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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
文献名2第1篇 玉石混淆よみ(新仮名遣い)ぎょくせきこんこう
文献名3第2章 多数尻〔1477〕よみ(新仮名遣い)たすうけつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-12 12:55:14
あらすじ
奥の一間には小国姫、ニコラス、三千彦ほか一同が打ち解けて神徳話に余念なく、茶をすすりながら懇親を結んでいる。そこへ門前が騒がしくなり、猛犬の叫び声が聞こえた。三千彦は悪酔怪員の暴動と見て、様子を見に表に駆け出した。

ニコラスはハンナを三千彦と共に向かわせた。すると三千彦が昼夜念頭を離れなかった恋しい師の君玉国別が、良友の真純彦、伊太彦とともにニコニコとして門内に入ってくるところに出くわした。

三千彦は声も出ないばかりに驚いた。伊太彦に呼びかけられてようやく三千彦は胸をなでおろし、涙を流しながら、一行に分かれてからバラモン教の聖場に入り込んで種々雑多の苦労をしたことを報告した。

玉国別はバラモン軍と悪酔怪員の同士討ちを鎮めなければと心配したが、ここはスマートに一任することにして、三千彦に案内されて館の奥の間に進んで行った。

バラモン軍の副官ハンナは部下たちが味方と戦闘しているのを見逃すわけにも行かず、驢馬にまたがって混戦の中に入り、声をからして鎮まるように下知を下した。この声に敵味方ともに水を打ったようにぴたっと戦闘は停止した。

スマートは駆けてきてワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人を引き倒してハンナの前に引き出し来て、これらを縛れ、とワンワン吠えたてた。ハンナは四人を縛り上げて馬場の前の大杭にしばりつけた。悪酔怪員は弱きをくじき強気に従う会則を順守し、一人も残さずこそこそと家路についた。

トンクは驢馬にまたがり、十字街頭の鐘路に現れ、臆病風に吹かれた数多の男女を集めて一場の訓戒演説をはじめた。そして、三五教は三千彦に加えて三人の宣伝使が加わり、またニコラスも三五教と同盟した上に猛犬スマートが付いている以上、悪酔怪会則にしたがって降参して三五教側につくべきだと説いた。

多数決を取ったトンクに対し、人々を黒い尻をまくって否決の意を表した。そこへタンクが現れて金銀をまき散らし、自分を会長に推挙するよう人々に呼びかけた。タンクが新会長に選ばれ、トンクは副会長になりそこねてすごすとと姿を隠した。

タンクは強きについて三五教に従うのだと滑稽な歌を歌いながら、群衆の先頭に立って門内に進んで行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月28日(旧02月12日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版18頁 八幡書店版第10輯 379頁 修補版 校定版19頁 普及版7頁 初版 ページ備考
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本文  奥の一間には小国姫、ニコラス、三千彦、其外一同が打解けて神徳話に余念なく、茶を啜り乍ら懇親を結んでゐる。
 かかる処へ門前俄に騒がしく猛犬の叫び声、合点行かぬと何れも耳を欹てたが、三千彦は一同に向ひ、
三千『皆さま、どうやら悪酔怪員の暴動と見えます。私が一寸調べて参りますから御休息して居て下さいませ』
といひ捨てて表に駆け出す。
 ニコラスはハンナに命じ三千彦と共に表門に向はしめた。表門に行つて見れば三千彦が昼夜念頭を離れざりし恋しき師の君玉国別、良友の真純彦、伊太彦が莞爾として門内に潜り来るにパツと出会した。三千彦は倒れぬばかりに且つ驚きかつ喜び、アツと云つたきり暫らくは言葉も出なかつた。
伊太『やア、お前は三千彦ぢやないか。俺等はお師匠様と共に、どれ丈けお前を探して居つたか知れないのだ。処もあらうにバラモン教の聖場に納まりかへつて居るとは合点が行かぬ。これは何か様子があるのだらう。さア早くお師匠様に申上げぬか』
 三千彦は胸撫で下し、涙を流し乍ら、
三千『御師匠様、よう無事で居て下さいました。貴方の所在を尋ねむものと、バラモン教の聖場に入り込み、種々雑多と苦労を致しました。斯様な所でお目にかかるとは全く神様の御引合せで厶います。さア奥へお通り下さいませ』
玉国『あ、三千彦殿、まア結構だつたな。随分吾々三人はお前の身の上を案じて居たのだ。只今無事な顔を見て、こんな嬉しい事はない。然し此通りバラモン軍と無頼漢との同士打ちが初まつてるが、もとは吾々一行に対しての挑戦であつたが、何時の間にか相手が変つて味方の同士打ちとなつた。実に気の毒だから之を一先づ鎮撫せなくてはなるまい。緩り奥で休息する訳にも行かぬぢやないか』
三千『決して御心配なさいますな。スマートさまに一任して置けば大丈夫ですよ。アハハハハ』
真純『うん、そらさうだ。吾々四人の宣伝使よりも余程神力が備はつて居るのだからな、四足だつて余り馬鹿に出来ぬぢやないか。吾々はスマート大明神のお蔭で命が助かつたのだ。アハハハハハ』
と笑ひ乍ら三千彦に案内されて奥の間を指して進み入る。
 ハンナは部下の兵士が無頼漢と入り乱れて戦つて居るのを見逃す訳にも行かず、直ちに驢馬に跨り両方混戦の中に駆け入つて声を嗄らし『鎮まれ鎮まれ』と厳しき下知を伝へた。
 此声を聞くより敵味方ともに水を打つたる如くピタンと戦闘は停止された。スマートは忽ち駆け来り、ワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人を探し索めて引倒し、ハンナの前に一々引き来りワンワンと叫んで、之を縛れよとの意を示した。ハンナは四人を手早く縛し上げ、馬場の前の大杭にシカと縛りつけた。弱きを挫き強きに従ふ悪酔怪員は、会則を遵守して一人も残さず、コソコソと己が家路に帰り行く。トンクは驢馬に跨つた儘、十字街頭の鐘路に現はれ、臆病風に誘はれた数多の老若男女を集めて一場の訓戒演説をはじめて居る。
トンク『御一同様の中には悪酔怪員も水平怪員も、其他町内有志諸君も居られますが、よくまア会則を遵守し、一人も残らず退却して下さいました。実に幹部たる吾々は、諸君の行動に対し、欣幸措く能はざる所で厶います。今日迄は神館には只一人の魔法使三千彦と云ふ大先生、並びに求道居士の二人の魔法使、それ故吾々一同に比較すれば先方は弱者で厶いました。併し乍らもはや今日は新に三人の魔法使の大先生が御出現遊ばされ、又武器を携へたニコラスキャプテンが五十の兵士を引率して館を固くお守りになり、三五教の魔法使と同盟遊ばした上は、忽ち地位転倒して先方は強者となり、吾々は弱者の地位に立たねばならなくなりました。加ふるにスマートと云ふ、あの猛犬大明神は中々の強者で厶います。併し乍ら弱者は弱者として独立する訳にはゆきませぬ。会則にある通り、弱きを挫き、強きに従ふのが吾々の本領で厶います。それ故吾々一同は神館に至り心から帰順致し、馬場に繋ぎあるワックス等に大痛棒を加へ天晴融通を利かし、三五教及びバラモン軍に帰順の誠を現はし、身の安全を図るを以て第一と心得ます。皆さまの御意見は如何で厶いますか』
と呼はつた。悪酔怪員を初め、その他の連中はトンクの詭弁に何れも感心し、一も二もなく手を拍つて賛意を表した。トンクは此態を見て威猛高になり、
トンク『皆さま、早速の御承知、トンク身にとり満足に存じます。就てはワックスの会長を皆様より免じ、新に強者を会長に任命されむ事を希望致します。その強者とは申す迄もなく私はトンクだと思ひます。トンクに御賛成の方は手を拍つて下さい。不賛成の方は背を向けて尻を捲つて下さい。何事も多数決で厶いますから』
 手を拍つもの半分、尻を捲つて背をそむけるもの半分、トンクは馬上より之を眺めて、
トンク『皆さま、手を拍つて下さる方が半分、尻を捲つて反対を表する方が半分と見えます。これではハンケツがつきませぬ。何とか、も一度考へ直して頂き度う厶います』
 此声と共に今度は一人も残らず黒い尻を捲つてトンクの方に向けた。さうして群集の中より『即ケツ否ケツ』と叫ぶものがある。トンクは馬上より歯ぎしりをし乍ら、
トンク『エー、尻太異な事だな』
 斯かる所へ驢馬に跨りチヨク チヨクと此場に現はれ来たのはタンクであつた。タンクはトランクの口を開き、金銀の小玉を掴んでは投げ、掴んでは投げ、
タンク『皆さま、私が悪酔怪の怪長の候補者で厶います。今黄白を斯くの通り撒き散らしますから十分拾得競争をやつて下さい。拾得された方は其方の所有で厶います。其代り神聖なる一票を此タンクにお与へ下されむ事を希望致します』
と掴んでは投げ、掴んでは投げ、前後左右に駒を進めて残らず万遍なく撒き散らして了つた。トンクも手早く馬から下り、矢庭に金銀の小玉を拾つては懐中につつ込み、再び馬上につつ立ち選挙の様子を観望して居る。タンクは全部黄白を撒き散らし、もはや欠けたカンツも無くなつて居た。タンクは馬上より雷声を張り上げ、
タンク『皆さま、私を怪長に選挙して下さいますまいか。賛成の方は手を拍つて下さい。万一不賛成のお方は尻を捲つて屁を一発手向けて頂き度い。何程お尻を捲られても、屁の出ない方は賛成と認めます』
とうまく孫呉の屁法で予防線を張つて了つた。ここに半分は手を拍ち半分は尻を捲らず、手も拍たず、茫然として控へて居る。タンクは怪訝な顔して馬上より様子を窺つて居た。此時トンクはタンクの撒いた金銀を馬上より見せびらかし乍ら、
トンク『皆さま、最前手を拍つて下さつたお方は私の賛成者と認めます。今タンクさまに対して手を拍たず、尻を向けない方は中立者と認めます。その方に対して此黄白を撒ずる考へですから賛成の方は手を拍つて下さい。今ここで撒き散らしますと、二重取りされると折角の賛成者の手に入りませぬから、私の宅でお渡ししませう。少くとも千両の金はありますから百人に分配しても十両づつは確で厶います。さア一、二、三で願ひます』
 今度は如何したものか、一人も残らず尻を捲つて口屁をプウプウと鳴らして居る。中には尻から黒い湿つぽい輪廓の不完全な煙を吐き出す奴も少しはあつた。
トンク『然らば拙者が副怪長となり、タンクさまを怪長に選んで下さい。さうすれば双方共顔が立ちますから』
 大勢の中から、
『オーイ、トンク、貴様の今持つてる金は皆タンクさまの撒いた金だ。副怪長に任じて欲しけりや皆バラ撒くのだ。そしたら副怪長にしてやろう』
トンク『成程然らば皆さまに撒き散らしますから、よう拾はない人は運命だと諦めて下さい。兎も角半数者以上の賛成があれば可いのです』
と懐より一つも残らず取り出し、前後左右にまき散らして了つた。此潮時を見済まし、タンクは大音声、
タンク『皆さま、私を怪長に選んで下さつた事を有難く感謝します。何と云つても運動費が無くては今日の世の中は駄目です。墓標議員の事故議員、妥協議員にならうと思つても、五万や十万の金が入る時節ですから、無一文で議員にならう等とは余り虫が良すぎます。私は副怪長なんかは必要はないと思ひます。官の為人を選むのではなく、人の為に官を作ると云ふ事は最も不利益且つ不経済、秩序紊乱の端緒を開くもの私は副怪長の必要はないと思ひます。皆さま、必要と認めた方は手を拍つて下さい、不必要と認めた方は、も一度尻を捲つてトンクさまの方へ見せて下さい。それを以て貴方等の意志を明かに致します』
 一同は一人も残らず真黒の尻を捲つてトンクの方へ尻をさし向け、御叮嚀にピシヤ ピシヤと黒い臀肉を叩いて見せた。トンクはスゴスゴと驢馬の尻を無性矢鱈に叩き、業腹煮やして何処ともなく姿を隠した。
 これよりタンクは大勢の前に立ち凱旋歌を歌ひ乍ら神館をさして練り込んで行く。大勢は擦鉦を叩き、歌に合せて拍子をとり跟いて行く。
『扨ても悪酔怪員は  弱きを挫き強者には
 恐れて従ふ卑怯者  平安無事が第一だ
 強い奴にはドツと逃げ  弱い奴にはドツと行け
 これが軍の駆引だ  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 いやいや軍のみでない  万事万端その通り
 どんな商売致しても  小さい店を踏み倒し
 小さい資本の会社をば  片ツ端から押し倒し
 大きな奴には尾を巻いて  暫らく忍び時を待ち
 いつとはなしに強くなり  大きくなつたその時に
 己が所信を貫徹し  世界の強者と崇められ
 優勝劣敗経となし  弱肉強食緯として
 此世を渡るが利口者  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 神の館に現ませる  三五教の魔法使
 三千彦さまは弱いとは  云へど其実強い人
 神変不思議の魔法をば  使つて吾等を苦しめつ
 何処々々迄もやり通す  こんなお方に逆らうて
 どうして吾身が立つものか  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 弱きを挫き強きをば  助ける吾々怪員は
 ワックス、エキス、ヘルマンや  エルの司を虐げて
 悪酔怪の至誠をば  現はし館に立向ひ
 そこはそれそれ都合よく  頭を下げて胡麻を摺り
 身の安全を図るのだ  こんな神謀鬼策をば
 もしもトンクが怪長なら  どうして捻り出されよか
 智慧の袋のタンクさま  神謀鬼策の妙案は
 胸の袋にタンク山に  蔵つて厶るぞ皆さまよ
 心を丈夫に持つが良い  チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン
 早くも馬場に近づいた  皆さま声を打揃へ
 三五教やバラモンの  神の司の万歳を
 ここから唱へ上げませう  それに続いてスマートの
 犬大明神の万歳を  三唱し乍ら進みませう
 チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン  ああ惟神々々
 叶はぬから叶はぬから  目玉飛び出しましませよ
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  強きを助け弱きをば
 挫くが天地の道理ぞや  大魚は小魚を呑み喰ひ
 大獣は小獣を噛み喰ひ  強者は弱者を虐げる
 富者は貧者をこき使ひ  役人さまは平民を
 奴隷の如く足にかけ  腮をしやくつて使ふのだ
 これが天地の道理ぞや  必ず迷ふちやならないぞ
 チヤンチキ チヤンチキ チヤンチキチン』
と勝手な熱を吹き悠々として驢馬に跨り、先頭に立ち早くも門内に進み入る。
(大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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