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文献名1霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
文献名2第3篇 多羅煩獄よみ(新仮名遣い)たらはんごく
文献名3第17章 晨の驚愕〔1719〕よみ(新仮名遣い)あしたのきょうがく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-05-15 14:44:26
あらすじ
朝目が覚めると、シャカンナ、玄真坊、コルトンの3人はダリヤとバルギーが逃げ出したことを知る。

玄真坊は山賊たちを使って、2人の行方を探らんと、岩窟を出て行く。

シャカンナは、玄真坊がもうここへは戻らないだろうと考えた。そして、玄真坊、あるいはダリヤがこの岩窟の隠れ家の場所をタラハン国に漏らし、軍隊が攻めてくることを恐れた。

シャカンナは建物に火をつけ、200人の山賊の部下を打ち捨てて、娘のスバールとコルトンを連れ、さらに山奥の隠れ家へと移っていった。
主な人物【セ】玄真坊=天真坊、コルトン、シャカンナ、スバール姫(シャカンナの娘)【場】-【名】ダリヤ姫、バルギー 舞台 口述日1924(大正13)年12月28日(旧12月3日) 口述場所祥雲閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年8月19日 愛善世界社版221頁 八幡書店版第12輯 112頁 修補版 校定版224頁 普及版68頁 初版 ページ備考
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本文  十四日の月は空に白けて星影薄く、カアカアと鳴く烏の声に東の空は白み初めた。コルトンはふつと目を醒まし四辺を見れば緋縮緬を白い薄絹で包んだやうなダリヤ姫の影もなく、羅漢面の醜男バルギーの姿も見えない。はて不思議だと訝かしみ乍ら、大親分シャカンナの寝顔を見れば額にモーイヌと片仮名で記してある。玄真坊はと振り返つて額を見ればこれ又ネンネコと女の筆蹟で記してある。コルトンは直ちに玄真坊を揺り起し、
コル『もしもし、天真坊様、奥さまが見えなくなりました。何卒起きて下さい。……親分様、大変です早く起きて下さい。大騒動が起りましたよ』
玄『何、奥が見えなくなつたと云ふのか、そりや大変だ。大方パサパーナにでも行つて居るのぢやないか、よく調べて来い』
コル『それでも親分様の顔にはモーイヌと女の筆蹟で記して有り、貴方のお顔にはネンネコと書いてありますよ』
玄『ヤ、如何もシャカンナの額にはモーイヌ、お前の額にもサル、カヘルと書いてある。俺の顔にネンネコ、ハテな。よく寝て居る間に此処をサル、イヌ、カヘルと云ふ謎だな。これや、大変だ。彼奴を逃がしては、岩窟の一大事だ。秘密の漏洩する畏れがある。オイ、コルトン、乾児共を督励して後を追かけて呉れ』
コル『ハイ承知致しました。大親分さま、貴方どう考へられますか』
シャ『彼奴に逃げられては俺も些と面喰はざるを得ない。なぜ貴様監督をして居ないのだ。アタ卑しい酒を喰ひやがつて同じ様に寝ると云ふ事があるものか』
 コルトンは頭を掻き乍ら、さも云ひ悪さうに、
コル『ヘイ、御存じの通り僕、拙者、此方、私、やつがれは酒の嫌いな下戸で厶いますが、あの奇麗な奇麗な天真坊の奥様ダリヤ姫様が、コルトンさまコルトンさまと妙な目をして笑顔を作り桃色の頬辺に笑を湛へ、白い綺麗な象牙細工のやうな、お手々で……コルトンさま、さア一杯お過ごしなさい……と仰有つて下さつたものですからヘヽヽヽイ、つい……その調子に乗つて男振を見せてやらうと思ふて、つい、ぐいぐいとやりました、いや呑みました。さうしたら前後も知らずに酔ひ潰れて寝て了つたのです。どうぞ御勘弁、御了簡、御赦免をどうぞ一重に二重に宜敷くお願ひ申上げます。慎んで歎願致します』
シャ『エヽ、貴様はまだ酔つて居るのか、何を云ふのだ。一体姫をどうしたのだ』
コル『エー何うも斯うもありませぬ。何うしたか解るやうなら、決して取り逃しは致しませぬ。何でもバルギーと手に手を取つて、遁走して逃げ出したかも知れませぬよ』
玄『チエ、エエ扨ても気の利かぬ野郎だな。サア早く乾児共を叩き起し四方に手配りをなし、ダリヤ姫を連れて帰つて呉れ』
コル『ヘン、偉さうに云ふない。お前と俺とは同役ぢやないか。自分の嬶が逐電して飛び出したと云ふて、さう俺にケンケンと云ふものぢやないわ。嬶が探して欲しけれや、……どうか兄弟捜索して探しに行つて呉れないか……と、御依頼して頼まないのだ。俺は、此方は、拙者は、僕はお前の命令の云ひつけは聞いて承はる権利義務が無いのだ。俺は、僕は、拙者は大親分の命令の云ひつけを聞いて活動して働くのみだ。大親分の命令の云ひつけさへあれば何時何時でも、尻をからげて出発して出かけるのだ。ヘン、偉さうに云ふない。頓馬野郎奴、嬶取られの腰抜け奴、阿呆、馬鹿、頓痴気野郎』
シャ『オイ、コルトン、貴様は未だ酔が醒めて居ないと見える。併し乍らかうしては居られまい。早く部下を叩き起し、捜索だ捜索だ』
コル『もし親分、親方、旦那、大頭目、それ程御心配にや及びますまい。親分の女房の嬶が逃走して逃げたのぢやあるまいし、嬶の所在を捜索して探すのは、天帝の化神、天来の救世主、天真坊さまの双肩の両肩にふりかかつて居る責任でせう』
シャ『チヨツ、仕方のない野郎だな。それだから常から酒を喰ふなと云ふのだ。貴様は酒を呑まないと云ふから抜擢して重く用ゐて居たのに何の態だ。ダリヤ姫の手で額にサル、カヘルと云ふ字を書かれる迄知らずに寝ると云ふ事があるか、馬鹿』
コル『馬鹿でも何でもよろしい、あんな美人に優しう云ふて貰へば男子たるもの天下の馬鹿にならざるを得ぬぢやありませぬか。それよりも親分、お前さまの額部の額口にモーイヌとダリヤさまの筆蹟で大書して書いてありますぜ。そんな悪戯をしられても分らぬ所迄、なぜ親方も熟睡して睡つて居るのですか。天真さまだつてさうぢやないか。あんな美人のシャンの奥、女房の嬶を持ち乍ら心をゆるし安心して脂下つて惚けて居るものだから、アタ阿呆らしい、馬鹿らしい、ネンネコなんどと落書され、まるで顔面の顔は幼稚園の生徒の草紙見たやうなものだ。些と確りなさいませ』
玄『エヽ仕方がない、かうなれや自分もグヅグヅしては居れまい。サアこれから御大自ら捜索と出かけよう。シャカンナ殿、何うか部下をお貸し下さい』
コル『それや、天真さま御尤です。肝腎の奥、女房の嬶が韜晦して姿を隠して居るのに、さう依然とじつとしては居れますまい。サア私も手伝ひますからダリヤさまの所在を捜索に出かけませう。あの優しい顔を、僕、俺、私だつて今一度拝顔して拝みたいからな、イヒヽヽヽ』
 シャカンナは部下の集まつて居るバラック建の土間に這入つて見ると、何奴も此奴も落花狼藉、徳利を枕にして居るもの、盃を噛んで喰はへて寝て居るもの、オチコやポホラを丸出しにしてふん延びて居るもの、全然小供の玩具箱をぶち開けたやうな光景である。シャカンナは大喝一声やや怒気を含み乍ら、
シャ『これや、何奴も此奴も起きぬか。もう夜が明けて居るぢやないか。この有様は何だ。お館には大変な事が突発して居るぞ。早く目を醒まして起きた起きた』
 コルトンは言葉の尾について威猛高になり、肩迄四角にして、未だ昨夜の酒気が残つて舌の根が自由に運転し兼ねる奴を無理に使ひながら、
コル『これや、何奴も此奴も何をして居るのか。いつ迄睡眠して睡つて居るのか。この態は何だ。早く起床して起きぬか。困つた野郎だな。もはや暁天の夜明けだぞ。昨夜お出になつた天真坊の天帝の化身の奥、女房の嬶が逃走して逃げ出し、行方不明に分らなくなつたのだ。サア早く早く用意々々』
 此声に何奴も此奴も、鼈に尻をいかれたやうな、寝て居る間に睾丸を抜かれたやうな妙な面付をして、アヽヽヽと焜爐のやうな口を開けて猫のやうな手水をつかつたり、狼狽へて徳利を抱へ外へ飛び出す奴、着物を逆さまに着て狼狽へる奴、何とも形容し難い光景であつた。
 玄真坊は二百の部下を借り受け四方八方に手配りし乍ら、ダリヤ姫の行方を捜索すべく顔に血を漲らして出でて行く。後にはシャカンナと、今年十五才になつた娘のスバール姫とコルトンの三人であつた。
シャ『オイ、コルトン、過ぎ去つた事は何程小言を云つても詮無い事だが、約まらぬ事を仕出かしたぢやないか。さうして、バルギーはお前どうなつたと思ふ。彼奴反逆心を起してダリヤを何処かへ連れ出し、自分が天真坊の女房を横取する考へであるまいか喃』
コル『ヤ、親方様、決して御心配の御心遣は要りませぬ。何程ナイスの美人のシャンのダリヤ姫だつて、あんなヒヨツトコ面には恋慕して惚れる気遣はありませぬよ。又仮りに、よしんばバルギーが恋慕して惚た所で、ダリヤ姫は諾と首を縦に振つて承諾して靡く気遣はありませぬ。必ず屹度要するに約まり即ちダリヤ姫に甘く誑され、荷物でも持たされて随行してお伴に行きよつたのですよ。何だか彼女の視線の目遣いが可怪しいと思つて居りました』
シャ『オイ、もう斯うなつちや此処に居る事は出来ない。まさかの時の用意としてあの山奥に建ておいたあの庵に行つて匿れようではないか。天真坊だつてあの女の居ない限り、此処へ帰つて来る気遣はない。さうすりや、よしやダリヤが云はないだつても天真坊が云ふに定つて居る。さうして沢山の乾児が居ても碌な奴は一人も無い。中にも少しましなのは貴様とバルギー位の者だが、それでさへ、こんなへまをやるのだから俺の大望も到底成功しない。グヅグヅして居るとカラピン王の耳に入り俺の命迄取りに来るかも知れない。サア此のバラック式の建物に火をつけて焼払ひ、貴様と俺とこの娘の三人、三里山奥の隠家に行かう』
コル『ハイ、大変な事に成つたものですな。併し天真坊は天真坊として自由行動の勝手なやり方をするとした所で、彼奴は放任して打つちやつておけば宜敷いが、二百人の部下の手下共は忽ち路頭に迷ふぢやありませぬか。親分は部下の生命の命を守つてやる決心のお心は無いのですか』
シャ『もはや今日となつては可愛さうでも仕方が無い。第一俺の生命が危くなる。サア貴様と俺と娘と三人此館に火をつけて此処を逃げ出さう。さうすれば、仮令カラピン王が沢山の兵を持つて攻めて来ても拍子ぬけがして、「ヤア山賊は何処かへ逃げた」位で帰るだらう。乾児の奴等も帰つて見た所で住家が無ければ自然に何処かへ散るだらう』
コル『親分、仮令家屋の家は焼棄して焼いて了つた所で、岩窟の岩窟が残つて居る以上は、又乾児の奴等が帰つて来て住居して住むかも知れませぬ。岩屋の岩窟を破壊して叩き破る訳にも行きますまい。焼棄して焼く訳にも行きますまい。此点は如何してどうしたらよいのでせう』
シャ『後は野となれ山となれだ。サア一時も早く吾身が危ない、此処を立ち去らう。オイ、スバール嬢、お父さまはいつもの隠れ家へ転宅するからお前もその用意をせい』
スバール『お父さま、妾いつ迄も此処に居り度いのよ。山水の景色が好いからねえ』
シャ『ウン』
コル『これこれお嬢様、千騎一騎の此場合、そんな緩慢な緩りした事を云つて貰つちや誠に困難して困りますよ。一時も早く此場を出立して立ち出でる事にしませう。向ふの朝倉谷に往けば、此処よりも幾層倍勝して風景の景色が宜敷い。サア参りませう』
スバ『お父さま、どうしても行かなくちやならないの。私もう暫く此処に居り度いのだけどなア。もう十日もすればダリヤの花が咲くのだもの。あの美しいダリヤの花の唇に吸ひ付いて遊びたいのよ』
コル『エヽお嬢さま、何と云ふ気楽な事を仰有るのだ。グヅグヅして居ると吾々三人の生命の命が無くなつて了ひますがな』
スバ『何故夫程お父さまやお前は怖がるの、二百人の乾児が居るぢやないか。何が来たつて是丈け居れば防げるぢやないか。あんな山奥の小さい庵へ行つて住むのは嫌だわ』
コル『家が小さうて嫌なら、大きな家屋の家を、僕、私、拙者が建築して建てて上げますわな』
スバ『そんなら一寸まアお父さまと一緒に行つて見ませう。嫌になつたら又此処へ帰つて来ますよ』
コル『ヤア、占た。親分さま、もう大丈夫です。お嬢さまの娘さまが行くと仰有いました。どうぞ歓喜して喜んで下さい』
 これより手近の必要品を取纏め、コルトンは大風呂敷に包んで背に負ひ乍ら主従三人嶮しき谷川の辺を辿つて、三里山奥の茅屋に隠れる事となつた。
(大正一三・一二・三 新一二・二八 於祥雲閣 加藤明子録)
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