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文献名1霊界物語 第10巻 霊主体従 酉の巻
文献名2第1篇 千軍万馬よみ(新仮名遣い)せんぐんばんば
文献名3第16章 固門開〔446〕よみ(新仮名遣い)こもんかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-07-15 22:32:13
あらすじ淤縢山津見は固虎に固山彦と名を与えて、ロッー城に忍び込もうとした。固虎は出征から戻ってきた振りをして、ロッー城の門を開けさせようとする。門を開けさせた固虎は、淤縢山津見を伴って場内へ進み入る。門番たちが喧嘩を始めたところへ、またしても後から門を激しく叩く者がある。そして、ついに強力に任せて門を打ち破って中へ入ってきたのは、照彦であった。門番たちは照彦に恐れをなして震えている。照彦はゆうゆうと美人の女宣伝使たちを従えて場内に入っていった。その歌う宣伝歌に、門番たちは大地に縮み上がってしまった。
主な人物 舞台ロッー城 口述日1922(大正11)年02月23日(旧01月27日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年8月20日 愛善世界社版125頁 八幡書店版第2輯 436頁 修補版 校定版130頁 普及版58頁 初版 ページ備考
OBC rm1016
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本文  常世の国を東西に、分ちて立てるロッーの、山の尾の上に濃き淡き、雲を透してひらひらと、白地に葵の百旗千旗、翩翻としてひるがへり、峰の嵐も淤縢山津見の宣伝使は、シラ山峠の頂上に、全く帰順を表したる、心も固き固虎に、固山彦と名を与へ、ロッー城を蹂躙し、醜女探女の計略を、根底より覆へさむと、猫を冠りて進み行く。
 ここはロッー城の表門である。美山別、竹島彦等の勇将は、獅虎の如き猛卒を率ゐて黄泉島の戦闘に出陣したる事とて、城内の守兵は甚だ手薄になつてゐる。それが為め警戒は益々厳にして、昼と雖も表門を容易に開かず、鎌彦、笠彦の両人をして、数人の門番と共に厳守せしめてゐた。固山彦は大音声を張り上げて、
『ヤア門番、この門を開け。常世神王の命に依り、目の国カリガネ半島に於て生擒にしたる淤縢山津見を始め、四人の宣伝使を召伴れ帰り来れり』
と呼はれば、主人の威光を真向に被つて笠彦は居丈高になり、
『オー、さういふ声は常世城の上役固虎彦に非ずや。貴下は常世城の勇将として目の国に出陣されしもの、何故に常世城に還らず本城に来りしか。その委細をつぶさに物語られよ。様子の如何に依つてはこの門絶対に開く可らず』
と呶鳴り付けたり。固山彦は大声にて、
『卑しき門番の分際として、常世神王の従神固虎彦に向つて無礼の雑言、四の五の言はず速かにこの門を開け。否むに於ては危急存亡の場合だ、一刻の猶予もならず。固虎彦の鉄より固きこの腕を以て叩き破つて這入つて見せうぞ』
笠彦『オイ鎌彦、何うしよう。偉い勢ぢやないか。こんな場合は門番の吾々には判断がつかぬ。伊弉冊大神に、どんな御叱りを受けるかも解らぬなり、鎌彦、貴様は奥へ行つて開門の許しを受けて来て呉れないか』
鎌彦『何、構ふものか。開けてやれ』
『若しも固虎彦が寝返りを打つて、敵の間者にでもなつてゐたら大変だからな』
『何、構ふことがあるものか。開けるに限る』
と云ふより早く、自ら門の閂を外し、左右にサラリと戸を開けば、固山彦は、
『サア、淤縢山さま、漸く門が開きました。ヤア笠彦、大儀であつた。貴様は何時も主人を笠に被て威張る奴だが、矢張り癖は治らぬと見えるのー』
笠彦『ハイハイ、貴方のやうな結構な、立派な、勇将の御越し、御通し申したいは胸一ぱいでございますが、何を云つてもこの鎌彦奴が頑張るものですから、つい手間を取りまして申訳がありませぬ。吾々の如き微々たる門番、三軍を指揮し給ふ貴方様に向つて、一言半句にても抵抗致すは、恰も蟷螂が斧を揮つて竜車に向ふやうなもの、到底駄目だから早く御開け申せと言ふに、鎌彦の奴、蟷螂のやうな勇気を出しよつて、容易に開けないのです。本当に訳の解らぬ奴ですから』
鎌彦『何を云ひよるのだ、腰抜け野郎奴、貴様が拒んだのぢやないか、俺はちつとも構はぬ、御開け申せと言つて居るのに、日の出神の御叱りが怖いとか、大神様の御目玉が光るとか云ひよつて、邪魔をし居つた癖に、何だい今のざまは。少し強い者には直に犬のやうに尾を掉り居つて、見えた嘘を云ひ、自分の不調法を同役の俺に塗りつけやうとは不届き千万な奴。以後のみせしめ、この鎌公の鉄拳を喰へ』
といふより早く、笠彦の横面をはり飛ばせば、笠彦は大肌脱となつて、
『ヤイ鎌、馬鹿にしよるない。貴様こそ強いと見たら尾を下げて、心にもない追従をべらべらと喋くりよつて、よし覚えて居れ。この笠彦が貴様の笠の台を引抜いてやるから』
と首筋目掛けて飛びついた。二人は組んづ組まれつ、上へなり下になり争うてゐる。固虎の固山彦は、両手に拳を固め、肩肘怒らしながら大股にのそりのそりと中門目がけて進み入る。淤縢山津見は二人の格闘を見返り見返り、中門を開いて二人とも奥に進み入る。
 又もや表門を破るるばかりに打ち叩くものがある。この時四五の門番は、
『オイオイ、笠公、鎌公、何うしよう。開けようか、開けよまいか。喧嘩してゐるやうな場合ぢやない。あんな強い奴が二人まで奥へ通つて了つた。吾々は何うなる事かと思つて大変心配して居るのだ。それに又もや偉い勢で門が破れる程叩いて居るぞ。喧嘩どころの騒ぎぢやない。早く止めぬかい』
笠彦『門も糞もあつたものかい。何うなと勝手にせい。俺は鎌彦の首を引き抜かねば置かぬのだ』
鎌彦『オイ笠、喧嘩は中止して明日まで延ばしたら何うだ。兄弟墻に鬩ぐとも外その侮りを防ぐといふことがあるぞ。平穏無事の時には何程仇のやうに喧嘩をしてゐた兄弟でも、サア強敵が出て来たと云ふ時には、犬と猿とのやうな兄弟が腹を合して敵に当るものだ。貴様も謂はば兄弟だ。貴様は俺の弟だ。兄の云ふことを聞いて首を放せ』
『何を云ひよるのだ、弟もあつたものかい。貴様は俺の奴になつて尻拭をすると云へ。そしたら首を放してやらう。首も廻らぬやうな九死一生の場合に当つて、まだ減らず口を叩くか』
 門を叩く音は益々激しくなり来り、四五の門番はガタガタ慄へながら、
『オイオイ、笠彦、早く放さぬか。放さな放さぬで、俺等一同が寄つて掛つて貴様を打ちのめすが、それでも放さぬか』
笠彦『放せと云つたつて、鎌彦を始め訳の解らぬ奴ばかりで、話せるやうな気の利いた奴が一疋でも居るかい。はなしとうてもはなされぬワイ。もつと身魂を研け、研けたら大は宇宙の真理より、小は蚤の腸まで知つて居るこの方、はなして聞かしてやらう』
鎌彦『オイ執拗いぞ、いい加減に洒落て置け。そんな時ぢやなからう。大奥は今大騒動が始まつてゐる。さうして門には獅子とも虎とも狼ともわからぬやうな強い奴が、大勢の武士の出陣した後を狙つて攻めて来て居るのだ。前門には虎、後門には狼を受けて居る危急存亡のこの場合、喧嘩どころの騒ぎぢやなからう』
『ナンでもよいワイ。俺の奴さまになるか』
 門は強力無双の男に押破られ、閂はめきめきめきと音して裂けた。四五の門番はこの物音に腰を抜かし、大地に坐つたまま慄へてゐる。門ひき開けて入り来る一人の男、花を欺く三人の娘と共に悠々としてこの場に現はれ、この体を見て、
『オイ、その方は何を致して居るか。其処は地の上だ』
一同『ハイ、畏まつて御迎へを致して居ります』
『それには及ばぬ。早く立つて案内いたせ』
『ハイ、何分笠公と鎌公の門番頭が組付き合ひを始めて離れないものですから困つてをります。立つても居ても居られないので、止むを得ず腰を据ゑ、胴を据ゑて泰然自若と構へて居るのです』
『貴様らは慄うてゐるぢやないか。早く立つて案内いたせ』
『たつて立てと仰有るなら立たぬことはありませぬ。何卒笠公と鎌公に掛合うて下さい』
『妙な奴だな。オイ、笠とか鎌とかいふ門番、何を争うてゐるか』
笠彦『ヤア、誰かと思へば去年の冬、常世城に唐丸駕籠に乗せられて来よつた照彦の奴ぢやないか。オイ、鎌公、大変な奴がやつて来たぞ。もう喧嘩は中止だ。また改めて明日にしようかい。貴様も生命冥加のある奴だ。この照彦の奴を生擒にして常世城に送つてやらうか』
と云つて首を放す。
 照彦は三人の美人を随へ、悠々として委細構はず中門目がけて進み行く。鎌と笠は此体を見て、
『オイ、皆の奴、中門指して行き居るぞ。襟髪とつて引戻せ』
一同『引戻したいは山々だが腰が立たぬ。笠公、鎌公、喧嘩をするだけの元気があるなら、二人一緒になつて彼奴の足をさらへて、ひつくり返し縛り上げて常世城へ送りなさい』
笠彦『オイ、鎌公、貴様は首のないとこだつた。死んだと思つて、一か八か早く追ひかけて飛びついてでも捉まへないか』
鎌公『何だか気分が悪い、医者にでも診察して貰つて、医者が行つてもよいと吐したら飛びつきに行かうかい』
『ソンナことを云つてる場合かい、呆けやがるな。俺がけしかけてやるから行け行け。犬でもけしかけが上手だと、自分の身体の五倍も十倍もある猪に向つて飛びつくものだ。けしかけも上手でないと犬は弱いものだ』
『馬鹿にするない、人を犬にたとへやがつて』
『貴様、何時でも口癖のやうに、日の出神様の為には粉骨砕身だとか、犬馬の労を吝まぬとか吐いたぢやないか。犬馬の労を尽すのは今この時だ。口ばつかり矢釜敷く囀りよつて、肝腎要の場合に尾を股にはさんで、すつこんでゐる野良犬奴が、早く行け。オツシオツシ』
 中門の内に男女の涼しき宣伝歌聞え来るを、門番一同は顔をしかめ、耳に手を当てて地にかぶりつき縮み居る。
 大奥の模様は如何、心許なし。
(大正一一・二・二三 旧一・二七 外山豊二録)
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