玉国別一行はふたたびアヅモス山に登り、もとの古社の跡に近寄ってみれば、猩々姫の言葉通り五寸ばかり上土をめくると、長方形の石蓋が現れてきた。
玉国別は石蓋を取り除くための祈願を奏上した。大神に無事を祈り終ると、金てこを岩のすき間に押し込んで石蓋を取り除いた。黒煙もうもうと立ち上り、しばし当りがまったく見えない状態となった。黒煙が風に吹き飛ばされると、岩との入り口には階段が見えた。
玉国別は、伊太彦にワックス、エルを共につけて岩窟の探検を命じた。三人は蜘蛛の巣をはらいながら下って行く。不思議にも隧道は燐光が輝いて足元が見えるほど明るかった。
長い隧道を上り下り、右に左に折れながら進んで行くと、にわかに明るいところに出た。そこに三尺ばかりの丸い茶褐色のものが横たわっていた。エルが力ませに杖で打つと、それは数千年を経た穴蜘蛛であった。蜘蛛は逃げて行った。
エルは景気づけに滑稽な歌を歌いながら進んで行った。角を曲がると、デビス姫が立っていた。二人は本物のデビス姫と思い、ワックスは口説き始めた。
伊太彦がこの女に関わってはならないと忠告し、ややワックスは躊躇した。エルはワックスの代理として手を握ろうと手を出した。女がエルの手を唇に当てたとたん、エルは悲鳴を上げて倒れてしまった。
女は大蜘蛛の正体を表し、休んでいたところを殴った敵だ、と言い捨てて這って行ってしまった。
伊太彦はエルの傷に息を吹きかけて天の数歌を歌った。半時ばかりしてようやくエルは正気付いたが、痛さをこらえて意気消沈の態で二人の跡に従って進んで行く。