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文献名1霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
文献名2第2篇 厄気悋々よみ(新仮名遣い)やっきりんりん
文献名3第12章 狐穴〔1512〕よみ(新仮名遣い)こけつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-05-06 15:26:02
あらすじ
チルテルは、ヘールに命じて初稚姫を呼びにやらせたが、いつまでたっても戻ってこない。耳をすましてみれば、ヘールは初稚姫を横領しようとあからさまに口説いている。怒ってやってきてみれば、ヘールは初稚姫に押さえつけられて苦しんでいる。

その有様を見たチルテルはヘールの有様に吹き出してしまった。チルテルは、妻とはもう別れたから初稚姫を後妻に入れようと言い、横恋慕したヘールを首にすると言い渡した。

初稚姫はヘールを押さえつけながら、この男はあまり憎いとは思わないが、力をためそうとこのようにしているのだと答え、どことなしに益荒男の息が通っているとヘールを誉めた。

いぶかるチルテルに対し、初稚姫は妻を縛って蔵の中へ投げ込むような恐ろしい男にはけっして靡かないと歌で答えた。

初稚姫はぱっとヘールを放した。チルテルとヘールは初稚姫を巡って角突き合わせている。初稚姫は、自分は階級などには頓着しない、ただ男らしい男であればよく、器量が悪くても力の強い夫を持ちたいと二人に答えた。

初稚姫に乗せられた二人は、庭で相撲を取って勝負を決めることになった。二人は落とし穴の側で四股を踏んでいる。そこへテクが走ってやって来た。テクはいぶかったが、二人の行司を買って出た。

初稚姫は、自分が行司をするから、三人で誰が自分の夫になるか力比べをするのがよいと言いだした。さっそくヘールがチルテルに組みついて勝負が始まった。

二人はしばらく闘っていたが、チルテルが勝り、ヘールは押し倒されて深い落とし穴へ投げ込まれてしまった。次いでテクがチルテルに突っかかる。半時ばかりの勝負の後、テクがチルテルを落とし穴に投げ込んだ。

相撲の間に、ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人は関所の門を潜り、裏庭に妙な音が聞こえるので中へ入ってきた。見れば、二人の男が相撲を取っているのでそばに来て勝負を眺めていた。

勝者のテクは起き上がり、自分が初稚姫の夫となってキャプテンの座もいただくのだ、と悦に入っている。ワックス他三人は、初稚姫の美貌に見とれてポカンとしている。

初稚姫は、勝利のお祝いに、やってきた四人のバラモン信者に酒でも振る舞ったらどうか、とテクに勧めた。テクはすっかりキャプテン気取りになって、四人を酒宴に誘う。

初稚姫はテクに手を差し出した。テクは手を伸ばして初稚姫の手を握った。たちまち姫の手から白い毛がモジャモジャと生えだした。驚いてみると、姫は驢馬のような大きな白狐となってしまった。

テクとワックスたちは驚いて逃げ出そうとするとたん、ワックスたち四人は落とし穴に落ち込んでしまった。初稚姫に変化していたのは、三五教を守護する白狐・旭であった。旭は庭園の茂みを潜って、どこともなく姿を隠した。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年04月02日(旧02月17日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年7月8日 愛善世界社版158頁 八幡書店版第10輯 541頁 修補版 校定版167頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  妻のチルナに茶袋を  力限りに締められて
 ウンと許りに気絶した  館の主人チルテルは
 漸く痛みも回復し  再び恋の炎をば
 燃やしてヘールのユゥンケルに  命じて姫を介抱に
 迎へ来れと命じおき  仮病を使つて奥の間に
 ウンウンウンウンと呻つつ  待てど暮せどユゥンケルは
 何の音沙汰無きのみか  耳を済まして窺へば
 肝腎要のナイスをば  横領せむと種々に
 ベストを尽すと見るよりも  羅刹の如くに怒り立ち
 髪逆だててチガチガと  片手に茶袋押へつつ
 姫の住所に来て見れば  豈計らむやユゥンケルは
 初稚姫の細腕に  取挫がれてハアハアと
 苦しみ居たる可笑しさよ  チルテル思はず吹き出し
 嫉妬の念もどこへやら
チルテル『アハヽヽヽお姫様  実に天晴な御神力
 キャプテン感じ入りました  かく勇ましき女丈夫が
 これの館に来ませしは  全く神の賜物ぞ
 女房に離れしキャプテンの  身を憐れみて二世の妻
 共に千歳を契れよと  梵天帝釈自在天
 大国彦の御示し  実に有難き次第なり
 おのれユゥンケル姫様の  前をも恐れ憚らず
 軍の司の身を以て  無体の恋慕を致すとは
 乱暴至極の痴漢だ  もう是からはキャプテンが
 汝に暇を出す程に  早く此場を立ち退いて
 風吹く野辺を彷徨ひつ  其身の果ては物貰ひ
 袖乞奴となり下り  天女のやうな姫様を
 苦しめまつりし罪咎を  天地に謝罪するがよい
 サアサア早く立ち去れよ  これの館はキャプテンが
 千代の住家である程に  心汚れし汝等の
 身魂の住まふ場所でない  伊吹戸主大御神
 これの館を汚したる  製糞機械を一時も
 疾く速けく科戸辺の  風に払はせたまへかし
 嗚呼惟神々々  神の使の姫様に
 かはりて願ひ奉る  アハヽヽハツハ、アハヽヽヽ
 実にも浅ましい態ぢやなア  身の程知らぬユゥンケルが
 身の成り果てはこの通り  天罰忽ち廻り来て
 赤恥さらす憐れさよ  イヒヽヽヒツヒ イヒヽヽヽ』
初稚姫『此男余り憎しと思はねど
  力ためさむために斯くしぬ。

 さりながらどことはなしに益良夫の
  息かようこそ嬉しかりけり』

チルテルは此歌を聞いて意外の面持しながら、
チルテル『これはしたり曲津の神の容器を
  憐れみ給ふか心もとなや』

初稚姫『二世の妻縛りて暗き倉の内へ
  投げ込みたりし人ぞ憎らし。

 吾も亦女房となりて倉の中へ
  繋がれむかと怖ろしくなりぬ。

 心荒き男子に身をば任すより
  心やさしき人を求めむ』

 ヘールは初稚姫がパツと放した手の下から漸う顔を上げ、
ヘール『これはしたり初稚姫の御心
  知らず恨みし事のくやしさ。

 ユゥンケルの軍の司を棒にふり
  親しく添はむ姫の御傍に』

初稚姫『ユゥンケルよりも尊きキャプテンを
  いとなつかしく慕ひけるかな』

チルテル『初稚姫神の心を今ぞ知る
  恨み歎ちし事の悔しさ。

 ユゥンケル今のお言葉何と聞く
  とても及ばぬ恋とあきらめよ』

ヘール『口先でかく宣らすとも村肝の
  心の奥にヘール通へる。

 キャプテンが鬼の念仏如何程に
  巧なりとも誰か聞くべき。

 こと更に神に等しき姫君は
  汝が心の汚きを知る』

初稚姫『妾はキャプテンだのユゥンケルだのと、そんな人為的階級には少しも望を嘱して居りませぬ。唯男らしい男を望むで居ます。女と云ふものは繊弱いもので厶いますから、仮令色は黒うても跛でも片目でも出歯でも鳩胸でも構ひませぬ、力の強いお方を夫に持ちたう厶います』
ヘール『イヤ、それで分りました。私は此関所の中でも仁王のヘールと云はれた位ですから、腕力にかけたら私に勝るものはありませぬ。成程姫様も先見の明が厶いますワイ。鬼や大蛇の猛り狂ふ世の中、矢張強いものでなくては世に立つ事が出来ませぬからなア』
チルテル『姫様、この男は口許り強いのですよ。一束の藁なら力持、三升の飯なら一度饌、その癖夏瘠せ寒細り、偶々肥満たら脹れ病、一里の道なら泊りがけ、雪隠行なら腰弁当と云ふ厄介者です。口は何程達者でも実力でなければ駄目ですよ』
初稚『そりやさうで厶います。妾は実際のお力を存じませぬから、何卒あの陥穽の傍で角力を取つて見て下さい。そして強いお方の御世話になりますから、夫が一番不公平が無くて宜いでせう』
チルテル『イヤ至極名案だ、サ、ヘール一つ勝負だ、赤裸々となつての勝負ぢや。一文の掛け引きもない。初稚姫様に検査を願つて勝つたものが姫様の夫になるのだから、その覚悟で貴様も十分の力を出したらよからうぞ』
ヘール『アハヽヽヽ、面白し面白し、天王山の晴軍、勝敗の決、瞬間に迫れり。姫様、天晴某の力を御覧下さいませ』
初稚『面白う厶いませう。勝つたお方の女房にして頂きます。何卒何方も負ぬやうにして下されや』
 二人は真裸となり、ドンドンと四股踏ならし、陥穽の傍で今や勝負を初めむとする時、慌しく走つて来たのは、スパイのテクであつた。テクは此態を見て合点ゆかず、直立不動の姿勢を取つて、
テク『僕はバラモン軍のリゥチナント、テクであります。キャプテン様、ユゥンケルの御両人、奉納角力を取り組まれると見えますが、行司がなくてはかなはぬ事、サア拙者が行司を致しませう』
チルテル『ヨウ、お前はテクか、好い所へ来て呉れた、一つ行司を願はう』
テク『ヘエ、よろしやす、宜敷うあります。なるべくはキャプテンが負るといいのだがなア、イヒヽヽヽ』
初稚『其方は夜前妾の居間へお使に見えた、リゥチナントさまぢやありませぬか。何とまあ、四角いスタイルだこと、ホヽヽヽヽ』
テク『これはこれは姫様、久し振にお目に懸ります。先づ御壮健でお目出度うあります』
初稚『昨日御目に掛つた斗り、久し振とは可笑しいワ。そして行司は妾が致します、貴方も勝負をして下さい。勝たお方の妾は女房になる決心で厶いますから、先づ第一にチルテル様とヘール様との勝負のついた上、勝つた方と貴方と勝負をして頂き、もしもお勝なれば妾は貴方の女房にして貰ひます。オヽ恥づかしやのう、オホヽヽヽ』
テク『これはよい所へやつて来て、お仲間入をさして頂くとは何と云ふ仕合せの事だらう。力にかけたら滅多に後へはひかぬこのテクさまだ。きつと勝つてお目にかけませう』
チルテル『初稚さま、さう新手が殖へては困るぢやありませぬか。お約束が違ふでせう』
ヘール『何、何人なりと新手が現はれた方が面白い、負けさへせねばよいのだ。サア三人消しがかりだ』
と矢庭にチルテルに喰ひつく。チルテルは『何猪口才な』と忽ち四つに組むで揉み合ひ蹴り合ふ。二人の裸体は滝の如く汗が滲み出し、ヌルリヌルリと体辷りがして、二人はパツと左右に別れた。押す、突く、突張る、必死の活動、此処を先途と挑み戦ふ其勢ひ竜虎の争ふ如く見えたるが、チルテルの力や勝りけむ、ヘールはたうとう押し倒されて、深い陥穽へ投げ込まれて仕舞つた。忽ちテクは真裸体となりチルテルに突つかかる。チルテルは『何猪口才な木つ端武者』と高を括つて組みついた。大地をドンドンと威喝させ乍ら、土佐犬の噛み合ひの如く、但馬牛の突き合の如く、千変万化の秘術を尽して汗塗となり、半時許り、命辛々、いがみ合うた。初稚姫は『オホヽヽヽ。オホヽヽヽ』と愉快気に二人の勝負を眺めて笑つて居る。たうとうチルテルはテクに捩伏せられ陥穽の中へ無残にも投げ込まれて仕舞つた。この陥穽は四五間許りの深さで、底には深い地下室が築かれてあつた、さうして落ちても怪我をしないやうの装置がしてあつた。テクはやれ安心と張り詰めし心もグツタリと緩み、ヘトヘトになつて其場に倒れた。これより先、ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人は関所の門を潜り、裏庭に妙な音がするので走り来て見れば、二人の男が真裸体で角力を取つて居るので、チクチク傍により勝負如何にと眺めて居た。テクは漸くにして起き上り、さも嬉しさうな顔付にて、
テク『サア姫様お約束通り、リゥチナントのテクが女房になつて頂きませう。もはやキャプテンはかくの如く失脚致しました以上は、リゥチナントが此関守を勤めるのは当然、余り憎うは厶いますまいな、エヘヽヽヽ』
 ワックス外三人は初稚姫の美貌に見惚れて、首を傾げ、食指を咬へて、ポカンとして居る。
初稚『テクさま、本当に貴方、力の強い方ですな。お約束通り女房にして頂きませう。併し乍らあの通りバラモン信者のワックスさま外三人が、テルモン山の神館から叩き払ひに遇ふて玉国別様一行の後をつけ狙ひ此処に見えて居りますから、貴方の勝負にお勝ちなさつたお祝に、此方々をお招き申てお神酒なとお上げなさいませ。乞食も身の祝ひと云ふ事が厶いますからな』
テク『ウン ヨシ、女房の云ふ事なら、何でも聞いてやる。女房に対して忠実な、親切な、慇懃な、それはそれは柔しい、同情の深い、誠に結構なテクさまだ。こんな亭主をもつた女房も世界一の幸福ものだ。お前は幸運の神に見舞はれたものだ。俺も亦其通りだ。「よい嬶持つたら一生の徳だよ、近所も喜ぶ、テクさまも喜ぶ、テクさま所か悴も喜ぶ」。オイ、バラモン信者のワックス以下外三人、恋の勝利者のテクさまが此館の関守だ。さうして此ナイスが内事一切を構ふのだ。貴様もよい所へ来て呉れた。今日から俺の家来にしてやらう、サア此方へ来て一杯飲め』
ワックス『有難う厶います……エキス、ヘルマン、エルどうだ、矢張り私の予言は違ふまいがな。キヨの港に着いたら意外の喜びが湧いて来ると云つたらうがな』
エル『そりやさうだ。尻の千も叩かれて苦労した苦労の塊の花が咲いたのだからなア』
ワックス『シー、尻の話はもうやめて呉れ、馬鹿だな。こんな所まで来て恥を曝す奴があらうかい』
テク『こりや こりや四人の家来共、何を云つて居るのだ。新夫婦のお祝ひ酒でも呑まないか。この館には確り仕込むであるから幾ら呑みても大丈夫だ。十日や二十日飲み続けても少しも構はぬのだ。親方が大黒主だから太いものだぞ』
ワックス『ヤ有難い、お目出たう、それなら御言葉に甘へて頂きます』
初稚『モシ、貴方こちの人、テクさま、妾のお手々を握つて頂戴、握手しませうか』
テク『ヨシ、お出た。握手だらうがキッスだらうが些とも遠慮は入らぬ』
と猿臂を伸ばして柔かい初稚姫の手を握つた。忽ち其手から白い毛がモジャモジャと生え出した。ハツと驚いた途端に驢馬のやうな大きな白狐となつて竹箒のやうな太い尻尾をブラリブラリと振つて居る。テクは「こいつは耐らぬ」と一生懸命裏門より、命辛々逃げ出した。ワックス外三人は呆気に取られ、逃げ行く途端以前の陥穽に一蓮托生、四人ともにバサバサと落ち込むで仕舞つた。
 初稚姫に変化て居た怪物は、三五教を守護する、旭の白狐であつた。旭はノソリノソリと庭園の木の茂みを潜つて何処ともなく、其姿をかくした。
(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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