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文献名1霊界物語 入蒙記 山河草木 特別篇
文献名2第4篇 神軍躍動よみ(新仮名遣い)しんぐんやくどう
文献名3第29章 端午の日よみ(新仮名遣い)たんごのひ
著者出口王仁三郎
概要
備考2024/2/9出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-02-10 19:29:48
あらすじ
ところが、六月五日になると進路はにわかに南方に転じた。日本人側からは方向が違う、と不審の声が上がったが、すでに先方は遠くへ進んでおり、地理に不案内のこともあってどうしようもない。

一同はあたりの沃野の広さ、自然や資源の豊かさに感嘆しながらのんびりと行軍を続けていた。

ある晩、三方が山の谷間で宿営を張ることになったが、雨模様であった。そこで日出雄が神言を奏上し、晴天をもたらした。ところがその後、盧占魁から夜間行軍の命令が出て、部隊は再び出発したが、今度は豪雨に見舞われてしまった。

部隊からは、先生がせっかく雨を止めてくださったのに、司令が宿営地を勝手に変更したために、神罰を受けたのだ、という者もあった。
主な人物【セ】源日出雄、岡崎鉄首、真澄別、守高、坂本、曼陀汗、盧占魁、猪野敏夫、張彦三【場】-【名】- 舞台 口述日1925(大正14)年08月 口述場所 筆録者 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年2月14日 愛善世界社版256頁 八幡書店版第14輯 641頁 修補版 校定版260頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rmnm29
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本文  西北に向つて続けられた行軍は、山を越え谷を渡り高原を横切りつつ進み行く。ふと見れば前方に素晴らしい高山が横たはつてゐる。あの山が馬で越えられやうかなと案じつつ進む間に、何時しか其頂に達してゐるといふ様な緩勾配は、全く大陸の特徴であらう。六月五日になると如何なる都合か、針路は俄かに南方へ転ぜられて居た。方向が違ふぢやないか一体何処へ行くのだ、興安嶺の聖地へ行くのぢやないか、などと日本人側から不審の声が出たが、既に先鋒は遠く進んでゐる事とて、地理不案内の者の自由行動は困難である。四囲の景色は何時しか変つて、眼の届く限り火山爆発の跡らしく、熔岩或は火山灰凝固の中を通り抜けて、其壮観筆紙の能く尽す所でない。岡崎は馬上乍ら日出雄に声をかけ、
岡崎『先生、何と大きな火山ぢやありませぬか』
日出雄『さうです実に雄大なものです』
真澄『先生、阿蘇の火山も大規模で、世界一の大火山と地文学者から言はれる丈あつて実際壮観ですが、此処はモ一つ大規模ぢやないでせうか、何か曰くのありさうな所ですな』
日出雄『さうです、之れが霊界物語の第一巻にある天保山の一部ですよ、地文学者の足跡が至らないので、まだ世間へ紹介されて居ないのだらう』
真澄『今度の蒙古入には霊界物語中の実現が大分含まれて居ると、腹の中で数へて居ましたが、お蔭でモ一つ判りました』
など語り合ひつつ、草の褥に星蒲団の大陸自由ホテルを目指して行く。
 六月六日陰暦五月五日の正午頃、遠く山屏風を引廻した広大な草野の中に、缶詰やメリケン粉製の餅などくさぐさの食料を口にし乍ら雑談に耽つて居るのは、云ふ迄もなく日出雄の一行である。
 此日五月五日の吉日とて幹部連は記念撮影をなし、各兵団はそれぞれ適当の地位を卜し、団旗の下に集まつて遥に護衛の任務を尽してゐる。
岡崎『なんとこれ丈広い野原に、真中を河が流れてゐるし、草の出来按配から見ても地味が佳さ相だが、立派な水田が出来るやうに思ふね』
守高『私が北海道に居つて開懇に従事した経験から考へても、立派な水田が出来ます。今日迄旅行した蒙古の中で公爺府以西は素晴らしい沃野が遊んでゐますなア。気候風土の感じから云つても、北海道に出来る物は何でも作れますよ、惜いものですな』
坂本『これ丈私に頂けたらモウ満足です。半分は水田や畑にし、半分は牧場にして好きなナイスと、羊の皮の天幕張の蒙古包で十分だから、一緒に暮して見たいなア』
真澄『坂本さん、ナイスは後から送り届けるとして、先づ君一人此処へ残つて準備に取掛つたら何うです、アハヽヽ』
坂本『アハヽヽヽマア優先権さへ認めて頂けりや結構です』
真澄『実際何等束縛も干渉もないこんな大天地が豊に横はつて、人間さまのお越しを待つてゐるのに、狭苦しい所で啀み合ひしてゐるのは気の毒なものだ。時に曼陀汗さん、此附近に鉱山の良いのはありませぬか、早く趙徹さんに一億円儲けて貰ひたいですからな、アハツハヽ』
曼陀汗『サアよく存じませぬが、外蒙の砂漠の中には水晶洞がチヨイチヨイあります。又中央の火山脈の水源地の樹木鬱蒼たる所にルビーの岩があると聞いてゐますが、まだ私は行つた事はありませぬ』
坂本『外蒙の喇嘛廟には十二三の子供位の大きさの金無垢の仏像があるさうだから、それ一体丈せめて頂戴したいものだなア』
井上『坂本さん、今そんな重い物を貰つたつて運搬に困るよ。それよりも新彊へでも行つて見ろ、砂金の大粒が幾らでも転がつて居るサ』
盧占魁『新彊は世界の宝庫だと私は思ひます。山間の堅い氷の様な雪を欠いで引起すと、雪の裏に十八金程度の砂金がベツタリくつついて居るやうな所は珍らしくない位です』
日出雄『私の霊界で見てる所では、安爾泰地方から新彊の西蔵境の方面には、砂金と云ふより寧ろ金の岩とも云ふべき程の物が沢山隠されてゐる。鉱物のみでなく新彊は神の経綸に枢要な場所で、一般に天恵の豊富な土地なのだ』
真澄『先生、御神諭に示されてる通りですがな。実地を見る迄神を信じない人が多いのだから随分面倒ですなア』
日出雄『だから神様は骨が折れるのだ』
盧占魁『併し新彊へ入り込むには勝手を知つた者に案内させないと、妙な砂漠がありまして、うつかり踏み込うものなら人馬諸共ズブズブと滅入り込んで了ひます』
真澄『先生今盧さんの言つた場所は霊界物語第十巻の安爾泰地方の章に説明されてる場所に当るぢやないでせうか』
日出雄『さうらしいなア』
 それからそれへと談話が交換されてる時、猪野軍医長は手に大きな氷塊を掴み乍ら走つて来た。
『先生、こんな氷を見つけて来ました、地下三尺位までは十分解氷してゐますが、六七尺の所はまだ此通りです。河の縁の地の割れ目に這入り込んで、辛苦して割つて参りました』
 一同猪野軍医の心尽しの氷の破片に渇を癒やし、再び行軍を続けた。青野ケ原の尽くる辺りから見渡す限り一面の花野を進む。福寿草に似た黄色い花や紫雲英に似た花、菖蒲に似た紫など、紅黄白紫各々艶を競うてゐる。
月光愈世に出でて  精神界の王国は
 東の国に開かれぬ  真理の太陽晃々と
 輝き渡り永遠に  尽きぬ生命の真清水は
 下津岩根にあふれつつ  慈愛の雨は降り注ぐ
 荘厳無比の光明は  世人の身魂を照すべく
 現はれませり人々よ  一日も早く目をさませ
 四方の国より聞え来る  真の神の声を聞け
 霊の清水に渇く人  瑞の御霊にうるほへよ
 と歌ひつつ本部隊より十数町遅れて、此広き花野を吾物顔に馬上豊かに進み行くのは真澄別であつた。坂本は後に引添ひ乍ら『全くですなア』と感嘆の声を漏らし乍ら近頃内地で流行する唄だとて節面白く唄ひ出した。
僕も行くから君も行け  狭い日本にや住み飽いた
 波の彼方に支那がある  支那には四億の民が待つ
 昨日は東今日は西  身は浮草のそれの如
 果しなき野に唯一人  月を仰いで草枕
 玉の肌なる此体  今ぢや鎗創刀傷
 これぞ誠の男ぢやと  ほほ笑む顔に針の髭
 僕には父も母もなく  生れ故郷に家もなし
 幾年馴れし山あれど  別れを惜しむ者もなし
 唯悼はしの恋人や  幼き頃の友達は
 何処に住むのか今は只  夢路に姿を偲ぶのみ
 興安嶺の朝風に  剣をかざして俯し見れば
 北満州の大平野  僕の住家にやまだ狭い
 国を出てから十余年  今ぢや蒙古の大馬賊
 亜細亜高根の間より  繰り出す部下が五千人
 駒の蹄も忍ばせつ  月は雲間を抜け出でて
 明日は襲はむ奉天府  ゴビの砂漠を照らすなり
 花野も尽きて三方山の谷間に着いた頃、空はどんよりと曇り始め、遂に雲は綻びて雨となつた。日は既に傾きかけた上、前途は山又山が重畳と折重なつて見えてゐる。併し此雨では野営の夢を結ぶなどは思ひも寄らぬ事である。此時こそはと、日出雄は小高き岩上に登り立ち神言を奏上し初むるや、一天ガラリと晴れ渡り、五日の月西天に玲瓏たる慈光を放ち初めた。茲に日出雄一行も心を安じ、就寝の準備にかかると、如何なる軍議が参謀の間に纏りしか、引続き夜間行軍開始の報告が来たので、一行は呟き乍ら又行進し始めると、間もなく再び小雨そぼ降る空となつた。日出雄は『最早我々の責任でない』と云ひ、真澄別も別に祈願しようとしない、終に豪雨に見舞はれて、全軍山間の岩影に夜を明すの已むを得ざる事となつた。此時張彦三は『先生が折角雨を止めて下さつたのに司令が無断で宿営地を変更したから神罰を受けたのだ』と吐息を漏らして大に歎じた。
(大正一四、八、筆録)
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