カークス、ベースの二人は、にわかにあたりの光景が一変した大原野の真ん中を、とぼとぼと何者かに押されるように進んでいく。冬の景色と見えて、松葉は風に揺られ桜の梢は木枯らしにふるえている。
二人は、宣伝使たちと一緒にスーラヤ山の岩窟に入ったはずが、見慣れない原野を歩いていることをいぶかしんだ。二人は述懐を歌いながらともかく先に進んで歩いていく。
二人は濁流みなぎる河辺についた。二人はどうやらここが現界ではないと思い始めた。行く手を阻まれて座り込み、地獄へ暴れこんで王国でも建てようかなどというのんきなほら話に花を咲かせている。
傍らの茅の中に藁小屋があり、黒いやせこけた怪しい婆が現れた。婆は伊太彦宣伝使一行がすでに河を渡って向こう側に行ったという。
遅れてはたいへんと二人は河を渡ろうとした。婆はベースの胸ぐらをつかんで、肝玉を引き抜いて食ってやるとすごんだ。カークスは婆の足をつかんだが、突けども押せどもビクとも動かない。
二人は進退窮まってしまった。するとはるか後ろの方から宣伝歌が聞こえてきた。はっと我に返ると、今まで婆と見えていたのは巨岩であった。河と見えたのは薄原であった。