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文献名1霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
文献名2第4篇 恋連愛曖よみ(新仮名遣い)れんれんあいあい
文献名3第17章 縁馬の別〔1699〕よみ(新仮名遣い)えんばのわかれ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-04-20 14:51:50
あらすじ
主な人物【セ】梅公、花香姫【場】-【名】タクソン、ジャンク、スガコ姫、サンダー、トルカ王、馬頭観世音、神素盞嗚大神、イドムの神、諾冊二尊、師の君(照国別)、照公、エルソン 舞台オーラ山へ向かう原野 口述日1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所 筆録者松村真澄  校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年6月29日 愛善世界社版241頁 八幡書店版第11輯 819頁 修補版 校定版245頁 普及版67頁 初版 ページ備考
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本文  梅公は花香と共に相乗馬にて、風吹き亘る高原を、オーラ山を目当となして、カツカツと進み行く。
花香『モシ梅公様、貴郎は鎮魂なさつた際、大神様のお告げがあつたでせう。私の申上げた事は御神意に叶つてゐるでせうがな』
梅公『さうイライラと、追求されては堪まりませぬワイ。天機容易に洩らす可らず。先づ先づ後の楽しみとして、記憶帳につけとめておきませう』
花香『其記憶帳を一寸私に拝見さして貰へませぬか。私も御神勅に仍つて概略は存じてをります。そして又私も記憶帳にいろいろの神秘を記載しておきました。貴郎の記憶帳を一寸許り御洩らし下さらば、私の記憶帳もお目にかけますがなア』
梅公『ハヽヽヽ貴女もぬかりが有りませぬな。記憶帳所か、気遅れがして、何も申上げられませぬワイ、ハヽハイハイハイ』
と手綱を引締め乍ら後振り返り、
梅公『花香さま、確り掴まへて下さいよ。之からチツと飛ばしますから』
花香『幾らなつと、お飛ばしなさいませ。後から貴郎の腰を心行く計り、抱き締めますワ。サアお飛ばしなさい』
と息が詰まる程抱き締めた。
梅公『あ、痛い痛い、モチツとお手柔かに願ひます。息が切れますよ。思ふやうに手綱が使へないと、貴女と一緒に落馬しちやすみませぬからな』
花香『ホヽヽそんな気遣ひはいりませぬよ。落馬しさうになつたら、私が拘へて、馬の背から飛んで上げますワ。仮令おちて頭をうち絶命した所で、貴郎と二人ならば満足ですもの。此馬に乗つて三途の川を渡るのも一興で厶いませうよ』
梅公『コレコレ花香さま、そんな縁起の悪い事をいふものでない。三途の川所か、自分は二人の美人を助けたいが為に、一途になつて行くのだ』
花香『二人の美人を助けたいとは、ソリヤ何方の事で厶いますか』
梅公『何方でも宜しい。後になりや分るでせう。兎も角私は神の使命に仍りて、目的の人々がオーラ山に捉へられて居るやうな暗示を与へられました。貴女も一緒にオーラ山にお登りになつたらどうですか。お厭なら、お宅迄貴女を送り届け、単騎私が救援隊に向ふ積りですから……』
花香『私はどこ迄も貴郎のお伴を致します。仮令悪魔の巣窟でも地獄のドン底でもお伴さして下さい。女房は夫の附物ですからな』
梅公『コレはしたり、花香さま、又しても夫だの、女房だのと、みつともないぢやありませぬか』
花香『ハイ私はみつともない女で厶います。到底貴郎のお気にはいりますまい。悪魔の巣窟迄美人を助けに行くと仰有る位ですもの。どんな立派な方が貴方を、待つてゐらつしやるか知れませぬもの。而し私は神様より夢の中に許された、貴郎は夫ですもの、私は貴郎の先取権を握つてますワ。こんな事を申すと悋気するやうですが、決して悋気なんか致しませぬ。私が貴郎に危急を救はれて嬉しかつた様に、貴郎の意中の人も、貴郎に危急を救はれるのは殊更嬉しいでせう。そして貴郎を愛する女の方々は如何なる人か、一遍お顔も拝みたう厶いますから、是非お伴をさして頂きたう厶います』
梅公『何だか妙な所へ、言霊の矢が向きましたな。疑を晴らす為、一層の事、打明けて申ませう。実は花香さま、お前さまの不在宅でタライの村のタクソンさまに出会ひ、里庄のジャンクさまが館に行つたところ、お嬢さまのスガコ姫様が悪者に掻つ攫はれ行方が不明との事で非常な御心配。それに又許嫁のサンダーさま迄が家出をなされ、大変に両家の御心配、吾々宣伝使として看過する訳には行きますまい。折も折とて、トルカ王様の勅使来り、里庄のジャンクさまは義勇軍を組織し一隊を率ゐて、バラモン軍征伐の為、王城守護の為に出陣をなさつたのですよ。私も其軍に従つて途中迄参りましたが、どうしても馬が動かないので、之は……お二人を助けよ……との神様のお示しと直覚し、駒を立て直し、馬の進むが儘に駆け出した所、折よくも貴女の危難を救ふ事が出来たのです』
花香『あゝ左様で厶いますか、それを承はつて安心を致しました。スガコさまとサンダーさまは已に許嫁の夫婦で厶いますから、何卒助けて上げて下さいませ。併しオーラ山にゐられるでせうかな』
梅公『ハヽヽヽ、之で貴女も御安心の態と見えますな。チツと計り妬いてゐましたね。オーラ山に居られるか居られぬかといふ事は、私としては判然りとした事は分らないですが、どうも居られる様な直覚をするのです』
花香『毎晩々々オーラ山には、お星さまが御降りになるといふ事です。天から救世主がお降りになり、万民の苦難を救ひ下さると云つて、偉い評判ですが、何だか私は虫が好かないので一度も参つた事は厶いませぬ。天から星が降つて救世主の教を聞かれるなんて、そんな事が実際あるものでせうかな』
梅公『さアそれが第一不思議の点だ。……あんな事致して、売僧共が山子してゐるのではなからうか、人の妻女を奪ひ取り、どつかへ隠しておいて、金品を強要し、商売の種に使つて居るのではなからうか……と、思はれてならないのです。さうでなくては私だつて、オーラ山へ目はつけないのですからな。之からボツボツ参れば丁度酉の刻には麓迄は着けるでせう。歌でも唄つて参りませうか、貴女のお優しい声で旅の憂さを慰める為、一口聞かして貰ひたいものですな』
花香『ハイ畏まりました。どうかお笑ひ下さいませぬ様に……』
梅公『上手に面白くお唄ひになれば、自然笑ひますよ。お歌が下手だつたら、畏まつて承はりませう』
花香『貴郎はキツと笑ふ積りでせう。甘い事云つて予防線を張つてゐらつしやるのですもの』
花香『三千世界の梅の花  一度にかをる神の道
 梅公さまと花香とは  神の定めし縁にて
 名さへ目出たき梅の花  香りを送る春の風
 駒の嘶き蹄の音も  何とはなしに勇ましく
 其鼻息はフーフーと  頭をあげて勇みゐる
 今乗る馬は神の馬  吾等が赤縄を結ぶなる
 馬頭観世音の化身ぞや  同じ一つの馬に乗り
 人目の関も突破して  心も広き大野原
 進み行くこそ芽出たけれ  私と貴郎は昔から
 結びの神の引合せ  生れし国は隔つとも
 霊は同じ神の前  神素盞嗚の大神の
 御許しうけて結ばれし  千代の縁に違ない
 悪者共に取巻かれ  今や操を汚さむと
 責めさいなまれたる時もあれ  天狗のような高い声
 森の中より聞え来る  一度は驚き肝つぶし
 如何に吾身はなるかやと  慄ひ戦きゐたりしが
 よくよくみれば汝が命  花の顔容月の眉
 水際に匂ふ梅が香の  花にもまがふ背の君に
 会うた嬉しさ懐しさ  凡ての事を打忘れ
 たつた一人の母様の  淋しくお暮し遊ばすを
 訪ひまつらむと思へ共  貴郎に心引かされて
 次になしたる恋の暗  憐れみ玉へ背の君よ
 仮令野の末山のおく  大海原の底迄も
 吾玉の緒のある限り  駒の蹄の続く迄
 御伴に仕へまつるべし  天に譬し背の君と
 大地に譬し妻の身の  いかで離るる事あらむ
 天地の間に人となり  まして有情の女子が
 如何でか恋を忘るべき  山野にすだく虫の音も
 梢に囀る百鳥も  恋を歌はぬものはなし
 恋し恋しの背の君と  魔風恋風面にうけ
 魔神の集ふオーラ山  勇み進んで出て行く
 吾魂は奮ひ立ち  血汐は躍り魂光る
 あゝ惟神々々  イドムの神よどこ迄も
 二人が仲を永久に  結ばせ玉へ万世の
 国の礎固めむと  出立ち玉ふ宣伝使
 夫に有ちて吾は今  魔神の征途に進むなり
 あゝ惟神々々  神かけ祈り奉る
 大日は照る共曇る共  月は盈つ共虧くる共
 魔神の力強く共  神に任せし此身体
 吾背の君のある限り  いかでひるまむ神の御子
 守らせ玉へと願ぎまつる』
梅公『アハヽヽヽヽ、天晴々々、ヤ、モウ梅公、感じ入りました。かやうな名歌を聞かされては怖気がついて、私は唄ふ事が出来なくなつて来た。どうか御免を蒙りたいものだな』
花香『オホヽヽヽヽ、ようそんな卑怯な事が仰有られますな。貴郎男ぢやありませぬか、サア、どうか歌つて下さいませ』
梅公『大野ケ原を駒の背に  跨り進む此ナイス
 月雪花か将神か  天女のやうなお姫さま
 かをり床しく咲き匂ふ  梅公さまの腰の辺に
 白きただむき淡雪の  若やる胸を素だたきつ
 大和男の子の雄心を  砕き玉ふぞ果敢なけれ
 斎苑の館を出でしより  神の教を畏みて
 ハルナの都の神業を  成しとぐる迄夢にだも
 をみなに縁は結ばじと  思ひつめしが如何にして
 かくも弱けくなりしぞや  岩をも射ぬく桑の弓
 虎狼も恐れねど  敵しかねたるたよわ女の
 細き腕には捲かれけり  あゝ惟神々々
 許させ玉へいその上  古き神代の古は
 天教山の中腹に  諾冊二尊現れまして
 嫁ぎの道を開きまし  百の神々百人や
 草木の種迄生み玉ふ  其古事を思召し
 恋の罪をば許しませ  心の限り身の限り
 恋の矢玉を防げ共  最早力も尽き果てて
 花香の姫に玉打たれ  恋の奴となりにけり
 吾師の君が此様を  風の便りに聞きまさば
 嘸や怒らせ玉ふらむ  月日も空に照公や
 タクソンさまは嘸や嘸  二人の間の睦言を
 聞いた時には呆然と  空を仰いで歎くだらう
 日頃こがれしエルソンの  君の心はいかにぞや
 花香の姫は梅公の  宿の妻よと知るならば
 折角これ迄張り詰めし  心の弓はひた曲り
 矢さへ楯さへたまるまい  思へば思へば罪深き
 吾身の上と思へ共  花香の姫の懇な
 切なき恋に責られて  逃れむ由も夏の野辺
 馬耳東風と進み行く  許させ玉へ惟神
 神の御前に詫まつる』
花香『モシモシ梅公さま、大変に御心配をかけまして済みませぬな。御迷惑御察し申します。ハルナの都へ大任を帯てお出で遊ばす途中に、悪い虫がつきまして嘸お困りで厶いませう。大根の葉にネチがついたやうに思召すでせうが、之も因縁と諦めて、私をどこ迄も連れて行つて下さいませ。何程厭でも除虫液などかけないやうに御願ひ申ますよ、ホヽヽヽヽ』
梅公『何だか大変な罪悪を犯したやうな気がしてなりませぬが、私も因果腰を定めました。モウ斯なる以上は互に力を協せ、世の為道の為に、あらむ限りの力を尽しませう』
花香『ハイ有難う。それを承はつて、甦りました。どうやら麓の森林へ近づきましたやうです。之から上は険峻で駒も進みますまい。サア、下りませう』
と花香はヒラリと飛び下りた。梅公も次いで飛降り、駒の首を撫で乍ら、
梅公『オイ馬さま、御苦労だつた。サア休んで下さい。お前はジャンクさまの内の馬だから、余り遠くもないし、道は知つてゐるだらう。御苦労乍ら独り帰つてくれ。之でお別れする。お前の鬣に手紙をつけておくから、主人は不在でも番頭がゐるだらう。キツと之を渡してくれ』
と人に云ふ如く話し乍ら、
『自分はどうしてもオーラ山に、嬢さまが捉はれてるやうだから、救ひ出しに、危険を冒して上つた。何れ近い内に吉左右を報告する』
と記した儘、駒に別れを告げ、花香と共に、成るべく人通りのない、夕暗の路を大杉の上に輝く光を目当に辿り行く。馬は後ふり返りふり返り、二人に名残を惜むが如くヒンヒンヒンと高く嘶いて一目散に帰り行く。
(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 松村真澄録)
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