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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
文献名2第2篇 秋夜の月よみ(新仮名遣い)しゅうやのつき
文献名3第11章 火炎山〔2015〕よみ(新仮名遣い)かえんざん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-24 20:27:34
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月28日(旧06月17日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者谷前清子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 348頁 修補版 校定版213頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8011
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本文の文字数3778
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本文  秋男の一行は毒草の生ひ茂る野を右に左に分けながら、夜を日に次いで前進し、三日目の黄昏時、漸く火炎山の麓に辿り着きぬ。火炎山は音に名高き大火山にして、夜は大火光百里に亘り、時ありて焼石を降らし、人獣を害すること甚し。葭原の国津神等は一名地獄山と称へて恐れてゐる。
 この山はあらゆる猛獣毒蛇の棲処にして、譏り婆アの本拠なり。
 忍ケ丘にて思はぬ不覚をとりたる笑ひ婆も、ここに逃げ来り譏り婆の館に身をまかせて、霊身の傷を癒して居た。
 秋男は国内に繁茂せる葭草や水奔草を、火山の火をとりて風に乗じ焼きはらひ、猛獣毒蛇を悉く焼きつくさむと考へ、一先づここに進み来れるなりき。
 黄昏時とは言へ山頂より噴出する火光に昼の如く明く、草の根に潜む虫の影さへ明瞭に見ゆるばかりなり。
 秋男は噴火の荘厳なる様を見て、芝生に腰打ち下し歌ふ。

『火炎山吐き出す焔の光りにて
  これのあたりは夜なかりける。

 濛々と黒煙のぼる間を縫ひて
  紅蓮の舌は天に冲せり。

 この山の火種を取りて葭原の
  国土の醜草焼き払ふべし。

 猛獣毒蛇数多棲むてふこの山を
  いかに登らむ噴火口まで。

 大空の月の光の褪するまで
  天に冲する火炎の焔よ。

 譏り婆の棲処と思へば肝向ふ
  心固めて山登りせむ。

 火の種の一つありせば葭原の
  国土を拓くはたやすかるべし。

 連日の旅に疲れて吾足は
  動かずなりぬ暫し休まむ』

 松は歌ふ。

『音に聞く火炎の山の噴煙は
  天津御空にとどくかと思ふ。

 黒煙の中に紅蓮の舌見えて
  もの凄きかな火炎の山は。

 譏り婆の配下は如何程あるとても
  一つの火種に焼き亡ぼさむ。

 鬼婆の棲処を焼きて冬男君の
  仇を報うと思へば勇まし。

 秋の野の虫の声々さわやかに
  聞え来るなり地獄の山にも。

 久方の御空の月は見えねども
  昼にまさりて明き国原。

 譏り婆この高山の巌窟に
  住むと思へば恐ろしき奴。

 恐ろしく心汚くしぶときは
  婆アにまさるものなかるらむ。

 婆と言ふ名を聞くさへも何となく
  いまはしき心湧き出でにけり。

 殊更に譏り婆アの曲言葉
  聞くさへ胸が悪くなるなり』

 竹は歌ふ。

『火炎山吐き出す焔を眺むれば
  吾勇ましく心ときめく。

 頂に駆け登りつつ火の種を
  取りて帰れば国土定まらむ。

 如何にしても火炎の山の頂上を
  極めずに吾帰るべしやは。

 幾万の水奔鬼の群来るとも
  生言霊に追ひ退けむ。

 武士の弥猛心はもえ立ちぬ
  火炎の山の焔の如くに。

 傷つきて呻吟きゐるらむ此山の
  醜の主の譏り婆アは。

 言霊のいたく濁れる鬼婆の
  譏り言葉は吾耳汚せり。

 はてしなき大野ケ原を渉り来て
  今日は火炎の山にやすらふ。

 吹く風もなまぬるくして心地悪し
  水奔鬼の群窺へるにや。

 水奔鬼浮塵子の如く寄するとも
  大丈夫吾はびくとも動かず。

 大丈夫の弥猛心の切先に
  寄せ来る鬼を突き伏せて見む。

 いさましく天に冲する火焔にも
  まさりて雄々しき吾みたまなり。

 おもしろしああ勇ましし今よりは
  譏り婆アの棲処を突かむ』

 梅は歌ふ。

『水上の山を立ち出で日々なべて
  火炎の山に漸く来つるも。

 火炎山の噴煙見れば吾魂は
  天にのぼるが如く栄ゆる。

 昼の如明るき野辺の風景は
  火炎の山の火光のたまもの。

 夜されど火炎の山の灯に
  闇は来らじ戦によし。

 黒煙の中より赤き火の舌は
  北吹く風になびきゐるかも』

 桜は歌ふ。

『この山に冬はなからむほのぼのと
  麓の風さへ暖かなれば。

 木も草も見えわかぬ迄茂りたる
  火炎の山の麓は凄し。

 頂上の火種を一つ拾ひ来て
  これの裾野を焼かむと思ふ。

 おもしろき夕なりけり地は鳴り
  木草はどよみ山は火を吐く。

 目路の限り水奔草と葭草の
  広野は隈なく明く見ゆめり』

 斯く歌ふ折しも、いづくともなく怪しき声、
『アハハハハハハ  イヒヒヒヒヒヒ
 ウフフフフフフ  エヘヘヘヘヘヘ
 オホホホホホホ面白や  オホホホホホホ面白や
わが計略にくたばりし冬男の兄の秋男なるか。吾こそは忍ケ丘に長く棲み居し笑ひ婆の水奔鬼ぞ。よくもまあ迷ふてうせた。討つは今この時、冬男の恨みを兄の秋男に報うてくれむ。ヤアヤア手下ども、五人の餓鬼どもを片つ端からふん縛り、火炎の山の火口に投り込め、アハハハハハハハハ心地よやな』
と、さも憎々しげなる高声響き来る。秋男はこの声に足の疲れも忘れ、すつくと立上り、

『弟の消息今や悟りけり
  笑ひ婆アに謀られ死せしか。

 吾こそは珍の武士いかにして
  弟の仇を報はであるべき。

 水奔鬼の笑ひ婆アの棲処とは
  知れどここに会ふとは思はざりしよ。

 あらためて笑ひ婆アに言問はむ
  譏り婆アの棲処はいづれぞ』

『アハハハハハハ、イヒヒヒヒヒヒ
馬鹿なことを申すな。譏り婆はこの方の妹、今ここに立つて居るのが汝の目には分らぬか、盲ども、もうかうなる上は網にかかつた魚も同然、吾等は手下を呼び集め、心のままに嬲り殺し、てもさてもあはれなものだワイ。
イヒヒヒヒヒヒ、オホホホホホホ』
 松は怒り心頭に達し、声もあらあらしく、

『おもしろし笑ひ婆アに譏り婆
  只一討に亡ぼして見む

 吾敵はここに集りゐると聞く
  手間暇いらぬ今宵の戦ひ』

 竹は歌ふ。

『水奔鬼いかに群がり攻め来とも
  弥猛心に突き亡ぼさむ』

 斯く言ふ折しも、不思議なるかな、火炎山の噴火はピタリと止まり、四辺は真の闇、秋男の一行は進退維谷まり、大地にどつかと坐し、双手をくんで暫し思案にくれて居たり。
 暗がりの中より笑ひ婆は、顔の輪廓ハツキリと現れ来り、長き舌を出しながら秋男の前近く寄り来り、
『アハハハハハハ、イヒヒヒヒヒヒ
もうかうなればこつちのもの、覚悟致して毒茶を飲め、さあ喜んで喰へ』
と言ひながら、大いなる瓶より毒茶を秋男の面上に注ぎかくる。
 秋男はたまりかねて両手を以て面を覆ひ心の中にて、

『一二三四五六七八九十
 百千万千万の神
 守り給へ救ひ給へ』

と奏上するや、笑ひ婆の面は忽ち消え失せ、遥の方よりいやらしき笑ひ声聞ゆるばかりなり。
 後方より譏り婆の声、
『ギヤハハハハハハ、ギユフフフフフフ
腰ぬけ野郎の秋男の一行ども、思ひ知つたか、譏り婆のお手並は此通り、斯くなる上は何程もがくも泣くも追ひつくまい、さてもさても小気味のよい事だワイ。ギユフフフフフフフこの婆は水奔鬼の中でも最も力のある御方ぞや。それに何ぞや、小さき人間の身として、譏り婆を征伐するとは片腹痛い。もうかくなる上はこつちの自由、てもさてもあはれな腰ぬけ野郎だな』
 秋男は無念やる方なく、生命を的に声する方に向つて拳を固め飛びつく途端、闇の落し穴にどつとばかり落ち込みにける。
 譏り婆は又もや大声にて、
『ギアハハハハハハ、てもさても小気味よし、秋男の野郎はこの方の計略にかかり、もろくも生命を落しよつた。それでも俺の輩下が一人殖えたと申すもの、後の四人の餓鬼どもはさアどう致す、降参致して俺の部下となるかどうだ、返答いたせ、ギアハハハハハハ、よもや手向ひよう致す力はあるまい』
 松、竹、梅、桜の四人は、一斉に譏り婆の声する方へ突進する途端、あはれや一度に闇の奈落に墜落し、惜ら現身の生命を失ひける。
 火炎の山は再び噴煙を吐き出し、火光天に冲し、さも物凄き光景なりける。
 秋男の一行は闇の落し穴に墜落し、果敢なくも現身の生命を失ひけるが、その精霊は不老不死にしてここに復活し、五人一度に首を鳩め、婆の奸策にかかりしことを恨み居る。
 秋男はかすかに歌ふ。

『思ひきや火炎の山に辿り来て
  かかる歎きに今遭はむとは。

 斯くなれば吾等も同じ水奔鬼の
  群に入りしか思へばくやしき。

 水奔鬼にたとへなるとも吾心
  彼の鬼婆をきためで置くべき。

 汝も亦吾と同じく鬼婆に
  玉の生命を奪はれけるよ。

 この上は五人力を一つにし
  二人の婆を打ち亡ぼさばや』

 松は歌ふ。

『吾君の仰せ畏しこの恨み
  吾等はむくはで止むべきならず。

 悪神の謀計の罠に陥りて
  果敢なくなりし吾はくやしも』

 竹は歌ふ。

『地獄山麓の穴に陥りて
  玉の生命を捨てにけらしな。

 身体はよし失するとも精霊の
  生命は長し恨みをむくいむ。

 武士の弥猛心も斯くならば
  暫しは詮すべなからむと思ふ』

 梅は歌ふ。

『力よわきことを宣らすな精霊と
  言へども吾等は雄々しき大丈夫。

 大丈夫の堅き心はよしやよし
  生命死すともひるまざるべし。

 水上の山にあれます御父は
  歎かせ給はむ二人をとられて。

 吾父も母も歎かむ火炎山の
  鬼に生命をとられしと聞きて。

 さりながら吾等五人の言霊に
  醜の鬼婆平げて見む』

 桜は歌ふ。

『思はざる不覚を取りて主従は
  あたら生命を失ひにけり。

 さりながら吾精霊はかくの如
  生きてありせば恐るるに足らず。

 どこ迄も婆アの生命取らざれば
  大丈夫吾等の意気地は立たず。

 八千尋の深き穴底に落されて
  生命亡せしと思へば恨めし。

 この恨みやがてはらさむ笑ひ婆
  譏り婆アの首引きぬきて』

 斯く主従五人は、今更の如くあたら生命を奪はれたるを怒り且つ歎き、仇を報ずべきを語り合ひつつ、千尋の深き穴の底に佇んで居る。
 時こそあれ、いづくともなく、いやらしき笑ひ婆の笑ひ声、譏り婆の破鐘の声、物凄く響き来る。
(昭和九・七・二八 旧六・一七 於関東別院南風閣 谷前清子謹録)
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