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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
文献名2第4篇 遠近不二よみ(新仮名遣い)えんきんふじ
文献名3第21章 遍路〔1650〕よみ(新仮名遣い)へんろ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-12-06 16:43:15
あらすじ
主な人物虎嶋寅子、菖蒲のお花、竹彦、守宮別 舞台小北山のユラリ教 口述日1923(大正12)年07月13日(旧05月30日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版234頁 八幡書店版第11輯 464頁 修補版 校定版235頁 普及版62頁 初版 ページ備考
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本文  お寅、お花の両人は溝傍に立つた長屋の窓をあけて額を集め、六ケしい顔をして何かブツブツ囁き居たる処へ、編笠を目深に被つた一人の男が訪ひ来たり、涼しい声で宣伝歌を歌ひ初めける。
『いまも昔も変りなく  ろんより実は責がたし
 ははと妻とを兼ぬる身の  によ子の教の第一は
 ほかには非ず淑徳ぞ  へい常父母を天として
 とつがば夫を天とせよ  ちちと母とに引かへて
 りよう人舅姑に尽すべし  ぬい針洗濯怠らず
 る守は一層つつしみて  をんなの務めを全うし
 わが儘気儘のことをせず  かよわき女の腕ながら
 よの為め人のためとのみ  ただ一筋に尽すべし
 れいを見倣ふ幼子の  その行末の善悪は
 つひに育ての母になる  ねんには念を加へつつ
 なににつけても物事を  らうを厭はず努むべし
 む益の驕を誡しめて  うちの小者に目をかけよ
 ゐなか者とて侮るな  のうある高ひめ爪かくす
 おもひの儘に言ふなかれ  くちは禍の門ぞかし
 やさしく素直に慎みて  まげの操ぞいや高き
 けがれぬ身こそ尊けれ  ふ徳の名をば世にたてず
 ここを吾縁とせし上は  えんを二度とは求むなよ
 てい操かはらぬ姫小松  あらしに雪に逢ふとても
 さかゆる色こそ目出たけれ  きん銀瑪瑙瑠璃しやこも
 ゆめと見るまの不義の富  めをばかくまじ望むまじ
 みなその為に昔より  しにし貞女も数多し
 ゑ得せよかし女達  ひとの鑑と仰がれて
 もも年千年の後迄も  せ間に名をば知られよと
 すゑの末迄祈るべし』
 此歌を聞いて、お寅は大変に御機嫌な顔をしながら、
『これ、遍路さま、お前さまは乞食にも似ずホントに身魂の研けた人と見えますわい、ちやつと上つて一服して下さい。コレコレお花さま、今の歌を聞きましたか、「能ある高姫爪かくす」といつたでせう。私の守護神は高姫と云つて昔の神政成就には随分尽したものですからなア。今私がかう爪を隠して柔和しくして居るのは曰く因縁があることですよ。見違ひをしては困りますよ。今もお遍路さまの云ふやうに百年千年の後迄も世間に名をば知られると云つたでせう。お前はこの高姫の生れ変りの日の出の神の生宮お寅にむかつて、爪揚子の先で重箱の隅をほじくるやうに詰問をしなさるが、ちと了見が違ひはしませぬかい。お前さまも前世には、黒姫さまと云つて随分妾の為に活動した因縁によつて、又一緒に集つてかうして神政成就の活動をして居るのぢやありませぬか』
お花『ソンナ事は今更改めて聞かずとも耳が蛸になる程聞かして貰つて居ますワ。能ある高姫と云ふたのではなく能ある鷹は爪かくすと云つたのですよ。ねえ、遍路さま高姫ぢやありますまい』
『ちつと位違つたつて構はぬぢやありませぬか。的きり妾の身魂の性来を歌つて下さつたのだから、高姫だと思つて居ればよいのですよ』
『今のお歌に嫁がば夫を天とせよと仰有いましたが、貴女は、夫に対してテンと貞操を尽して居ないぢやありませぬか。久之助さまがあれ丈矢釜しくお止めなさるのも聞かず、守宮別さまと年が年中そこら中を飛び廻つて居られたではありませぬか。貴女は自分に都合のよい所ばかりとつてゐらつしやるのですなア』
『ヘン神界の御用と人間界と一所にして貰ふてたまりますかい。一家の婦人としてなれば兎に角、このお寅は三千世界の立替立直しの日の出神様の御用をする生宮ですよ。神の柱と人間と一所にしてたまりますか。お前さまも永らく日の出さまの教を聞きながら、何と云ふ分らぬ事を仰有るのです』
『ハイハイ、とても貴女のお口にはお花も叶ひませぬから、沈黙致しませう』
『もう此後はお寅の事に就ては何も云つて下さるな。何程竜宮の乙姫様の生宮だと云つても、日の出神の生宮に比ぶれば主人と奴程違ふのですからなア。モシモシ遍路さま、這入つて一服して下さいませ』
 門に立つた男は『ハイ有難う』と深編笠をぬぎ捨て、つかつかと入り来たり、よくよく見れば、どこともなしに見覚えのある顔なり。
『ご免なさいませ、暫くお目にかかりませぬが、私は竹彦で御座いますよ』
『成程竹さまかいな。それならそれで何故名乗つて這入らぬのだい。一年ばかりも顔を見せなさらぬと思へば、一体どこへ行つて居ましたか』
『ハイ、別に何処へも行つて居りませぬ。余り貴女方等の仰有る事がクレクレ変るので信仰を破り今は浪華の土地で大道会と云ふものを開き、パンフレツトを発行し、ルートバハーの別働隊として活動して居るのですよ。此頃守宮さまが外国から帰られたと云ふ事を一寸新聞で見ましたから、お出でになつて居りはすまいかと思つて一寸偵察に来たのです。まだ見えて居りませぬかな』
『竹さま、随分久し振ぢやありませぬか。お前もちつと日の出神の教を聞いたらどうです。守宮別さまも来て居られますよ』
 お寅は慌てお花の口に手をあて、
『これお花さま、何呆けた事を云ふのだい。守宮別さまはまだお出にならぬぢやないか。大方夢でも見たのでせう。夢の守宮別と云ふからなア』
『ソンナラ矢張夢にして置きませうかいなあ』
『ハヽヽヽヽ、さうすると矢張り御大は帰つて来てゐるのだな。そいつは面白い、一つ大道会の会員となつて、パンフレツトも書いて貰はうかなあ』
『これこれ竹さま、それはなりませぬぞや。水晶身魂の守宮別さまにその様な物質的のパンフレツトの話しをして貰つて堪りますか。守宮別さまはパンよりもお酒が好きなのですよ。お前は日の出神の教を捨てお蔭をおとしたパンフレツトだよ。ちつと改心なされ』
『お寅さま、お前さまの云ふ事は何が何やらちつとも分らないぢやないか。パンフレツトと云ふ事は小冊子と云ふ事だよ。薄い雑誌を発行して変性女子の教を世界に拡めるのですよ』
『エヽざつしもない何と云ふ馬鹿な真似をするのだい。お前さまはこれだけ曇つた三千世界をまだ此上に曇らさうとするのかい。ちと改心して貰はぬと世界の人民の苦しみが長くなるぢやありませぬか。これだから変性女子の教を聞くと碌な事が出けぬと云ふのだ。あゝどいつもこいつも誠の人は一人も無いわい。日の出さまも嘸骨の折れる事だらう。底津岩根の大ミロク様のお心がおいとしい哩のう』
と、豆絞の手拭で涙をふく。
 かかる所へ守宮別は酔ひがさめ「アヽヽヽヽ」と大きな欠伸をしながらノコノコと出で来たる。竹彦は飛びつくやうな声で、
『よう、守宮別さまか、ヤア都合のよい所でお目にかかつた。これお寅さま、嘘は云へますまい。直この通り後から化が現はれますからなあ』
 お花は小気味良ささうに、
『フヽヽヽヽ』
 お寅はツンとし、
『エヽさうかいなア、アタ矢釜しい』
と頤をしやくり居たりけり。
(大正一二・七・一三 旧五・三〇 加藤明子録)
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