔法使の為めに此通り惨い目に会ひました。私が舎身的活動を致し、斯様な負傷をしたのも皆さまを思ふ為で厶いますぞ。苟くも悪酔怪の統率者たるもの、仮令貴重なる生命を捨つるとも諸君の為め犠牲となつて弱きを挫き、強きを助けねばなりますまい、サア時遅れては却つて敵に逃げられるかも知れませぬから、皆さまは此ワックスに従ひ脛腰の立つ方は館に押し寄せ敵を捕縛して下さい。さうして負傷した方は是非に及ばぬとしてお休みになつても宜しい。然し乍ら人間は心の持ち方が肝腎です、此通り腕を噛まれ足を咬まれて激痛を忍び乍ら、漸く驢馬に跨り活動を致して居る私の苦心をお察し下さらば、少々の怪我位は憂ふるに及びますまい。千騎一騎の此場合、協心戮力的大活動を祈ります』
と言葉巧に述べ終るや、慌者の弥次馬は各自に棍棒を携へ、或は竹槍、長剣を揮つてワックスが指揮の下に潮の如く館の門前さして、列を正し旗を押し立て、太鼓を叩き擦鉦を鳴らし乍ら進み行く。ワックスは先に立ち進軍歌を歌ひ初めた。
 ドーン ドーン ドーン  チヤンチキチヤンチキ チヤンチキチン
ワックス『皆さま皆さま確りと  鉢巻締めて帯締めて
 草鞋の紐をよく結び  手に手に柄物を携へて
 テルモン山の聖場を  覆へさむと企む奴
 ドーン ドーン ドーン  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 三五教の魔法使  みち三千彦や求道居士
 それに従ふ小盗人  狂犬スマート諸共に
 只一匹も残さずに  命を的に立向ひ
 往生さしてやりませう  ドーン ドーン ドーン
 チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン  人は心が第一だ
 弱き奴にはドツと行け  強い奴にはドツと逃げ
 もしも先方が強ければ  暫く予定の退却し
 再び戦備を整へて  捲土重来進み行く
 ドーン ドーン ドーン  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 凡て軍の駆引は  潮の満干ある様に
 千変万化の秘術をば  尽して敵に向ふのが
 誠の兵法と云ふものだ  仮令三年かかるとも
 此残念を晴らさねば  悪酔怪や水平会
 霊地に住まへる人々の  男の顔は丸潰れ
 女の顔も台なしに  なつて天地に恥曝し
 末代迄も笑はれる  それを防ぐは今だぞや』
 ドンドコ ドンドコ ドコドコドン  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
と太鼓擦鉦の忙しき鳴り音につれて足並早く忽ち門前に進み寄り、ワックスは後振り返り、又もや馬上演説を始め出した。
ワックス『三五教の魔法使、悪逆無道の三千彦を初め求道居士の堕落僧、並に小盗人のヘルの三人、狂犬スマートと諸共に正に此館にあり。国家の興亡、旦夕に迫る。汝等一同の勇士諸君、獅子奮迅の勢を以て武備なき此館、前と後より乱入し、先づ悪人輩を捕縛し、魔法使に魂を抜かれたる小国別夫婦、並に悪狐の変化なる二人の姫を虜にし、此馬場の物干竿に縛りつけ、懲しめられ度し。時遅れては遁走の虞あり。早く早く』
と下知すれば逸りきつたる群衆は『ワツワツ』と鬨を作り雪崩をうつて門内に乱入せむとする其勢ひ物凄く、狂瀾怒濤の岸に噛み付く如き光景となつて来た。何処よりともなく現はれ来りしスマートは、ここを先途と唸り出し、山岳も揺るぐ許りの声を発した。流石の群衆もワックスも此唸り声に辟易し、進み兼ねたる折もあれ、スマートは群衆の中に矢の如く飛び入り、縦横無尽に駆け廻り、悪酔怪員のみを目蒐けてバタリバタリと咬み倒した。群集は驚き慌てて色を失ひ、各思ひ思ひに生命からがら逃げ散つた。ワックスはオークス、ビルマ、エルを従へ己が館をさして一目散に驢馬に鞭打ち帰り行く。
(大正一二・三・二六 旧二・一〇 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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