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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第2篇 地異転変よみ(新仮名遣い)ちいてんぺん
文献名3第12章 天恵〔1668〕よみ(新仮名遣い)てんけい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-04-03 12:54:12
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月16日(旧06月3日) 口述場所祥雲閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版137頁 八幡書店版第11輯 659頁 修補版 校定版142頁 普及版65頁 初版 ページ備考
OBC rm6512
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本文  治道居士は、バット、カークス、ベース、ヤク、エールの五人を従へ、法螺貝を吹き乍ら、西へ西へとエルサレムを指して進み行く。ヤクは道々歌ふ。
ヤク『神が表に現はれて  善神邪神を立別ける
 尊き御世となりにけり  吾等も元はバラモンの
 軍の君に能く仕へ  大黒主の御心に
 叶はむ為と朝夕に  馬の手入や其外の
 雑役などにいそしみて  嶮しき山川打渡り
 浮木の森まで来て見れば  思ひ掛なき大軍の
 旗色悪き吾軍  ライオン河を打渡り
 ビクトル山や猪倉の  山をば又もや追ひ出され
 茲に愈解散の  憂き目に遇うて当惑し
 吾故郷へのめのめと  帰らむ顔もなきままに
 セールの大尉に従ひて  虎熊山の山砦に
 泥棒のつとめを相果たし  彼方此方と駆めぐり
 旅人を掠め居たりしが  軍の君の治道居士
 元の鬼春別様が  比丘の姿となりまして
 ハルセー沼の畔迄  来らせたまふ其砌
 天地の道理を諭されて  誠の道に立帰り
 すまぬ事とは知り乍ら  親分なりしセールをば
 甘くだまして牢番と  化け込み今日の大芝居
 打ち了ふせたる愉快さよ  さはさり乍ら此前途は
 何うして月日を送ろやら  住むには家なく食ふには
 糧なき貧しき吾れこそは  善にならうと焦つても
 どうやら悪になり相だ  心の弱き人の身は
 絶対無限の神力の  備はりませる神様に
 お任せするより仕様がない  カークス、バット、エール、ベース
 お前は何と思ふてるか  俺は此の先き案じられ
 胸をこがしてゐるわいの  何程神力受けたとて
 元より無学な吾々は  比丘にもなれず如何にして
 尊き神の御使が  つとまり相な事はない
 此奴は何とか工夫して  身の振方を考へにや
 口のひあがる虞あり  倉廩みちて礼節を
 知るとは古人の金言だ  何程誠の教をば
 滝の如くに浴びせられ  雷の如くに聞かされて
 いかに心が開くとも  お腹が空いては玉の緒の
 命をつなぐ術もない  どしたら此の苦が遁れようか
 コレコレもうし比丘様よ  吾等五人の行先の
 身の振方を詳細に  何卒教へて下さんせ
 善と悪との分水嶺  刹那心の舵次第
 船を覆しちやなりませぬ  あゝ惟神々々
 御恵深き治道居士  吾師の前に慎みて
 偏に願ひ奉る』
 治道居士は之に答へて歌ふ。
治道居士『天津御空を翔つ鳥も  山野に棲へる獣も
 神の恵に包まれて  今日の貯へなくとても
 立派に命をつなぎ居る  人は神の子神の宮
 天は不食の民草を  いかでか造り給ふべき
 誠の道に叶ひなば  慈愛の神は吾々の
 身魂を安きに守りつつ  永遠の栄と喜びと
 命の糧を賜ふべし  抑も人はパンのみで
 此世に生くべきものならず  霊の餌を沢山に
 吸収したる其上は  肉体守る食物を
 求むるならば皇神は  必要と認めし物ならば
 必ず授け給ふべし  神の誠の大道に
 尽し乍らも食物に  貧しく暮し苦むは
 未だ全く皇神の  心に叶はぬしるしぞや
 霊主体従の真心に  立帰りたる人々は
 必ず衣食住業に  普く幸はひ賜ふべし
 先づ第一に魂を  研いて心を相清め
 神の大道を歩むべし  神は汝と共にあり
 いかでか見すて給はむや  鳥獣も大神は
 豊に養ひ給ひます  況んや人の身を以て
 飢て死すべき理あらむや  只惟神々々
 神の教に身を任せ  心を砕き身を砕き
 力限りに吾業に  朝な夕なに仕ふべし
 之が処世の第一の  万古狂はぬ要訣ぞ
 あゝ惟神々々  神の教に従ひて
 汝が迷へる魂の  ひびきに答へまつるなり
 進めよ進め神の道  励めよ励め人の業
 人は神の子神の宮  神は汝と倶に在り』
と歌ひ乍ら、治道居士は先に立つて進み行く。或小さき山の麓に着いた。見ればかんばしき苺が大地を紅に染て、人待顔に稔つてゐる。
治道『さア皆さま、ここで一服せう。之れ見よ。お前達はいろいろと心配してゐるが、神に従つて行く道には斯ふいふ天恵があるのだ。畑に作つた苺でなし、誰憚らぬ原野の中に苺が熟して俺達を待つてゐるぢやないか。どれ丈け餓虎の勢で食つたとて、これ丈あれば、百人や二百人の食料は大丈夫だ。又先繰り先繰り新しい実が、斯うして根元の方についてゐる。サア一つ感謝祈願を凝らして、天恵の美味を頂かうぢやないか』
 一同は、
『ハイ、有難う厶います』
と此処に腰を据え、神に感謝し、小口から水の垂るやうな苺を、手に取つては食ひ喰ひ漸く腹を拵へた。
治道居士『有難や皇大神の御恵は
  野にも山にもみち足らひけり。

 餓ゑ渇き進みかねたる人の子に
  授け給ひぬ命の味を。

 虎熊の山を立出で今ここに
  神の恵を味はふ嬉しさ』

ヤク『思ひきやあたりも暗き草の野に
  赤き苺の稔りゐるとは』

エール『蛇苺ならむと近寄り手に取れば
  いとど美味しく食エール苺』

バット『うす暗き此山路も紅の
  苺にバットあかくなりける』

カークス『皇神は深き恵をカークスの
  誠の人に与へ給ひぬ』

ベース『喉かわきベースをかきし吾々も
  今は御神の恵にうるほふ』

ヤク『治道様、世の中は心配せなくても可いものですな。私達は昨日から一食も碌にせず、山坂を下り、スタスタ此処迄やつて参りましたが、最早腹はすき、喉はかわき一滴の水もなし、進退維谷まるといふ所で厶いました。九分九厘で既に息つかうとした時に、かやうな尊い苺を下さるとは、何とも、例へ方ない有難さで厶います。之を思へば決して神様は吾々を見殺にはなさりませぬな』
治道『さうだ。人間は神様の与へて下さるものを頂いて居りさへすれば安全だ。今の人間は食つた上にも食ひ、飲んだ上にも飲み、贅沢三昧をして、之は甘いの、不味のと小言許り云ふてゐるから、生活難の声が起るのだ。それで物価は益々騰貴して人民は愈苦むのだ。万人が万人乍ら神の恩恵を有難く感じ、与へられたものを頂くといふ事になれば、世の中は貧乏もなく、病もなく、又争ひも起らぬ。だから吾々はどこ迄も、惟神の道を歩まねばならないのだ。これで神様の有難い事が分つただらうな……。オイ、バット、お前はバラモン軍を離れてから、泥棒とまで成下つて居つたが、其間に何か愉快だと思つた事があるか、あるなら其時の感想を私に聞かして欲しいものだ』
バット『ハイ、私が貴師の部下となつて、軍人生活をやつて居りました時には、随分辛う厶いましたよ。上官からは頭を抑へられる。又少しく上官のお気に入らうとして忠実しく働けば、同僚に憎まれる。不真面目な阿諛主義の奴は抜擢されて、すぐに自分の上役となり、頭を抑へる。どうも不平で不平で、一日だつて心の安んじた事はありませぬ。そして何時強敵が襲ふて来るかも知れず、さすれば生命を的に戦はねばならず、日夜戦々恟々として月日を送りました』
治道『成程お前の言ふ事は事実だ。私だつて三千の部下を引率てをるものの、上には大黒主の神様があり、又同僚もあり、部下もあり、一方に強敵を控へ征途に上る時の苦しさ。口では立派に雄健びをしてゐるものの、心の中では、随分煩悶苦悩の種をまいたよ。そして一戦に味方は無残な最後を遂げる。又仮令敵だと云つても、無残な最後を遂げてるのを見れば胸は痛む。イヤ全く地獄修羅畜生の巷に彷徨う様であつた。治国別様に助けられ、比丘となつた時の心の嬉しさ、始めて広い天地に生れた様な思ひがしたよ』
バット『将軍様は今迄結構なお役だと、私は羨んでゐましたが、ヤツパリ貴師でもさうで厶いましたかなア。さうすると世の中に、安心して暮す者は一人もありませぬなア』
治道『古人も云つたぢやないか……憂き事の種類こそ変れ世の中に、心やすくてすむ人はなし……此歌は本当に人生の苦しき境遇を歌つたものだ。そしてお前は以前泥棒になつて居た時、何か愉快に感じた事はないか』
バット『ハイ、どうも軍人生活の時よりも一層苦しう厶いました。苦しいと云つても軍人ならば毎月きまつてお手当が頂けますが、泥棒といふ奴ア、資本のいらぬボロイ商売の様ですが、朝から晩まで戦々恟々として、心を苦しめ胸を痛め、そして中々容易に収入は得られませぬ。仮令少しの金を手に入れようとするにも、戦ひと同様命がけで厶います。それに又何時捕手が出て来るかも知れぬといふ虞があり、飯も酒も満足に喉を通つた事は厶いませぬ。只泥棒になつて愉快に感じたのは、貴師様にお目にかかり、森林に於て神様のお話を承はつた時と、貴師のお身代りになつて牢獄の中で芝居をした時位、愉快に感じた事はありませぬ。併し乍らそれにもまして愉快な事は、誠の道に猛進し、貴師と共に聖地エルサレムに参拝する途中の嬉しさ 腹も空き喉は渇き、九死一生になつた時、天与の苺を頂いた今の喜びは、生れてから此方、まだ味はつた事が厶いませぬ。あゝ惟神霊幸倍坐世』
治道『人は何うしても、誠の道に苦労せなくては、神様の恵も分らず、又飲食物の尊い事も分らぬものだ。サア皆の者、今のバットの言つた様にお前達も今の恵を愉快に感じただらうのう』
 四人は一度に『ハイ』と云つたきり、感謝の涙にくれて居る。忽ち轟然たる響が後方に聞えた。よくよく見れば虎熊山は大爆発を初め、山半分以上は黒煙に包まれ、大火災を起して居る。一同は此の光景を眺め、神の無限の仁慈を涙と共に感謝した。
(大正一二・七・一六 旧六・三 於祥雲閣 松村真澄録)
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