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文献名1霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
文献名2第1篇 花鳥山月よみ(新仮名遣い)かちょうさんげつ
文献名3第7章 妻生〔1774〕よみ(新仮名遣い)さいせい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-11-30 15:11:07
あらすじ
汚く醜いあばら家も、御霊の相応によって、高姫とキューバーには美しい御殿のように見えるのであった。

そして、いつのまにかキューバーの目には高姫が千草姫のように見えてきた。一方、高姫にはキューバーが時置師の杢助に見えてきた。お互いに思う人の幻影を見つつ、二人は辻褄の合わない勝手な応答をしながら、抱擁して眠ってしまった。

外にいたトンボは石を拾って手当たり次第に投げつける。キューバーと高姫は怒ってトンボを追いかける。トンボは八衢の関所の門につきあたって倒れ、つかまってしまう。

トンボは自棄になって二人の悪行をののしりたてる。その声に、八衢の門の守衛が出てきて、三人が居るのは冥土であることを諭す。そして、高姫の宿るべき肉体は千草姫であることを告げる。

途端に、キューバー・高姫ははっと気づくと、トルマン城の千草姫の部屋に倒れていた。こうして千草姫の肉体に高姫の精霊が入り込んだのである。これより姫の言行は一変する。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月23日(旧07月4日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版86頁 八幡書店版第12輯 421頁 修補版 校定版88頁 普及版45頁 初版 ページ備考
OBC rm7007
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本文  軒は傾き屋根は破れ、蝶も蜻蛉も蜂も雀も雨も、屋根から降つて来る所迄茅葺の屋根が煤竹の骨を出して居る。雨戸は七分三分に尻からげたやうに風に喰ひ取られ、障子はづづ黒く棧毎に瓔珞を下げ、風吹く度に自由に舞踏をやつて居る。湿つぽい畳は、表はすつかり破れ、赤ずんだ床許りが僅に命脈を保ち足踏み入るるも身の毛のよだつやうに見苦しい。さうして何とも仮令やうのない異様な臭気が鼻を衝く。されど、高姫やキユーバーの目には此茅屋が金殿玉楼の如くに見え、異様な臭気は麝香の如くに、想念の情動によつて感じ得らるるのも妙である。牛糞の味も牡丹餅の如く感じ、馬糞の臭もお萩の如く、いと満足に喉を鳴らしてしやぶるのだから耐らない。口の欠けた燻ぼつた土瓶に籐の蔓の柄をつけ、屋根から釣るした煤だらけのてんどりに引つかけ、牛糞を焚いて茶を温め乍ら、二人は嬉々として他愛もなくふざけて居る。御霊の相応と云ふものは実に不思議なものである。
 此高姫さまは、キユーバーの目には、一寸見た時には婆さまのやうに見えたが、何時の間にか、トルマン国の王妃千草姫のやうな美人に見えて来た。又高姫の目では団栗眼の烏天狗のやうな、口の尖つた不細工なキユーバーの顔が何とも知れぬ凛々しい、時置師の杢助に見えて耐らない。高姫は鼠髯のやうに皺のよつた口をつぼめ乍ら、しよな しよなと体をゆすり、
高『これ杢助さん、否高宮彦殿、ようまあ化けたものですなあ。あの四つ辻で会つた時は、左程でもない遍路だと思ふて居たに、かうさし向うて篤くりとお顔をみると、まぎれもない高宮彦様だわ。もし私は高宮姫で御座いますよ。何ですか他々しい。他人らしい其振舞は措いて下さい。何程貴方が出世して偉くなつたつてやつぱり私の夫ですよ』
キユ『お前は高宮姫と改名したのか、何でも千草姫と云ふ名だつたと思ふがな』
高『あのまあ杢チヤンの白々しい事。それ貴方とあの御殿でお約束して高宮姫と改名したぢやありませぬか。貴方だつて其時高宮彦と改名されたでせう』
キユ『ハテナ、お前はどうしても千草姫に違ひない。妙な事を云ふぢやないか。併し乍ら、名はどうでもよい。心と心さへぴつたり合うて居ればそれで十分だ』
と二人は互ひ違ひに主をかへ、嬉々として意茶つき始めた。
高『もし貴方、あれから私に別れて何処を歩いてゐらしたの。私どれ程尋ねて居たか知れませぬわ』
キユ『私はな、デカタン高原のトルマン国へ根拠を構へ、お前を一目見てから目にちらついて耐らず、何とかして会ひたい会ひたいと心を焦して居る矢先、お前がトルマン王の妃になつて居るものだから手の附やうがなく、百方手段をもつてたうとうお前に近よる事が出来、永らくの恋の暗を晴らす事を得たのだ。サアこれからお前と私と心を合せ、トルマン国を手に入れ、七千余国の月の国を蹂躙して見ようぢやないか。到底科学的文明の極点とも云ふべき現代を救ふのには、単なる説教や演説や祈祷のみにては功を奏しにくい。自ら王者の位置に立ち軍隊を片手に握り、一方には剣、一方にはコーランをもつて人心を治めなくては宗教も政治も嘘だ』
高『成程、貴方のやうな智勇兼備の神人は世界に御座いますまい。あゝ三年が間、此の山のほてらで苦労したのも貴方に会ひたい許り、いよいよ時節が来たのかなあ』
と互に辻褄の合はぬ勝手な応答をし乍ら、八味の幕を下して抱擁したまま睡りについて了つた。外に立つて居たトンボはやけて耐らず、小石を拾つて戸の破れから幾つともなくボイボイと投げ込んだ。小石は釣り下げてある土瓶の腹を割つて、二人の寝て居る足の上にパツと小便を垂れた。高姫は驚き跳起き乍ら声を震はせて、
『これや、天下の救世主が種を蒔きよるのに何をするか。何者だ、名を名乗れ』
と呶鳴り立てる。トンボは外から、
『ワハヽヽヽヽヽ石を投げたのは此トンボさまだ。これや婆々、今にこの家を叩き壊してやるからさう思へ。俺も一つは性念が有るぞ』
と又もや雨の如く両手に小石を掴んで投げ込む危ふさ。石は戸棚や水屋にぶつかつて、カチヤカチヤ パチパチ ガランガランと瀬戸物迄が滅茶々々になる。高姫、キユーバーの二人は危くて成らず、表戸を引きあけ『コレヤー』と呶鳴る勢に、トンボは骨と皮との体を、尻をまくりながら、ドンドンドンと逃げ出す。高姫とキユーバーは追ついて素首引掴み懲して呉むと真裸の儘、トンボの後を息をはづませ、青い火の玉となつて追つかけ行く。
 トンボは八衢の関所の門口に来り、慌てて黒門にどんとつきあたり、アツと云つた儘其場に倒れた。キユーバー、高姫の二人は皺枯声を張上げ乍ら、ホーイホーイ、ホイホイホイとド拍子もない声を張上げて追かけ来り、トンボの倒れて居る姿を見て痛快がり、
高『ホヽヽヽヽヽこれ杢チヤン、天罰と云ふものは怖ろしいものでは御座いませぬか、ねえ貴方。私と貴方が神代から伝はつた、青人草の種蒔の御神楽を勤めて居るのを岡焼して、石を投げ込んだトンマ野郎ぢや御座いませぬか。これやトンマ、確りせぬかい、生宮さまの御神力には畏れ入つたか』
 トンボは漸く気がつき、
『お前さまは生宮さまぢやないか。こんな役所の門前迄来て人の恥をさらすものぢやありませぬぞや。何卒悪口だけは耐へて下さい。私だつてまだ末の長い人間、これからまた世に立つて一働きせなくてはなりませぬ。お役人の耳へ私の悪口が入つたら最後、何処へ行つても頭は上りませぬからねえ』
高『ヘン、これや なーにをぬかして居るのだい。自業自得ぢやないか。お前のやうなものを此世の中に頭を上げさせておこうものなら、世界は暗雲になつて了ふぢやないか。それだからお役人に聞えるやう、一入大きな声で云つたのだよ。何とまあ情なささうな顔わいのう』
ト『これや婆々、もう俺も破れかぶれだ、何なりと悪口をつけ。その代り貴様の秘密をお役人の耳に入るやう大声で素ツ破ぬいてやる』
キユ『これやこれやトンボとやら滅多な事は云ふまいぞ。貴様のやうな三文やつこなら、仮令よく云はれても悪く云はれても余り影響はない筈だ。然し乍ら吾々如き救世主の、仮令嘘にもせよ悪口を申すと、世界救済の事業の妨害になるのみならず、其罪は忽ち廻り来つて吊釣地獄に墜ちるぞや』
ト『ヘン放つといて下さい。お前さまは此婆々と炉の辺で、とんでもない種蒔行事を演じて居たぢやないか。それあの醜体を……もしもしお役人様、此奴等二人は天則違反の大罪人で御座います。何卒か御規則に照し、地獄へ打ち込んで下さい。さうしてウラナイ教とか、スコ教とか云つて悪神の教を天下に拡めようとする餓鬼畜生で御座います。私が証拠人になります。何卒此奴等二人を厳しく調べて下さい』
と力一ぱい呶鳴り立てる。
キユ『これやこれやトンボとやら、教主や生宮を罵る罪は軽けれど、教の道を罵る罪は万劫末代許されないぞ。謗法の罪の重い事を知つて居るか』
ト『ヘン偉さうに云ふない。謗法の罪なんて俺やどこでもやつた事は無いわ。貴様等両人こそ方々で悪い事をやつて来た代物だ。もしお役人様、大罪人を二人茲へ引張つて来ました。早く来て下さらないととんぼう(遁亡)致します。早く早く』
と呶鳴つて居る。赤白両人の守衛は此声に訝り乍ら、門を左右に開き外に出て見るとこの体裁、
赤『これやこれや今日は公休日だ。なぜ矢釜しく申すか。訴へ事があるなら明日出て来い、聞いてやらう』
ト『もしお役人さまに申し上げます。天下を乱す彼様な大悪人を現在目の前に眺め乍ら、公休日だから調べないなぞと、そんなナマクラな事を云うてお役人が勤まりますか。日曜迄月給は頂いて居られませう。一寸でよいからお調べ下さいませ』
赤『や、お前はバラモンのリユーチナントではないか。未だ修養も致さず、八衢に迷ふて居るのか、困つた奴だなあ』
ト『もしお役人さま、面白い事を仰有いますなあ。冥途かなんかのやうに現界に八衢が御座いますか』
赤『ここは冥途の八衢だ。其方は鬼春別将軍の一旦部下となり、軍隊解散の後、泥棒となつて四方を徘徊致し、或勇士の為に殺され、精霊となつて此所へ来て居るのだ。それが未だ気が附かぬのか』
ト『ヘン、余り馬鹿にしなさるな。些と真面目になつて下さい。私は狂者ぢや御座いませぬよ。死んだ者がこの如うにものを云ひますか。目も見えず耳も聞えず、口もたたけず、手足も動けなくなつてこそ死んだのでせう。ヘン馬鹿にして居る。こんな酒を喰つて顔色迄まつ赤にした奴の酒の肴になつて居てもつまらない。今日は帰つてやらう。その代り明日は見ておれ、貴様の上官に今日の事を一伍一什訴へるぞ。さうすると貴様は忽ち足袋屋の看板足あがり、妻子のミイラが出来るぞや、ハヽヽヽヽヽ』
と捨台詞を残し、道端の石を掴んでキユーバー、高姫目当に打かけ乍ら、入陽の影坊師見たやうな細長い骸骨を宙に浮かせ、北へ北へと逃げて行く。
赤『ヤ、そこに居るのは高姫ぢやないか。お前は時置師の杢助さまに頼まれ、三年間この八衢に放養して置いたが、未だ数十年の寿命が現界に残つて居る。到底霊界の生活は許されない。お前の宿る肉体はトルマン王の妃千草姫の肉体だ。サ一時も早く立ち去れ。又キユーバー、汝は天下無比の悪党であるが、まだ生死簿には寿命がのこつて居る。一時も早く現界へ立ち帰れ。グヅグヅ致して居ると肉体が間に合はなくなるぞ』
と厳しく言ひ渡した。二人はハツと思ふ途端に気がつけばトルマン城内、千草姫の一室に錠前を卸して倒れて居た。どことも無く騒々しい人馬の物音、矢叫びの声、大砲小銃の音手に取る如く聞え来る。是より千草姫の言行は一変し、又もや脱線だらけの行動を取る事となつた。八衢に居た高姫の精霊は己が納まるべき肉体を得て甦つたのである。
(大正一四・八・二三 旧七・四 於由良海岸秋田別荘 加藤明子録)
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