大竜身彦の命は、艶男のために、竜宮島第一の景勝地・鏡湖の下方の琴滝に寝殿を作って住まわせた。
艶男はこの寝殿で朝夕、天津祝詞や生言霊を奏上して、竜の島根の開発を祈っていた。竜神族の女神たちは、この寝殿の広庭に集まって艶男の言霊を聞きに集まっていた。
その言霊の力で、あたりに散在する巨岩は瑪瑙に変わり、滝のしぶきにぬれた面を日光に映して、得もいわれぬ光沢を放っていた。
ある朝、艶男が滝の光景を称える言霊歌を歌い終わると、夜の明けた庭に、竜宮城に仕える見目形優れた七乙女が、何事かをしきりに祈っているのが見えた。
艶男が七人に何を祈っているかを問い掛けると、七人の乙女、白萩・白菊・女郎花・燕子花・菖蒲・撫子・藤袴はそれぞれ、艶男への思いを打ち明け、せめて声を聞くためにここに来ているのだ、と歌った。
艶男は、七人の乙女に言い寄られて、ただどうしようもない自分を嘆く歌を歌うのみであった。
滝の落ちる剣の池の砂は、艶男の言霊によって金銀となり、水底の白珊瑚は乙女たちの赤き心によって赤珊瑚に染まり、滝のしぶきは珊瑚の枝に真珠・瑪瑙・黄金・白金に変じた。天地瑞祥の気はあたりに充満し、孔雀、鳳凰、迦陵頻伽が太平を歌う声が四辺から響いてきた。