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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
文献名2第2篇 秋夜の月よみ(新仮名遣い)しゅうやのつき
文献名3第14章 報哭婆〔2018〕よみ(新仮名遣い)ほうこくばば
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
火炎山の頂上には、虎、熊、獅子、狼、豹、大蛇などの猛獣の悪魔たちが、火口の周囲に生息して火種を奪われないように守っていた。

それというのも、もしこの火種を奪われて大原野に放たれてしまうと、猛獣の悪魔たちはたちまち焼き殺されて全滅してしまうことを恐れていたからであった。

秋男が火炎山に向かっていたのも、この火を奪って猛獣の悪魔たちを焼き滅ぼそうと計画していたからに他ならなかった。

猛獣の悪魔の王たちは、水奔鬼たちを使役して、人間がこの山に近づくのを妨害していたのであった。

猛獣の悪魔の王たちが秋男一行をどうやって防ごうかと協議している最中、秋男たちの言霊に打ち負かされた笑い婆、譏り婆が逃げてきた。そして、悪魔の王たちに助力を求めてきた。

猛獣の悪魔たちは、水奔鬼の婆たちのふがいなさを責めるが、結局一致団結して秋男一行に対する防御を敷くことに決定した。

一方、秋男たちは、言霊によって水奔鬼の婆たちを追い払うと、山頂には火炎山の噴火が見えてきた。婆の幻術を打ち破り、山頂の火を求めて行軍しようと意気を上げたその矢先、猛獣の悪魔たちは秋男たちの足止めをしようと、猛烈な雨・風・雷を起こしてきた。

闇の中に稲妻がひらめく間から、鬼婆の影が現れ、再び笑い婆のおぞましい声が響いてきた。そして、猛獣の悪魔の力を借りて、秋男一行の胆力を奪おうと再び脅しをかけてきた。

秋男は胆力を据えて天地を礼拝し、生言霊を奏上するや、雷鳴電光・激しい風雨はぴたりと止んでしまい、空は晴れ渡って元の光景に立ち返った。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月28日(旧06月17日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者内崎照代 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 364頁 修補版 校定版273頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8014
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本文  火炎山の頂上に、虎、熊、獅子、狼、豹、大蛇等の猛獣が、火口の周囲に棲息し、何者にも火種を盗まれざるやうと、日夜固く守つてゐる。若し此火種を奪はれ、葭原の大原野に放たれることあらば、それこそ一大事、猛獣毒蛇は忽ち焼き殺され、全滅の憂目にあはむことを恐れ、猛獣毒蛇の王は協議の上、当番を選びて噴火口の周囲を固く守り居たりける。秋男は此火種を奪ひ取り、山村原野に放火して、一斉に葭原全帯の悪魔の巣窟を焼き尽さむと計画したりける。然るに猛獣毒蛇どもの前衛を務むる譏り婆の水奔鬼は、力限りにこれを阻止すれども、動もすれば秋男が登山するの恐れあり、如何にもしてこれを妨げむと、種々様々の魔術をつくし、暫時の間を闇の幕に包みおきたるなり。山上の火口の周囲には、猛獣の王首を鳩めて山麓より響き来る言霊の水火に戦きながら、如何にもして火取の敵を防がむやと、協議の真最中のところへ、すたすたと息をはづませ登り来りしは、笑ひ婆ア、譏り婆アの二鬼である。
 虎王は二鬼を見るより慌しく声をかけ、

『山裾に言霊ひびくは何者ぞ
  つぶさにかたれ二つの婆ども』

 熊の王は、

『汝等は何をためらふか一刻も
  早くまことを吾等に伝へよ』

 笑ひ婆は、

『アハハハハ、イヒヒヒヒ

 いけすかぬ餓鬼ども五つあらはれて
  この山の火を取らむとするも。

 たましひのあらむ限りの力もて
  吾は今までふせぎゐたりき。

 わが力最早つきなむ願はくば
  君の力を吾にあたへよ』

 譏り婆は歌ふ。

『イヒヒヒヒいらぬ世話やかす餓鬼どもが
  あらはれ火炎の山にのぼらむ。

 われも亦力かぎりに防げども
  敵は言霊の武器を持つなり。

 斯くならば君の力をからむより
  外に手だてはなしと思へり』

 虎王は歌ふ。

『その方は小刀細工いたす故に
  もろくも敵にくじかれにけむ。

 言霊の武器おそるるに足らざらむ
  魔術をつくして向ひ戦へ。

 魔心のひるまずあれば言霊の
  剣もいかで恐るべきかは』

 狼の王は歌ふ。

『笑ひ婆ア譏り婆アの気の弱さ
  ききて狼あきれ果てたり。

 闇の幕汝に与へあるからは
  彼がまなこをくらませ亡ぼせ』

 笑ひ婆、

『アハハハハ笑ひ婆アは根かぎり
  力の限り戦ひしはや。

 迷はせど穴に落せど言霊の
  剣に彼はひるまざりける。

 名に高き笑ひ婆アのたくらみも
  今は全くやぶれはてたる。

 この上は君が力を借りるより
  わが生くる道更になからむ』

 狼の王、

『気のきかぬ二人婆アよ狼は
  今日より汝に暇つかはす。

 くら闇の常夜の幕を持ちながら
  へこたれ悩みし腰抜けなるかな』

 獅子王は歌ふ。

『狼の君よしばらく待てよかし
  婆アの魔言のふかきをさとりて。

 斯くならばわれ等一度に魔力を
  あはせて敵を亡ぼさむかな。

 熊も来よ虎狼も従へよ
  山を降りて敵に向はむ。

 言霊の剣の光するどくも
  われ等は牙もて咬み殺すべし』

 斯く山上の悪魔等は協議を凝らしてゐる。麓の樹蔭に夢よりさめたる如き秋男一行は、山頂の噴火するさまを眺めながら、

『ああ吾は譏り婆アにはかられて
  樹かげに夢をみてゐたりけむ。

 如何ならむ艱みにあふもひるむまじ
  山の尾の上の火をとらざれば。

 火の種をとられむことをおそれみて
  猛獣毒蛇は守りゐると言ふ。

 ともかくも捨身となりて堂々と
  曲津の砦に押し寄せゆかむ。

 火の種の一つありせば山に野に
  ひそむ悪魔の棲処を焼かむ』

 松は歌ふ。

『情なや譏り婆アのたくらみに
  大丈夫吾はあざむかれける。

 斯くならば最早覚悟し鬼婆の
  醜のたくみを退けゆかむ。

 国の為めに心をいらつわが側に
  無心の桔梗は安く匂へり。

 天津空仰ぎて見れば天津日は
  うす雲の中に輝き給へり』

 竹は歌ふ。

『笑ひ婆譏り婆アのさまたげを
  うちはらひつつ登りゆくべし。

 にくらしや冬男の君の御生命
  とりたる婆アを征討めでおくべき。

 この婆は曲津神等のさきばしりを
  つとむる醜の曲ものなるらむ』

 梅は歌ふ。

『大空はやや曇れども路の辺の
  千草は花をかざして匂へり。

 一天はにはかに曇り太き雨
  降り出しにけり曲のたくみか』

 斯く歌ふ折しも、山上の猛獣連は秋男一行の登山を喰ひ止めむとして、雲を呼び、風を起し大雨を降らし、雷を使ひ、忽ち天地は暗澹として修羅道を現出したりける。
 梅はこの光景を眺めて、

『頂にすまへる猛獣毒蛇の
  すさびなるらむ雨風しげし。

 雷は高く轟き風荒れて
  山を登らむ手だてさへなき。

 斯くならば曲の力の弱るまで
  待ちて登らむ火炎の山頂』

 秋男は歌ふ。

『又してもこざかしきかな曲神は
  黒雲おこし雨を降らすも。

 曲神の醜の材料つくるまで
  心静かに樹かげに待たむ』

 雷鳴轟き稲妻ひらめき、山風強く吹き荒び、大雨沛然として降りしきり、樹下の宿りも雨洩りの為に、皮衣もびしよ濡れとなり、大いに苦しみたれど、五人の大丈夫は少しもひるまず、天の数歌を奏上して時の過ぐるを待ち居たり。天地の闇を縫うてひらめく稲妻の間より、鬼婆の影ちらりちらりと現はるるさま、一入いやらし。樹の枝高く怪しき声又もや聞え来る。
『ギヤハハハハ、獅子王様の力を借り、あらはれ来りし鬼婆ぞや。この笑ひ婆は以前と事変り、獅子王、熊王、虎王、狼王様方々の御力を拝借致してこれに現はれしものなれば、最早、汝等の言霊とやらにひるむべき。さあ、これよりは汝等の返答次第にて、骨を砕き、肉を削ぎ、血をしぼり、獅子王様のお食事に奉らむ。てもさても面白や勇ましや、イヒヒヒヒ、ウフフフフ、イヒヒヒヒ、オホホホホ臆病者、この方の言葉を聞いて胴ぶるひ致してゐるが、さてもさてもいぢらしい者だワイ。ギヤハハハハ、此方は汝が恐るる譏り婆ぞや。今日こそは汝等が運の尽き、獅子王様の力に依つて生命を奪はるべし。じたばたしても、もう敵ふまい。さあ動くなら動いてみよ。神変不思議の金縛りの術にかけおきたれば最早びくとも動けまい。さてもさても心地よやな、ギヤフフフフ、ヒウーードロドロドロ、この方は水奔鬼の譏り婆アの幽霊ぞや。いやらしくはないか、いや、おそろしくはないかウフフフフ』
と、幾度となく同じことのみ繰返す鬼婆の言葉に、秋男は胆力を据ゑ、再び天地を拝し、生言霊を奏上するや、さしも激しかりし雷鳴電光一時に止まり、山風の荒びも、降る雨も、ぴたりと止まりて、天地清明、空に一点の雲霧もなく、地上は錦の莚を敷き並べたる如く、日月輝き渡り、再び元の天地の光景にかへりたるこそ不思議なれ。
(昭和九・七・二八 旧六・一七 於関東別院南風閣 内崎照代謹録)
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