文献名1霧の海
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3初会開祖よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要28歳の頃
備考
タグ竹村仲蔵(中村竹造、中村竹蔵)
データ凡例
データ最終更新日2023-11-21 14:27:20
ページ429
目次メモ
OBC B119800c092
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本文
二十八歳の頃
四尾山尾根に夕日の落つる頃出口教祖の住家に着きたり
裏町の人の土蔵を借り入れて教祖は神を祀り居られし
はるばると八木の福島にたのまれてたづね来ますと吾おとなへり
山坂を越えてはるばる御苦労と開祖はほほゑみ迎へ入れらる
この教とく人東ゆ来たるべしと神の言葉に待ちしと宣らせり
折もあれ以久田の村の四方澄子黒田清子は詣で来たれり
艮の金神様を判けに来た先生なるよと開祖はさとせり
出口開祖の言葉に二人は雀躍し時節来たると合掌なし居り
金光教の教師いく度来たれども審神し得ざりしと言ひてよろこぶ
うれしさに四方澄子は本宮の金光教会へ報告に行く
金光教会
金光教教師の足立正信は当惑顔にかへせと呶鳴りぬ
いろいろと四方澄子の弁明も嫉妬の足立は耳にも入れず
他の道の風来者に呆けなと口をきはめて足立はののしる
こんなとこへ来るやうな奴はろくでなし力ためすとぬたをしるせり
この歌の返しの出来ぬ奴なれば面会はせぬたたき出せと云ふ
正信の詠みたる歌をよく見れば不遜極まる左の歌なりき
足立『もみぢする赤き心をうち明けて語り合ふべき時をこそ待て』
正信の歌を見しより筆とりてわれ次のごと返し歌よむ
返歌『真心に暫しとどめて奥山のしかと語らむ八重の神垣』
わが歌をたづさへ四方黒田の両人は金光教会さして急ぎぬ
歌心知らぬ二人もわが返しに感じたりけむ味方となりぬ
正信に向ひ二女はかはるがはる帰順なすべくすすめしと聞く
こんな奴綾部の町においたなら金光教はつぶれると云ふ
神様がわかれば金光教なんかつぶれてもよしと二女はあらそふ
正信は竹村仲蔵(変名)呼びきたり排斥運動はじめかけたる
渋い柿の実
教会の庭にみのれる柿の実を吾ためむしりて二女は帰れり
その柿は皆渋くなれ上田なんかに喰はすものかと足立はどなる
二三十柿の実盛りて吾前におあがりあれと二女は差出す
折角の御芳志なれどこの柿は皆渋ければ喰はずとわれ云ふ
甘い柿ばかりですよと皮むけば一つも残らず渋計りなる
先生は渋くなれよと云はれたが皆渋だつたと感心して居り
この柿を渋いと云はれた先生も又神様よと二人はおどろく
双方が神様なれば今までの先生様にしたがうと云ふ
開祖の神示
両人は開祖の前にぬかづきて神示如何をうかがひて居り
この男まことの神のとりつぎと団扇はわれに上りたりけり
今暫し時早けれどこの神を表に出すは上田と宣らせり
正信は満面朱をばそそぎつつ上田帰せと開祖にせまる
人間の言葉は聞かぬ神様の教にまかすと開祖は宣らせり
立派なる金光教会があるゆゑに早くかへれと竹村が云ふ
福島に頼まれ来たのだいつ迄も綾部に居らぬとわれ言ひ放つ
わが言葉聞くより二人は安心し面やはらぎて語り出したり
艮の金神様は金光が立派に開くと足立はほほゑむ
立派なる足立先生のある上は他教につかぬと竹村が云ふ
神様をいつ迄おし込めおく様な金光いやだと開祖宣らせり
神様の御言は畏し如何でわれ人の心にまつらふ可きかは
神の御筆先
三枚の半紙に筆先さらさらと書きて開祖は吾にたまへり
汝こそ神のよさしの神柱としるしありたりかしこき筆先
筆先を見るより二人はぷんぷんと怒りて開祖の家を出で行く
両人が帰りし後へ第四女の竜子はにこにこ帰り来たれり
出口開祖黒田の清子竜子等は吾を帰さじと引止めて居り
布袋婦人
正信と或る関係を結びゐる志方澄子の腹ふくれ居り
ややありて四十女の塩見順子足立の知らせに急ぎ入り来る
開祖様の御気に入りなる塩美順子は面ふくらせて吾をにらめり
開祖さま立派に足立が開きます早く去なして下されと云ふ
筆先をつきつけられて塩美順子妙な顔して黙しゐたりぬ
大いなる息一つしてこの女不思議ふしぎと首をふり居り
この女又もや足立とかくれたる関係疾くより結びゐたりき
志方塩美二人の女はぷんぷんと面ふくらせて帰り行きたり
小呂の病婦
折もあれ小呂の里より小室しか子開祖の家に詣で来たりぬ
この家は父母兄弟も皆死して残れるしか子は病にかかれり
開祖様のお頼みによりてしか子連れ彼が家居の修祓に行く
大いなる家にはあれど壁落ちて化物屋敷のごとく淋しき
隣家なる伯父は来たりて吾前に感謝し道をよろこびて聞く
黄昏に早近ければ一夜を宿りたまへと伯父はすすむる
床の間を清めてかりに神まつり天津祝詞の奏上をなす
この女たちまち顔色晴やかに病忘れしごとくなりけり
神様のおかげで全快致します長く止まり給へと女の云ふ
只一人この広き家に寝し身を今宵は二人と勇みよろこぶ
何となく若き女一人の家にねて心落ちゐず小夜更けわたる
先生は何処の方か兄弟がありますかなど女の問ひにけり
弟妹は五人居ますとわれ言へば長男ですかと女顔見る
兄様でなければ長くこの家に泊りてほしいと顔赤め云ふ
若き日のわれにはあれど神様にまつろへる身は詮すべもなし
うつむきてしくしく泣ける若き女の横顔見つつあはれもよほす
かむながら道を踏みてゆ女てふもの諦めしわれのくるしさ
ええままよままよと思ふわが心いく度となくおさへ見たりき
まめやかな身にしあらねば早寝よと吾勧むれど女いらへず
せめてもの名残に按摩させてたべと吾後辺に彼女は廻る
按摩などいらぬと云へば彼の女ええ聞えぬと背に抱きつく
破れたる壁を透かして十五夜の月の光はさし入りにけり
月様が見てござるよとたしなめば妾はあなたにつきものと云ふ
木石にあらぬ身なれど道を行くわれを許せとわぶる真夜中
この女くるひゐるにや手を握り放しはせぬと大声に泣く
若き女の泣くこゑ隣に聞えけむ彼女の伯父はあわて入り来る
入りて来し伯父はわが面ながめつつものをも云はずにらみゐたりき
神様と思ひて油断してゐたに太き奴よとわれをののしる
彼の女伯父の袂にすがりつき貰うてくれよと泣き出しにけり
伯父の解疑
彼の伯父は驚きながら座に直り御無礼したとわれにわびたり
独身の女なりせばこの家に泊りくれよと伯父はたのみぬ
妻のなき吾身なれども神様の許しあるまで許せとわれ云ふ
相当の資産があればこの家の養子になれよと伯父は勧むる
百万の資産も神の言葉にはわれそむけじとキツパリことわる
あはれなる一人の女を見殺にする神様があるかとなじる
神様の道を踏み行く身にしあればわれは女にあはじと答ふ
彼の伯父と女に無理に泊められて心ならずも三日を過ぎたり
彼の女持病は癒えて朝夕をわがため炊事にいそしみて居り
夜の山道
彼の女眠れるすきをうかがひてそつと裏戸を開けて逃げたり
月の照る夜の野路をたどりつつ山坂いくつ以久田野に出づ
川添の位田の里に夜は明けてかたへの茶店に息やすめたり
この茶店の夫婦は金光信者にて開祖の事など話し出したり
三四日前に教祖の御家にふしぎなる人来たりしとかたる
その人は如何なる人かとたづぬれば色の真白き若人と云ふ
もしやもしあなたでなきかと尋ねられさうかも知れずとわれは答へり
この家の主人は四方与平氏よ今大本につかへゐるひと
与平氏はいたくよろこびわが草鞋ぬがせ座敷に招じねぎらふ
おもむろに神の大道をかたる折志方澄子は入り来たりたり
与平さんこの先生を一つ時もはやく帰せと促して居り
この人も神さまなれど教会の足立先生も神ですと云ふ
先生は二人もいらぬ早くはやく去んで貰へとしきりに勧むる
催促をせずともわれは帰るよと草鞋をはきてこの家を出づ
裏町の宅
白瀬川板橋わたりまだ小さき郡是製糸の横道をかへる
裏町の出口開祖の家により帰郷の挨拶ねんごろになす
今暫し時節ははやし時来れば迎へに行かむと開祖は宣らせり
縁あらば再びお目にかからむと急ぎ開祖の家を出でたり
帰り路
須知山や枯木峠や榎峠観音坂を辿りてかへりぬ
綾部行の様子つぶさに語らむと八木の福島方に入りけり
福島の態度変りて冷淡に鼻であしらふ不思議なるかな
あんな者なぜよこしたと今朝早く足立に叱言云はれしと云ふ
お直さんはこの正信が引きうけた余計な世話をやくなと云はれし
上田てふ奴は世界の馬鹿者と足立先生が云うてゐました
その足立何処にゐるかとわれ問へばすぐ京都に上りしと云ふ
京都の親分杉田先生に報告がてら行かれたと云ふ
福島の態度変りて茶もつがず御苦労様とも云はずふくれる
遙ばると山坂越えて綾部まで貴下の頼みで行つた私だ
一言の挨拶ぐらゐはあるべきを冷遇さるる覚えわれ無し
開祖より給ひし三葉のお筆先見すれば夫婦不礼詫び居り
神さまの矢つ張り貴下は御経綸のお方と夫婦しきりに勇む
足立氏の邪魔為すまじく吾はただ時機来たるまで退くと宣りぬ