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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
文献名2第3篇 木田山城よみ(新仮名遣い)きたやまじょう
文献名3第14章 鷺と烏〔2041〕よみ(新仮名遣い)さぎとからす
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
チンリウ姫は、侍女母娘の命を憐れに思い、敵国の太子エームスの妃となることを承諾した。

エームス太子は城内に命じて、さっそく結婚式を行うこととした。太子はチンリウ姫を奥殿に招き、この結婚が成ったなら、チンリウ姫の父王をイドム城に迎えて、姫の心に報いよう、と誓った。

結婚式が始まり、仲介役となったアララギは祝歌を歌った。続いてエームス太子、チンリウ姫、朝月、夕月、センリウと喜びの歌を歌い、結婚の儀式を済ませることとなった。

チンリウ姫が太子の寝室に進みいることになった直前、アララギがすぐれない面持ちで姫を別室に招いた。そして語るに、

これまでエームス太子は何度も妃を迎えたが、いずれも一晩きりで命を落としている。

それというのも実は、太子は猛獣の化け物である。

このことは、サール国の侍女たちから噂で聞いた確かな話である。

そこで自分の娘センリウは姫にそっくりであることから、今夜は安全のため、身代わりに立てて様子を見てみましょう。

というものだった。これはアララギの計略であったが、チンリウ姫は疑いもなく乳母の提案を聞き入れ、センリウと着物を着替えてその夜は別室に控えていた。

翌朝、センリウが無事であったのを見て、チンリウ姫はアララギに、『何ともなかったようだが太子は替え玉に気づかれたのだろうか』、と相談した。

アララギは、『太子は替え玉に気づいてはいないようだが、太子の心をもっと姫に向かわせるためには、祭壇にある水晶の花瓶を庭で打つとよい』と姫に勧めた。

チンリウ姫は何の疑いもなく、花瓶を庭に持ち出して打つと、花瓶は二つに割れてしまった。

アララギは突然姫のたぶさを掴んで引きずりまわし、家宝を打ち壊した大罪人、と叫んだ。たちまち姫は捕り手に囲まれてしまった。アララギは、替え玉が気づかれないように姫の口に猿轡をかませ、顔を殴って容貌がわからないようにしてしまった。

チンリウ姫は、家宝を打ち壊した罪人・センリウとして、遠島の刑に処せられることになってしまった。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月14日(旧07月5日) 口述場所水明閣 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 504頁 修補版 校定版306頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8114
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その他の情報は霊界物語ネットの「インフォメーション」欄を見て下さい 霊界物語ネット
本文  茲にチンリウ姫は乳母アララギの、ことを解けての懇願により、敵の大将エールスの太子エームスの妃となる事を心ならずも承諾し、一時の難を免れむとしたるこそ憐れなれ。エームス王は欣喜雀躍しながら、群臣に命じ、奥殿に於て目出度く結婚式を行ふ事を厳命せしにぞ、木田山城内は鼎の沸くが如く、上を下への大騒ぎ、若王の目出度き結婚なりと、尊きも卑きも歓ぎ喜ばむものはなかりけり。中にもチンリウ姫は結婚の花形役者として、今日までの牢獄住ひに引替へ、地獄より天国に上りし如くなれど、心中稍悲歎の涙に暮れ居たりけり。エームス王はチンリウ姫を奥殿に招き温顔を満面に湛へながら歌ふ。
 エームス王の歌。
『夕顔の匂へる庭に汝が姿
  認めて吾は悩みに落ちたり

 何事も時世時節と諦めて
  吾に許せし君は愛しも

 君が心吾にあはずば玉の緒の
  生命死せむと悩み来しよな

 天地の神の恵の露浴びて
  今日は嬉しく君に会ふかも

 玉の緒の生命も吾は惜しむまじ
  君の心に抱かるる身は

 父母の礼なき業を許しませ
  やがて酬いむ君の心に

 汝が父を安きに救ひまゐらせて
  イドムの城に迎へ奉らむ

 吾心君の御前に打ち明けて
  二心なきを誓ひ置くべし』

 チンリウ姫は歌ふ。
『若王の大御心に叶ひたる
  吾幸はひを神に感謝す

 永久に王の御側に仕へつつ
  吾垂乳根に会ふ日を待たむ

 垂乳根の心の悩み思ひつつ
  はからず王にいそひ奉るも』

 エームス王は歌ふ。
『玉の緒の生命をかけし恋故に
  天にも昇る思ひするかな

 朝月や夕月、アララギ、センリウの
  真心照りて今日は楽しも』

 アララギは歌ふ。
『若王の清き御前に招かれて
  嬉しさゆゑに吾魂震ふも

 チンリウの姫の心を慰めつ
  今日の吉日に吾は逢ひにき

 若王に永久に仕へて吾も亦
  御国の栄えを祈り奉らむ』

 朝月は歌ふ。
『若王の御言畏みさまざまと
  言霊打ちて破れけるかな

 如何にして姫の心を迎へむと
  千々に心を砕きけるかや

 チンリウ姫心うごきて吾魂は
  いや新らしく光りそめたり』

 夕月は歌ふ。
『吾も亦如何なるやと危ぶみし
  姫の心は動き初めたり

 アララギの生言霊の助けにて
  今日の吉日に逢ふぞ嬉しき』

 いよいよ茲に盛大なる結婚の式を挙げることとなり、城の内外には国津神等の歓呼の声、天地を動がすばかりなり。殿中には荘厳なる結婚式が開かれてゐる。媒介役たるアララギは祝歌を歌ふ。
『天地の開き初めてゆ例なき
  今日の吉日に逢ふぞ目出度き。

 大栄山に日は昇り
 木田川面に月浮ぶ
 木田山城の清庭に
 大宮柱太知りて
 備へも堅き此の城に
 エールス王の若王は
 アヅミの王の愛娘
 チンリウ姫を迎へまし
 今日の夕べの吉時に
 華燭の典を挙げ給ひ
 夫婦仲よく睦まじく
 千代の堅めを永久に
 サールの国の国王と
 国津神等に敬はれ
 堅磐常磐の巌ケ根に
 果なき広き国原を
 領有ぎ給ふ代となりぬ
 父大王は大栄の
 御山を越えて今ははや
 イドムの国の王となり
 アヅミの王を退けて
 時めき給ふ尊さよ
 さはさりながら吾王は
 仁慈無限にましまして
 国津神等を愍れまし
 恵の露に霑ひて
 鳥獣虫魚にいたるまで
 王の御徳に服従ひて
 今日の吉日を歌ふなり
 木田山城の茂森の
 梢に潜む田鶴の声
 いともさやかに聞ゆなり
 松は千歳の色深く
 常磐の状を現はせり
 チンリウ姫は賢女よ
 又細女よ此の国の
 妃の君と現れまして
 四方に輝き給ふべし
 吾は二十年姫君の
 御側に侍り仕へ来て
 今日の吉日に逢ひけるも
 神の恵の露なれや
 ああ有難し目出度しと
 今日の吉日を祝ぎ奉る』
 エームス王は歌ふ。
『昔より例も聞かぬ喜びに
  逢ひにけらしな姫を娶りて

 天地は清く晴れつつ吾胸も
  御空の月と晴れ渡りつつ

 大栄山尾の上に澄める月光も
  今日は一入清しかりけり

 野辺を吹く風の響も何となく
  今日の喜び歌ふがに聞ゆ

 大栄山尾根にかがよふ月影も
  木田の流れに浮びて祝ふ

 小波も立たぬ夕べの川の面に
  月影円く澄みきらひたり

 吾心頓に勇みて天地に
  生の生命の尊さ思ふ

 吾父の心和めて妻の為に
  イドムの国を蘇らせむ

 斯くならばアヅミの王は吾父よ
  エールスも亦父なりにけり

 イドム国サールの国と手を引きて
  伊佐子の島に永く栄えむ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『何事も皆打ち忘れ今日の日の
  吾は嫁を楽しむものなり

 時まちて父の御国を返さむと
  思ふは吾身の願ひなりけり

 情あるエームス王の妃となりて
  親に孝養尽さむと思ふ

 木田山城照らす夕べの月見れば
  笑ませ給へり王の面に似て』

 朝月は歌ふ。
『国津神山の如くに集まりて
  今日の吉日を歌ふ声すも

 幾万の国津神等の鬨の声
  天と地とに響き渡れり』

 夕月は歌ふ。
『夕月の光冴えにつ若王の
  今日の喜び祝ふがに見ゆ

 吾も亦これの蓆に列ねられ
  嬉しさあまりて言の葉もなし

 山も川も歓ぎ喜ぶ状況見えて
  五月の雨は晴れ上りたり』

 センリウは歌ふ。
『姫君の雄々しき心の幸はひに
  安けく異邦の月を見しかな

 前の日にイドムの城に眺めてし
  月にも増して清しかりけり

 吾姿面ざしまでも姫君に
  似たりと人の言ふぞあやしき』

 アララギは歌ふ。
『姫君も汝も吾乳呑み足りて
  はぐくまれたる為なりにけり

 賤女といへども汝は乳兄弟
  姫にまがひて美しきかも』

 いよいよチンリウ姫は結婚の儀式を済ませ、是より王の寝室に進み入る事となりけるが、乳母のアララギは勝れざる面持にて、窃かにチンリウ姫を一間に招ぎ語るらむ。
『姫様、大変な私には心配事が出来ました。如何致しませうかと思案に暮れて居りますが、どうか御許し下さいませ。乳母が一生の過ちですから』
と、チンリウ姫は意外の乳母の言葉に胸を轟かせながら、
『今となり怪しき言葉聞くものか
  汝の面に愁ひ漂ふ』

 乳母のアララギは一入声を潜めて、
『姫様、これが心配せずに居られませうか。滝津瀬、山風の側女に承りますれば、今まで王様は幾度も美しき妃をお迎へになつたさうでありますが、何れも一晩きりでお生命がなくなるさうで、其の噂が遠近に伝はり、それゆゑに此の国では王様の妃になるものはないさうで御座います。如何に高貴な身になつても生命がなくてはなりませぬからなあー。かくなる上は逃げ出さうとしても蟻の這ひ出る隙間もありませぬから』
と、息はづませて耳打ちする。
 チンリウ姫は歌ふ。
『恐ろしき事を聞くかもアララギの
  言葉も真言と思へば恐ろし

 如何にして此の場を逃れ永遠の
  吾は生命をながらへむかな

 アララギによき智慧あればかしてたべ
  吾玉の緒の生命は重し』

 アララギは一入声を潜めて言ふ。
『姫様、この王様は熊と虎との中から出来た猛獣の化物で、あんな優しい姿はして居られますが、夜分になつて抱き付かれますと、余りに腕の力が強いため、か弱き姫君様は一息に締め殺されて、なくなるとの事、私も廿年間お仕へしまして、今此の所で大切な姫君様を殺されたら申訳が立たず、いろいろ考へた結果、一つのよき智慧を搾り出しました。つまり吾娘センリウは乳兄弟の間柄故、姫様と面貌、姿寸分違はず、菖蒲と燕子花との区別が分らぬと申しますから、是を幸ひ姫様の御装束を着替へさせ、姫様はセンリウの着物を召して暗がりに隠れ、今晩一夜だけ様子を考へる事に致しませう。センリウは賤しき私の娘で御座いますから、貴賤の差は天地に比ぶべきもので御座ります。それで今夜の替玉を御許し下さらば、屹度姫様の危難をお救ひ申し上げます』
と、言葉巧みに説き立つれば、チンリウ姫は乳母アララギの黒き心を少しも覚らず、盛装を脱ぎ捨てセンリウ姫に着替へさせ、自分はセンリウ女の着物を着し一間に潜み待ち居たりける。然るに其の夜は余り変りたる様もなく、センリウ女は欣然として朝庭を逍遥して居る。チンリウ姫は乳母の袖を引きて小声になりながら、
『乳母、夜前は何も事がなかつたさうだが、王様は一体何と思召して御座らうぞ。替玉を使はれて御心が付かないのであろうか』
と、稍心配気に言ひければ、乳母アララギはチンリウ姫の耳に口を寄せ、
『此の祭壇に飾りある水晶の花瓶を庭に持出し、小石を持ちて静かに打つ時は、忽ち王様の歓心を得て、必ず姫様を愛し給ふと言ふ事で御座ります。王様は吾娘センリウを真正の姫様と思ふて居られますさうですから、夜前の替玉を恐れ多くて申されませぬから、此の花瓶を庭に持ち出し、少しくお打ち下さいませ。清き音が出ますから』
と、最と懇切に説き諭せば、おぼこ娘のチンリウ姫は深き計略のあるとは知らず、水晶の花瓶を庭に持ち出し打ち給ひければ、水晶の花瓶はポカリと二つに破れたり。之を見るより乳母アララギは、チンリウ姫の髻をグツと握りて引摺り廻しながら、
『汝は姫様の侍女でありながら、お家の重宝を石をもつて叩き破るとは言語道断、吾子であつて吾子でない。皆様、大罪人が現はれました』
と、大音声に呼ばはるや、数多の司等が集まり来り、十重二十重に取巻き、狼藉者を逃すなと手毎に得物をもつて攻め来る。
 チンリウ姫は事の意外に驚き、乳母アララギに向ひ、
『汝の娘にあらず』
と呼ばはりければ、アララギは発覚しては大事と、姫の口に真綿を含ませ猿轡をかませ、頭部面部を打ち据ゑければ、血にじみ上り似ても似つかぬ醜悪なる面となりければ、茲に憐れや大罪人としてチンリウ姫は遠島の刑に処せられけり。
(昭和九・八・一四 旧七・五 於水明閣 森良仁謹録)
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