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文献名1霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
文献名2第3篇 多羅煩獄よみ(新仮名遣い)たらはんごく
文献名3第11章 暗狐苦〔1713〕よみ(新仮名遣い)あんこく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-05-13 18:36:42
あらすじ
物語は場所を変えて、デカタン高原西南方のタラハン国へ移る。

人口二十万、地味の肥えた産物の豊かな国。

首都タラハン市、ウラル教を国教とし、王家はすでに十数代を経ている。

国王はカラピン王、王妃モンドル姫、太子スダルマン、王女バンナ。

王妃モンドル姫は悪孤の霊に憑依され、市民を虐待した。王はモンドル姫の容色に迷い、王妃を止めることができなかった。

左守の司、シャカンナはたびたび王・王妃を諌めたが、右守の司ガンヂーは、自分がタラハン国の主権を握ろうと、王・王妃に取り入っていた。

あるとき、モンドル姫は遊覧中に白羽の矢に当たり、絶命してしまった。王はこの事件により狂乱し、暴虐の振る舞いを始める。

左守シャカンナは妻とともに死を決して王に諫言をなすが、王によって妻は斬り殺されてしまう。シャカンナは当年6歳の娘スバールとともに逃げ、身を隠した。

右守のガンヂーはこの事件により、シャカンナに代わって左守の位に就く。シャカンナ家の巨万の財産を没収したガンヂーは、己の声名をあげる為にそれを慈善政策の資金とした。

結果的にタラハン国は小康を得た。カラピン王は政務をすべてガンヂーに預け、自分は風流三昧のみの生活に隠退してしまった。

太子スダルマンは18歳を迎えたが、宮中深く閉じこもり、憂鬱に悩まされていた。いかなる音楽、美女も太子の憂鬱を払うことができなかった。

唯一太子の気に入りは、佐守ガンヂーの一人息子、アリナであった。アリナと共に絵を書くのが、太子の慰めとなっていた。

あるとき太子はアリナに秘密の外出を誘った。アリナは、これで太子の憂鬱が治るかもしれないと思い、心ならずも承諾してしまった。
主な人物【セ】カラピン王(タラハン国の国王)、ハリスタ姫(シャカンナの妻)、スダルマン太子、アリナ(ガンヂーの息子)【場】-【名】モンドル姫(王妃)、王女バンナ、左守シャカンナ、右守ガンヂー(新左守)、アンチー(ガンヂーの妻)、スバール(シャカンナの娘)、サクレンス(ガンジーの家令、新右守) 舞台 口述日1924(大正13)年12月28日(旧12月3日) 口述場所祥雲閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年8月19日 愛善世界社版149頁 八幡書店版第12輯 85頁 修補版 校定版151頁 普及版68頁 初版 ページ備考普及版・八幡版「狐」、校定版は目次「孤」、本文「狐」。
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本文  デカタン高原の西南方に当つてタラハン国と云ふ、人口二十万を有する地味の肥た産物の豊かな国土がある。国王はカラピン王と云ひ、国の中心地点なるタラハン市に宏大なる城廓を構へ、ウラル教を信じて十数代を継続した。その時の国王の名をカラピン王と云ひ王妃をモンドル姫と云ふ。二人の中には太子スダルマン、及び王女バンナの二子を挙げて居た。王妃のモンドル姫は銀毛八尾の悪狐の霊に憑依され、残忍性を帯び、常に妊婦の腹を裂き、胎児を抉り出して、丸焚きとなし舌皷を打つてゐた。国民怨嗟の声は国内に充ち溢れ、何時騒動の起るやも知れざる形勢となつて来た。然し乍らカラピン王は王妃の容色に恋着し、王妃の言ならば、如何なる無理難題も二つ返事で承認すると云ふ、惚け方である。左守の司のシャカンナは民心日に月に国家を離るるを憂ひ、且つ何時革命の狼火のあがるや知れざる形勢を憂慮し、常に死を決して王及び王妃に直諫した。されども王は少しも左守の言を用ひず、遂には左守の登城するを見るや、奥殿深く身を忍んで面会を避けた。右守の司ガンヂーは心よからぬ痴者にて常に王妃を煽動し、左守を退け、自分が、とつて代つて左守の職につき、タラハン国の主権を吾手に握らむ事を希求してゐた。右守のガンヂーが内面的応援によつて、王妃の悪逆無道の行為は益々残虐の度を加へ、民心益々離反して所々に百姓一揆が勃発して来た。
 或時モンドル姫は寵臣の右守ガンヂー及その妻アンチーと共に十数人の侍女を伴ひ、カルモン山の風景を探るべく遊覧を試みた。何処ともなく白羽の矢が飛んで来てモンドル姫の額に命中し、姫は悲鳴を挙げて谷底に転倒し、遂に絶命して了つた。この事四方に喧伝するや、国民は窃に大杯をあげて国家の前途の光明を祝すると云ふ勢であつた。
 カラピン王は王妃に対する愛着の念去り難く、遂には狂乱の如くなり、近臣を手討になし、王妃の如く又もや妊婦を裂き胎児を丸焚きにして舌皷を打つやうになつて来た。左守の司のシャカンナは王家及国家の一大事と死を決して、妻のハリスタ姫と共に王宮深く進み入り、王に改心を迫り、且つ国民の怨嗟の声喧しく、いつ擾乱の勃発するやも知れぬ事を説明した。最愛の王妃を失ひ、心の荒びきつたるカラピン王は到底忠誠なる左守の諫言を耳にするに至らなかつた。忽ち大刀を引抜いて形相凄じく左守に向つて云ふ、
王『モンドル姫の横死は必ず汝が手下の処為ならむ。王妃の仇だ、観念せよ。手討にして呉れむ』
と阿修羅王の如く左守に斬りつけむとした。左守の妻ハリスタ姫は王と左守の間に立ち塞がつて、
『恐れ乍ら王様に申上げます。忠臣をお斬りになるのは御自分の片腕をお斬り遊ばすも同様で厶います。国家の柱石なくして、どうしてタラハン国が保てませうか。まづまづ心静かにお考へ下さいませ、もし左守の司を、どうしても殺さねばならぬのならば、どうか私を身代りに立てて下さい』
と涙を両眼に滴らし乍ら陳弁した。王は怒髪天を衝いて云ふ、
王『エー、さかしき女の差出口、聞く耳もたぬ。殺して呉れなら殺してやる。汝のみならず、シャカンナも共に刀の錆だ。観念せよ』
と云ひ乍らハリスタ姫の左の肩から右の脇へ袈裟掛に、切れ味のよい銘刀にてスパリと其場に斬り倒した。次いで左守を打殺さむと阿修羅王の如くに追掛ける。左守は一生懸命に裏門より雲を霞と逃げ出し、当年六才になつたスバール嬢を背に負ひ、何処ともなく身を隠した。右守のガンヂーは左守となり、妻アンチーの仲に生れた一人息子のアリナと共に得意な日月を送つて居た。さうして右守家の家令サクレンスを抜擢して右守に任じた。
 新左守のガンヂーは左守の地位を得て国政改革を標榜し、前左守家伝来の巨万の富を没収し、国内の貧民に慈善を施し、吾声名のあがらむ事にのみ焦慮し、漸くタラハン国は小康を得た。カラピン王は一切の政務を左守のガンヂーに一任し、自分は茶の湯、俳諧などに心を傾け風流三昧を事として居た。
 カラピン王の太子スダルマンは十八才の春を迎へ王女バンナは十六才の春を迎へた。太子のスダルマンは宮中深く閉ぢ籠もり、何となく精神憂鬱として楽まず、父の言葉は云ふも更なり、左守右守、その他重臣に対しても、拝謁を乞ふ度毎に面白からぬ面を現はし、只一口の言葉も発せず鬱々として書斎に籠つてゐた。カラピン王を初め左守右守の重臣連の憂慮は一方でなかつた。日夜神仏を念じ、又は面白き楽器を弾きならして太子を慰め、憂鬱病を治さむと、相談の結果、国内の美人を召集し太子の御殿に侍らしめた。百余名の嬋妍窈窕たる美人は燦爛と咲き乱れたる桜花の如く、蝶の如く其美はしさ、譬ふるに物なきが如くであつた。されど太子は之等の美人に対し一瞥もくれず、益々奥殿に閉ぢ籠り深く憂鬱に陥るのみであつた。只太子の気に入るのは左守の悴アリナ一人のみである。それ故アリナは常に太子に召されて話相手となり、時々城内を逍遥し、太子の心を慰めて居た。
 太子の最も心を慰むるものはアリナと共に絵を描く事であつた。太子もアリナも日々絵筆を弄び、人物等を描く時は殆ど実物に等しきまで上達した。或時太子はアリナに向ひ、
太『オイ、アリナ、どうだ今日はお前と何処かへ行つて写生でもやらうぢやないか。狭い城内では、もはや写生の種もつきて了つたから』
とツヒにない外出の意を、ほのめかしたので、アリナは…此機逸すべからず、御意のかはらぬ内、太子のお伴をなし、太子のお好きな山水の写生でも遊ばしたら、日頃の憂鬱症が癒るかも知れぬ。王家に対し、国家に対し、これ位、結構な事はない…と決心し、両手を支て、満面に笑を湛へ乍ら、
ア『太子様、願ふてもなき御催しで厶います。どうか私もお伴さして頂けば無上の光栄で厶います。山青く水清く飛沫をとばす谷川の景色等は胸に万斛の涼味を味はつたやうな気が致しますよ。さすれば父の左守に申伝へましてお伴の用意を致させませう。何程微行と申しても一国の太子様、二三十人の護衛は威厳を保つ上に必要で厶いませうから』
 太子は頭を左右に振り乍ら、さも不機嫌な顔にて、
『此城中に於てお前一人より、余の気に入るものはない。その外に只一人たりとも召使をつれる事は嫌だ。そんな大層な事をするなら、もう郊外の散歩は止めにする。余の病気は、かやうな窮屈な殿中生活が嫌になつて、其為め起つたのだ。普通人民の如く、極手軽にお前と二人散歩して見たいのだ』
ア『左様仰せられますれば是非は厶いませぬ。併し乍ら太子様を窃に郊外にお連れ申したとあつては王様を初め吾父の怒りは、いか許りか分りませぬが、私は太子様の為に、仮令親に勘当を受けても構ひませぬ。半時でも太子様のお心が安まればそれで満足で厶います。然らば明日払暁裏門より窃に脱出し、半日の御清遊にお伴を致しませう』
太『ア、それで満足した。余の病気も全快するだらう。貴族生活に飽き果てた余は庶民の山野に働く実況も見たいし、自然の風物に対し、天恵を味ひ度い。それではアリナ、屹度頼むぞ』
ア『ハイ、畏まつて厶います。それでは一切の用意を致しておきます』
 太子は地獄の餓鬼が天国に救はれたやうな心持になつて翌日の未明を一時千秋の思ひで待つてゐた。
(大正一三・一二・三 新一二・二八 於祥雲閣 北村隆光録)
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