宇宙間において、もっとも強く美しいものは、愛の発動である。なぜなら、大虚空中に愛の発動があったからこそスの言霊が生まれ、天地の万神が生まれたからである(=神は愛なり力なり)。
ただ、愛からスク、スカヌの言霊が生まれるとおり、その度合いによって、生成化育が成就するときもあれば、度が過ぎて一切を破壊することにもなりうる。
だから、愛には善、悪、大、小がある、というのである。神の愛は善にして大、一方小愛・悪愛は、自己愛となり、他を害し、争いと破壊をもたらす。
生代比女の顕津男の神に対する愛は積み重なり、募って怨恨となってしまった。その炎は比女の身魂を焼き、大蛇となって玉野湖底に潜むにいたった。
大蛇は神々の一行を待ち受けており、静かだった玉野湖はたちまち暗黒となり、荒れ狂った。
顕津男の神は比女を諭す歌を歌うが、生代比女は闇の中から突然現れ、顕津男の神への恨みを吐露し、幾億万劫の末までも恋の悪魔となって祟る、と呪った。
諭しの歌も大蛇となった生代比女には届なかった。顕津男の神はついに、如何なる罪に問われようとも、主の神の神言に背いても、比女の誠の心に報いようとの決意を歌った。
すると、たちまち天は晴れ渡り、湖も鏡のようにおさまった。満月の光が晧晧と、湖面を照らした。