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文献名1霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
文献名2第3篇 転化退閉よみ(新仮名遣い)てんかたいへい
文献名3第19章 旧場皈〔1828〕よみ(新仮名遣い)きゅうばがえり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2019-02-14 14:41:40
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1926(大正15)年07月01日(旧05月22日) 口述場所天之橋立なかや別館 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1929(昭和4)年4月3日 愛善世界社版237頁 八幡書店版第12輯 687頁 修補版 校定版248頁 普及版92頁 初版 ページ備考
OBC rm7219
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本文  千草の高姫、キユーバーの両人は意気衝天、猛火の燎原を焼くが如き荒つぽい鼻息で、玉清別以下、スガの宮の関係者一人も残らず叩き出し、天から降つて湧いたる儲ものに、嬉しさ余つて現三太郎となり、杢助が北町のウラナイ教本部に寝てゐる事も打忘れ、あまり虫は好かねども、言霊戦の大勝利を得せしめた原動力とも云ふべき天然坊のキユーバーを此上なきものと褒めそやし、聖場に立籠つて天下併呑の夢をむさぼつてゐた。
キユ『モシ、生宮様、キユーバーの働きはチツト許り腕が冴えてゐるでせう、決して生宮様御一人のお手柄ぢや御座りますまい』
高『そら、さうだとも、車も両輪なければ運転しない、人間も二本の脚がなけりや歩けない道理だからな』
キユ『そら、さうでせうとも、お飯食べる時でも片手ぢや駄目ですからな。箸だつて二本なくちや、香の物だつて、はさむ事は出来ませぬ。神代の昔那岐、那美二尊は天浮橋に立つて陰陽の息を合せていろいろの神様をお造り遊ばしたものですもの。どうです、ここで旧交を温めて拙僧は伊邪那岐命となり、生宮様は伊邪那美命となり、トルマン国を振出しに印度七千余国は申すも更なり、此地のあらむ限り鵬翼を伸さうぢやありませぬか。貴方もトルマン国の王妃となり遊ばした、腕利きだから、その位の事は、お考へでせうな』
高『そんなことア、キユーバーさま、云ふ丈け野暮だよ。三千世界の救世主、底津岩根の大弥勒ぢやないか、此生宮は天も構へば地も構ふ、五十六億七千万の小宇宙をも統一する天来の神柱だもの、このチツポケな地球位、統一したつて、広大無遍の宇宙に比ぶれば虱の眉毛に生いた虫の放つた糞に生いた虫の、その虫の糞に生いた虫の放つた糞位のものだよ』
キユ『何とマア大きな事を仰有るかと思へば小さい事迄御説法遊ばすのですな』
高『きまつた事だよ、至大無外、至小無内の弥勒の御神権を具備してゐる救世主ですもの』
キユ『生宮さまの広大無遍な抱負には、いかな此キユーバーも舌をまきましたよ。このキユーバーだつてハルナの都に権勢並びなき七千余国の大棟梁、大黒主様の片腕ですもの』
高『これこれキユーバーさま、大弥勒さまの前でそんな小つぽけな事はやめて下さい。此神は小さい事は嫌ひであるぞよ。大きな事を致す神であるぞよ、昔からまだ此世にない事を致す神であるぞよ』
キユ『三五教のお筆先そつくりぢやありませぬか、フツフヽヽヽ。時に生宮さま、あの杢助とか云ふ第二号をどうするつもりですか』
高『ア、あまり嬉しくつて、時置師の神様を念頭から遺失して居つた。ヤアこりやかうしては居られませぬ、キユーバーさま、お前さま、ここに待つて居つて下さい。此成功を夫に聞かして喜ばすため、一寸北町迄行つて来ますから』
キユ『モシモシ高姫さま、私の前で、あまりひどいぢやありませぬか、第一号をほつたらかしておいて、第二号に秋波を送るなんて、チツト許り聞えませぬな、何ぼ行かうと仰有つても、此キユーバーが放しませぬよ』
高『お前さま、自惚もいい加減にしておきなさい、一号処か、八号ですよ、要するに天保銭だからな』
キユ『此奴アひどい、二文足らぬと仰有るのですか、貴女の目には、それほど此キユーバーが馬鹿に見えますかい』
高『何、馬鹿処かいな、八文と云つたら大変立派な人だと云ふ事だよ、ダンダン筋の法被を着た仲仕や労働者や、旗持ちを一文奴と云ふだらう。一文奴で普通の人間だ。小説を作つたり、新聞の記事を書いたり、雑誌を著す学者を三文文士と云うだらう。三文文士にならうと思へば大学の門をくぐつて来にや、さう、安々とは、なれませぬからな。それから、ハルナの都のお役所にも諮問(四文)機関と云ふものがあるだらう、諮問機関に集まつて居る人は大黒主さまのお尋ねに一々答へると云ふ智者学者だ。それから、も一文上に顧問(五文)官と云ふのがある』
キユ『モシモシ高姫さま、顧問と五文とは違ひますぜ』
高『顧問でも五文でも、いいぢやないか、甲も乙も互に勝敗、優劣、高下のない相手同志を指して五文と五文と云ふぢやないか、さうだから五文の人間は最も立派なものだ。其上が六文だ、六文銭は、軍術の達人真田幸村の旗印だよ。真田と云ふ人物は後世迄名を轟かした大阪陣の参謀長だ。七文と云ふのはなア、昨日俺がヨリコ姫をこつぴどく問ひつめただらう、あれが七文だ』
キユ『そら、質問と違ひますか』
高『質問でも七文でもツとチとの違ひぢやないか、そんな七六つかしい質問はやめて下さい。その一文上が八文だ、八文が一番結構だよ。も一文ふやすと、苦悶と云つて苦み悶えねばならぬからな、も一文ふやすと、十文だ、銃文と云つたら鉄砲の穴だ、尻の穴もヤツパリ銃門の中だよ』
キユ『何とマアお前さまの口にかかつたら此キユーバーも盾つけませぬワ、然しこの八文をどうして下さるつもりですか。よもや八門遁甲の術を以て拙僧を、埒外へ放逐するやうな事はありますまいね』
高『マア心配しなさるな。今回の功労に免じてチヨイチヨイお尻位は、ふかして、あげますワ、大弥勒さまのお尻をふかうと思へば並や大抵の事では拭けませぬぞや。ヨリコ女帝のお前さまはお尻の掃除をやつて居つたさうだが、あのやうな、アタ汚いお尻の掃除をしてゐるより、大弥勒さまの神徳のこもつた御肥料さまの掃除をさして貰ふ方が何程光栄だか出世だか知れませぬよ、ホツホヽヽヽ』
キユ『エー、人をお前さまは馬鹿にしてゐるのだな』
 かく話してゐる所へ杢助の妖幻坊は高姫の帰りが遅いので、スガ山のトロトロ阪をエチエチ上り乍ら館の前までやつて来た。
 玄関口に佇んで様子を聞けば、境内はシンとして人影もなく、静まり返り、閑古鳥が鳴いてゐる。然し乍ら館の奥の方にコソコソと囁く声が聞ゆるやうにもあるので、ソツと館の裏へまはり、窓から中を覗いて見ると酒肴を真中におき、高姫、キユーバーが意茶ついたり揶揄つたり、面白さうに話し合つてゐる。妖幻坊は腹が立つて堪らず雷のやうな声を出して窓の外から、
『コラツ』
と一声叫ぶや否や、キユーバーは驚いて一間許りも飛び上り、天井裏で禿頭をカツンと打ち、再び板の間に蛙をぶつつけたやうになつて、手足をピリピリとふるはせ、ふんのびて了つた。流石、高姫はビクとも動かず静に窓の外を覗き、
『ホツホヽヽヽ何ですか杢チヤン、そんな大きな声を出したつて、聾はゐやしませぬよ。高姫の耳は蚯蚓の泣声でも聞えるのですからね、どうか騒がないでゐて下さい。今この坊主をうまくちよろまかして、三五教が百日百夜の丹精を凝らし、建て上げた此神館を、スツカリと証文つきで貰つたのですからね、マアお這入りなさい、人が見たら、見つともないから』
と平気な顔で構へてゐる。杢助は表にまはり玄関口より大手を振つて入り来り、
『一昨日の日の暮に、此坊主と出たぎり、今日になつても帰つて来ないものだから、チツト許り気がかりでならないので、スガの町々を尋ねまはり、もう尋ねる処がないものだから、此処へやつて来れやキユーバーの野郎をつかまへて、何だか妙な目つかひをやつてゐたぢやないか』
高『杢チヤン、そんな野暮な事を云ふのぢやありませぬよ。此間も貴方に云つた通り、此キユーバーと云ふ山子坊主は、一寸ばかり小利口な奴だから、うまくちよろまかして使ひ倒し、今日の成功を勝ち得たのですからね。まだまだ此奴を使はにやならぬ用がありますので、一寸いやな奴だけど色目を遣つて、つらくつてゐるのですよ。天下無双の英雄豪傑時置師の神さまのやうな立派な夫があるのに、どうしてこんな蛙の泣き損ねたやうな面した売僧坊主に、指一本でも支へさす気遣がありますか。そこは貴方の御判断に任せますから、マア御機嫌を直して一杯飲んで下さい。今日から此館は時置師の神さまの領有権が出来たのですからな、高姫の腕前も随分凄いものでせう。ホツホヽヽヽ』
杢『オイ、このキユーバーをこの儘にしておけば縡切れて了ふぞ、お前の得意な活とかを入れて、蘇生さしてやつたらどうだい』
高『杢チヤン、そんな心配要りませぬよ、田圃の蛙を掴んで大地で投げて御覧なさい。丁度此通り手足をのばしてビリビリとふるひ一時は目をまはかしますが、暫くすると目を開け古池の中へドンブリコと飛び入り、アナタガタ アナタガタ オレキ オレキと泣くぢやありませぬか』
杢『キユーバーも蛙に例へられや、チツト許り可愛想だ。命に別条さへなけれや、いいやうなものの、あまり殺生ぢやないか』
高『何が殺生ですか、自分が勝手に飛び上つて勝手にフン伸たのですもの、チツトも吾々にかかり合はないのですからな。キユーバーが自由の権利を振つて空中舞上りの術を演じ吾々夫婦の酒の肴になつてゐるのですもの』
 斯く話す折しも死真似をしてゐたキユーバーはムクムクと起き上り、ワザと空とぼけたやうな顔して、
キユ『アーア、飛行機に乗つて大空中を巡行してゐたと思へば、俄に雷鳴轟き暴風吹きまくり、飛行機諸共地上へ転落し、五体は滅茶々々になつたと思へばヤツパリ夢だつたかな。これも全く生宮様と時置師の神様の恩頼だ、南無生神大明神帰命頂礼謹請再拝謹請再拝』
杢『ウツフヽヽヽ何とマア、怪体な坊主だのう、一種異様の奇病があると見える。かう云ふ病気は親のある間に癒しておかぬと一生不治の難病になるかも知れないよ、ワツハヽヽヽ』
高『ホツホヽヽヽこれキユーバーさま、本当にお前さまは身の軽い方ですね。妾又、お神がかりかと思つて居りましたよ』
 妖幻坊は膝を立直し、居直り気味になつて、
『オイ、天然坊のキユーバー、俺の女房を掴まへて何を云つて居たのだ、三文だの、五文だの、八文だのと、何の事だい。其方の出やうによつては俺にも一つの虫がある、サアきつぱりとこの杢助の前で白状せい』
キユ『メヽヽヽ滅相な、尊い尊い結構な結構な生宮さまに対し、私のやうな下劣な貧僧が恋の鮒のと、そんな大それた事が出来ますか、お言葉交すも恐れ多いと存じ忠実に勤めてゐますよ。何卒悪くはとらないやうにして下さいませ。何は兎もあれ、千草の高姫さまに、うまくたらし使にされてゐるのですからな。何れ行先はお払箱だと覚悟を定めて居ります』
妖『こりや、高姫、キユーバーの申すことに、間違ひなけりや今日は之で忘れて遣はす。然し乍ら此奴を此処に於てはチツト許り都合が悪い。幸ひ北町の本部が空く事になるから、あれをキユーバーに呉れてやつたらどうだ』
高『杢助さまさへ御承知なら、呉れてやりませう、此館を占領したのも其一部分はキユーバーさまの斡旋努力与つて功ありと云ふものですからな』
杢『オイ、キユーバー、お前の功労に免じて北町の神館を与へるから、直様帰つて休息したが宜からう。神殿も諸道具一切も附け与へるから有難く頂戴せい』
キユ『ハイ、有難う御座います、それでは頂戴致しませう。十分に念入に掃除をしておきますから、どうぞ、時折はお遊びにお出で下さいませ』
妖『いや、これ程立派な神館が手に入つた以上は最早必要を認めぬ、又行く必要もない、お前の勝手にしたが宜からう』
 云へばキユーバーは喜んで  頭ペコペコ下げ乍ら
 『ウラナイ教の神館  有難く頂戴致します
 左様御座ればお二人さま  後でゆるゆるお楽み』
 等と言葉を残しつつ  北町さしていそいそと
 大手を振つて帰り行く。
(大正一五・七・一 旧五・二二 於天之橋立なかや旅館 北村隆光録)
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