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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
文献名2第1篇 玉石混淆よみ(新仮名遣い)ぎょくせきこんこう
文献名3第1章 神風〔1476〕よみ(新仮名遣い)しんぷう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
玉国別は、旅の途上バラモン軍の襲撃を受けて行方がわからなくなってしまった三千彦を尋ねて、真純彦、伊太彦を伴いようやくテルモン山麓にやってきて、アンブラック川を渡り一二丁前進した。

すると悪酔怪の会長ワックスが数多の無頼漢を引率して現れ、三五教の宣伝使を排除しようと立ちはだかった。無頼漢たちは三方から取り囲み、小石を掴んで宣伝使たちに投げつけた。

三人は岩陰にかくれてしのいでいたが、伊太彦はつぶてを向う脛に受けて倒れてしまった。真純彦は伊太彦を介抱し、玉国別は泰然自若として天の数歌を奏上している。

数百人の荒くれ男たちはじりじりを包囲を狭めてくる。玉国別は覚悟を決め、伊太彦を真純彦に背負わせて重囲を突破しようと突進したが、三人はすぐに打ち据えられてしまった。

そこへ猛犬スマートが宙を飛んで駆けてきて吠え叫んだ。悪酔怪員たちはたちまち恐れをなして三人を打ち捨てて館に退却してしまった。

玉国別はスマートに謝辞を述べ、頭をなで背をなでて謝意を表した。スマートは嬉しげに尾を振り、伊太彦の傷書をなめると、たちまち血は止まり苦痛は去り、立つことができるようになった。三人はスマートと共に神館を指して、宣伝歌を歌いながら登って行く。

敗走したワックスは館の前のバラモン軍に助けを求めた。外にいたバラモン軍の軍曹イールは承諾し、五十の軍人を引き連れてテルモン山を降り、玉国別たちを迎え撃つことになった。

伊太彦は勇ましい行軍の宣伝歌を歌いながら館を指して進んで行く。宮町の十字街頭に着くと、にわかに左右の家の中から矢が射掛けられ、三人は進退きわまって街頭で一生懸命数歌を歌っている。

前方からはバラモン軍の兵士たちが長槍をしごきながら進んでくる。後ろからは老若男女が鬨の声を造って押し寄せてくる。スマートがウワッウワッと吠え猛ると、その声は狼のごとく戸障子を振動させ、一同の肝を麻痺させた。

矢玉はピタッと止まり、鬨の声も聞こえなくなった。バラモン軍の兵士たちは何を思ったか、馬場をさして一目散に駆けて逃げて行った。スマートはどこともなく姿を隠した。玉国別一行はバラモン軍の後を追って進んで行った。

ワックスは驢馬にまたがって大音声を張り上げ、悪酔怪員たちを鞭撻して三人の後を追っかけてきた。馬場の前では、なぜか悪酔怪員たちとバラモン軍が大衝突を始め、阿鼻叫喚の声、剣戟の音、見るに忍びざる惨状を呈した。

玉国別たちはこの争いを後に表門から悠々と進んで行った。スマートはどこともなく現れ来たり、門口から一生懸命にウワッウワッとわめきたてた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月28日(旧02月12日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版7頁 八幡書店版第10輯 375頁 修補版 校定版7頁 普及版3頁 初版 ページ備考
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本文  青葉を渡る夏風の  清き音彦宣伝使
 心の玉国別司  御空も清き真純彦
 伊太彦司を伴ひて  稲田のそよぐ田圃道
 彼方此方に花蓮葉  所斑咲き乱れ
 いと芳しき香をば  送り来るぞ床しけれ
 御伴の神と仕へたる  三千彦司の行方をば
 尋ねむものと三人連れ  草鞋を濡らす田圃道
 彼方此方と飛び越へて  やうやう来るテルモンの
 山の麓に着きにけり  空打仰ぎ眺むれば
 テルモン山の中腹に  靉靆き渡る紫の
 八重棚雲は神人が  集まり居ます象徴か
 但は神の出現か  何は兎もあれバラモンの
 大黒主の発祥地  つと立ち寄りて様子をば
 探らむものと勇み立ち  爪先上りの山道を
 平野を後にスタスタと  息喘まして登りつつ
 アンブラック川の辺迄  やうやく進み来りけり
 ここにも一つの平野あり  数多の稲田は東西に
 いと広らかに展開し  所々に蓮花
 そよ吹く風に翻り  天国浄土の高原を
 進むが如き思ひなり  ここに三人の宣伝使
 アンブラック川を打渉り  いよいよ霊地に着きければ
 俄に起る鬨の声  聞ゆる間もなく数百の
 荒くれ男が現はれて  棍棒打振り石を投げ
 三人に向つて攻め来る  其光景ぞ凄じき。
 玉国別一行はアンブラック川を渡り一二丁前進する折しも悪酔怪の会長ワックスは数多の無頼漢を引率し、
ワックス『三五教の魔法使三千彦の同類現はれたり。今此時彼を亡ぼさざれば此聖地は三五教に蹂躙されむ。今が千騎一騎の場合だ。進め進め』
と采配振つて下知をなす。
 岩窟の中へ閉ぢ込められて居たエキス、ヘルマンは之亦驢馬に跨り味方を三方に配置し、歌を歌つて僅か三人の敵に向つて潮の如く鶴翼の陣を張り遠巻に巻いて居る。そして小石を掴んで各自に投げつける。三人の身辺には石の雨篠つく如く寄り来り其危険名状すべからず。玉国別一行は突き出た巌の下陰に身を忍び、一生懸命に天津祝詞を奏上し、天の数歌を声を揃へて唱へ上げた。一同は遠巻に巻き乍ら相変らず石の雨を降らして居る。伊太彦は尖つた石礫を向脛に負はされアツと云ふより早くその場に倒れた。此有様を見た敵は益々勢を得、一生懸命に雨霰と石を投げつける。玉国別は泰然自若として頻りに数歌を奏上して居る。真純彦は伊太彦を介抱し乍ら岩陰に伊太彦の体を忍ばせた。数百人の荒くれ男は太鼓を拍ち、擦鉦を鳴らし乍ら、チクチクと引網の如くに近寄り来る。伊太彦は余りの痛さに顔を顰めて声をも得出さず苦しんで居る。敵はおひおひ迫つて来た。流石の玉国別も進退維谷まり運を天に任し、真純彦の背に伊太彦を負はせ危険を犯して敵の重囲を解き、血路を開いて逃げむと覚悟を極め敵中に野猪の如くに突進した。衆寡敵せず、三人は瞬く間に打据ゑられた。かかる処へ宙を飛んで駆け来る猛犬スマートは、『ウー、ウワッ ウワッ』と二声三声叫ぶや否や、スマートに荒肝を取られた一同は、『強敵厶んなれ』と三人を捨て驀地に館をさして兵士の応援を受けむと駆けり行く。
 玉国別はスマートに向ひ一応謝辞を述べ、且頭を撫で背を撫で等して好意を謝して居る。スマートは嬉しげに尾を振り乍ら、伊太彦の傷所を見るより直に擦り寄つて傷所を嘗めた。忽ち血は止まり苦痛は頓に去り、漸くにして立つ事を得た。これよりスマートと共に三人は神館を指して意気揚々と宣伝歌を歌ひ乍ら急阪を登り行く。逃げ去つたるワックスは館の前のバラモン軍の前に現はれ、頭を下げ手をつき涙を流して云ふ。
ワックス『バラモン軍の軍人様、お願ひが厶います。只今三五教の魔法使が又もや三人現はれました。さうして猛悪なる狂犬が此霊地に横行しますれば何卒貴方等のお力を以て退却を、……否殲滅する様お取計らひを願ひます。此神館は先日来三五教の魔法使が只一人忍び込み種々雑多の悪事を致し、吾々バラモン信者を苦しめる事、一再ならず、然るに今亦三人の魔法使がアンブラック川を渉り、此方へ参りました以上は如何なる事を仕出かすか分りませぬ。事の大きくならぬ中、何とか軍隊の力を以て殲滅させて下さい。吾々悪酔怪員一同はお後に従ひ充分の応援を致します』
 バラモン軍の軍曹イールは直ちに承諾の旨を答へ、ニコラスの承諾も得ず、五十の軍人を引き率れ、ワックスの一隊と共にテルモン山を下り、アンブラック川の辺に向ふ事となつた。
 伊太彦は道々行軍歌を歌ひ乍ら進み行く。
 伊太彦の歌、
伊太彦『神が表に現はれて  善と悪とを立分ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何事も人の世は  直日に見直し聞き直す
 三五教の宣伝使  玉国別に従ひて
 心の色も真純彦  足の傷所も伊太彦が
 神の使のスマートに  危き処を助けられ
 バラモン信徒の重囲をば  苦もなく解いて進み行く
 ああ惟神々々  神の力の偉大なる
 恵みの露のいや深き  今更乍ら有難く
 感謝の涙に咽返る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 誠の力は世を救ふ  誠の道の宣伝使
 誠一つを守り行く  大和男子の益良夫に
 敵する曲のあるべきぞ  進めよ進めいざ進め
 テルモン山は高くとも  敵は幾万ありとても
 何か恐れむ三五の  誠の道の宣伝使
 神の試しに会ひ乍ら  心を磨き魂を錬り
 獅子奮迅の勇気をば  完全に委曲に発揮して
 神の依さしの神業に  仕へまつらむ吾使命
 アア勇ましし勇ましし  夏野を渡る涼風は
 吾身の汗を拭ひつつ  蓮の花の香をば
 交へて横ぎる芳ばしさ  山時鳥遠近に
 姿を隠し啼き立てる  神の教の三千彦が
 行衛を尋ね探らむと  吾師の君に従ひて
 広野を渡り川を越え  此方に進む折もあれ
 俄に聞ゆる鬨の声  何事ならむと岩蔭に
 潜む間もなく四方より  現はれ来る敵の影
 棍棒打ふり石を投げ  その勢の凄じさ
 石の礫は雨と降り  進まむ由もなき儘に
 岩をば楯に戦へど  衆寡敵せず吾脛は
 敵の矢玉に破られて  無念乍らも打倒れ
 痛みに堪へず苦しめば  弱目につけ込む敵の勢
 チクリチクリと近寄りて  早くも危殆に瀕しけり
 真純の彦に助けられ  吾師の君と諸共に
 血路を開き進まむと  群がる敵の真中に
 危険を犯して飛び込めば  何条以て堪るべき
 瞬く間に倒されて  無念の歯噛みなす時ゆ
 現はれ来るスマートが  天地も揺ぐ唸り声
 その言霊に辟易し  流石の敵も雲霞
 吾等を見捨て逃げて行く  アア惟神々々
 神の力の偉大さよ  吾等は神に何事も
 任せまつりし身なれども  油断大敵中々に
 心の綱は弛め得ず  四辺に眼配りつつ
 神の館を目当とし  スマートさまと諸共に
 何処々々迄も進むべし  神は吾等と倶にあり
 神に仕へし此体  仮令命は失するとも
 神素盞嗚の大神の  任さし玉ひしメッセージ
 尽さにや置かぬ益良夫の  心の鏡はテラテラと
 三千世界に輝きて  如何でか曇らむ大和魂
 アア勇ましや勇ましや  大黒主が発祥の
 霊地と高く聞えたる  テルモン山の神館
 一人も残さず三五の  誠の道を説き諭し
 帰順させねば措くものか  進めよ進めいざ進め
 又もや敵の現はれて  勢ひ猛く攻め来とも
 神の恵みに包まれし  吾師の君やスマートの
 あります限り幾百の  強き仇をも恐れむや
 ああ面白し面白し  神の恵みを願ぎ奉る
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠の力は世を救ふ
 ああ惟神々々  御霊幸はひましませよ』
と歌ひ乍ら無人の野を行く如く、ドシドシと館を指して進み行く。
 宮町の十字街頭なる鐘路に着いた。俄に左右の家の中より矢を射かけ、三人は進退維谷まつて街頭に佇立し、一生懸命に数歌を歌つて居る。前方よりはバラモンの兵、長槍を扱き乍ら進み来る。後よりは老若男女がワイワイと鬨を作つて押寄せ来る。スマートは『ウワツ ウワツ』と吠猛る。その声は狼の如く戸障子を震動させ、一同の肝を痳痺させ、俄に矢の玉はピタンと止まつた。鬨の声も一時聞えなくなつた。バラモン軍の兵士は何思ひけむ、館の馬場をさして一目散に駆けり行く。
 スマートは何処ともなく又もや姿を隠した。玉国別一行はバラモン軍の後を追ひ進み行く。
 ワックスは又もや驢馬に跨り大音声を張り上げ悪酔怪員を鞭撻して、三人の後を追つ駆け来り、馬場の前にて大衝突を初め遂には敵味方の区別もなく入り乱れ、バラモン軍とワックスの率ゆる悪酔怪員との争闘となつて了つた。
 忽ち阿鼻叫喚の声、剣戟の音、見るに忍びざる惨状を呈した。玉国別は二人の宣伝使と共に表門を悠々と、此争ひを後に眺めて進み入る。スマートは何処ともなく現はれ来り、門口より一生懸命に『ウワツ ウワツ』と喚き立てて居る。
(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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