初稚丸はフクの島に着いた。荒波が岸を噛み、剣呑にして寄りつくことができない大難関である。山の中腹に大きな岩窟が自然にうがたれており、その中に何かが動いているように見えた。
バーチルは岩窟に動く影が、三年前に行方不明になった僕のアンチーの人影に似ているのに驚いて、玉国別に報告した。玉国別は確認のために島に上陸することとした。
船を海中の岩島に寄せ、伊太彦、バーチル、メート、ダルの四人が上陸した。船を認めて岩窟から駆け降りてきた男は、間違いなくバーチルの僕アンチーであった。
アンチーは主人との再会に涙を流し、この島に打ち上げられてから、初稚姫という女神に助けられて命をつないだことを明かした。初稚姫は三日ほど前にもアンチーの前に現れ、三年の修業ができたから、これでアンチーも立派な人間になるだろうとのお告げを残して、犬に乗って南の方に去って行ったことを語った。
一行はアンチーを船に助け上げて出航した。船中ではアンチーの漂流譚に花が咲いている。アンチーは助け出された嬉しさに、島で一人作っていた唄を織り交ぜて舟歌を披露した。
伊太彦は独り者同士仲良くしようとアンチーに呼びかけ、笑っている。