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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
文献名2第4篇 猩々潔白よみ(新仮名遣い)しょうじょうけっぱく
文献名3第20章 酒談〔1495〕よみ(新仮名遣い)しゅだん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
初稚丸は白帆を畳んでようやく磯辺に着いた。アキスとカールの両人は小躍りして遠浅の海を走って行き、船に近づいて中をのぞいた。多くの宣伝使たちに交じって、髯茫々にになったバーチルとアンチーが乗っているのに二人は驚いて喜びの声を上げ、早くもうれし涙にくれた。

玉国別は下船にあたって船頭のイールに心付けを渡した。イールは初稚姫から十分な代金をもらっているからと、玉国別からの心付けを湖の竜神への幣帛料として捧げ、一同に別れを告げると舟歌を歌いながら帰って行った。

バーチルは、アキス・カールと再会を喜んだ。二人はバーチルの奥方も一人息子も壮健で変わりないこと、ただ奥方のサーベルが数日前から神がかりのようになり、その命を受けて自分たちが浜辺に待っていたことを伝えた。

一行がバーチルの家に行こうとするとテクが現れて、三五教の宣伝使は捕縛しなければならないと走ってきて遮った。玉国別は持っていた酒をテクに渡した。テクは酒を飲み干すと途端に態度を変えて揉み手をし、これほどよい酒をもっと飲みたいと要求し始めた。

バーチルは、これから自分の帰還のお祝いをするからそこに来て好きなだけ酒を飲むようにとテクを丸め込んでしまった。三千彦も手持ちの酒をテクに差し出すと、テクはすっかり自分の役目など放り出してしまった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月30日(旧02月14日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版251頁 八幡書店版第10輯 459頁 修補版 校定版266頁 普及版101頁 初版 ページ備考
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本文  初稚丸は白帆を畳んだまま、漸くにして磯辺に着いた。アキス、カールの両人は雀躍りし乍ら、尻を巻つて遠浅の海をバサバサバサと待ち兼て走り行き、船に食ひつき、中を覗き見れば髯蓬々と生た男が二人、外に眉目清秀の宣伝使や美人が乗つて居るに打ち驚き、思はず大声を上げて、
アキス『ア、旦那様、ヤ、番頭様』
と云つた切り、早くも嬉し涙に暮れ、後は一言も発し得ず、船の後へ廻り遠浅を幸力限りに押して行く。漸く一同は玉国別を先頭に、順々に上陸した。
玉国『ヤ、イールさま、其外御一同、御苦労で厶いました。サア是は私の心だけだ。お酒なと食つて下さい』
と懐より若干の金を取り出し渡さうとする。
イール『旦那様、決して決して御心配下さいますな。初稚姫様から沢山の賃を頂いて居りますから、此上頂いては冥加につきます、お志は有難く頂きます。何卒お納め下さいませ』
玉国『宣伝使が一たん突き出したもの、何と云つても元に戻す事は出来ぬ。何卒受取つて貰ひたい』
イール『左様なれば御辞退申すも却て失礼、有難く頂戴致します』
と押し頂き、直ちに海面に向ひ、
イール『竜神様、お蔭で無事に送らして頂きました。何卒これから帰り道も長う厶いますれば、キタの港に帰れますやう御守護を願ひます。これは幣帛料として差上げます』
と云ふより早く、湖中に向つてバラバラと投げ込んで仕舞ひ、一同に別れを告げ潔く櫓櫂を操り、欵乃を唄ひ乍ら帰り行く。
玉国『アア船頭と云ふものは信心の強いものだなア。本当に正直なものだ。寡欲恬淡にして少しも貪る心のないのは感じ入つたものだ。あの船頭の純潔な心を見るにつけ、自分達の心が恥かしくなつて来た。いや吾々はまだまだ修養が足りない。ああ神様、有難き教訓を頂きました。惟神霊幸倍坐世』
と感謝の涙に暮れながら無事の着港を祝した。
 バーチルは、アキス、カールの二人の手を取り、
バーチル『お前は下僕であつたか、よう迎ひに来て呉れた。奥はどうして居るか』
アキス『ハイ御壮健でゐらつしやいます。坊様も極めてお元気で厶います』
カール『何だか二三日前から神懸のやうになられまして、時々妙な事を仰有いますが、実に感心致しました。旦那様がお帰りになるからスマの浜まで行つて来いと、それはそれは喧しう仰有いますので、私が此処に三日立ち待ちをして居ました。ようまア帰つて下さいました。嬉しう厶います』
バーチル『ああさうであつたか、それは不思議の事だ。兎も角もこの先生のお伴して一時も早く吾家に帰り、悠くりと休息をして戴かう。サア早く御案内を申せ』
 両人は一時に、
『ハイ、然らば皆様御案内致しませう』
と早くも先に立つて歩みかけた。向ふの方より一人の男、大手を拡げて走り来り、
男『オイ待つた待つた、此奴等は三五教の宣伝使だ。神変不思議の魔法使だ。貴様の主人はバラモン教でありながら、三五教の魔法使を連れて帰ると云ふ叛教者だ。バラモン教に対しての、プロテスタントだ。イヤ、バーチルスだ。オイ、バーチル一寸調べる事がある。キヨの港の関所迄一寸来い』
アキス『貴様は泥酔漢のテクぢやないか。グヅグヅ吐すと此鉄拳がお見舞申すぞ』
テク『ヘン此方の体は三葉葵の紋が体一面について居るのだ。指一本でもさへるならさへて見よ』
 玉国別は携へもつた瓢箪の口をあけて、テクの鼻の先につきつけ、微笑しながら、
玉国『お役目御苦労で厶いますな。暑気払ひに一寸召し上つたらどうですか』
テク『エヘヘヘヘ。三五教の宣伝使でも一寸話せるわい、ヤ大に気に入つた。世の中は斯うなくては、人間は渡れないものだ、「酒なくて、何の己が宣伝使かな」だ。まづまづ一杯頂戴仕らう』
とホクホクしながら瓢の口から息もつかず、喉をゴロゴロ鳴らせながら胃の腑のタンクに臨時灌漑し、瓢を逆さにして掌の上に二つ三つ舞踏させながら、滴る二滴ばかりの酒を御叮嚀にゲソゲソと舐て俄に態度をかへ、
テク『ヤどうも、飛び切り上等の醍醐味を頂戴致しまして、テク実に乾盃の至りで厶います。瓢ぶりに、どうした拍子の瓢箪やら、スコタンやら、コンタンやら、邯鄲夢の枕のやうな、嬉しい心持が致しますわい。私是からずつと改心をして貴方のお弟子にして頂き、ドツサリドツサリ瓢箪酒を、この甘い甘い、瓢箪酒を、チヨコチヨコ、サイサイ呑まして頂く儀にはゆきますまいかな、訳にはゆきますまいか。本当に気の利いた先生だ、イヤ気に入つた先生だ。専制主義のバラモンよりも四民平等主義の、四民平等人類愛の三五教が余程、余程、余程甘味が厶いますわい。ウマ味がたつぷり厶います。甘味と云つたら今飲んだ酒も些と許り、チヨツクラチヨツト、些し許り、少しでも沢山、ドツサリと頂き度いもので厶います。酒さへ呑ましておけば、酒の気さへあれば、このテクも、猫のやうな柔しい、温順な、柔和な、柔順な、結構な、お目出度い人間ですよ。それはそれはお目出度い人間です。エヘヘヘヘ』
玉国『アハハハハ』
バーチル『これ、テクさま私が三年振で目出度吾家へ帰つたのだから、茲一週間許り、家の財産が無くなつても構はぬ、大祝宴を開くのだから、お前さま一つ酒の方の世話をして貰へまいかな。そして飛び切り上等の酒を何十石でもよい取寄せて、献立をして貰ひ度いものだ』
テク『もつとももつとも、御尤も千万、渡りに船、追手に帆、女に男、テクに甘酒、お酒にテク、テクにお酒、酒がテクか、テクが酒か、酒の中から生れたテクぢや、いやはや承知致しました。確に承諾仕りました。ああああ何だか甘酒と聞くと喉の奴、喉の猫奴がゴロゴロと唸り出しやがつた。唾の奴酒の顔を見ぬ先から門口迄お出迎へに出て来る。イヤ唾、酒のつばものも少し辛抱せ。今直ちに供給してやる。否灌漑してやる。蒸気ポンプ装置が、いや据付けが出来る間だけ辛抱したらよからう。いや、とは云ふものの俺も辛抱仕悪くなつた。オイ先生、この外に臨時御携帯のお持ち合はせの瓢箪、瓢、ひよう ひようは厶いませぬかな』
三千『アハハハハ。随分タンクと見えますな、そんなら拙者の分も進上致さう。又何れバーチルさまのお宅へ行つて新しいのと詰替ますから………大分浪の上を渡つて来たから此酒はくたびれて居りますれど御辛抱下さい』
テク『ヤ、そいつは有難い、瓢箪酒は古くなる程味がよいのだ。風味があるのだ。三日も四日も揺つた酒はねんばりとして、むつくりとして口当りがよいものだ。ヤ有難い有難い』
と云ひ乍らグイと三千彦の手より引手繰るやうにして受取り、瓢を額の辺りまで突き上げ尻を見て、
テク『エヘヘヘヘこの瓢助の奴、随分酒を喰ひよつたと見えて、イヤ吸ふたと見えて赤い顔をして居やがる。いや赤い尻をして居やがる。恰でお猿を見たやうだ。お猿の尻は赤い。やア面白うなつて来おつた。いや尻赤い、尾も白狸の腹鼓、切れる程頂きませう。ヤ、頂戴致しませう』
と口をポンと取り餓鬼のやうに喇叭呑みを初め出した。瓢酒の音トブ トブ トブ トブ、喉の音ゴロゴロ、キユウ キユウ キユウ、チユウー。
テク『アア、よう利く般若湯だ。醍醐味だ。命の水だ。百薬の長だ。何とまア、調法なものだなア。結構毛だらけ猫灰だらけ。余り甘くて美味しうて、味がようて、開いた口がすぼまりませぬよ。開いた口に牡丹餅。兎口にしんこ、四角口に羊羹、○○に踵、テクの口に般若湯、渡りに船、順風に帆、鑿に槌、女房に夫、老爺に初孫、どうした拍子の瓢箪やら、甘い甘しい、呑や甘い、甘い事づくめが重なつたものだ。目出度い目出度い、お目出度い。目出度、目出度が三つ重なりて鶴が御門に巣をかける、奥さま館にお待ちかね。吾等もスパイをすつかりやめて、人の嫌がる探偵やめて、バーチルさまの御厄介になり、お世話によつてお酒の御用を確り勤めませう。エヘヘヘ』
アキス『アハハハハ、此奴は面白い。酒の味のよい御愛嬌だ、さア旦那様、早く帰りませう』
と先に立ち、道々元気よく歌を歌ひ、ヤッコス踊を踊りながら、夏の草野の炎天を帰り行く。アヅモス山の南麓に老樹生え茂つた一つの森が見える。それがバーチルの広大な邸宅であつた。
(大正一二・三・三〇 旧二・一四 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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