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文献名1霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
文献名2第4篇 新政復興よみ(新仮名遣い)しんせいふっこう
文献名3第19章 老水〔1764〕よみ(新仮名遣い)ろうすい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-09-11 14:41:47
あらすじ
秋山別より先に行ったモリスは、木株につまづいて倒れ、老体のこととて、息も絶え絶えになってしまう。

その様を見かねて、春子姫はモリスの手当てをする。モリスは息を吹き返すが、自分を助けてくれたのが春子姫とは知らず、うわごとに春子姫を責める。

後から秋山別は追いついて、倒れているモリスと合流する。二人はとうてい姫に追いつけないと判断し、辞職を覚悟で家路についた。
主な人物 舞台 口述日1924(大正13)年01月25日(旧12月20日) 口述場所伊予 山口氏邸 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1927(昭和2)年10月26日 愛善世界社版263頁 八幡書店版第12輯 369頁 修補版 校定版277頁 普及版66頁 初版 ページ備考
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本文  秋山別、モリスの両老は、先に高倉城の世子国愛別の脱出を気附かざりし責任を負ひ、惜くてならぬ地位を表面上、責任を負うて辞任すると云つて、辞表を提出し、楓別命より……それには及ばぬ。今後は気をつけて、国家に忠勤を励めよ……との、優握なる箴言を辱なうし、やつと胸を撫で下ろし、恋々たる元の地位に居据り、之で天下太平とタカをくくつてゐた所、又もや妹君清香姫の思想が何となく異様に感ぜられたので心配でならず、過を再びせば、今度こそは切腹してでも申開きをせなならないと両老は、夜半にも拘らず、姫の身辺に注意を払つてゐた。にも拘らず、月夜に釜をぬかれた様な驚きに会ふて、心も心ならず、こんなことを他の役人に悟られては、自分の地位が危い、幸ひ夜明けには少しく間があるのだから、今夜の内に姫の所在を尋ね、ソツと城中へ迎へ入れておかむものと、杖を力に転けつ輾びつ、裏門口より馬場の木立を縫うて、ウントコ ドツコイ ドツコイと蛙が跳たやうなスタイルで、息もせきせき追つかけて行く。
 秋山別は足拍子を取り乍ら歌ふ。
『ハアハアウントコ ドツコイシヨ  高倉城の重臣と
 世間の奴から敬はれ  最大権威を掌握し
 大老の地位にすわりつつ  国愛別の若君に
 スツパぬかれて、ドツコイシヨ  禿げた頭を台なしに
 めしやがれ鼻をねぢられて  どうして大老の顔が立つ
 是非がないので表向  進退伺辞職願
 ソツとコハゴハ出してみたら  仁慈無限の国司様
 決してそれには及ばぬと  お下げ下さつた嬉しさよ
 ヤツと胸をば撫で下ろし  お務め大事と朝晩に
 心を配り薬罐に  湯気を立てつつ見守れば
 しばしは無事に過ぎたれど  隙間を狙ふ魔の神が
 又もや館に現はれて  大事の大事の姫様を
 甘言以て唆のかし  引ぱり出したに違ない
 まだ夜があけるに間もあれば  一生懸命御行方を
 捜しあてずにおくものか  オイオイ モリスしつかりせい
 今日が命の瀬戸際だ  ウントコドツコイ、ハアハアハア
 喉がひつつき息つまる  よい年してからこんな苦労
 なさねばならぬ二人の身  ホンに因果な生れつき
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  四方八方に気をつけて
 人間らしい影みれば  取つつかまへて査べあげ
 否応いはさず連れ帰り  ソツと二人が脂をば
 取つておかねば此後の  懲戒にならないドツコイシヨ
 老眼鏡が曇り出し  一寸先も分らない
 眼鏡をとれば尚見えぬ  進退ここに谷まつた
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  アイタヽタツタ木の株に
 足をつまづき脛むいた  ウンウンウンウン あゝ痛や
 腰の骨迄ギクギクと  下らぬ小言をいひ出した
 アイタヽタツタ アイタツタ』
 モリスは倒れてゐる秋山別を抱き起し、介抱しておつては姫の行方を見失ふ。それだと云つて、みすみす友達をすてて行く訳にもゆかず、一間程前へ走つてみたり、後へ戻つたり、幾度も進退をしてゐる。
秋山『オイ、モリス殿何をして厶る。第一線が破るれば、第二線が活動するは兵法の奥義では厶らぬか。拙者に構はず、トツトと出陣なされ。間髪を入れざる此場合、早くお出でなされ。此秋山は殿となつて、そこらの木蔭や叢を捜しつつ行くで厶らう、サア早く早く』
とせき立てられ、
モリス『成る程、あとは貴殿にお任せ申す  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 昔の罪がめぐり来て  又もや女で苦労する
 己れの恋では無けれ共  悪い奴めが飛んで来て
 こいこいこいと姫様を  つれ出しやがつたに違ない
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  グヅグヅしてゐちや夜があける
 早く所在を捜し出し  とつつかまへて元の鞘
 をさめておかねば吾々の  大きな顔は丸潰れ
 皺腹切らねばならうまい  すまじきものは宮仕へ
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  臍の緒切つて八十年
 これだけ辛い事あろか  秋山別の腰抜は
 芝生に倒れてウンウンと  脛腰立たぬ浅ましさ
 とは云ふものの俺だとて  最早呼吸がつづかない
 オーイ オーイ姫様よ  オーイ オーイ春子姫
 そこらに居るなら俺達の  心を推量した上で
 あつさり姿を現はせよ  オーイ オーイお姫さま
 決して叱りはせぬ程に  一号二号三号四号
 五号(合)の写真気にくはにや  一升でも二升でも捜します
 オーイ オーイお姫さま  雀百迄牡鳥を
 忘れぬためしも厶ります  何程頑固なモリスでも
 恋には経験持つてゐる  貴女の決して不利益な
 話はせない村肝の  心を安んじ吾前に
 あつさり現はれ下さんせ  高倉城の大騒動
 ヒルの国家の大問題  恋しき父と母上を
 見捨てて出るとは不孝ぞや  序に私も不幸ぞや
 フコウ峠の麓迄  かからぬ内に姫様を
 どうしてもこしても捉まへて  皺面立てねばおくものか
 ウントコドツコイ、アイタヽヽ  俺も秋州の二の舞だ
 木株につまづき向脛を  尖つた石ですりむいた
 ウンウンウンウン アイタヽヽ  アイタヽタツタ、アイタツタ』
と云つたきり、其場に息も細つて倒れて了つた。
 春子姫は少し横側の灌木の茂みに、姫に追ひつき、息を休めてゐたが、此態を見て気の毒がり、小声で、
『姫様、今倒れてゐるのはモリスぢやありませぬか。あゝしておけば、縡れて了ひませう、介抱して助けてやりませうか』
清香『あ、助けてやらねばならず、助けてやれば妾の目的が立たず、どうしたら可からうかな。みすみす老臣を見殺しにして迄、逃げ去る訳にもゆかず、困つた事が出来たものだ。春子、其方、そろそろモリスの介抱をしてやつて下さい。余り早く呼び生けると、妾が逃げる間がないから、そこは時を計つて縡れない様に、そろそろ急いで助けてやつて下さい。其間に妾は逃げのびますからね』
春子『成る程よい御考へで厶います。私がモリス其他の役人が何程参りましても、一歩も之から南へ行かぬやうに、喰ひとめますから御安心なさいませ』
清香『何分頼みます、左様なら……』
と金剛杖を力に走り出した。夜はガラリと明けて小鳥の声四方八方より聞えて来る。春子は、
『姫様、キツト後から参ります』
と声をかけた。清香姫は二三回うなづき乍ら、密林の中に姿を隠した。春子はモリスの側に立寄り見れば、体をピコピコ動かせ、幽かな息をしてゐる。忽ち水筒の水を口に含ませ、背を三つ四つ叩いて、三五の大神を念じ、『一二三四五六七八九十百千万』と天の数歌を奏上した。五分間程経た後、モリスは『ウーン』と一声唸つて、頭をソツと擡げ、老眼を開いて、
『あゝ秋山別か、能う助けてくれた。何分年がよつて、足が脆いものだから、此通りむごい目に会うたのだ。あゝ目が眩む、まア暫く此処で息を休めねばなるまい。清香姫様は、こんな無謀な事はなさる筈はないが、侍女の春子の奴、彼奴が張本人だらう。オイ秋山、姫様に小言いふ訳にいかぬから、以後の懲戒に、春子の奴を牢屋へでもブチこんで辛い目をさしてやらねばなるまいぞ、ウンウンウン』
 春子は之を聞くより、モリスの懐からタヲルを取出し、目からかけて、頭をグツと縛り、モリスの命は大丈夫と、一生懸命に姫の後を尋ねて走り出した。
 秋山別は足をチガチガさせ乍ら漸くにしてモリスの側迄やつて来た。
秋山『ヤア貴殿はモリス殿では厶らぬか。テも偖も大怪我をなさつたとみえる。其鉢巻は何で厶る』
モリス『此鉢巻は貴殿がさしてくれたのでは厶らぬか。一命すでに危き所、お助け下され、誠に感謝に堪へませぬ。持つべき者は同僚なりけりだ。お蔭で足の痛みも余程軽減致した』
秋山『決して、拙者は貴殿を助けたのではない。漸うの事、此処迄辿りついた所で厶る。察する所、貴殿は何人かに救はれたので厶らう』
といひ乍ら鉢巻を外す。
モ『何だか柔かい手だと思つてをつた。さうすると、拙者を助けてくれたのは貴殿では厶らぬか。何はともあれ命拾ひをして結構で厶る』
秋山『斯う夜が明けて了へば、捜索の仕方もなし、大老ともあらう者が、供もつれずに、ウロついて居つては却て疑ひの種、何とか善後策を講じようでは厶らぬか』
モ『左様で厶る、職務上捨おく訳にはいかず、だと申して、斯う日の照るのに、吾々が姫の捜索もなりますまい。兎も角間道よりソツと吾家へ帰る事に致しませう。秋山別殿、拙者と変り、貴殿は感慨無量で厶らうのう。貴殿の御賢息、菊彦殿の掌中の玉を逃がしたも同様で厶れば、御愁傷の程、察し申す。最早吾々両人は之限り城中へ出入せない覚悟をきめれば可いでは厶らぬか。老先短い吾々、何時までも骨董品だ、床の置物だと、機械扱をされて、頑張つておつても詰り申さぬでないか。吾々両人が退職さへすれば、政治の方針は悪化するかも知れないが、マア兎も角人気が一変してそれが却てお国の為になるかも知れませぬぞ、秋山殿如何で厶る』
秋山『一度ならず、二度迄も大失敗を重ね、大老として、どうして之が国司に顔が合はされうぞ。又衆生に対しても言ひ訳が厶らぬ。貴殿のお言葉の通り、各自館に帰り辞表を呈出致し、責任を明かにするで厶らう。皺つ腹を切つて切腹すれば腹は痛し、惜い命がなくなる道理、何程顕要の職務だといつても、命には替へられ申さぬ。アツハヽヽヽ』
モ『早速の御賛成、モリス満足で厶る。然し乍ら斯う足が痛んでは、どうする事も出来申さぬ。一町許り後へ返せば、そこに谷水が流れてゐる。其水でも呑んで息をつぎ、ボツボツ帰館致すで厶らう。秋山殿、気の毒乍ら、拙者の手を取つて下され。どうも苦しうてなり申さぬ』
秋山『老いぬれば人の譏りもしげくなりて
  足腰立たぬ今日の苦しさ』

モ『身体はよし老ゆる共精霊は
  いと美はしく若やぎ栄ゆ』

秋山『脛腰も立たぬ身乍ら何を云ふ
  清麗の水でも呑んで息せよ』

モ『そらさうだ何程元気に云ふたとて
  争はれない年の阪路』

秋山『海老腰に、なつてピンピンはねたとて
  買うてくれねば店曝しかな。

 又しても清香の姫に逃げられて
  二人はここに泡を吹くかな』

 かく口ずさみ乍ら、漸くにして一町許り引返し、谷川から流れてくる清水の溜の側へと着いた。
モ『老の身の霊うるほす清水かな。
 此清水人の命を救ふらむ』
秋山『われも亦清水むすばむ夏の朝。
 汗となり力ともなる清水かな。
 年寄りの皺迄伸びる清水かな。
 此の上は帰りて何も岩清水』
モ『水臭い姫に逃げられ清水呑む。
 春子姫吾を救ふて逃げて行く』
 秋山『サア早く家に帰らむ二人連れ』
 かく口ずさみ乍ら両老は杖を力に城の馬場の間道から、力なげにトボトボと帰つて行く。
(大正一三・一・二五 旧一二・一二・二〇 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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