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文献名1霊界物語 第74巻 天祥地瑞 丑の巻
文献名2第2篇 真鶴新国よみ(新仮名遣い)まなづるしんこく
文献名3第14章 真心の曇らひ〔1882〕よみ(新仮名遣い)まごころのくもらい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-08 11:55:12
あらすじ
宇宙間において、もっとも強く美しいものは、愛の発動である。なぜなら、大虚空中に愛の発動があったからこそスの言霊が生まれ、天地の万神が生まれたからである(=神は愛なり力なり)。

ただ、愛からスク、スカヌの言霊が生まれるとおり、その度合いによって、生成化育が成就するときもあれば、度が過ぎて一切を破壊することにもなりうる。

だから、愛には善、悪、大、小がある、というのである。神の愛は善にして大、一方小愛・悪愛は、自己愛となり、他を害し、争いと破壊をもたらす。

生代比女の顕津男の神に対する愛は積み重なり、募って怨恨となってしまった。その炎は比女の身魂を焼き、大蛇となって玉野湖底に潜むにいたった。

大蛇は神々の一行を待ち受けており、静かだった玉野湖はたちまち暗黒となり、荒れ狂った。

顕津男の神は比女を諭す歌を歌うが、生代比女は闇の中から突然現れ、顕津男の神への恨みを吐露し、幾億万劫の末までも恋の悪魔となって祟る、と呪った。

諭しの歌も大蛇となった生代比女には届なかった。顕津男の神はついに、如何なる罪に問われようとも、主の神の神言に背いても、比女の誠の心に報いようとの決意を歌った。

すると、たちまち天は晴れ渡り、湖も鏡のようにおさまった。満月の光が晧晧と、湖面を照らした。
主な人物 舞台 口述日1933(昭和8)年10月24日(旧09月6日) 口述場所水明閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年1月5日 愛善世界社版 八幡書店版第13輯 217頁 修補版 校定版213頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  無始無終の宇宙間に於て、最も強く美しきものは愛の発動なり。大虚空中に愛の発動ありて始めてスの言霊は生れ、天地の万神は生る。故に神は愛なり力なりと称する所以なり。愛あるが故に宇宙は創造され、万物は発生す。宇宙間一切のものはこの愛に左右され、創造も建設も破壊も滅亡も混乱も生ずるものなり。愛は最も尊むべくかつ恐るべきものとす。愛よりスク、スカヌの言霊は生るるなり、愛の情動にしてその度合よろしければ、生成化育の神業は完成し、愛の情動の度合過ぐれば、遂には一切を破壊するに至る。
 而して、愛には善あり、悪あり、大あり、小あり。神の愛は愛善にして、世間一切の愛は愛悪なり。神の愛は大愛にして世間の愛は小愛なり。わが身を愛し、わが家を愛し、わが郷土を愛し、わが国土を愛するは所謂自己愛にして、神の大愛に比して雲泥の相違あり。故に小愛は我情我欲の心を増長せしめ、遂には自己愛のために他人を害し、他家を破り、他郷と争ひ、他の国と戦ひ、遂に彼我共に惨禍の洗礼を受くるに至る。又神の愛は大愛なれば、宇宙一切万有に普遍して毫も依怙の沙汰なし。世間の愛は他を顧みず、只管にわが身を愛し、わが家を愛し、わが郷土を愛し、わが国家を愛するが故に、他よりもし不利益を加へらるると見る時は、忽ち立つて反抗し争闘し、身を破り家を破り国家を破るに至る。恐るべきは愛の情動の度合なり。
 茲に生代比女の神の個性的愛は積み重なりて恋となり、恋ますます募りて怨恨となり、胸に瞋恚の炎燃えさかり、其心魂を焼きし炎は濛々として立ち昇り、黒煙となりて天を包み、尚ほ堪へ切れぬままに霊魂化して大蛇となり、炎熱の苦しみを防がむとして、遂には玉野湖底にひそみたるこそ、実に恐しき次第なり。総て恋なるものは自己愛に属するが故に、他を顧みるの暇なく遂にはわが身を破り、人を損ひ世界を毒し天下を乱すに至るものなり。故に顕津男の神其他の神の清き明き正しき御心より迸る生言霊の力をもつてするも、猛烈なこの恋の炎を消しとむるに由なかりける。然りと雖も大愛の心より出でし明き清き真の言霊には反抗する能はず、遂には帰順せざるを得ざるに至るは、厳として犯すべからざる神の御稜威なればなり。
 茲に生代比女の神は、真鶴山の聖場に於ける、顕津男の神の情のこもりし生言霊の御歌によりてしばし心を和め給ひしが、再び恋々の情火燃えさかり、黒雲天に漲りて瑞の御霊の進路を妨げ、遂にはスの神の厳かなる威力に畏服して真鶴山を捨て、玉野比女の神の永久に鎮まりたまふ宮居に近き玉野湖水に蛇身となりて湖底深く潜み、瑞の御霊の渡り来ませるを今や遅しと、さしもに広き湖水の水を、胸の火に沸きかへらせつ、恋の意地を達せむと待ちかまへ居たまひしぞ恐ろしき。空蒼く海又青く、風は白梅の香を送り、浪穏かに満月の光清く浮みて鏡の如く澄み切り、落着きたる夕の湖面は忽ち暴風吹き起り、大雨沛然として臻り、浪逆巻きて容易に越ゆべからざるに至らしめたるぞ是非なけれ。今迄清皎々と輝きたる月は忽ち黒雲にかくれ、四辺をつつみし湯気煙は、灰白色となりて、神々の一行の辺りをつつみ、如何ともなす由なきに至らしめたるも、猛烈なる恋より燃え出でたる瞋恚の炎の荒びなりける。故に最も親しむべきは神にして、最も恐るべきは恋の情動なりと知るべし。
 嗚呼惟神霊幸倍坐世。
 顕津男の神は、忽ち湖上の光景一変して、四辺暗黒となり、不快なる空気の身辺を包みたれば、生言霊の御稜威によりてこの暗澹たる天地を清めむと、御歌詠ませ給ふ。

『あさましも天地一度にふさぎたる
  この黒雲は恋の炎よ

 大愛の主の大神の神言もて
  国土造る我を艱ますな夢

 美しき紫微天界をかくのごと
  曇らす恋の曲神怪しも

 我こそは国土生み神生みの神業に
  仕ふる神ぞ大愛の神

 生代比女の心愛しと思へども
  神の依さしに反くよしなき

 片時もはやく天地を明しませ
  わが大愛の心さとりて

 久方の月の光は冴ゆれども
  この醜雲を射通す術なき

 生代比女心平に安らかに
  わが大愛の心を悟らせ

 思ひきや国魂神を生む度に
  醜の曲神にさやらるるとは

 至善至美果しも知らぬ天界に
  狭き心を捨てよ比女神

 主の神の愛に魂を光らしつつ
  乱れたる思ひをのぞかせ給へ』

 斯く御歌詠ませ給ふや、闇の中より茫然と夢幻の如く現れたる生代比女の神は、獰猛なる面を一行の前に現し、恨みの形相凄じく、

『恨めしき岐美の心よ言霊よ
  吾はなやみて大蛇となりぬる

 清かりし乙女の胸をこがしたる
  岐美は大蛇を生みましにけり

 吾は今かかる姿となり果てて
  ますます岐美を恨みこそすれ

 水底に常磐堅磐に沈み居て
  恋の仇をば報いむと思ふ

 女神男神この湖原を渡りなば
  吾は大蛇となりて呑むべし

 玉野比女に見合す岐美の恨めしさ
  力限りになやましまつらむ

 生言霊如何に宣らすも恋故に
  乱れし吾をまつらふ術なけむ

 わが思ひ黒雲となりて天を閉ぢ
  大蛇となりて地を乱さむ

 恋すてふ心なければかくまでも
  岐美を憎しと思はざりけむ

 岐美故に吾はなやめり岐美故に
  吾は焦れて大蛇となりける

 めぐしさの重り合ひて憎しみの
  炎燃えつつ大蛇となりける

 美しき真鶴山の守り神も
  岐美故大蛇となりしを知らずや

 わが思ひ幾億万劫の末までも
  恋の悪魔となりて祟らむ

 恐るべきものは恋路と思召せ
  岐美がつくりし国土に仇せむを

 わが思ひ凝りかたまりて山に海に
  河又沼に潜みてなやめむ』

 顕津男の神は御歌うたひ給ふ。

『ねもごろにわが説きさとす言の葉を
  公は聞かずや諾ひまさずや

 厳かなる紫微天界に生れ生でで
  大蛇となりし公ぞいぢらし

 恋すてふ心の誠は諾へど
  わが儘ならぬ神生みの旅よ

 あだし女に見合ひて永久の罪穢
  世に残さむを恐るる我なり

 言霊の厳の光もつつむなる
  恋の炎のあつくもあるかな

 何事も湖水の水に流しまして
  わが言霊によみがへりませよ

 アオウエイあつき心の炎をば
  この真清水にあらひて生かせよ

 天地に恐るるものは吾なけど
  恋の炎に艱まされける』

 生代比女の神は微に歌ふ。

『いとこやの岐美をめぐしみ吾遂に
  憎の神となり果てにける

 いとしさの胸にあまりて憎しみの
  深くなりぬる吾は悲しも

 恨むべき道なき岐美を恨みまつり
  吾は大蛇の霊魂となりぬる

 岐美故に吾よみがへり岐美故に
  わが魂線の亡ぶと知らずや

 わが魂はよし亡ぶともこの思ひ
  いや次々に伝へて止まじ』

 顕津男の神、

『主の神の神言に背くと知りながら
  いとしの公を助けむと思ふ

 如何ならむ罪に沈むも比女神の
  誠にむくゆと心定めし

 村肝の心やすかれ今よりは
  なが真心を諾ひまつるも』

 斯く歌ひ給ふや一天忽ち晴れ渡り、荒れ狂ふ湖原も俄に鏡の如くをさまりて、満月の光皎々として、さしもに広き湖面は更なり、目路遠き国原を隈なく照らし給ひける。
(昭和八・一〇・二四 旧九・六 於水明閣 加藤明子謹録)
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