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文献名1霊界物語 第77巻 天祥地瑞 辰の巻
文献名2第3篇 善戦善闘よみ(新仮名遣い)ぜんせんぜんとう
文献名3第14章 夜光の眼球〔1946〕よみ(新仮名遣い)やこうのめだま
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
先陣を切った霊山比古の神は大野ケ原を進んで来たが、にわかに魔棲ケ谷方面から吐き出された黒煙が天を塞ぎ地を這い、あたりの様子もわからなくなった。たそがれるころになって、山麓のやや平坦な小笹が原までようやくたどり着いたが、ここで行き詰まってしまった。霊山比古は、邪気をはらすべく、生言霊に言霊歌を宣り上げた。

すると、胸に夜光の玉をかけた山跡比女、千貝比女、湯結比女の三女神が現れた。三女神は霊山比古に軽く目礼しながら、夜光の玉であたりを照らした。

霊山比古は、三女神は後から出立したはずなのに先に着いていたこと、また夜光の玉のような宝玉を持っていることをいぶかり、偽の女神であろう、と歌で問い掛けた。

三女神は、夜光の玉は自分たちの御魂であり、疑いをかける霊山比古をたしなめ、また後について自分たちの庵で休むように誘った。

霊山比古はますますいぶかしみ、こんなところに三女神の庵があろうはずはない、と問い掛ける。三女神は、疑いを解くために夜光の玉を隠しましょうか、と霊山比古に問い掛けた。霊山比古が承諾すると、三柱の比女神も夜光の玉も、まったく消えうせ、あたりは見分けもつかない闇となり、小笹を吹き渡る嵐の音が、ただ凄惨に聞こえてくるのみであった。

霊山比古は一人両腕を組み、夜が明けるのを待って戦おうと、歌を詠み始めた。こうして、一人闇の中で歌を詠みつつ一夜を明かした。やがて東雲の空がほの明るくなり、紫雲たなびき、今日の征途を祝するように見えた。
主な人物 舞台 口述日1933(昭和8)年12月15日(旧10月28日) 口述場所大阪分院蒼雲閣 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年3月30日 愛善世界社版 八幡書店版第13輯 649頁 修補版 校定版234頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  茲に霊山比古の神は、御樋代神の屯し給ふ泉の森の本営を立出で、大野ケ原を南へ南へと駒を駈けながら進ませ給ひけるが、俄に魔棲ケ谷の方面より吐き出す黒煙は天に塞がり地に這ひて、咫尺を弁ぜず、駒の歩みも捗々しからず、行き艱みつつ其日の黄昏るる頃、漸くにして山麓の稍平坦なる小笹ケ原に着き給ひけるが、昼も猶暗きに、搗て加へて夕闇の迫りければ、其身の乗ります白き駒さへも完全に見別け難くなりけるにぞ、流石の霊山比古の神もひたと行詰り、当惑の体にて、邪気を晴らすべく生言霊を宣り上げ給ふ。其御歌、

『アオウエイ天津高宮の主の神の
  依さしの旅ぞ雲霧退け

 カコクケキ輝き渡る日月の
  永遠に伊照らす神の御国ぞ

 曲神の醜の猛びの強くとも
  生言霊に雲霧晴らさむ

 サソスセシ

 冴え渡る月日の影を曲神は
  隠さむとするぞ忌々しかりけれ

 五月蠅なす曲津の砦を射照して
  吾は進まむ魔棲ケ谷に

 タトツテチ

 玉の緒の水火の命のある限り
  万里の島根を照らさむ吾なり

 高山の谷間に潜む曲津見の
  水火を祓ひて天津日を照らさむ

 魂線の生きの生命のあらむ限りを
  尽して曲神と戦はむかな

 ナノヌネニ

 七重八重十重に二十重に包みたる
  雲霧晴れよ生言霊に

 長き間万里の島根を閉したる
  雲霧祓はむ水火の命に

 流れ落つる滝の響も濁りたり
  大蛇の棲める此谷川は

 艱みなき紫微天界の中にして
  荒振る曲神を憐れみ思ふ

 ハホフヘヒ

 駿馬の白き姿も見えぬまで
  曲神の水火は黒く包みぬ

 果しなき生言霊の力にて
  吾は払はむ醜の黒雲を

 はしけやし主の大神の御水火以て
  ヲ声に生れし霊山比古ぞや

 マモムメミ

 曲神の醜の砦をことごとく
  言向け和すと吾は来つるも

 万里ケ島は主の大神の御樋代ぞ
  服従へ奉れ醜の竜神

 摩訶不思議白馬ケ岳の山裾に
  醜の黒雲立ち迷ふとは

 まさにこれ醜の竜神大蛇等が
  吾謀らむと包める雲かも

 ワヲウヱヰ

 吾は今御樋代神の神言以て
  曲神の征途に立ち向ひたり

 悪神の醜の奸計をことごとく
  討斬り払ひ雄々しく進まむ

 吾は今これの笹生に休らひて
  夜の明くるまで待たむと思ふ

 進まむとひたに思へど咫尺弁かぬ
  この常闇は詮術もなき』

 斯く歌ひ給ふ折しも、胸に夜光の玉をかけ、悠々と現はれ来れる三柱の女神あり。ふと見れば山跡比女の神、千貝比女の神、湯結比女の神の三女神にして、神言の前に軽く目礼しながら夜光の玉に四辺を照し、比女神の姿は常に勝りて美しく、神々しく、優しく見えにける。
 霊山比古の神は、三女神は吾より後に進みたる筈なるに、早くも先着したるは合点ゆかずと双手を組み暫し思案に暮れ居給ひけるが、

『審かしも汝は三柱比女神に
  面ざし偽せし曲津見なるらむ

 三柱の比女神は夜光の珍の玉
  持たせしことの未だ無きものを』

 山跡比女の神は「ホホホホホホ」と優しき御声に打笑ひながら、

『愚かなる霊山比古の言の葉よ
  夜光の玉はわが神魂ぞや

 吾神魂まさかの時には斯の如
  光となりて闇を照らすも

 常闇はいや深くとも吾持てる
  夜光の玉に山路を照らさむ

 吾魂の光に従ひ登りませ
  闇の山路を霊山比古の神よ』

 霊山比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『如何にしても心落ちゐぬ汝の姿
  醜の曲神の化身とおもふ

 よしやよし他の神々は闇を照らす
  光に迷はむも吾は認めじ』

 千貝比女の神はニコニコしながら、

『愚かしき言を宣らすよ汝が宣りし
  生言霊に耀ひし吾魂よ

 汝が宣りし生言霊の光なくば
  吾は夜光の玉を得まじきを

 兎にもあれ角にもあれや闇の道を
  吾に続きて登らせ給へ

 霊山比古の神の御尾前明さむと
  吾は夜光の玉を照らすも

 三柱の比女神何れも汝が為め
  夜光の玉を照らして待つも』

 霊山比古の神は審かしさに堪へず、御歌詠ませ給ふ。

『兎見斯見汝が面ざし眺むれば
  三柱比女の神とは思へず

 兎も角も夜の明くるまでは吾は此処に
  生言霊を養はむと思ふ』

女神『愚なる言霊宣らすも霊山比古の
  神の眼は迷ひましけむ

 斯の如夜光の玉に照らされて
  吾面ざしは変りて見ゆるも

 真昼見る女神と夜光の光に見る
  女神の姿はうつらふものを

 山裾の此処は笹原露しげし
  吾住む庵へ進ませ給へ』

 霊山比古の神は益々審かしみながら、

『三柱比女神の庵の此山に
  ありと思へず欺罔言宣るな』

女神『言霊の伊照り幸ふ国なれば
  束の間にも庵は建つなり

 世の中の森羅万象は言霊の
  水火に生くると思召さずや』

 湯結比女の神は微笑みながら、

『霊山比古の神山跡比女千貝比女
  神の争論可笑しくもあるか

 疑ひの雲霧互に行き交ひて
  黒白も判かぬ闇の笹原

 斯の如吾も夜光の玉を持ちて
  万里の島根の闇を照らすも

 あくまでも疑ひ給ふは宜ながら
  汝も言霊の神にあらずや

 霊山比古の神の疑ひ晴らさむと
  夜光の玉をいざや隠さむ』

霊山比古『山跡比女千貝の比女よ汝が持てる
  夜光の玉も隠させ給へ』

 斯く歌ひ給ふや、三柱の比女神の姿も夜光の玉も全く消え失せて、四辺は咫尺弁ぜぬ真の闇となり、小笹を吹き渡る嵐の音のみ聞え来る其の凄惨さ、譬ふるにもの無かりける。
 茲に霊山比古の神は小笹を渡る山嵐の音と駿馬の鼻息のみ聞ゆる淋しき小笹ケ原に、両腕を組み夜の明くるを待ちて戦はむとして、御歌詠ませ給ふ。

『荒果てし小笹の原に迫りたる
  闇はまさしく曲神の水火なる

 掛巻くも畏き神の言霊に
  夜光の曲津は消え失せにけり

 笹原に山風立ちて肌寒く
  この一夜を如何に明さむ

 立向ふ曲神の征途に黄昏れて
  吾止むを得ず言霊歌詠む

 何事も吾魂線のささやきに
  従ひ進まむ曲津の征途に

 はからずも此処に出で来し比女神は
  曲津の化身か眼光れる

 眩しきまで光れる眼を光らせて
  夜光の玉と偽る曲神

 八百万の醜の曲神集まりし
  此山道は畏かりける

 未だ稚き国原なれば曲津見は
  恣なる振舞なすも

 色々と姿を変へて迫り来る
  この山下の曲神忌々しも

 肝向ふ心の魂を光らせて
  吾神業を遂げむとぞ思ふ

 しきり降るこの俄雨は竜神の
  業にやあらむ長続きせず

 千早振る神の水火より生れたる
  正しき吾は進むのみなる

 俄雨降りて俄に止みにけり
  曲神の力斯くも脆かり

 久しきに堪へて戦ひ迫りつつ
  醜の曲神を言向けてみむ

 竜蛇神これの谷間に集まりて
  非時雲を起す憎さよ

 生言霊の水火の幸ひ著ければ
  八十の曲津も何か恐れむ

 浮雲の定まりもなき曲津見の
  脆き奸計を破りて進まむ

 黒雲は十重に二十重に包むとも
  晴らして行かむ生言霊に

 澄みきらふ吾言霊に恐れしか
  竜蛇は比女となりて窺ひぬ

 次々に夜光の玉と見せかけて
  醜女は吾を欺かむとせり

 奴婆玉の闇は迫れど吾持てる
  神魂の光はますます明るし

 吹き荒ぶ醜の嵐も曲神の
  水火にありしよ頓に止みぬる

 睦まじき女神の姿に体を変へて
  吾を欺く醜女探女等

 由縁ある比女神の名を騙らひつ
  闇を照らして吾を誘へり

 美しき比女神の姿を吾前に
  現はせ誘ふ醜のたくらみ

 画にさへも書けぬ美しき優姿を
  現はし吾眼を眩まさむとせし

 健気なる三柱比女神は斯の如
  怪しき言霊宣らさざるなり

 せせらぎの音のみ聞ゆる谷川の
  傍の笹原は露のしづけき

 天も地も常闇の如曇りたり
  力限りに曲津の謀るか

 寝もやらずこれの笹生に端坐して
  夜の明くるまで吾は待たむか

 隔てなき神の恵に守られて
  醜の曲津に勝たむと祈る

 目を閉ぢし如く見ゆるも常闇の
  この山裾は曲津の入口か』

 斯く一人闇の芝生に御歌詠ませつつ一夜を此処に明し給ひける。東雲の空はほの明くして紫雲棚引き、今日の征途を祝するがに覚えたり。

『東の空は漸く東雲めて
  紫の雲は棚引きにけり

 百鳥の声も爽けく聞え来ぬ
  早昇りまさむ天津日の光は

 百千谷の滝津瀬の音はいや高く
  響かひにつつ夜は明けにけり』

(昭和八・一二・一五 旧一〇・二八 於大阪分院蒼雲閣 森良仁謹録)
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