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文献名1霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下
文献名2第3篇 開花落花よみ(新仮名遣い)かいからっか
文献名3第12章 開狂式〔1818〕よみ(新仮名遣い)かいきょうしき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-11-26 19:02:12
あらすじ
主な人物守宮別、お花、ヤク 舞台僧院ホテルの座敷 口述日1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年11月7日 愛善世界社版162頁 八幡書店版第11輯 556頁 修補版 校定版165頁 普及版63頁 初版 ページ備考
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本文  守宮別、お花、ヤクの三人は、僧院ホテルの立派なる座敷を、三間ぶつ通しに借り切り、奥の間には、新ウラナイ教の御本尊、シオンの娘、木花咲耶姫を奉斎し、その生宮として、アヤメのお花は天晴教主となり済ますこととした。発起者は夫婦主従〆て三人、先づ祭典も無事に済み、直会の酒宴に移つた。守宮別は新宗教創立を祝する為め、酒に酔つ払つた怪しい口元から、祝歌を歌ふ。
『天も清浄地も清浄  清浄無垢の御霊体
 アヤメの君は今此処に  三千世界の救世主
 世界に名高き神の山  シオンの娘木の花の
 咲耶の姫と現れまして  浮瀬に沈む民草を
 愛と善との神徳に  御霊を包み信真の
 光を世界に輝かし  天の岩戸を開かむと
 現はれ玉ひし尊さよ  扨ても世界の初まりは
 神伊邪那岐の大御神  神伊邪那美の大御神
 夫婦の神が現れまして  天の御柱国柱
 見立て玉ひて汝は右へ  廻らせ給へ吾は左
 廻り合はむと宣り給ひ  婚の業を初めまし
 諸多の御子を生み生みて  生みの果てには山川や
 草木の神迄造りまし  遂には光明赫々と
 輝き渡る大日婁女  天照る神を生み給ひ
 広き世界に神国を  立てさせ給ひし古事に
 習ひまつりて吾々は  那岐那美二尊にかたどつて
 アヤメの君と盃を  いとり交しつ神の為め
 世人の為めに聖場を  これの聖地につき堅め
 百の人草草木迄  救はむ為めのこの祭
 あゝ惟神々々  アヤメの君があればこそ
 ヤクの奴が居ればこそ  守宮別の太柱
 添ふて居りやこそ今日のよな  誠に誠に結構な
 新宗教の創立が  完全無欠に出来たのだ
 もしもお寅が居つたなら  一から百迄蕪から
 菜種の屑に至るまで  ごてごてごてとさし出口
 日の出の神の生宮を  振り廻されて吾々は
 一生頭が上らない  これを思へば此間の
 喧嘩は却て吾々の  大幸福となつたやうだ
 昔の古い諺に  人間万事塞翁の
 馬の糞とはよく云つた  わいがの烈しい女神さま
 何程御神業と云つたとて  鼻持ならず好物の
 酒さへ味が悪くなる  シオンの娘と現れませる
 アヤメのお花の教主さま  わいがもとべらも有りはせぬ
 頭に霜は見ゆれども  却て雅趣を添へるよだ
 これも全く神さまの  水も漏さぬ御仕組
 守宮別も二三十年  若返りたる心地する
 あゝ有難い有難い  何より彼より第一に
 命の水の酒呑みて  昔の綺麗なナイスをば
 座右に侍らし優姿  梅花のやうな唇の
 間からチヨイチヨイ現はれる  象牙のやうな歯の光
 瑪瑙のやうな爪の色  梅花のやうな頬の艶
 天地の幸福一身に  独占したやうな気がしよる
 エヘヽヽヽヽエヘヽヽヽ  コンナ所をお寅奴が
 一寸覗いた事ならば  嘸や泣くだろ怒るだろ
 二人の髻をひつ掴み  金切声を張り上げて
 近所合壁大騒動  燗徳利は宙に舞ひ
 お膳や茶碗はがちやがちやと  木端微塵に潰滅し
 嵐の跡の花の山  見る影も無き惨状を
 現出するに違ひない  あゝ惟神々々
 御霊の恩頼を願ぎまつる』
『オホヽヽヽ、遉はこちの人、何とまア当意即妙の結構なお歌だ事。傍に聞いて居ても胸がすき、頭がせいせいとして来ますわ。なぜ又旦那さまはコンナ知恵を持つて居ながら、今迄隠して居たのですか。鼠とる猫は爪隠すとは能く云つたものだなア。アヤメのお花の一身に対しては、本当に旦那さまは好い掘り出しものだよ』
『これこれ肉宮さま、縁起の悪い、放出し者だなどと云つて貰ひますまいぞや。二つ目には気に入らぬと云ふて放り出されては耐らないからな』
『ホヽヽヽヽ。妾は決して放り出しませぬよ。旦那さまの方から放り出ないやうに頼みますわ』
『よし、そのだんは安心して呉れ。棚池の生洲の鼬がついたやうなものだ。命のない所迄離れつこは無いからな』
『あれ程大切にして居られたお寅さまでさへも、弊履を捨つるが如くに思ひ切つて素知らぬ顔をして厶るのだもの。第二のお寅さまにしられちや耐りませぬからね』
『そこ迄心配しては際限がない。俺がお前を愛する程度といふものは、丸切り砂糖の固りに蟻がついたやうなものだよ。も一つ違つたら、蛙を狙ふ蛇のやうなものだ、どこ迄も徹底的にくつついて行くのだからなア』
『ホヽヽヽ、砂糖に蟻がついたなぞと、余り有難くもありませぬわ』
『それでもお花、いや女房、生宮さま、有難いよ。甘いものはありがたがる、えぐいものや苦いものはありがたがらぬ、と云ふ事があらうがな』
『旦那さまは、妾を余程甘いと見縊びつて厶るのですな。砂糖に譬るとは余りですわ』
『それやお花は甘いよ、花と云ふ奴みな甘い蜜を持つて居るので、蜜蜂やドカ蜂がブンブンと喰ひつくぢやないか。俺だつてお花の蜜を吸ひたくなるのは当然だよ。お花は砂糖でもあり、砂糖よりまだ甘い佐渡の土を持つて居るから、尚ほ俺が好きなのだよ。エヘヽヽヽ』
『又しても又しても佐渡の土だナンテ、旧めかしい文句を云ふて下さいますな。ホヽヽヽヽ』
『これ肉宮さま。今日は創立の祝ひだから、肝腎の生宮さまから宣言歌を歌つて貰ひ度いものですな』
『なんだか衒れくさくて歌へませぬわ』
『ヘン、何を云ふのだい。矢張り結婚すると、娘のやうに恥かしさが分るのかいな。非が蛇でも、蟻が鯛でも、芋虫が鯨でも、山の芋が鰻になつても、笹の葉が鰌になつても、今日許りは宣言歌をお謡ひなさらにや駄目ですよ。その歌をつけとめて置いて印刷屋へ廻し、ビラを作つて自動車に乗り、市中へバラ撒かねばならぬからな』
『ナントまア。救世主にならうと思へば気の張る事だわい。ソンナラ シオンの娘、木の花姫の生宮が宣言歌を謡ひませう。一言も漏れなくつけとめて下されや』
『エ、宜しい。承はりました。分つて居る。併し乍ら、ヤクさまの方が余程筆が達者だからなア。ヤク、お前が一つ筆記役になつて呉れないか』
『ハイ謹みて御用承はりませう』
『ウンよしよし、アこれで謡ひ役に、聞き役、書き役と、三拍子揃ふた。目出度い目出度い、サア生宮様、
歌ひなされやお歌ひなされ
  歌ふて御器量は下りやせぬ
あーコリヤコリヤ』
と謡ふて立ち上り踊り始める。アヤメのお花は日の丸の扇を両手に持ち、長い裾を引きずつて、すらすらとお手のものの踊を始め出したり。
『此処は世界の中心地点  暗の世界もパレスチナの
 珍の都のエルサレム  三千世界の梅の花
 一度に開く時は来て  前代未聞の救世主
 シオンの娘木花の  咲耶の姫が再臨し
 アヤメのお花の肉体を  自由自在に使用して
 お寅婆さまやブラバーサ  訳の分らぬ宣伝使
 瞬く間に打きつけ  至粋至純の聖道を
 開くも尊き今日の宵  花も匂へよ蝶も舞へ
 千歳の鶴も舞ひ込めよ  亀も這ひ込んで万歳を
 祝ぎまつれ神の家  やがて独立宗教の
 大看板を掲げつつ  三千世界の民衆に
 歓喜の雨を濺ぎかけ  正真正銘の救世主
 生神さまと謡はるる  其暁も近づいた
 竜宮海の乙姫も  今日限り暇呉れて
 三十二相又三相  具備し給へる木の花の
 姫の尊の肉の宮  アヤメのお花が今茲に
 シオンの娘と現はれて  三千世界の隅々も
 漏さず落さず救ひ行く  実にも目出度き今日の日は
 天澄み渡り地の上は  春の青草萠え出でて
 開闢以来の救ひ主  大降臨を待つ如し
 思へば思へば有難や  喜び祝へ百の人
 慕ひまつれよ救世主  アヤメのお花の肉宮を。
ホヽヽヽヽ、どうかこれ位で耐らへて頂戴な。何だか恥かしくて後が続きませぬもの』
『妙々。天晴々々。天下の救世主だなア。ヤク、お前も感心しただらう。お寅さまに比べて、どちらが立派だと思ふか』
『それやさうですな、本当にさうですよ』
『そりやさうですな、では分らぬぢやないか、どちらが優れて居るかと問ふて居るのだ』
『ヘエヘエ、それやもう、テンで段が違ひますわい、比べものになりませぬがな』
『これこれヤクさま、どちらが優れて居ると云ふのだい』
『ハイ、何と云つても、かんと云つても何ですな。それや矢張り、優れて居る方が優れて居ますなア』
『怪体な事云ふ男だな。ハツキリ云ひなさらぬかいな』
『御本人の前ですもの、大抵にして御推量下さいな』
 お花は自分が褒められて居るのだと思ひ、満面に笑を湛へ、目を細め、横目でヤクの顔を一寸見ながら、
『ホヽヽヽ、遉はヤクさまは目が高いわい。それでこそ守宮別さまの添へ柱、確り頼みますぞや』
 直会の式も漸く終了し、お花が郵便局から出して来た三千円の現金を懐中しながら、新宗教独立の運動をして来ると云ひ残し、守宮別は漂然としてホテルを立ち出で、タゴールの館へは行かず、駅前の青楼さして登り行く。
(大正一四・八・二〇 旧七・一 於由良秋田別荘 加藤明子録)
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