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文献名1霊界物語 第63巻 山河草木 寅の巻
文献名2第5篇 神検霊査よみ(新仮名遣い)しんけんれいさ
文献名3第20章 道の苦〔1627〕よみ(新仮名遣い)みちのく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台ハルセイ山 口述日1923(大正12)年05月29日(旧04月14日) 口述場所天声社 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年2月3日 愛善世界社版271頁 八幡書店版第11輯 360頁 修補版 校定版282頁 普及版64頁 初版 ページ備考
OBC rm6320
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本文の文字数3766
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本文 ブラヷーダ『月照彦の昔より  遠津御祖の仕へてし
 三五教の信徒と  テルの里庄のルーブヤが
 家に生れしブラヷーダ  バラモン教の醜神の
 教のために朝夕に  虐げられて表面
 三五教を打ち捨て  バラモン教を奉じつつ
 家の柱に穴うがち  神の御名をば刻みこみ
 密かに拝みまつりつつ  時まつ程に三五の
 神の司の伊太彦が  鳩の如くに下りまし
 父と母との許し得て  妹背の縁を結ばせつ
 兄の命も嬉しみて  伊太彦司の神業を
 助けむためとてスーラヤの  湖水の波を打ち越えて
 海抜三千有余尺  竜王の潜む岩窟に
 進みて諸の苦しみを  味はひ遂に根の国の
 入口迄も進み往き  神の恵の御教を
 いと懇にさとされつ  初稚姫に救はれて
 岩窟の隙よりぬけ出し  姫の御船に助けられ
 漸くエルの港まで  安着したる折もあれ
 神の教に従ひて  いとしき夫に生別れ
 踏みも習はぬ一人旅  草鞋に足を食はれつつ
 道の小草をあけに染め  杖を力にハルセイ山の
 今や麓につきにけり  音に名高き月の国
 大高山と聞えたる  此山越えてエルサレム
 聖地に渡る吾なれど  如何はしけむ身は疲れ
 息も苦しくなりにけり  死線を越えし其時の
 妖邪の空気の体に  未だ潜むと覚えたり
 玉国別の師の君や  伊太彦司は今何処
 様子聞かまく思へども  神の戒め強くして
 遇はむよしなき旅の空  国に残せし父母や
 兄の命は嘸やさぞ  昼はひねもす終夜
 二人の身をば案じつつ  神に願ひをかけまくも
 畏き厳の御恵を  二人の上に与へよと
 祈らせ給ふ事ならむ  雲路遥に進み来る
 吾は孱弱き女の身  後ふり返り眺むれば
 限りも知らぬ大野原  蓮華の花は遠近に
 咲き匂へども百鳥は  声も涼しく謡へども
 言問ふよしも泣き逆吃  此山口にたち並ぶ
 沙羅の古木に霊あらば  吾が垂乳根や兄君や
 伊太彦司の消息を  完全に知らして呉れるだらう
 あゝ惟神々々  神に任せし此身体
 取り越し苦労は禁物と  教の言葉を身に刻み
 心に銘して忘れねど  又もや起る慕郷心
 拭はせたまへ惟神  御前に願ひ奉る
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  三五教の御教は
 此現世は云ふも更  吾魂の何処迄も
 つづく限りは捨てはせぬ  誠一つの大道を
 進む吾身は曲神の  さやらむ恐れはなけれども
 心にひそむ曲者が  又もや頭擡げつつ
 清き乙女の魂を  恋の暗路にさそひ往く
 晴れぬ思ひの吾体  救はせたまへ惟神
 御前に祈り奉る』
 斯く謡ひながら、漸くにしてハルセイ山の峠を中程迄登りつき、茲に息を休めて来方行末の事を思ひ案じ、一人旅の淋しさに袖を霑して居る。日は漸く西山に没し、四辺は薄墨の幕を卸したやうになつて来た。花は扉をとぢて眠りにつき鳥は塒をもとめて彼方此方の森林目蒐けて忙しげに翅を早めて居る。ブラヷーダ姫は独言、
『あゝ味気なき浮世ぢやなア、テルの里の酋長の娘と生れ、朝な夕なに三五の神様を心私かに念じつつ、幾度となくバラモンの司に虐げられ、心にもなきバラモンの信者となり済まし、吾一家は云ふも更、村人迄が心にも無き信仰を強られ、月に三度の火渡り水底潜り、裸体の修業、荊蕀の室にと投ぜられ、是が神様の御心を安める第一の勤めと、阿鼻叫喚の苦みを忍びて漸く孱弱き此身も十六の春を迎へ、天運茲に循環して、尊き三五教の神司と廻り会ひ、親子兄弟納得の上、夫婦の契を結び如何なる艱難辛苦も吾背の君と一つにせばやと父母や兄に別れ、此処迄ぼつぼつ後を慕ふて来たものの、もはや一歩も進めなくなつて来た。あゝ如何にせば、此苦しみが免れるだらう。是も矢張表面を偽り、バラモンの神を祭り勿体なや大慈大悲の三五教の神様をせま苦しい柱の穴を穿つて祭り込んだ其天罰が報ひ来たのであらうか。「燈火をともして床の下に置くものはない」とは聖者のお言葉、其お言葉に背き、バラモンの悪神を尊敬して来た重々の罪業廻り来て、吾身は如何なる苦しみを受けやうとも、最早因縁づくと諦めて決して恨みは致しませぬ。神様何卒、垂乳根の父母や兄や、吾背の君や村人の罪をお許し下さいまして、天晴御神業にお使ひ下さるやう、偏に願ひ奉ります。あゝ斯うなつては最はや諦めねばなるまい。あゝ俄に胸が痛くなつて来た。薬の持ち合せもない。もはや吾身の罪を神様にお許し願ふ訳にもゆくまい。吾罪が許されて、父母や吾背の君に戒めが往くやうであつてはならない。どうぞ神様、妾の身をお召し下さつて、一同の罪を許して下さいませ。それに付いても、恋しい伊太彦様に臨終の際に一目お目にかかりたいものだ。あゝどうしたらこの煩悶を消す事が出来やうぞ』
と一人道傍の草の上に腰を卸し、悲歎の涙に暮れて居る。猛獣の声は四方八方より山岳も揺るぐ許り聞えて来た。遉気丈のブラヷーダも此恐ろしき唸り声には身の毛も弥立ち、死を決した身にも恐怖の波の打ち寄する憐れさ。ブラヷーダは絶え入る許り泣き叫びながら、路傍の草の上に身をなげ伏せてひしひしと泣き叫んで居る。
三千彦『三五教の宣伝使  玉国別に従ひて
 山野を渡り河を越へ  テルモン館に立ちよりて
 種々雑多と村肝の  心を砕き身を砕き
 館の難儀を救ひつつ  風塵茲におさまりて
 デビスの姫を妻となし  吾師の君と諸共に
 キヨメの湖水を横断し  アヅモス山の山麓に
 広き館を構へたる  バーチル主従の命をば
 神の恵に救ひ上げ  タクシャカ竜王を言向けて
 夜光の玉や如意宝珠  授かりながら師の君と
 珍の都へ進み往く  スーラヤ湖水を乗越えて
 エルの港につきし折  三五教の神柱
 御稜威輝く初稚姫に  迷ひの雲を晴らされて
 吾師の君と袂をば  いよいよ別ちデビス姫と
 恋しき袂を別ちつつ  踏みもならはぬ山野をば
 いと雄々しくも進み往く  此処は名に負うハルセイ山の
 嶮しき峠の登り口  俄に聞ゆる猛獣の
 声は地震か雷か  身も毛も弥立つ許りなり
 神の教を世に伝ふ  吾は男子の身なれども
 かく怖ろしき心地する  此山路を何として
 デビスの姫やブラヷーダ  進まむよしもなかるべし
 思へば思へば可憐しや  神の御為道のため
 世人の為めとは云ひながら  かくも苦しき草枕
 旅に出で立つ女子の  行末思ひ廻らせば
 いとど憐れを催して  涙の袖はひたされぬ
 あゝ惟神々々  御霊幸倍ましまして
 吾師の君は云ふも更  デビスの姫やブラヷーダ
 二人の繊弱き女子をば  神の御稜威に守らせて
 いと易々と神業を  果たさせたまへ惟神
 御前に謹み願ぎまつる  旭は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 誠一つの三五の  教を進む吾なれば
 怖るる事はなけれども  神の教も悟り得ぬ
 弱き女の如何にして  此難関を越ゆるべき
 守らせたまへ天地の  皇大神の御前に
 謹み願ひ奉る』
 三千彦はかく謡ひ乍ら、厭らしい唸り声のする山路をとぼとぼと登つて行く。幽かに聞ゆる悲しげなる女の泣き声、耳に入るより三千彦は気を取り直し、
三千『さてあの泣声は正しく女と見える。此夜の山を通ふ女はよもや他にはあるまい。正しく、デビス姫かブラヷーダ姫に間違ひなからむ。いで一走り実否を探り見む』
と俄に足を早め、爪先上りの山路を勢込んで上り行く。見れば道の傍の草の上に悲しげな女の姿が横たはつて居る。三千彦は驚き乍らツト傍により、
三千『もしもしお女中様、此山路に唯お一人倒れて厶るのは何処の人か、折悪く月は黒雲に包まれて、お姿はハツキリ分らねど、どうやらブラヷーダ姫様の様に思ひますが、もし間違つたらお許しを願ひます。私は決して怪しい者ではありませぬ。三五教の宣伝使三千彦と申す者、サア早く起き上つて有し次第をお話し下さいませ』
 ブラヷーダ姫は三千彦の情の籠もつた言葉にノアの方舟に出遇つたが如く喜び、重き身をやうやうに起き上り、
ブラヷーダ『ハイ妾は伊太彦の妻で厶います。貴方は神徳高き三千彦様、ようまア尋ねて下さいました。何を云つても罪の多い此体、神様の戒めに遇ひましたか、モウ一足も歩けなくなつて、この草路に断末魔の声を絞つて恥しながら泣いて居りました』
 三千彦は此体を見るより涙をハラハラと流し声迄曇らせ乍ら、
三千『御安心なさいませ。神様は屹度貴女の御身をお守り下さるでせう。否魂迄も永久に御守護下さいます。私が貴女をお連れ申してエルサレムまでお送り致し度いは山々ですが、神様の仰せは、貴女もお聞き及びの通り大層厳しくなりまして、御同行は叶ひませぬ。併し乍ら人は心が肝腎で厶います。心さへ生々して居れば、肉体位は何の雑作も厶いませぬ。何程疲れたと云ふても休めば直に回復するもので厶います。気を確にお持ちなさいませ。あゝ惟神霊幸倍坐世。……あゝ三五教の神様、繊弱き女のブラヷーダをお救ひ下さるやう一重にお願ひ申ます。夫れについては、デビス姫も繊弱い女の一人旅、何卒貴神の御恩寵をもつて無事に聖地に御参詣の叶ふやう、お取り計らひを偏に願ひ奉ります。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と合掌しながら二人の間には暫し無言の幕が卸された。猛獣の声は一層激しく彼方此方の谷々より百雷の一時に落つるが如く響き来る。
(大正一二・五・二九 旧四・一四 於天声社 加藤明子録)
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