文献名1霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
文献名2第3篇 転化退閉よみ(新仮名遣い)てんかたいへい
文献名3第22章 妖魅帰〔1831〕よみ(新仮名遣い)よみがえり
著者出口王仁三郎
概要
備考
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データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ
主な人物
舞台
口述日1926(大正15)年07月01日(旧05月22日)
口述場所天之橋立なかや別館
筆録者加藤明子
校正日
校正場所
初版発行日1929(昭和4)年4月3日
愛善世界社版270頁
八幡書店版第12輯 699頁
修補版
校定版283頁
普及版108頁
初版
ページ備考
OBC rm7222
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本文
スガの宮の神司玉清別を初め、天人のやうな三人の美人が千草の高姫と問答の結果、放逐されたと云ふ評判が、スガの町を初め近在近郷迄電の如く俄に拡がつて了つた。それ故スガの神館は押な押なの大繁昌、立錐の余地なき迄参詣者が集まつて来た。宗教問答所の看板は矢張り以前のまま掲げられ、唯違つた所はヨリコ姫の名が千草の高姫と書き替へられた許である。智仁勇の三徳を備へたと許り町人の評判になつて居たヨリコ姫を、説き伏せるやうな千草の高姫は、どんな偉い奴かも知れないと云ふので、看板はあつても問答せうと云ふものは一人もなかつた。妖幻坊は例の如く離棟の室に固く錠を卸して昼の中は眠つて居る。
コオロ、コブライの二人は偵察隊として朝未明より入り来り玄関に立ち塞り、「頼まう頼まう」と呼はれば、悠然として現はれ来る千草の高姫は、
『玄関に頼むと声をかけゐるは
誰が命か聞かまほしさよ』
コオ『吾こそはスガのお宮に詣で来て
看板を見て問答せむと思ふ』
コブ『吾とても宗教問答所の看板を
見て腹が立ち君を訪ひけり』
高『面白し睡けさましに汝二人
吾言霊に薙ぎふせて見む』
コオ『偉さうに仰有りますな照月に
黒雲かかるためしこそあれ』
コ『如何ほどに智慧さかしとも女の身
太い男に勝ち得べきかは』
高『男てふ衣被りしこけ女
なにかはあらむ一時に来よ』
コオ『今暫し待つて御座れよ眩ひする
やうな珍事が突発するぞや』
コ『何なりと吐いてござれ今暫し
汝が断末魔近くありせば』
高『見る影もなき木わつ葉が玄関に
立ちてたはごと吐くをかしさ』
コオ『高姫よ暫く待てよ汝こそは
見る影もなきやうにしてやる』
コ『偉さうに云つても一寸先見えぬ
曲津の盲哀れなるかな』
高『朝早く神の館に乗込んで
縁起の悪い口を開くなよ』
コオ『己が尻つめつて人の痛さをば
知らぬ愚者あはれなりけり』
コ『身も魂も痺れ果てたる曲津身は
刃にさすも耐へざるらむ』
高『訳もなき事をベラベラ吐くより
便所の掃除なりとせよかし』
コオ『スガ山の塵吹き払ふ大掃除
日のある中に初めて呉れむ』
コ『神々がいよいよ表に現はれて
狸の尻尾露はして見む』
高『何を云ふ狐狸の身魂奴が
誠の神の前恐れぬか』
コオ『間男か真の神か知らねども
どこやら臭い糞の香ぞする』
コ『臭い筈千草の姫と云ふぢやないか
鼻高姫よ鼻を折られな』
高『吾こそは高天原より下りしゆ
名を高姫と云ふぞ尊き』
コオ『何吐す訳も知らずに偉さうに
頬桁たたく事のをかしさ』
コ『この女郎妖幻坊の妖怪に
現をぬかす馬鹿女かも』
高『やかましい玄関先でつべこべと
恥を知らぬか木わつ葉武者共。
神館訳の分らぬ奴が来て
吾魂を汚がさむとぞする』
と云ひ乍らスタスタと踵を返し奥に入る。
コオ『これや女俺が怖くて逃げるのか
どこどこ迄も追つて往くぞや』
コ『面白い とうと尻尾をまきやがつた
奥の一室にふるて居るだろ』
二人は執念深くも玄関をつかつかと上り、問答席に入つて見ると高姫は怪訝な顔して問答席に控へ居しが、二人の姿を見るより、
『どこ迄も礼儀を知らぬ馬鹿男
許しも得ずに奥に入るとは』
コオ『天地の神の道をば知らずして
図々しくも聖地に居るとは。
魂消たよおつ魂消たよ千草姫
見ると聞くとは大違ひなる』
高『何なりと勝手な熱を吹くがよい
分らぬ奴は相手にはせぬ』
コオ『甘い事云うて逃げるか千草姫
どこどこ迄も調べにやおかぬ』
コ『今日の中金毛九尾の正体を
現はし呉れむあら頼もしや』
高『奴共早く帰れよ神館
汚せば神の冥罰うけむ』
コオ『甘い事云うておどすか千草姫
尻があきれる雪隠がおどる』
コ『糞婆の癖にお白粉べつたりと
化けて居やがる金毛九尾奴』
高『貴様等は館を汚しに来たのだろ
何とも云へぬ臭い香がする』
コ『知れた事道場破りをおつ初め
尻尾出すまで戦ひ止めぬ』
高『是はまた困つた奴が来たものだ
青大将奴線香立てよか』
コオ『蛇が蛙狙つた時の如く
呑んで仕舞はにや帰りやせないぞ』
コ『山鳩が豆鉄砲を食つたよな
面してふるふ高姫をかし』
高『何なりと悪口雑言つくがよい
言霊幸はふ国と知らずに』
コオ『言霊の幸ふ国と知ればこそ
悪の言霊打ちやぶるなり』
コ『言霊を打ち出しつつ高姫の
醜の肝玉うち抜きて見む』
高『笑はせる線香のやうな腕をして
打つも打たぬもあつたものかい』
コオ『なかなかに俺は容赦は線香の
煙となつて燻べてやらう』
コ『煙たげな顔して慄ふ千草姫
灸すゑられ汗をぶるぶる』
高『胡麻の蠅見たよな奴がやつて来て
酒手貰をうと息まいて居る』
コオ『汝こそは逆手使うて聖場を
奪い取つたる曲者ぞかし』
コ『逆さまになつて謝る所まで
動きはせぬぞ二人の男は』
高『此やうな訳の分らぬ代物に
問答するのは嫌になつたり』
コオ『否応を云はさず館につめかけて
荒肝取らねば帰るものかい』
コブ『それやさうぢやコオロお前の云ふ通り
膏を取つて誡めてやらう』
高『油虫朝も早から這うて来て
神の燈明消さむとぞする』
コオ『お前こそ神の燈明消す奴よ
暗い心の醜神司』
コ『此やうな訳の分らぬ妖婆をば
相手にせずにもう去のうかい』
高『これや奴たうとう往生しよつたな
高姫さまの威勢に怖ぢて』
コオ『もう帰のと思へば又も貴様から
小言云ふ故又一戦せむ』
コ『瓢箪で鯰おさへるやうな奴
いつ迄居ても果しあるまい』
高『そろそろと奴が弱音吹きかけた
智慧の袋の底も見えたり』
コオ『何吐かす智慧は幾何もあるけれど
受取る力汝にない故』
コ『相応の道理によつて馬鹿者には
馬鹿を云ふより道もなければ』
高『負け惜み強いと云つても程がある
餓鬼畜生さへ呆れて逃げむ』
斯く、くだらぬ掛合をやつて居る所へ、大勢の老若男女が捻鉢巻して歌を歌ひ乍ら、神前に奉ると称し山車を曳いて登つて来る。高姫は此光景を見て鼻動めかし、得意満面の体で表を眺めて居ると、一昨日叩き出したヨリコ姫、玉清別、花香、ダリヤ、アル、エス及イルク、其他三五教の宣伝使の一行が、美々しく衣服を着かざり、鬱金の捻鉢巻をしながら、問答所の広庭へ山車を留め、どやどやと玄関口に上り、
ヨリコ『これはこれは千草の高姫様、一昨日は妾に取つて終生忘るべからざる結構な御教訓を賜はり、翻然として蓮の花の開くが如く、天地の道理を悟らして貰ひました。汚れ果てたる身で御座いますがお礼の為、この通り山車に供物まで満載して参りました。花香もダリヤもどうか妾から宜しく申上げて呉れとの事で御座います』
高姫は傲然として、
『善哉々々、改心が何より結構ですよ。お前さまも折角此処迄聖場を造り上げおつ放り出されて、嘸残念で御座いませうが、一旦創のついた体は至粋至純な大神様の御用は出来ませぬから、お気の毒とは思へ共、これも前世の因縁でせう』
ヨ『重ね重ねの御教訓有難う御座います。一寸妙な事をお尋ね申しますが貴女はこの聖地の神司とおなり遊した以上、一点の身に曇りは御座いますまいね』
高『お尋ねにも及びますまいよ。この高姫の身に兎の毛で突いた程でも悪事欠点があつたら、此聖地に安閑と御用をして居る事は出来ませぬ。それは天地の規則ですからねえ』
ヨ『失礼な事を申上ますが、人間と云ふものは知らず識らずに罪を犯して居るものです、もし貴女に欠点を発見した時は、この聖場をお立ち退き遊すでせうね』
高『神の言葉に二言はありませぬ。どうか妾の素性に欠点があるならお調べ下さい。何時でもこの聖場を立ち退きますから』
ヨ『そのお言葉を承はつて、百万の味方を得たやうな心地がします。ホヽヽヽ、花香、ダリヤさま、玉清別さま、アルさま、エスさまイルクさま、又再び此お館に勤めてもらはねばなりますまい、オホヽヽヽヽヽ』
と飽迄大胆不敵な態度をして見せる。
照国別はつかつかと高姫の傍に寄り、
『ヤ、高姫さま、暫くお目に掛りませぬ、私は照国別の宣伝使で御座います』
高『ナニ照国別の宣伝使。ヤアお前はウラル教から脱走して来た、ヘボ宣伝使の梅彦さまぢやないか。マアマアマア、出世したものだなア。腐縄でも三年すりや役に立つ、乞食の子でも三年すりや三つになる。お前と別れてから最早十三四年にもなるだらう。まあ結構々々これから改心して神妙に御勤めなさい。此高姫が弟子に使つて上げまいものでもない』
梅公『ヤ、千草の高姫さま、トルマン城でお目にかかりました者ですよ』
高『ハイ、如何にもお前さまは梅公別とか云ふ方だつたな、いつ見ても綺麗だこと、どうかお前さまは何処へも行かずこの神館の役員となつて勤めて下さいな』
梅公『ハイ、思召は有難う御座います、何分宜しうお願ひ申します。湖上でお目にかかりました貴方の夫、杢助さまはどちらに居られますか、一寸お目にかかり度いもので御座います』
高『ハイ杢助さまは一寸お疲れて離棟の別館でお寝みになつて居られます』
梅公『実は貴女の御成功を祝し御祝を持つて参りました。この沢山の箱包は杢助様へのお土産、この葛籠は高姫さまへの土産ですから何卒受取つて下さい』
高『ヤアどうも有難う、マア何と沢山のお土産だこと。随分沢山のお金がかかつたでせうなア』
梅公『いやどう致しまして、サア、イルクさま、玉清別さま、この箱包は全部皆の方に手伝つて貰ひ、杢助さまの別館の前迄運んで置いて下さい。そして合図をしたら一斉に蓋を開けるのですよ』
『ハイ畏りました』
と村の若者十数人はイルクが監督の下に別館にエチエチ運んで仕舞つた。梅公別は、高姫の前に葛籠を置き、
『サア、高姫さま、この葛籠を開けてお目にかけませう、貴女に取つて大変な意味あるものかも知れませぬ』
と、意味ありげに笑ひながらパツと蓋を取れば太魔の島にて真裸となし、追剥をなし、蟻の巣に投り込んだフクエ、岸子の両人が白装束を着て矗くと立上つた。高姫は打ち倒れむばかり驚いたが、遉は曲者、気を取り直し、度胸を据ゑ、
『オー、何かと思へば白鷺が一番、妾の為には此上もない贈り物、今晩の酒の肴に料つて頂きませう』
梅公はきつとなり、
『これ高姫殿お呆けなさるな、此女は太魔の島の銀杏に祈願を籠むる折、貴女が銀杏姫と名乗り、追剥なさつた事があらうがな、それのみならず計略をもつて二人を蟻の森へ追込み喰ひ殺させむと計つたでせう。まだ其上此梅公迄もたばかり、蟻に殺させようとしたではありませぬか。これでも貴女は身に欠点がないと云はれませうか、サア返答承はりませう』
高姫は答ふる言句もなく忽ち顔色蒼白となり、唇迄もふるはせて居る。
ヨ『モシ高姫さま、貴方も矢張追剥強盗をなし、謀殺を企らみ、随分善からぬ事をなさいましたね、サア如何です、之でも貴女は完全無欠の身霊と仰有いますか』
梅公は合図の口笛を吹けば、如何はしけむ数十頭の猛犬現はれ出で、ワツウ ワツウ ワツウ ワツウと百雷の一時に轟く如き犬の声、妖幻坊の杢助は耐り兼ね、正体を現はし、何処ともなく雲を霞と消え去つて仕舞つた。高姫は進退これ谷まり、白衣をパツと脱ぐや否や、忽ち金毛九尾白面の悪狐と還元し、雲を呼び雨を起し、大高山の方を目がけ電の如く中空を駆り姿を消して仕舞つた。あゝ惟神霊幸倍坐世。
因に云ふ。玉清別は元の如くスガの宮の神司を勤め、ダリヤ姫は大道場の司となり、アル、エスの両人を掃除番となし置き、ヨリコ姫、花香姫は、照国別一行と共に聖地を去つて宣伝の旅に赴く事となりける。
(大正一五・七・一 旧五・二二 於天之橋立なかや別館 加藤明子録)
(昭和一〇・六・二五 王仁校正)