一行の先頭に使える輪守比古の神は、馬上に出陣の門出歌を豊かに歌った。
万里の島の猛獣を制し、蛙と鼠がうらやすく穀物を作る世となったが、いまだ曲津見は消え去ってはいない。
白馬ケ岳の谷に潜む竜神・大蛇が毒気を吐いて禍を重ねている。その様子をいたんで、今田族比女は一行を引き連れ、魔棲ケ谷をさして勇ましくも進んでいく。
生言霊の幸わいに、曲津の神は影をひそめ、天地にふさがる雲霧は晴れ渡る。地上のもらみなに光を与え、永遠に守らせ給えと願い奉る。
たとえ魔棲ケ谷がどれほど深くとも、竜のすさびが猛くとも、恐れずに言霊の剣を抜き持ちて、曲津を残らず斬りはふりつつ掃き清め、この天界を神の楽園と生かせ守ろう。
雲霧迷う山麓も、我等は勇んで進み行く。
この歌を受けて、先陣の霊山比古、若春比古、保宗比古、そして後詰の正道比古がそれぞれ行進歌を歌った。最後に、田族比女が征途の決意を歌を歌いつつ、一行は白馬ケ岳の山麓を進んでいった。