高照山の中津滝の大蛇は言向け和されたが、依然として妖邪の気は谷々を覆い、害が激しくなり始めた。
顕津男の神は、高日の宮に神々を集めて、国土平安の祈願を込めた。
顕津男の神が祝詞を唱え終わると、たちまち高照山の峰より香ばしい風が起こって妖邪の気は払われた。紫雲がたなびき、月の光が晧々と照りだし、四辺に微妙の音楽が鳴り渡った。そして、八十の神々にかしづかれつつ、主の大神が天降りました。
高日の宮の神々は庭にひざまづいて主神を謹み敬い迎えた。顕津男の神は恭しく主神を高日の宮の至聖殿にお招きした。
顕津男の神は謹みのあまり声を震わせて、主神にご降臨を感謝する歌を詠んだ。
主神は厳然としてお立ちになり、左手に玉、右手に幣を左右左に打ち振りながら、天界の曇り、乱れ、曲神たちの出現はすべて、言霊の濁りより生じていることを諭すお歌を詠い、そのままお姿をお隠しになった。
顕津男の神は、朝夕の言霊に濁りがあったことを悔いた。国生み神生みの神業でありながら、如衣比女への私的な恋心を起こして心が濁っていたこと、そして今後は自分の名誉を捨ててただ神命に応えていくことを宣言した。
諸神はそれを聞いておのおの、神業を妨害したことを悔いた。
ここに、「国生み神生み」が主神の神業であることが明らかとなり、またそれを臆せずに遂行していくことを、顕津男の神が宣言した。つまり、天界経綸発祥の基礎となったのである。