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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
文献名2第3篇 木田山城よみ(新仮名遣い)きたやまじょう
文献名3第12章 木田山颪〔2039〕よみ(新仮名遣い)きたやまおろし
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
チンリウ姫、乳母のアララギ、アララギの娘センリウの三人は敵城に囚われ、牢獄に入れられて互いに述懐の歌を歌って身の不孝を歎いていた。

三人はイドム国を忍び、王と王妃の行方を案じ、またサール国への恨みを歌っていた。

そこへ、エームス太子の侍従・朝月、夕月の両人が足音を忍ばせてやってきた。そして、エームス太子のチンリウ姫への思いを告げ、牢獄から出ようと思ったら、太子の思いを受け入れるよう説得をはじめた。

チンリウ姫は敵国の太子の情けを受けるくらいなら、生命を捨てた方がましだ、と憤慨した。

朝月、夕月は、姫と太子の結婚が成れば、イドム国も再興されて平和が訪れるだろう、と姫を口説くが、チンリウ姫は頑として二人の説得を拒みつづけた。

朝月、夕月はすごすごと立ち去り、こうなったら力づくで姫を従わせようか、と相談をめぐらしている。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月14日(旧07月5日) 口述場所水明閣 筆録者林弥生 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 490頁 修補版 校定版254頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  アヅミ王の娘チンリウ姫は、乳母のアララギ及びアララギの娘センリウ女とともに敵城に虜はれ、第一の牢獄に縄目の恥を忍びながら、世をはかなみつつ互に述懐を歌ふ。
 チンリウ姫の歌。
『あぢきなき浮世なるかなわれは今
  縄目の恥にあひて苦しむ

 垂乳根は如何なりけむイドム城は
  いづらに行きしか心許なや

 思はざる敵の軍に攻められて
  わが垂乳根は露と消えしか

 諸々の家臣軍人あれど
  いひ甲斐もなく滅び失せけむ

 祖々の賜ひし国はエールスの
  暴虐の手に奪はれにけむ

 わが力尽きて敵にとらへられ
  今は涙の淵にただよふ

 玉の緒の生命もいつか量られずと
  思へば悲しき吾身なりけり

 如何にしてこの苦しみを逃れむと
  神を力に時の間を生くる

 望みなき吾身となりぬ水乃川の
  月に親しむ術もなければ

 罪もなき人魚を捕りし酬いにて
  わが垂乳根の国亡びしか

 数百里の道をナイトに送られて
  寒き牢獄に世を歎くなり

 天地の神の此世にいますならば
  再び見せよ水乃川の月を

 垂乳根の此世に生命在すならば
  夢になりとも通はせ給へ

 望みなきわが身と思へば悲しけれ
  朝夕われは淋しさに泣く』

 アララギは歌ふ。
『姫君の歎き言葉を聞くにつけ
  わが身の置場無きが悲しき

 姫君の御供に仕へて二十年
  われは御側を離れざりける

 はるばると敵の国まで送られて
  姫の憂目を見るが悲しき

 情深きイドムの王に生き別れ
  苦しき憂目を敵城に見るも

 天地の神を祈りて今日の日の
  わが姫君のなやみを晴らさむ

 姫君を守る身ながらかくの如
  憂目を見せしわが愚さよ

 姫君よ許させ給へ何事も
  時の力に刃向ふ術無き

 さりながら心安けくおはしませ
  われには一つの計略持ちぬ

 吾娘センリウも亦虜はれの
  苦しき身ぞと思へば悲しも

 如何にしてアヅミの王に詫びむかと
  心を砕く吾身の悲しさ

 水乃川の水は無心の月光を
  浮べて清く流れゆくらむ

 エールスはイドムの城の高殿に
  月を賞めつつ酒を酌むらむ

 エールスのふるまひ思へば憎らしし
  イドムの国を手もなく奪ひて

 エールスは勝ち誇りたる面もちに
  イドムの城に横暴り居るらむ

 邪は正しきに勝つ道はなし
  必ず滅びむ神の怒りに

 今しばし縄目の恥を忍びつつ
  花咲く春を待たせ給はれ

 必ずやエールス王は滅ぶべし
  道に反ける曲業なれば

 姫君とともに牢獄に繋がれて
  朝夕怨むはエールス王なり

 わが王はいづらなるらむ妃の君は
  御無事にますか便り聞きたし

 雁の便りもがもと願へども
  今は詮なし時鳥鳴く

 しとしとと五月雨るる空に時鳥
  鳴き渡るなり一声落して

 時鳥鳴きつる空を眺むれば
  あやめもわかぬ五月闇なり

 姫君はいふも更なりわが娘も
  われも闇夜の時鳥なり

 力あらばこれの牢獄を破らむと
  思へば詮なし女の腕には

 罪も無きわが姫君をかくの如き
  牢獄に繋ぐは鬼か大蛇か

 鬼大蛇伊猛り狂ふ世の中は
  神ぞ誠の力なりける

 木田川を隔てしこれの牢獄に
  繋がれし吾等は袋の鼠よ

 玉の緒の生命は敵に握られて
  淋しき吾身に雨の音聞く』

 センリウは歌ふ。
『姫君の歎き宜なりわが母の
  怨みもうべよとわれも泣くなり

 平安の城を屠りてエールスは
  悪魔の性を現はしにけり

 悪神の伊猛り狂ふ世の中と
  思へど悲しき吾等ならずや

 如何にして今日の怨みを晴さむと
  思へど心曇るのみなる

 肝向ふ心は闇にさまよひつ
  朝夕悲しく時鳥聞く

 姫君の生命助くるよしあらば
  われは生命を惜しまざるべし

 姫君と母に代りてわが生命
  捧げむわれは神に祈りて

 わが生命は軽し姫君の御生命
  大山よりも重くいませり

 イドム国の世継といます姫君の
  今日のなやみを思へば悲しき

 如何にして吾姫君を救はむと
  朝夕べを心砕きつ

 五月闇この牢獄に迫り来て
  黒白もわかず心狂ふも』

 チンリウ姫は歌ふ。
『天地に神はまさずや在さずや
  かかる歎きをみそなはさずや

 わが父は雄々しくませば必ずや
  生命保ちて再び立たさむ

 わが父の輝きましてこの国を
  言向け和せ給はむと思ふ

 わが父の軍勝ちなば五月闇
  晴れて再び月日を拝まむ

 あてもなき望みながらも何となく
  わが魂に光り見るなり

 罪も無き父の国をば亡ぼして
  時めき渡る曲の忌々しさ

 エールスの曲津の王は天地の
  神の光にふれて滅びむ

 天地に誠の神のいますならば
  必ず父を助け給はむ

 滅ぶべき運命を持つエールスの
  行末思へば憐れなりけり

 今われは縄目の恥を曝せども
  やがて光と世に現はれむ

 村肝の心の奥に何か知らず
  われには一つの光ありけり

 来るべき世を楽しみて今日の日の
  恥となやみを忍びまつべし』

 アララギは歌ふ。
『姫君の雄々しき御心聞くにつけ
  わが魂は輝き初めたり

 朝夕をなやみもだえしわが魂も
  姫の言葉に勇み初めたり

 闇あれば光ある世と知りながら
  愚心に朝夕なやみし』

 センリウは歌ふ。
『姫君の御心聞きてわれも亦
  心の駒は勇みたちけり

 われも亦月日の駒に跨りて
  永久の安所に進まむと思ふ

 虜はれの悲しき身にも天地の
  便り聞くかな風のまにまに

 身体はよし縛るとも魂は
  自由自在に天地を駆けるも

 虜はれの自由無き身も魂は
  自由に天地を駆けめぐるなり』

 かかるところへ、朝月、夕月の両人は足音を忍ばせながら静かに寄り来り、朝月は先づ歌ふ。
『われこそはエームス王の御側近く
  仕ふる朝月、夕月なるぞや

 これの家に忍ばせ給ふ姫君は
  チンリウ姫におはしまさずや

 品高く装ひ清しき姫君は
  チンリウ姫と察しまつりぬ

 ほの暗き牢獄のうちになやみ給ふ
  姫をあはれみわれは来つるも

 魚心あれば必ず水心
  ありと思せよわが言の葉に

 わが宣らむ言葉に従ひ給ひなば
  今日の憂目はさせまじものを

 果しなく牢獄に苦しみ給ふよりも
  早く安所を望み給はずや

 若王は姫に心を寄せ給ふ
  なびかせ給へチンリウ姫の君』

 チンリウ姫は、朝月の歌に憤慨しながら、儼然として歌ふ。
『怨みなき人の国をば奪ひてし
  曲の言葉に従ふべしやは

 玉の緒のよしや生命はとらるとも
  如何で靡かむ曲の言葉に

 千秋の恨重なるエールスに
  たとへ死すともまつろはざるべし

 いらざらむ繰り言宣るないやしくも
  われはアヅミの王の御子ぞや

 汝が如き賤しき司の言の葉は
  耳にするさへけがらはしと思ふ

 われは今生命を捨つる覚悟なり
  仇の王にまつろふべしやは』

 夕月は歌ふ。
『姫君の言葉うべよと思へども
  此処は一先づ見直し給へ

 玉の緒の生命死すとも及ぶまじ
  御身の為と聞き直しませ

 アヅミ王の御子とあれます君なれば
  われは真心捧げて仕へむ

 わが若王の妃となりて栄えませよ
  今日のなやみは直にとけなむ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『如何ほどに言葉尽して誘ふも
  われ承知はじ曲の言葉に

 エームスの王妃となりて栄ゆより
  われは牢獄の鬼となるべし

 玉の緒の生命を捨てて鬼となり
  父のうらみを晴らさむと思ふ

 わが父のなやみ思へば如何にして
  敵の王妃となるべきものかは

 わが父にイドムの国を奉還し
  而して後にわれに当れよ

 イドム城父の御手に帰るまでは
  汝が言葉をわれ耳にせじ

 望みなきわれに言葉をかくる前に
  父に御国を返しまつれよ

 わが父の御許しあればわれとても
  王妃となるを拒まざるべし』

 朝月は歌ふ。
『姫君の御言畏しさりながら
  今暫時を待たせ給はれ

 姫君はエームス王の妃となりて
  和睦の道を計らせ給へ

 姫君が王妃とならせ給ひなば
  両国平和に治まるべきを』

 チンリウ姫は歌ふ。
『偽りの多き世なれば如何にしても
  汝が言葉に従ふべしやは

 わが父の御許しあれば何時とても
  汝が勧めに応へまつらむ

 わが父の消息今にわからねば
  エールス王を怨みこそすれ

 エールス王わが前に来て詳細に
  父の消息語れと伝へよ

 父母の仇にわが身を任すべき
  われは人の子獣にあらず

 玉の緒の生命惜しまぬわれなれば
  栄華の夢は望まざるべし

 ともかくもわが垂乳根を本城へ
  返しまつりし其の上にせよ

 われも亦サールの国には住まはまじ
  イドムの国に送りとどけよ

 エームス王われに恋すと聞きしより
  わが魂は砕けむとせり

 万斛の涙をのみてわれは今
  これの牢獄に父母をしのぶも』

 夕月は歌ふ。
『姫君の堅き心を聞くにつけ
  われは涙のとめどなきかな

 姫君の正しき言葉聞くよしも
  なきわれこそは悲しかりけり

 玉の緒の生命惜しまぬ姫君の
  堅き心に動かされたり

 さりながらエームス王の御なやみ
  晴らさむとしてわれは来つるも

 千秋の恨しのびて今暫し
  エームス王になびかせ給へ

 姫君の御心知らぬにあらねども
  御国を思ひてわれは勧むる

 玉の緒の生命限りに姫君を
  恋はすエームス王の憐れさ

 情心あらねば人も木石に
  変らず思ひて靡かせ給へ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『無理遣に小暗き牢獄に押し込めて
  恋を語らふ不甲斐なき若王よ

 エームスに情心のあるならば
  なぜに吾身を牢獄に苦しむる

 第一にこの解決をつけざれば
  われは否やの応へなすまじ

 わが耳は汚れ果てたりエームスの
  敵の王の焦るると聞きて』

 朝月は歌ふ。
『姫君の心の誠察すれど
  われは進まむ道さへもなし

 姫君のやさしき言葉聞くまでは
  われは此の場を去らずと思ふ

 くやしさをしばし忍びて姫君よ
  末の光りと諾ひ給はれ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『如何ならむ甘き言葉も承知はじ
  われは死すべき生命なりせば

 エームスの王の言葉を聞くにつけ
  われは一入死にたくなりぬ』

 朝月、夕月は、梃でも棒でも動かぬチンリウ姫の強き心に返す言葉も無く、すごすごとして此の場を立ち去り、いろいろと相談の結果、水責め、食責め、火責めをもつて、エームス王の恋心に靡かせむかと、種々浅はかなる計画をめぐらしつつありける。
(昭和九・八・一四 旧七・五 於水明閣 林弥生謹録)
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