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文献名1霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
文献名2第3篇 地底の歓声よみ(新仮名遣い)ちていのかんせい
文献名3第14章 舗照〔1514〕よみ(新仮名遣い)ほてる
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-05-06 16:03:34
あらすじ
三千彦と伊太彦はデビス姫とともにチルテルの館を抜け出そうと、庭先を木蔭に隠れながら進んで行った。すると足元の落とし穴にかかり、滑り落ちてしまった。三人は怪我もなく地底の一間に安着した。そこには思いもよらぬ広い洞があり、燐光がきらめいていた。

辺りには燐鉱があってその光が洞窟内を照らしている。三人が出口を探していると、伊太彦は広い岩室があるのを見つけた。筵が敷き詰めてあったので、三人はそこで休んだ。

地上が明るくなると、どこからともなく光がさしてきて、燐鉱は弱まった。伊太彦は岩室の入り口に宿屋の番頭を気取って頬杖ついて横たわっている。そこへヘールが落ちてきた。

落とし穴の底で声をかけられたヘールは驚いたが、伊太彦は近頃ここで岩窟ホテルを開業したのだとからかう。ヘールは面白がって部屋に入って行く。

次にチルテルが落ち込んできた。チルテルは、ここは自分の館内の落とし穴だと伊太彦にくってかかるが、伊太彦は番頭ぶった滑稽を並べ立て、煙に巻いてしまう。チルテルもいぶかりながら部屋に入って行く。

部屋に入ってきたヘールが、三千彦とデビス姫をホテルの従業員扱いするので、二人はいぶかっている。チルテルがやってきたのを見たヘールは、テクに相撲で負けたことをからかう。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年04月02日(旧02月17日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年7月8日 愛善世界社版186頁 八幡書店版第10輯 551頁 修補版 校定版197頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm5914
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本文  神の教の三千彦は  デビスの姫を救ひ出し
 伊太彦司と諸共に  チルテル館の庭前を
 木蔭に身をば隠しつつ  意気揚々と帰り行く
 忽ち足元バツサリと  思ひ掛けなき底脱けの
 滑り落ちたる陥穽  三人は何の怪我もなく
 地底の一間に安着し  四辺を見れば摩訶不思議
 思ひもよらぬ広い洞  光きらめく燐光の
 常磐堅磐の岩の穴  黒白も分ぬ暗の夜に
 光明世界に登りたる  心地し乍ら悠々と
 三人は手をばつなぎつつ  蒲鉾なりの大道を
 進むが如くスタスタと  足に任せて探り行く。
伊太『何だかバツサリと地底へ落ちた様な気がしたと思へば四辺はキラキラと光り輝く光明世界だ。扨も扨も不思議な事があるものだな。三千彦さま、吾々は夢でも見てゐるのぢやありますまいかな』
三千『いや決して夢ではありませぬ。敵の術中に陥り陥穽に落ち込むだのですよ。凡て此辺は地中の洞穴が沢山ある所です。此暗夜にキラキラ光るのは全部燐鉱です。然し乍らここは昔立派な人間の住居して居た所に違ひありませぬ。何処か此処辺で休息致しませう』
伊太『比較的スベスベしたよく慣れた岩窟ですな。これ位だと何処か探したら、沢山な座敷がとつてあるに違ひ厶いませぬわ。一つ念入りに探して見て、座敷でもあればまア貴方御夫婦は新所帯をなさいませ。私はまア臨時番頭となつて御用を致しませう。ねえ奥様、結構でせう』
デビス『ホヽヽヽヽ、伊太彦様の仰有る事、ようまアそんな気楽な事が云つて居られますな。ここは敵の屋敷、何時煙攻めに会はされるやら、徳利攻にされるやら分りもせぬのに本当に貴方は楽天主義ですな』
伊太『陥穽からバツサリと地底へ落転主義です。まアまア宜しいわい。刹那心を楽みませう。後には玉国別の先生もあり真純彦も残つて居りますから、屹度尋ね出して私等を救つて呉れるに違ひありませぬ。マア取越苦労をせずに此瞬間を楽みませう。悔んで見た所で、どうにもならぬぢやありませぬか。暫く馬鹿になつて居れば何も苦しい事はありませぬわ。世の中に馬鹿と狂人になる位幸福はありませぬからな。神様も始終馬鹿と狂人になれと仰有りますが本当に馬鹿と狂人位気楽なものは厶いませぬわい、アツハヽヽヽ』
三千『もう宜い加減に後へ引返しませう。何程行つても際限がありませぬわ。これからベルヂスタン、アフガニスタンの方へ行くと、斯んな岩窟は沢山あると云ふ事です。醜の岩窟と云つて随分有名なものもあるからな』
伊太『兎も角も、も一度念入りに探して見ませう』
と又元へ引返し其処辺中を探して見ると自分の落ち込むだ穴の横に少し凹んだ処がある、伊太彦はグツと押して見ると広い岩窟があつて、燐鉱がキラキラと四辺に光つて居る。
伊太『ヤ、有難い、ここで暫らく籠城ときめやう。これ丈け設備が出来て居ると食糧も水も何処かにあるだらう』
と先に立つて進み入る。
 三人はドシドシ奥へ進むで見ると、足にガシガシと触るものがある。よくよく見れば芭蕉の葉で編んだ莚が敷きつめてある。
伊太『や、此奴ア意外な珍座敷だ。まアここで三人が悠りと雑魚寝を致しませう。然し御邪魔になれば暫く控へて居ませう』
デビス姫『思ひきや醜の岩窟に落されて
  畳の上に寝ぬる嬉しさ。

 菅畳いやさや敷きて三人連れ
  寝る夢心地してぞ嬉しき』

伊太彦『又しても寝る事許り仰有るな
  此伊太彦はセリバシーぞや』

デビス姫『妾とて神の御業の済む迄は
  同じ思ひのセリバシーなり』

伊太彦『千早振る神代も聞かぬ妹と背が
  セリバシーとは怪しかりけり』

三千彦『心なき人は三千彦デビス姫の
  仲を怪しく思ふなるらむ』

伊太彦『人前を飾ることなく詳細に
  告げさせ玉へ鴛鴦の親しみ』

デビス姫『只見れば夫婦の睦びせしものと
  思ふなるらむ世の人々は。

 さり乍ら心健気な三千彦は
  怪しき夢を結び玉はず』

三千彦『伊太彦やデビスの姫よ村肝の
  ゆめ心をな傷め玉ひそ』

伊太彦『伊太彦の心は君が親しみを
  神の御前に祈り暮しつ。

 村肝の心配らせ玉ふなく
  妹背の道を守らせ玉へ。

 妹と背の仲を隔つる伊太彦は
  人目の垣と思召すらむ。

 板垣を潜りて出づる門戸あり
  隙行く駒の例知らずや。

 根の国や底の国迄落ちしかと
  思ひし事も夢となりぬる。

 何となく心勇ましくなりにけり
  岩窟の中にあるを忘れて。

 栲褥いやさや敷きて三人連れ
  夜の明くるをば待ちつつ寝む』

デビス姫『いざさらば伊太彦司三千彦よ
  心定めて寝に就かむ』

三千彦『村肝の心にかかる雲もなし
  花と月との君とありせば』

伊太彦『花は姫伊太彦司は三千彦に
  つきの姿となりにけるかな』

三千彦『伊太彦やデビスの姫の真心を
  神は嘉して救ひ玉はむ。

 何事も神のまにまに従ひて
  天の岩戸の開くを待たなむ』

 かく互に三十一文字を詠み交し乍ら其夜は他愛もなく眠らひにけり。
 地上の世界は漸く明るくなつたと見えて四辺の燐鉱は次第々々に薄らぎ、新しき光が何処ともなく刺して来た。伊太彦は入口の間に宿屋の番頭然として一人頬杖をついて横はつて居る。そこへバサリと落ちて来た一人の男がある。よくよく見ればユゥンケルのヘールなりける。
伊太『や、入らつしやい』
 ユゥンケルは此声に驚いて、
ヘール『や、あ、貴方は何人で厶いますか、何時の間に此処にお越しになつたのですか』
伊太『つい近頃旅館開業を致しましてまだ設備も充分に出来て居りませぬが、何卒足を洗つて奥へお通り下さいませ。そして上等が一泊五円、但し昼飯を抜きに致しましてで厶います。昼飯ともに七円で厶います。その代り茶代廃止の広告をして置きましたから比較的安いものです。然し茶代としては頂きませぬが、お土産としてならば百円でも千円でも少しも辞退は致しませぬ』
ヘール『アハヽヽヽ、腹さへヘール様な事がなければ辛抱致します。何分此頃は貧乏神に見舞れて居りますから、あまり高い宿賃は出せませぬ。どうか二等位の所でお願致します』
伊太『開業匆々で設備も出来て居りませぬから、チツとは辛抱して頂かねばなりませぬ。そして食つて頂くものは何もありませぬが、鬼の蕨か、捻餅か、鼻抓団子ならば無尽蔵に仕込んであるから腕のつづく迄食つて貰はうと儘で厶いますわ』
ヘール『いや、もう結構です。泊めてさへ頂けばそれで宜しい』
伊太『それならお望みに任せませう。然し宿賃は前金で厶いますから其お積りで願ひます。お茶代は要りませぬがチツと小便臭う厶いますが、大変暖かくつて丁度飲み頃で厶いますよ』
ヘール『折角泊めて頂かうと思ひましたが小便茶を飲まされちや堪りませぬから、此方から小便致します。大きに有難う。又次の宿屋で御厄介になります』
伊太『此岩窟ホテルは何処へおいでになつても皆此伊太屋の屋敷で厶います。伊太屋の主人の承諾なくては、どこの端くれにも置く事は出来ませぬ。千日前の夜店でさへも地代をとられるのですから、そんな事をして居つては商売が立ち行きませぬからな』
ヘール『アツハヽヽヽ、それなら極上等でお願ひ致しませう』
伊太『いや毎度御贔屓に有難う厶います。さア何卒奥へお通り下さいませ。デビス姫と云ふ仲居も居り、三千彦といふ幇間も居りますから、御退屈なれば何なりと仰せつけ下さいませ。それが岩窟ホテルの特色です。ウツフヽヽヽ』
ヘール『それなら御厄介になりませう』
と奥の間に羽ばたきし乍ら進み入る。
伊太『アツハヽヽヽ、宿屋ごつこも面白いものだ。然し乍ら一晩五円では、どうも算盤が合はぬやうだ。朝から晩まで高い炭火を焚いて炬燵も拵へてやらねばならず、一室に一つづつ火鉢には火を絶やさぬやうにせねばならず、不心得のお客になると折角畳替へした畳に煙草の火を落して焦すなり、蒲団が硬いの、軟いの、薄いの、厚いの、重たいの、水に金気があるの、なんのと叱言許り聞かされて……一寸五円と云ふと、高い様だが懐勘定して見ると余り、ぼろいものぢやないわい。アタ邪魔臭い、一里も一里半もある警察に宿帳を持つて行かねばならず、夏の日はまだ宜いが冬の雪が一丈も積つた間は何程貰つてもやりきれないわ。開業匆々一人のお客はあつたが之では如何も詮らない。三人の家内が一人位お客を泊めたつて、そのかすりで如何して世帯が持てるものか。電燈料も払はねばならず、戸数割も相当に課けられるなり、おまけに家賃に地代、町内の交際、よう物入りのする事だ。誰か大金持のお客さまが泊つて金の十千万両も雪隠の中へ落しておいて呉れると宜いけれどな。何程山吹色だと云つても、雪隠に浮いとる奴では糞の役にも立たず、あゝ仕方が無いな、せめて今晩は客の十人位は泊めたいものだな』
 斯く一人興がつてゐる所へ上の方からズルズルズル ドスンとさくなだりに落ち込むで来た一人の大男がある。
伊太『もしもし、貴方はテルモン詣で厶いますか。これから先は一寸宿が厶いませぬから拙者の宅へ泊つて行つて下さいませ。キヨの湖水には海賊船が横行致して居ります。海上で賊に剥ぎとられるよりも弊館でお泊り下さつて剥とられなさつた方が安全で厶いませう』
チルテル『お前はどこの奴だ。ここは俺の屋敷内の岩窟だが、誰に断つて、こんな所に居るのだ』
伊太『借地権は已に登記済となり此家は賃貸借法によつて、一ケ月四十九円(始終食えぬ)の家賃を払つて居ます以上は、矢張り伊太屋の財産も同様で厶います。サア何卒お泊り下さい。千客万来開業匆々目出度い事だ。御姓名は何と申します。一寸宿帳に記して頂きたいものです』
チルテル『エー、お前は人を馬鹿にするのか。但は呆けて居るのか。ここはホテルでも何でもない、キヨの関所の庭前の陥穽だ。つまり俺の領分内だ。グヅグヅ申すと承知せぬぞ』
伊太『成程、貴方が大家様で厶いましたか。これはこれは失礼致しました。然し当家に泊つて貰へば矢張り宿賃を貰はねばなりませぬ。阿呆の国、野留間郡頓馬村大字腰抜小字失恋、第苦百苦集苦番地の始終苦、狐騙されゑ門、雅名は落胆と書いて置きました。マア之で形式さへ通ればいいのですからな』
チルテル『エー、合点のゆかぬ事だわい。初稚姫のナイス、テクの奴と手を曳いて、今頃にや喜んで其処辺をブラついて居やがるだらう。此処へ落ち込んで来ると宜いがな、エー怪体な事だわい』
伊太『何は兎もあれ、奥に賓客室が厶います。そこには下女も下男も居りますから世話をさせませう。初稚姫よりもズツと勝れたナイスが開業と同時に抱へ込むでありますから、まアそんな難い顔せずにお泊り下さいませ』
チルテル『何は兎もあれ、どんな女が居るか、一つ調べてやらう』
と云ひ乍らスタスタと奥の間に進み入る。ヘールは奥の間に進むだ。自分は伊太彦に揶揄はれ、何時の間にかお客さま気取りになり、横柄な面をして奥の間へ通つて見れば、三千彦、デビス姫の二人が一間程距離を隔ててキチンと坐つて居る。
ヘール『おい、お客さまだ お客さまだ。こら、少女、早く茶を出さないか。料理人と昼日中何密談をやつてるのだ。そんな事で商売が繁昌するか。もう、これつきりで泊つてやらぬぞ』
三千彦『お、お前さま赤裸体で何処から来たのですか』
ヘール『何処からも何もあつたものかい。其処から来たのだ。今此処の番頭に掛合つて最上等で泊る事にしたのだ。さア早く茶を汲むだり汲むだり』
三千彦『訝かしや醜の岩窟は忽ちに
  珍のホテルとなりにけらしな』

デビス姫『何国の旅のお方か知らねども
  宿にはあらじ宿の妻ぞや』

ヘール『吾こそはリュウチナントのヘールぞや
  憐れみ玉へ珍のよき人。

 初稚の姫を争ひ角力とり
  負て岩窟に落ち込みし吾』

デビス姫『汝も亦これの岩窟に落ちしかと
  思へばいとど憐れなりけり。

 此上は最早ナイスに憐れとも
  あはれないとも分らざりけり』

 かかる所へ又も真裸体のチルテルが面膨らし乍らノソリノソリとやつて来た。
ヘール『アツハヽヽヽ、おい、チルテルさま、君も矢張り恋の敗者だな。や、賛成々々、之で漸く溜飲が下つた。ウツフヽヽヽ』
(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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