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文献名1東京読売新聞
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3昭和10年12月10日 朝刊よみ(新仮名遣い)
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本文 【社説】淫祠邪教の掃蕩を期せ

 大本教の検挙は疾風迅雷的に行はれて、多大のセンセイションを与へたが、われ等は此の機会に於て、昨今特に蔓延流行の兆あるいかがはしき類似宗教に対し、徹底的の掃蕩を敢て試みられんことを切に希望するものである。
 今回検挙の衝に当つた検察当局の言によれば、教義宣布の裏には国体の変革を企図するごとき不逞の態度が蔵せられてゐたのみか、皇室の尊厳を冒涜する如き不穏極まる言動も行はれてゐたといふことである、仮令それが彼等一流の無知と狂言から出発せるものであつたにせよ、その逸軌的言動は断じて許さるべきものではないのである。
 淫祠邪教の跋扈跳梁は、近年特に甚しいものがある、世相不安、思想動揺の反映と称せらるべきものかも知れないが、併し文明に逆行して寧ろ反動的に勃興しつつあるこれ等不可思議なる勢力の台頭は注目すべきものであらう、而してこれ等諸団体の教義なるものが悉く非科学的であり没常識的であつて、人智を絶するところの「お筆先」によつて具現される荒唐無稽のものであることは、無垢純情の民心を蝕むものとして排除しなければならない。
 疾病と災厄とは、人間社会の存する限り滅絶するものではないが邪教流布者にとつてはこれが唯一の財産であり且つ又手品の種ともなつてゐるのである、一片の加持祈祷により、或ひは怪しげなる行法によつて病難も災厄も退散せしめ得るものではないのだが、いはゆる溺るるもの藁をも掴むの人間の弱点を巧に利用し、愚夫愚婦の類を惑はすことによつて単純なる成功を収めてゐるのである、冷静なる態度を以て見れば、まことに噴飯に堪へぬやうなことでも、病者弱者には尤もらしく思はれるのである。
 今回大本教検挙の動機となつたものに、右翼団体との結合を図らうとしたとか云はれてゐるが、これは当然ありさうに考へられるのである、何となれば非科学的であり飛躍的である点に於て両者全く根基を一にして居り、観念的の国家改造とか社会変革とかいふ思惟に於て接近甚だ可能に思はれるからである、而してまた昨今のわが国の世相は、その併進すらも容易に考へられるのである。
 日本精神の強調はまことに結構であり、正常なる意味に於て愈よ益すこれが力説を必要とするものであるが、併し単なる反動的言説か或ひは抽象的の標語として掲げられる時、来雑物介入の危険なしとしない、即ち類似宗教をを以て目されるものが、教義流布の手段として利用するとなどは正にそのよき例証であらう、国家とか皇道とかの美名に隠れて、より効果的に邪教の宣布、勢力の拡張を行ひつつあることはわれ等の日常目賭するところである。
 インチキ宗教なるものの蔓延を見つつあるも、畢竟するにこれを取締る統一的の法規に於て欠くるところがあるからである、手近かな例を以てすれば、直接民人教化の任に当る宗教教師の資格問題すら、未だに確たる限界が出来ていないのである、政府は宗教団体法案の立案を急いでゐるさうだが、昨今の世相に鑑みてこれが実施は最も急を要するものと思はれるのである。
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