一行が進んでいくと、血にまみれた老婆が行きも絶え絶えに横たわり、助けを乞うていた。
老婆は、自分は名もなき国津神で、沼の大蛇のために傷つけられたため、助けてほしい、と歌うが、初頭比古は邪神の罠と見破り、天の数歌と言霊歌を歌った。するとたちまち老婆は三角三頭の長蛇と身を表し、火焔・黒煙を吐きながら沼に逃げ込んでしまった。
起立比古の神以下三柱の神々は、この様を述懐の歌に歌った。
一行はグロス沼の汀に到着し、眺めてみればほとんど東西十里、南北二十里もある大きな沼であった。四柱の神は沼の周囲を四分し、東西南北に一柱づつ陣取っていっせいに天津祝詞を奏上し、七十五声の言霊を宣り上げた。
すると、グロノス、ゴロスの邪神は言霊の力に敵しかねて、グロノスは六角六頭、ゴロスは三角三頭の姿を現して水面をのたうちまわった。そしてついに黒雲を起こし、天高く立ち昇ると鷹巣(たかし)の山の方面さして、いかづちのような音をとどろかせながら逃げ去った。
このために沼の水の大半が雲となって空に舞い上ってしまい、再び雨となって激しく下った。邪神を容易に去らせることができたのは、朝香比女の神を陰ながら守護する、鋭敏鳴出(うなりづ)の神のウ声の力であった。
四柱の神は傘松の老木まで戻ってきて、この凄まじい戦況を歌に歌いあった。そして、忍ケ丘の朝香比女の本営にめでたく凱旋することとなった。