文献名1幼ながたり
文献名2獄中記よみ(新仮名遣い)
文献名3青い囚人服よみ(新仮名遣い)
著者出口澄子
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京都地方裁判所の未決監房は、竹屋町通柳馬場にいまもある赤煉瓦の高い塀のあるところがそれであります。そこの××号室に入ることになりましたが、どうも死刑になるような様子はありません。
警察の留置場におる間は、人の顔も見られるし、それがいろいろの意味で心の慰めにもなりましたが、未決に入ってしまうと、人の顔は担当の他は見られません。人に会うこともありません。部屋は畳一畳敷の他に、板間の一畳余が附いており、手の届かん高い所に窓といえば二尺角のものがあるきりです。これでは非常な相違を感じさせられます。ここに移るときに、一日だけでしたが変な青色の着物をきせられます。これは、ここに来る人へのシキタリになっているようでありますが、帯から、腰のものまで取り替えられ、懲役者の姿にしてしまいます。これが私に耐えられない嫌なものでした。かえって死刑に遭いにゆくと思った時は、そう不愉快な気持ちになりませんでしたが、腰のものまで取替えられ、青い囚人服に着替えさせられた時は、死刑よりも嫌な感じがしました。
──こんなものを着せられるのか──と思うと、思わずもポロポロと涙が流れ出ました。しかし次の日は元の通り、自分のもって来た衣服を着ることになりました。それから毎日、全く一人ぼっちの淋しい日々が続きました。来る日も来る日も厚い壁に囲まれて、ただ一人、ぽつねんと暮らさねばならないということば、ことに私の性格には耐えられないことでした。この先はどうなるのやら、信者の人、家族のものはどうして暮らしているのか、さっぱり分からず、ただ、陽が出れば部屋が明るみ、陽が没ると部屋がしずかに薄暗くなっていくというだけの日を、幾日もはてしない気持ちで続けることになりました。