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文献名1霊界物語 第71巻 山河草木 戌の巻
文献名2第3篇 惨嫁僧目よみ(新仮名遣い)さんかそうもく
文献名3第17章 夢現神〔1806〕よみ(新仮名遣い)むげんしん
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
コブライ・コオロの両人は、命からがら穴から抜け出すことができた。二人は怒りの歌を歌いながら、黄金を取り戻そうと玄真坊を追いかけて行く。

そのうちに二人は原野の中で眠りこけてしまった。すると、夢うつつに白衣の神人が現れ、豊玉別命であると名乗る。

豊玉別命は、二人が怒りに捕らわれ、また黄金を目当てに玄真坊を追いかけていることを咎め、諭す。

二人は悪人として生まれついているのだから、悪に徹するつもりだと答えるが、豊玉別命は、どんな悪人であっても悔い改めることで悪を消し去り、善に向かうことができるものだ、と諭す。

そしてミロク大神の世の到来、三五の大神の信仰、惟神の名号を二人に授け、善事を行うように、と教えて消え去った。

コブライとコオロは、泥棒をきっぱりやめて修験者となり、七千余国の霊場を巡礼しようと決めた。二人は宣伝歌を歌いながら、スガの港を指して歩いていく。
主な人物 舞台 口述日1926(大正15)年02月01日(旧12月19日) 口述場所月光閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1929(昭和4)年2月1日 愛善世界社版231頁 八幡書店版第12輯 585頁 修補版 校定版241頁 普及版113頁 初版 ページ備考
OBC rm7117
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本文  千草の高姫、玄真坊の二人の計略にウマウマとかけられ穴の中に生埋にされたコブライ、コオロの両人は命カラガラ穴から這ひ出し、泥まぶれになつて息をつき乍ら、
コ『オイ、コオロ、どてらい目に遇はせやがつたぢやないか、狸坊主と狐女郎奴が。本当にいい馬鹿を見たぢやないか』
コオ『本当に俺やもう、憎らしうて堪らぬワイ。然しあの女は何処ともなしに可愛い奴だ。仮令生埋にされて死んで了つても元々ぢやないか。憎らしいのは彼の玄真坊だ。之から何処々々迄も後追つて生首引捉へ腹癒せをしようぢやないか』
コブ『ウンウン、そりやさうだ、俺等を助けて呉れた千草姫が俺等を殺す筈はない、玄真坊が千草姫の前で旧悪を云はれちや男前が下がると思つて、俺等を亡きものにさへすれば如何な事も出来ると思つて、あんな悪虐無道の事をしたのだらう。さア之から後追駆け生首を引抜き、千草姫の前で赤恥をかかせにや腹が癒えないワ。千草姫だつて、彼んなヒヨツトコ男に心からラブしてゐさうな筈が無い。屹度懐のお金を捲き上げられたら頭から青洟を垂れかけられるか、睾丸をギユーツと締めつけられてフンのびる位が関の山だらうよ、ウツフヽヽヽヽ』
コオ『兎も角こんな所で小田原評定やつた所で、はじまらぬぢやないか、さア之から彼奴の後追つて仇討ちと出かけやう』
コ『後追かけようと云つたつて、何方に逃げたか分らぬぢやないか』
コオ『ナニ、この木の端切れを道の真中に突つ立てて倒けた方に行つて見よう。屹度そつちに居ると云ふ事だ』
コ『そら、さうかも知れぬのう』
と云ひ乍ら木片を拾ひ真直に立てて離して見た。木片は南へバタリと倒れた。之より両人は月夜の道を南へ南へと駆けて行く。
両人『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 世の過ちは宣り直せ  などと教ふる三五の
 神の教は聞きつれど  どうしても見直し宣り直し
 聞直しさへ出来ぬ奴  世界に一つ見つかつた
 泥棒上りの玄真坊  オーラの山に立籠もり
 山子企んで失敗し  又も其辺をうろついて
 人を苦しめ女をば  悩ませ来る悪僧奴
 危い命を助けられ  落した金迄吾々に
 掘つて貰つて其恩を  仇で報うた曲津神
 何処へ失せたか知らね共  草を分けても尋ね出し
 恨を晴らさにや惜くものか  神が此世にゐますなら
 屹度善悪立別けて  玄真坊の曲神を
 懲し戒め給ふべし  とは云ふものの吾々は
 御気の長い神さまの  御罰のあたる時を待つ
 余裕は些も身に持たぬ  一時も早く玄真の
 生首引抜き仇をば  打たねば男の意地立たぬ
 アヽ憎らしや憎らしや  不倶戴天の仇敵と
 定めて之から両人は  四方八方に駆け廻り
 彼の在所を尋ね出し  命を取らいで措くものか
 アヽ憎らしや憎らしや  泥棒上りの玄真坊
 命を取らいで措くものか  アヽ憎らしや憎らしや
 一寸刻か五分試し  骨も頭も粉にして
 喰はねば虫が承知せぬ  アヽ腹が立つ腹が立つ
 今度の恨を晴らさねば  死んでも死ねぬ吾心
 憐み給へ自在天  大国彦の御前に
 真心籠めて願ぎ奉る  旭は照るとも曇る共
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 仇を討たねば措くものか  悪逆無道の玄真坊
 何処の果に潜むとも  神の力と吾々の
 熱心力に尋ね出し  彼が所持する黄金を
 スツカリ此方へ引奪り  最初の目的達成し
 男を立てねば措くものか  あゝ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
と云ひ乍ら蛙の行列向ふ見ずに形許りの細道を南へ南へと走つて行く。遥の前方にコンモリとした山蔭が見える。二人は芝生の上にドツカと尻を据ゑ、
コオ『オイ、兄貴、行途も無しに走つて居つた所で腹は空る、足は疲れる、如何する事も出来ぬぢやないか、一つ此処で考へて見ようぢやないか』
コ『やア、もウ、俺もコンパスが動かなくなつて来たのだ。仇の所在も分らないのに此広い田圃を走つた所で雲を掴む様な話だ。思へば思へば馬鹿らしいぢやないか。俺等は斯う南へ南へと走つてゐるのに、彼奴等は反対に北へ北へと走つたとすれば、きばれば、きばる程遠退く道理だ、此奴ア一つ考へねばなるまいぞ』
コオ『それでも杖占をやつたら南へ倒けたぢやないか。吾々は南へ走るより仕方はないのだ。アヽ斯うなると犬が恨めしい哩。俺が若し犬だつたら、彼奴の行つた後を嗅付けるのだけど、此人間様の鼻ぢやカラツキシ駄目ぢやからのう』
 二人は斯く話し乍らグツタリと弱り、眠気さへ催し遂には原野の中で前後も白河夜船の客となつて了つた。
 此処へ忽然として現はれた白衣の神人がある。神人は言葉静かに、
『汝はコブライ、コオロの両人ではないか』
 両人一度に、
『ハイ、左様で御座います。貴方様は一寸お見かけ申せば、何処かの貴婦人と拝しまするが、何方へお越で御座いますか』
神人『吾こそは霊鷲山に跡をたるる豊玉別命であるぞよ。其の方は今日迄現世に犯せし罪悪に仍つて、種々雑多の神罰を受け玄真坊、千草姫の悪人のため土中に迄埋められ、九死に一生を得乍ら神徳の尊き事を忘れ、只一途に彼を恨、剰つさへ懐中の金子を奪ひ取らむと企んで居らうがな』
コ『ハイ、仰せの通りで御座います、恐れ入りました』
『汝等両人、今の中に吾教を聞き悔い改めざれば無間地獄に堕ちるであらう。どうだ、今の中に玄真坊に対する恨を打切り本然の誠に帰る気はないか』
コ『イヤ、もう私だとて、元より悪人では御座いませぬが、臍の緒の切り所が悪かつた為に人並の生活も出来ず、何時の間にやら自暴自棄となり、泥棒仲間に首を突つ込み、悪事の有らむ限りを致して来ました。同じ人間に生れ乍ら、豺狼のやうな事をすることは私の良心に大に恥て居りますなれど、此肉体を保全する為に止むを得ず種々よからぬ事を企みもし、行つても来ました。どうせ私は今迄の罪業に由つて地獄の底へ落されるものと覚悟してゐます。どうせ今から心を改めても、地獄に堕ちるのですから、悪を行るなら徹底的に悪業をやり度い決心を抱いて居りまする』
神人『如何なる悪人と雖も、悔い改めに依つて悪は忽ち消滅し、善の方面に向ふ事が出来るものだ。人間の肉体を持つて此地上に在る限りは絶対の善を行ふ事は出来ない。それで何事も神に任せ、神を信じ、神を愛し、日夜信仰を励んだならば、屹度生前死後共に安逸の生活を送る事が出来るであらう』
コ『ハイ、有難う御座います、如何なる神様を信仰すれば可いのでせうか。私はこれ迄バラモン神を信じてゐましたが、一度も安心や幸福を与へられた事は御座いませぬ』
神人『何れの神も皆、元は天帝の御分霊、神徳に高下勝劣は無けれども、今日の世の中は盤古神王の世も済み、バラモン自在天の世も過ぎ去り、今はミロク大神の御世と変つてゐるのだ。それ故汝等両人は今日より三五の大神を信じ惟神の名号を唱へ、能ふる限りの善事を行はば屹度安逸の世を送る事が出来るであらう。夢々疑ふ事勿れ』
と宣り給ふや否や忽然として煙の如く消えさせ給ふた。両人はフツと目を醒し、
コ『オイ、コオロ、お前起きたか、俺やもう大変な夢を見たよ』
コオ『ウーン、俺も妙な夢を見たのだ。もう玄真坊征伐は止めようかい』
コ『さうだな、玄真坊も悪いが俺も悪いから、之迄の因縁と諦めて泥棒も止め、玄真坊征伐も止めようぢやないか』
コオ『俺等ア、泥棒を止めたら喰ふ事は出来ぬが、之から身の振り方を如何したら可いのかなア。実は夢の中に神様が現はれたが、余り怖ろしうて、勿体なうて、お尋ねする事も忘れたが、之から何商売をしたら可いのかな』
コ『俺等の様に泥棒の外に何も芸を知らぬ者は商売も出来ず、学問も無し、仕方がないから修験者となつて一杖一笠の比丘となり、人の門に立つて物乞ひでもやらうぢやないか。そして三五の神様のお道を一人にでも云ひ聞かせ、死後の世界の安養浄土を開く準備をしようぢやないか』
コオ『兄貴お前もさう思ふか、実は俺もさう考へた所だ。さアさうと相談が定まれば、両人俄に比丘となつて印度七千余国の霊山霊場を巡拝しよう。玄真坊の様な悪人でさへも修験者と云ふ役徳に依つて見ず知らずの他人から、あの通り土の中へ葬られるのだ。俺等ア修験者でない為に死骸を路傍に委棄されてゐたのだからな。之を考へて見ても神様に仕へる位結構な事はないからのう』
 茲に両人は意を決し、別に墨染の衣も、杖も笠も無けれども宣伝歌を口吟み乍ら、人里を尋ねて進み行く事となつた。
両人『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 身の過ちは宣り直せ  などと教ふる三五の
 神の教は目の辺り  吾等が夢に現はれて
 教へ給ひし神人の  御言葉こそは尊けれ
 悪逆無道の限をば  尽し来りし吾々も
 大慈大悲の大神の  情の言葉に目を覚まし
 転迷開悟の花咲いて  今や真人と成り初めぬ
 人は神の子神の宮  珍の身魂を受け乍ら
 曲津の棲処に使はれて  どうして神の御前に
 復命なさむ術あらむ  アヽ惟神々々
 神の恵みの幸はひて  吾等二人の行末は
 天国浄土の花園に  安く導き給へかし
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  曲津の神は猛るとも
 誠の力は世を救ふ  誠一つの三五の
 神に従ふ吾々は  如何なる悪魔も恐れむや
 虎狼や大蛇など  一時に襲ひ来るとも
 神の守護の有る限り  安く進ませ給ふべし
 アヽ有難し有難し  闇路に迷ふ盲目の
 俄に両眼打開き  日出の国の花園に
 進み出でたる心地なり  アヽ有難し有難し
 神の教を聞きしより  吾魂は何となく
 春駒の如勇み立ち  雲井に登る如くなり
 アヽ惟神々々  御霊幸倍ましませよ』
と元気よく歌ひ乍ら旅の疲れも空腹の悩みも打忘れスガの港の方面指て進み行く。
(大正一五・二・一 旧一四・一二・一九 於月光閣 北村隆光録)
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