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文献名1霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
文献名2第2篇 愛国の至情よみ(新仮名遣い)あいこくのしじょう
文献名3第11章 気転使〔1756〕よみ(新仮名遣い)きてんし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグオリオン座(オレオン星座) データ凡例 データ最終更新日2018-05-02 13:59:54
あらすじ
一方、都大路の中心では、公園内で浮浪階級大演説会が始まった。出口・入り口は多数の取締りで固められ、警戒ものものしい様子である。

浮浪階級演説会の会長・ブルドックはたいへんな勢いで演説を始めた。

世の中がこうも乱れた原因は、松若彦・伊佐彦の老中が私欲を満たそうと、衆生から搾り取っているためである。

この難しい世を切り抜ける唯一の手段は、世を暗がりにしている張本人を打ち切って棄てるより他に手立てはない。

神や仏はなにもしてくれない。ただ自分の腕力のみが頼りだ。

取り締まりはこれを聞いて中止・解散を命ずるが、弁士たちは応じず、大乱闘の騒ぎとなり、町々には火の手があがった。

するとそこへ侠客たちが消防隊を組織してやって来て、たちまち火災を消し止め、引き上げてしまった。

火事の騒ぎが収まると、群集はまたもや公園に集まり来たり、内閣倒壊、金持ち階級の討滅、清家階級の打破を叫びだした。再び取締も集まり、第二の闘争が始まり、ほとんど戦場のようになってしまった。

そこへ、白馬にまたがり、被面布で顔を覆い隠した女が宣伝歌を歌いながら現れた。

自分はオリオン星座より降り立った神の使い、松代姫である。

汝ら一同は皆、皇神の珍の子、兄弟である。争いあうとは何事か。

神の目から見れば、上に立つ者も下にいる者も、どちらも名利物欲を第一にしている。

どちらも神を忘れ、自らの魂のありかを忘却している。

人は神の子神の宮、天津国の聖霊が、神の御心を謹んで承り、この世の人と生まれ来ているのである。

このことを知り、悔い改め、上下貴賎の区別なく、心を合わせて珍の国を守るべし。

女は馬に鞭打ち、駈け去っていく。これは実は、松若彦の娘、常盤姫であった。常盤姫は春乃姫と示し合わせ、騒動を治めるために天使と化けて現れたのであった。

憲兵、取締、群集、主義者らは麗しい天使の出現に肝をつぶし、闘争をやめてただ呆然と女天使の後を見送っていた。

そこへまた、蓑笠、草鞋、脚絆のいでたちで、布で顔を覆い隠した女が、宣伝歌を歌いながら進み来た。

女は自ら春乃姫であると名乗る。

世の人々は上下の区別なく互いに合い親しんで、神の宝を分かち合い、満遍なく分配するのが神の決まりである。

この神の教えにすがって世を開くより道はない。

今や天の時が来た。上下各階級の人々よ、目覚めるべし。

歌い終わると、春乃姫と名乗る女は煙のように姿を隠してしまった。人々は春乃姫と聞いて感嘆し、取締も群集も文句も言わずに各々家路に帰り行く。
主な人物 舞台 口述日1924(大正13)年01月23日(旧12月18日) 口述場所伊予 山口氏邸 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1927(昭和2)年10月26日 愛善世界社版157頁 八幡書店版第12輯 331頁 修補版 校定版164頁 普及版66頁 初版 ページ備考
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本文  都大路の中心赤切公園の真中に浮浪階級大演説会が始まつた。数多の取締は出口入口を固め、角袖は聴衆一人に一人位な割合で数千人繰出し、物々しき警戒振を現はしてゐる。浮浪階級演説会の会長ブルドックは獅子の咆哮する如き声にて、
『取締何者ぞ、法規何者ぞ』
と云はむ許りの勢を以て、決死的大演説会を始めてゐる。
ブルドック『諸君よ諸君よよつく聞け  世は常暗となつて来た
 日月空に晃々と  輝き亘れど如何にせむ
 中空に村雲ふさがりて  さも晃々と輝ける
 光を包み隠しつつ  世は刈菰の涯てもなく
 紊れ行くこそうたてけれ  かくも乱れし原因は
 何処にあるかと尋ぬれば  諸君もすでに御承知の
 事とは思へど今茲に  一口火蓋をきり放つ
 四民平等の神国を  壅塞したる曲神は
 松若彦に伊佐彦を  先づ先頭に其外の
 諸の司や持丸よ  彼等は地位と私欲をば
 みたさむ為に衆生の  迷惑などは夢にだも
 弁へ知らぬ盲共  権威を笠に衆生の
 汗や脂を絞りつつ  倉廩充たす憎らしさ
 吾等衆生は飢に泣き  寒さに凍え枕する
 茅屋さへも無きままに  路傍に佇み眠りをれば
 さも横暴な取締が  法規違反と吐きつつ
 残らず吾等を牢獄に  投込み無限の恥辱をば
 与へゆくこそ憎らしき  霜ふり雪つむ冬の夜も
 又永久のものでない  必ず花咲き風薫り
 水も温みて草木の  百花千花咲き出づる
 嬉しき春の来る如  必ず吾等が身の上に
 恵の雨は降りぬべし  さはさり乍ら凩の
 吹すさびたる荒野原  越えずばいかで春の野の
 いと麗しき温光に  浴することを得べけむや
 深く根ざせる喬木の  幹をば払へ枝を切れ
 月日の光を覆ひかくす  醜の喬木ある故に
 地上にすだく諸草は  恵の露を遮られ
 神の光をかくされて  いや永久に日蔭者
 同じ地上に生ひ乍ら  所を得ざる吾々は
 一生つまらぬ者ぞかし  此難関を切りぬける
 唯一の望みは天空を  封じて立てる喬木の
 枝葉を打切り棄つるより  他に手段はなかるべし
 振へよ起てよ諸人よ  いかなる圧迫来る共
 十手の鞭の数多く  芒の如くに攻め来とも
 命を的に放り出した  吾等はいかでか恐れむや
 天の御声を汝等に  伝達致すブルドック
 語を替へ言へば救世主  吾言の葉を耳さらへ
 完全に委曲に聞きおうせ  眠れる眼を醒ませよや
 これ程曇つた世の中を  神や仏は何してる
 察する所神と云ひ  仏といふも道法衆の
 一時の方便に過ぎなかろ  俺等は最早神仏を
 表にかざして臨む共  絶対的の無神論
 神も仏も認めない  只吾持てる腕力を
 唯一の力とするのみぞ  勇めよ勇め諸人よ
 吾言霊を諾ひて  此世を救ふ働きに
 参加を望む人たちは  怯めず臆せず壇上に
 登つて所信を吐露せよ  此世を此儘おいたなら
 吾等世界の弱者等は  亡びゆくより道はない
 すべて最後の解決は  運根鈍に限るぞよ』
と述べ立てる。取締は「中止解散を命ず」と大声叱呼する。弁士は次から次へと取締の制止を聞かず登壇して各自に熱をふく。取締は引摺り落さうとする。忽ち数千の取締と数千の聴衆との間に大格闘を演じ、何者の悪戯か、彼方此方の町々より、黒煙濛々と立上り、チヤン チヤン チヤンと警鐘乱打の声聞え来る。取締も群衆も狼狽の極に達し右往左往に散乱して為す所を知らなかつた。其処へ馬に跨つて、愛州、源州、平州、藤州は数多の部下を指揮し、消防隊を組織して、燃え上る火災を残らず消しとめ、喇叭を吹いて悠々として引あげて了つた。火事もすみ、騒動も稍おさまつた所へ、取締所のポンプが数多の取締に保護されてやつて来た。一旦逃げ散つた群衆は又もや赤切公園に集まり来り、再び演説会が開催された。弁士は代る代る熱弁を揮ひ、伊佐彦内閣倒壊、持丸階級の討滅、清家階級を打破せよなど勝手な熱を吹き立てる。群衆は刻々其数を増し、ワイワイとどよめき亘り、弁士の声も遂に耳に入らなくなつて了つた。取締も亦次第々々に其数を増し、十重二十重に取まいて、茲に第二の修羅場を演出した。今回の闘争は最も激烈を極め、阿鼻叫喚の声四方に起り、殆ど戦場の如き景況を呈し、何時果つべしとも見当がつかなかつた。賢平も取締も武器を衆生に取られ進退維れ谷まり、逃場を失ひ困つて居る。そこへ白馬に跨り、被面布を被り乍ら、声も涼しく宣伝歌を歌つて出て来た女性がある。
『オレオン星座を立ち出でて  豊葦原の中津国
 珍の都へ天降りたる  神の使の松代姫
 此世を救ふ其為に  白馬に跨り現はれて
 衆生一同にさとすなり  皆静まれよ静まれよ
 汝等一同皇神の  恵の露に包まれし
 尊き誠の珍の子ぞ  兄弟垣に鬩ぐとは
 何たる心得違ひぞや  遥に天より此世界
 聖き眼で見わたせば  上に立つ者下にゐる
 民草どちらも良くはない  互に意地を立通し
 名利物欲第一と  思ひひがめて肝腎の
 吾魂を省みず  いと浅ましき修羅場を
 ここに現出したものぞ  何れも一同心をば
 静めて神の教を聞き  天教山に現れませる
 木花姫の御言もて  珍の御国の衆生をば
 天国浄土に救はむと  今や現はれ来りけり
 松若彦を初めとし  伊佐彦司の政策は
 全く時勢を顧みぬ  無謀至極の行方ぞ
 下万衆の心根も  神をば忘れ肝腎の
 吾魂の所在をば  忘却したる酬ひぞや
 人は神の子、神の宮  天津国より精霊が
 神の御心畏みて  此の世の人と生れ来る
 其肉体を有ち乍ら  此有様は何事ぞ
 人たる者の所作でない  虎狼か熊猪か
 但しは八岐の大蛇奴か  譬がたなき醜体を
 天地にさらせし浅ましさ  悔い改めよ諸人よ
 上と下との隔なく  貴き賤き別ちなく
 心を協せ力をば  一つになして珍の国
 神の賜ひし霊国を  堅磐常磐に守れかし
 いざいざさらばいざさらば  吾は之より八重雲を
 かきわけ天に昇り行く  万一神の言の葉に
 反く衆生のありとせば  神罰忽ち下るべし
 あゝ惟神々々  皇大神の御心を
 茲に伝達なし了る』
と云ひ乍ら、馬に鞭ち浅原山の山頂目がけて雲を霞みと駆り行く。今現はれた松代姫と称する女武者は其実松若彦の娘常磐姫であつた。常磐姫は春乃姫と諜し合せ、奇智を弄して天使と化け込み、一時の擾乱を平定せしめむが為に現はれたのである。
 賢平も取締も群集も酒偽者も、神を信ずる者も信じ無い者も、麗しき美人の出現に胆を潰し、猛り切つたる勢を削がれ、争闘の手を止めて、只茫然と浅原山を指して逃げ行く怪しき女の姿を見送つて居た。
 斯かる所へ蓑笠草鞋脚絆の扮装にて、被面布を被り乍ら、声も涼しく宣伝歌を歌ひつつ進み来る女がある。
『神が表に現はれて  三千世界を引ならす
 すべて此世は天地の  神の造りし楽園ぞ
 此地に生ふる人草は  貴き卑きの隔てなく
 互に睦び親しみて  神の賜ひし宝をば
 互に別ち万遍なく  分配すべき御律ぞや
 一方に高く宝をば  積み重ぬれば一方は
 必ず欠けて低くなり  一方に楽む者あらば
 一方に苦む者出来る  之では平和と云はれない
 今や天運循り来て  高砂城の奥深く
 救ひの神は現はれぬ  吾は春乃の姫なるぞ
 この衆生の難儀をば  救ひやらむと朝夕に
 凡ての宝を打捨てて  模範を示し蓑笠を
 身に纒ひつつ町々を  巡りて誠を諭せ共
 清家階級持丸は  欲にからまれ目はさめず
 耳は塞ぎて衆生の  此号泣の悲鳴さへ
 分らぬ迄になり果てぬ  あゝ惟神々々
 モウ此上は神様の  御手にすがりて黎明の
 世を開くより道はない  目ざめよ目ざめよ上下の
 各階級の人々よ  天津国より皇神の
 御言を畏み下り来て  国依別の御子となり
 今迄城中に育ちしが  いよいよ天の時来り
 神の柱と現はれて  汝ら衆生に説き教ゆ
 あゝ惟神々々  神の言葉に二言なし
 悔改めよ戒めよ』
と云つたきり、煙の如く何処とも無く姿を隠した。群衆は異口同音に春乃姫と聞いて感歎の言葉を絶た無かつた。負傷した役人も衆生も、一言の叱言も云はず各家路に帰り行く。果して今後は春乃姫の出現に依りて衆生の心が鎮静し、取締と衆生との争闘の根が断たれるであらうか。
(大正一三・一・二三 旧一二・一二・一八 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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