狭野彦は朝香比女の神の言霊と鋭敏鳴出の神の守りの功徳をたたえる歌を歌い、朝香比女はそれに答える歌を歌いつつ進んでいた。
一行は、八十曲津神の住処である霧の海(第5章以降では「万里の海」と呼ばれる)の岸辺に到着した。するとそこには、主の大神の神命により比女の征途を守りたすけるべく、待ち迎える五柱の神があった。初頭比古(うぶがみひこ)の神、起立比古(おきたつひこ)の神、立世比女(たつよひめ)の神、天中比古(あめなかひこ)の神、天晴比女(あめはれひめ)の神である。
一行は、霧の海の曲津神たちは数多く、比女を守り助けるためにやってきたと名乗った。朝香比女は、神々のいさめを踏みにじって飛び出してきた自分を助けにやってきた神々に感謝の歌を歌った。
神々はそれぞれ自己紹介の歌を交し合い、朝香比女をはじめとする六柱の天津神に、狭野彦の一柱の国津神を加えて、一同霧の海の岸辺に生言霊をおのおの奏上した。すると、たちまちあたりの巌は大きな舟となって、岸辺に浮かんだ。
神々は駒とともに舟に乗り移り、よもやまの話に一夜を語り明かした。