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文献名1霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻
文献名2第4篇 四鳥の別
文献名3第17章 峠の涙〔1624〕
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年05月29日(旧04月14日) 口述場所天声社 筆録者北村隆光 校正日 校正場所
OBC rm6317
本文の文字数4911
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本文  ハルセイ山の峠の頂上に古き木株に腰打掛け、疲れを休むる一人の男、過ぎ来し方の空を眺めて独語、
男『春過ぎ夏も去り、漸く初秋の風は吹いて来た。名に負ふ夏の印度の国も、此高山の峠に登つて見れば、ヤハリ秋の気分が漂ふて居る。玉国別の師の君に従ひ凩荒ぶ冬の頃、斎苑の館を立出でて難行苦行の結果、漸くここ迄来るは来たものの、吾身に積る罪悪の重荷に苦しみ、もはや一歩も歩けなくなつて来た。あゝ如何にせば吾罪を赦され、神の任さしの使命をば果すことが出来ようか。スダルマ山の山麓にて吾師の君に別れ、スーラヤ山の岩窟にナーガラシャーの宝玉を得むと勃々たる野心に駆られ、カークス、ベースの両人を道案内にして、漸くにしてスダルマの湖水の一角に辿りつき、ルーブヤが家に一夜の雨宿り、ゆくりなくもブラヷーダ姫に見そめられ、ハルナの都に上る途中とは知り乍らも、同僚の三千彦が嬪に做らひ、師の君の許しをも得ずして神勅を楯に自由の結婚談を定め、それより夫婦気取りになつて兄に送られ、スーラヤ山に登り五大力とか何とか称する神に途中に出会し、いろいろの教訓を受け乍ら、妖怪変化とのみ思ひつめ、死線を越へて、岩窟に忍び込み霊界現界の境迄一行五人は進み入り、高姫の精霊の試しに会はされ、神の化身に助けられ、漸く蘇生し、又もや竜王に辱られ、初稚姫様のおとりなしによつて此通り夜光の玉を頂き、一先づエルサレムを指して上る此伊太彦が体の痛み、死線の毒にあてられし其艱苦は今に残れるか、頭は痛み胸は苦しく、足はかくの如く腫れ上り、もはや一足さへ進まれぬ。吾は如何なる因果ぞや。許させ玉へ天津神、国津神、玉国別の吾師の君よ。惟神霊幸倍坐世。それにつけてもブラヷーダ姫は孱弱き女の一人旅、何処の野辺にさまようであらうか。山野河海を跋渉したる此伊太彦の健足でさへ、斯の如く痛むものを、歩みもなれぬ孱弱き女の身の、その苦しみは如何許りぞや。思へば思へば初めて知つた恋のなやみ、皇大神の御言葉と師の言葉には背かれず、さりとて此儘、思ひ切られぬ胸の苦しさ、最早かくなる上は吾はハルセイ山の頂にて朝の露と消ゆるのではあるまいか。仮令仮にもせよ、千代を契つたブラヷーダ姫に夢になりとも一目会ふて、此世の別離が告げ度いものだ。あゝ如何にせむ千秋の怨み、万斛の涙、何れに向つて吐却せむや』
と、胸を躍らせ、息もたえだえに涙は雨と降りしきる。
 かかる処へ二人の杣人に担がれて色青ざめ半死半生の態にて登つて来たのは夢寐にも忘れぬ恋妻のブラヷーダ姫であつた。伊太彦は一目見るより、嬉しさ、悲しさ胸に迫り、涙の声を絞り、僅かに、
『あゝ、其女はブラヷーダ姫であつたか。お前の其様子、嘸苦しいであらう、此伊太彦も死線を越えた時のなやみが、まだ体内に残つて居ると見え、今は九死一生の場合、せめては一目なりと、お前に会うて天国の旅がしたいものだと思つてゐたのだ。あゝ斯様の処で会はうとは夢にも知らなかつた。之も神様の大慈大悲のおとりなし。あゝ有難し有難し、惟神霊幸倍坐世』
と合掌する。ブラヷーダ姫は糸の如き細き声を張り上げて息も苦しげに、
『あゝ嬉しや、貴方は吾背の君伊太彦様で厶いましたか。妾はまだ年端も行かぬ女の身、旅に慣れない孱弱き足許にて貴方に会うた嬉しさ。スーラヤ山の険を越え、生死の境に出入し、神の仰を畏みて、神力高き御一行様に立別れ、踏みも習はぬ山道をトボトボ来る折もあれ、俄に体は疲れ果て、魂は宙に飛び、最早臨終と見えし時、此杣人の情によりて、漸くここに救ひ上げられ参りました。何卒伊太彦様、妾の命は最早断末魔と覚悟を致して居ります。此世の名残に今一度、貴方のお手をお貸し下さいませ。さすれば仮令此儘死するとも少しも此世に残りは厶いませぬ。あゝ生みの父様、母様、兄様が、妾夫婦の事をお聞きなされば如何にお歎き遊ばす事であらう。そればつかりが黄泉路の障り、あゝ如何にせむか』
と伊太彦の側らに身を投げ出して泣き叫ぶ。其痛はしさ。流石豪気の伊太彦も女の情にひかされて恩愛の涙に袖を絞り乍ら、
『あゝ其方の云ふ事も尤もだが、大切なる神の使命を受けて、此夜光の玉をエルサレムの宮に献じ、ハルナの都に進まねばならぬ身の上、仮令肉体は亡ぶとも精霊となつてでも此使命を果さねば、どうして神界に申訳が立たう。初稚姫を通しての大神様のお言葉、吾師の君の御教訓、順序も守らねばならぬ神の使が、如何に恋しき妻の身なればとて、どうして妻の手を握る事が出来よう。もしも此玉の神霊が吾懐より逃ぐる事あれば、それこそ末代の不覚、ここの道理を聞分けて、ブラヷーダ姫、そればつかりは許して呉れ。仮令此世の運命尽きて霊界に至るとも、互に相慕ふ愛善の思ひは弥永久に失するものではあるまい。仮令此世で長命をするとも日数に積れば二三万日の日数、此短き瞬間に恋の魔の手に囚はれて幾億万年の命の障害になるやうな事があつては、吾も汝も、とり返しのならぬ罪悪を重ねねばなるまい。真に、其方を愛する伊太彦は、其女に無限の生命を与へ無窮の歓楽に浴せしめ度いからだ。必ず悪く思ふては呉れなよ』
と息もちぎれちぎれに苦しげに説き諭す。ブラヷーダ姫は首を左右に振り、
『いえいえ、何と仰せられましても臨終の際に只一回の握手位許されない事がありませうか。恋に燃え立つ妾の胸、焦熱地獄の苦しみを救はせ給ふは吾背の君の御手にあり、仮令未来に於て如何なる責苦に会ふとても夫婦が臨終の際に互に介抱をし相助け相救ふ事の出来ない道理がありませうか。物固いにも程が厶います。妾の心も少しは推量して下さいませ』
と云ひつつ伊太彦に縋り付かむとする。伊太彦は儼然として、たかつた蜂を払うやうな態度にて金剛杖の先にてブラヷーダ姫を突き除け、刎ね除け、
『これブラヷーダ姫、慮外な事をなさるな。大神様のお言葉、吾師の君の御教訓を何とする考へであるか。今の苦みは未来の楽み、左様の事に弁別のない其方とは思はなかつた。とは云ふものの、同じ思ひの恋しい夫婦、あゝ如何にせば煩悶苦悩を慰する事が出来ようか』
と胸に焼鉄あてし心地、差俯向いて涙に暮れて居る。二人の杣人は声高らかに打笑ひ、
杣人の一『アハヽヽヽヽ、扨ても扨ても固苦しい旧弊な男だな。最前からの二人の話を聞いて居れば随分お目出度い恋仲と見えるが、永い月日に短い命だ。未来がどうの、こうのと云つても、一旦死んだものが又生きる道理もなし、人間の命は水の泡と消えて行くのだ。長い浮世に短い命を持ち乍ら、何開けぬ事を云ふのだ。これこれ夫婦の方、未来があるの、神様が恐ろしいのと、そんな馬鹿な事云ふものではない。況して、二人の此断末魔の様子、死際になつて思ひ合つた夫婦が手を握つてはならぬ事があるものか。それだから宣伝使と云ふものは時代遅れと云ふのだ。誰に憚つてそんな遠慮するのだ。これ伊太彦さまとやら、こんなナイスに思はれて据膳喰はぬ男があるものか。可愛がつてやらつせい』
伊太『あなたは此辺りの杣人、よくまア、ブラヷーダを御親切に助けて下さつた。又只今のお言葉、実に御親切は有難う厶いますが、未来を信ずる吾々には、どうして、左様な天則違反が出来ませうか』
杣の一『山の奥まで自由恋愛だとか、ラブ・イズ・ベストだとか、言ふ新しい空気が吹いて居るのに、之は又古い事を仰有る。三五教と云ふ宗教は実に古臭いものだな。此広い天地に自在に横行濶歩し、天地経綸の司宰をする人間が些々たる女一人に愛を注いだと云つて、それを罰すると云ふやうな開けぬ神があらうか。もし神ありとせば、そんな事云ふ神は野蛮神の、盲神だよ。いや宣伝使様、悪い事は申しませぬ。この可愛らしい、まだ年の行かぬナイスが之丈け、命の瀬戸際になつて、云ふ事を聞かぬとは無情にも程がある。お前さまも、よもや木石でもあるまい。暖かい血も通つてゐるだらう。人情も悟つて居るだらう。吾々両人がここに居つては、恰好が悪いと思ひ、躊躇してるのではあるまいか。さうすれば吾々両人はここを立退くから、泣くなり、笑ふなり、意茶つくなり、好きの通りにしなさい。おい兄弟、行かう。斯うして夫に渡して置けば、俺等も安心と云ふものだ』
杣の二『さうだな 兄貴の云ふ通り両人が居つては恰好が悪くて意茶つく事も出来まい。此世の中は偽りの世の中だから、人の前では思ふ所を言葉に出し、赤裸々に自分の信念を吐く事は誰だつて出来まい。さうだ俺等が此処に居るので断末魔の夫婦の別れを惜む事も出来ぬのだらう。そんなら兄貴、行かうぢやないか』
伊太『もしもし杣人様、決して御心配下さいますな。世間の人間のやうに吾々は決して裏表はありませぬ。思ふ処を云ひ、思ふ所を行ふのみです。吾々は痩ても倒けても三五教の宣伝使、決して外面的の辞令は用ひませぬ。それ故に天地の神に恥づる事なき二人の行動、貴方がお聞き下さらうが、少しも差支は厶いませぬ。何卒誠に済みませぬが、左様な事を仰有らずに、もう暫らく私の最後を見届けて下さい。おひおひ体は重くなり、足は一歩も歩けませぬ。もし吾々夫婦が此儘死んだならばウバナンダ竜王が持つて居た此夜光の玉をエルサレムへ持つて行く事が出来ませぬ。何卒御面倒でせうが乗掛けた舟だと思つて息のある中に此玉を貴方に渡して置きますから、貴方代つて何卒これをエルサレム迄行つて大神様へ奉つて下さいませぬか。沢山はなけれども此懐の金を旅費として、神様の為めと思つて行つて下さいませぬか』
杣の一『ハヽヽヽ気の弱い男だな。お前も神の道の宣伝使ならば、何故も少し男らしくならないのか。醜い弱音を吹いて人に泣顔を見せると云ふのは不心得では厶らぬか、喜怒哀楽を色に現はさずと云ふのが男の中の男で厶らうぞ』
伊太『成程、貴方のお説も尤もだが、人間は悲しい時に泣き、腹の立つた時に怒り、嬉しい時に笑ふのが本当の神心、喜怒哀楽を色に現はさぬ人間は偽り者か化物ですよ。今日の世の中は、それだから虚偽虚飾、世の中が真暗になるのです。吾々宣伝使は之を匡正する為、道々宣伝し乍らハルナの都に進むのです』
杣の二『成程一応御尤もだ。然し乍ら一枚の紙にも裏表がある。最愛の妻が臨終の願ひ、それを聞かない道理が厶いませうか。貴方は余り理智に走り過ぎる、情がなければ人間ではありませぬよ。広い心に考へて世の中は、さう狭く考へるものではありませぬ。変幻出没窮まりなく、時に臨み変に応じ、うまく此世を渡つて行くのが、神の御子たる人間ではありますまいか。ナアお姫さま、さうで厶いませう』
ブラヷ『はい、伊太彦さまのお言葉も御尤もなり、貴方のお言葉も御尤もで厶います』
杣の二『伊太彦さまのお言葉も御尤も、俺の言葉も御尤も、とはチツト可怪しいぢやありませぬか。どちらか、尤もと不尤もの区別がありさうなものだ。さアお姫様、貴女の思惑通りなされませ。斯うして様子を考へて見れば、最早此世の別れと見える。伊太彦さまも体に毒が廻り何れは死なねばならぬ命、生命のある間に互に手を握つて天国とかへ行く準備をなさいませ。決して悪い事は申しませぬ』
伊太『ブラヷーダ姫初めお二人のお言葉、その御親切は骨身に浸み渡つて、何とも云へぬ有難さを感じますが、どうあつても私は神様が恐ろしう厶います。神様の教の為には如何なる愛も、如何なる宝も総てを犠牲にする考へですから、もう之きり何とも仰有らずに下さいませ。あゝ惟神霊幸倍坐世』
杣の一『扨ても扨ても固苦しい男だな。成程之では世に容れられないのも尤もだ。矢張バラモン教が時勢に適当してるわい。俺も実はバラモン教の信者だが、まだ一度も斯んな固苦しい宣伝使に会ふた事はない。押せども引けども少しも動かぬ千引岩のやうな宣伝使だな。斯様な無情な男に恋をなさる姫様こそ実に不幸なお方だな。あゝどうしたら宜からうかな』
(大正一二・五・二九 旧四・一四 於天声社 北村隆光録)
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