そもそも宇宙の始め、大虚空の中心に、一点のヽ(ほち)が突然現れ、ヽは次第次第に円満さを増していき、ついに主(ス)の言霊が生まれ出た。
スの声はだんだんと膨張して、ついに七十五声の言霊が、大虚空の中に現れるにいたったのである。
スの言霊は、さらにますます大活動力を発揮することで、神となった。これが、天之峯火夫の神である。またの名を、大国常立の神言(みこと)という。
スの大神の威光はますます発展して、大宇宙を生み成した。その中心である紫微天界に天津高宮を築き、スの大神は永遠にそこに鎮まることとなった。
鎮まりつつ、大宇宙の生成を続け、国を生み、神を生み、幾億万劫の末の今日にいたるまで、一瞬たりともその活動を休まず続けているのである。
主(ス)の神は、ウの言霊から天之道立の神を生み、またアの言霊から太元顕津男の神を生み、まず紫微天界の修理固成を始めた。国土を生み、神を生む神業を、二神に任せることとなったのである。
天之道立の神は宇宙万有の精神界を守り、顕津男の神は紫微天界の霊的物質界を生成し育てるという神業を、それぞれ主の神よりおおせつかった。
この二神による神業もまた、幾億万劫の末の今日まで継続・活躍しており、また限りなく終わりなく続いていくのである。
ここではもっぱら、太元顕津男の神の活動について述べているが、その内容が膨大であるため、ただ数千万分の一程度を開示したに過ぎない。だから、読者はこの物語が天界のすべてではないことを、知って読まなければならない。
国生み神生みについて
顕津男の神と八十柱の比女神たちは、ただ水火(いき)と水火をいっしょに組み合わせる。
すると、鳴り鳴りて鳴りの果てに、神霊の気が感応して、尊い国魂神が生まれるのである。
宇宙一切の生成と育成は、スの神の幸魂である愛の情動より発してる。だから、愛を離れてはいかなる生産もありえない。神々といえでも、女男二柱が見合うときは、必ず恋愛の心が湧き出でるのは、自然の道理なのである。
恋愛は魂がいついて離れないものである。だから、主の神は、国魂神を生ませるために八十柱の比女神を御樋代とするよう、顕津男の神に言いつけたのである。
そして、もし一人の比女神が二柱の国魂神を生むと、権力地位の争いによって滅びてしまう。だから、一つの国に一つの国魂神と定めたのである。
顕津男の神は、最初の国生み神生みのとき、如衣比女への恋着によって神業を遅らせた。その執着心が恐ろしい大蛇となって、如衣比女を葬り去る結果となってしまった。
その前例に恐れ慎み、八十柱の比女神以外の女神に対しては、一切心を動かすことはない顕津男の神であるが、生代比女の恋は激しく、その扱いに困惑していた。
顕津男の神とその従者神たち十一柱の神々は、生代比女の執着を取り払おうと、言霊の限りを尽くし、また祝詞を唱えたが、一向におさまらず、神業を妨害しつづけた。
終に神々は七日七夜の間、主の神の降臨を祈願した。すると、宇宙に主の神の歌が響いた。
主の神の定めた御樋代である八十柱の比女神とのみ見合い、その他の女神は、いかに美しい神であっても、心を動かしてはならない。
すると、妖邪の気は払われ、辺りは一点の雲もないほどに清く明るい国となった。
顕津男の神は主の神の神徳を感謝しつつ、どんな曲津神が襲い来ても、少しも動揺しない大勇猛心を発揮するに至った。