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文献名1霊界物語 第12巻 霊主体従 亥の巻
文献名2第3篇 天岩戸開(三)よみ(新仮名遣い)あまのいわとびらき(三)
文献名3第18章 水牛〔514〕よみ(新仮名遣い)すいぎゅう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-19 18:00:22
あらすじ嵐が晴れて、月が皓皓と橘島を照らした。船客一同は歓呼の声をあげた。船の一隅から大男が立ち上がり、宣伝歌を歌い始めた。一同に、身も心も清めて誠の言霊で神に祈れ、と諭した。船客の甲は、この奇瑞を目の当たりにして、改心の言を口にした。乙は、今宣伝歌を歌った宣伝使は、以前に黒野ケ原の孔雀姫の館で会ったと気づいた。この船客たちは、孔雀姫の館で時置師神によって三五教にいったんは改心したように見せかけて、コーカス山の中腹でウラル教に寝返ろうとした、牛、馬、鹿、虎の四人の捕り手たちであった。四人は、時置師にあいさつしようかしまいか、思案している。牛公は躊躇していると、時置師の方から見つけて、声をかけられてしまった。時置師は牛公の身体中の悪魔を引き抜いてやろう、と言う。すると牛公は海の中に飛び込んでしまった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月10日(旧02月12日) 口述場所 筆録者藤津久子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年9月30日 愛善世界社版152頁 八幡書店版第2輯 681頁 修補版 校定版161頁 普及版65頁 初版 ページ備考
OBC rm1218
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本文  今まで暗黒に包まれたる天地は、忽然として現はれ出でたる三五の月に照されて、明さも明し呉の海の遥の沖に浮び出でたる橘島を眺めて、船客一同は船端を叩いて歓呼の叫びいや高く、沖の鴎の歌ふが如く、喜び勇むで島影目がけて進み行く。船頭は声も涼しく、春風に送られて唄ひ始めたり。
『海の底には竜宮が見える  天と地との真釣り合ひ
 俺も竜宮の宝が見たい  波を開いて呉の海』
 船の一隅より、大男ヌツクと立つて、
『月は照るとも呉の海  コーカス山の彼方より
 現はれ来る紫の  雲を迎へて眺むれば
 黄金の玉か白玉か  天津乙女の雪の肌
 花の姿に月の眉  橘姫の神司
 御供の神を従へて  常夜の闇を照さむと
 舞ひ降りたる御姿は  橘姫か深雪姫
 隈なく照れる秋月姫の  神の命か白雲の
 空分け上る雄々しさよ  コーカス山に舞ひ上り
 ウラルの姫の醜神を  言向け和はし神祭り
 仕へおほせて下り来る  石凝姥の宣伝使
 神伊邪那岐の大神の  御帯と現れし時置師
 神の命の宣伝使  石凝姥の石よりも
 固く腹帯締め直し  時じく襲ふ曲神を
 山の尾毎に追ひ払ひ  川の瀬毎に吹き散らし
 祓清めて呉の海  国武丸に乗り込むで
 進む折しも和田津神  醜の囁き曲言に
 怒らせ給ひて時津風  波を荒立て旋風
 船砕かむとする時に  天教地教や黄金山に
 永久に現れます三五の  神の命の開きたる
 いとも尊き太祝詞  心清めて宣りつれば
 天津神たち国津神  大海原に現れませる
 神も諾ひ給ひしか  風も鎮まり波さへも
 いと穏かに治まりぬ  仰げば尊き神の島
 橘姫の守ります  その神島も目のあたり
 高く輝く大空の  月に心を任せつつ
 罪科重き諸人の  汚れを乗せて進み行く
 祓戸四柱大御神  祓はせ給へ現身の
 罪や汚れや魂の垢  赤き心を皇神の
 御前に清く奉り  日の出神の一つ火に
 習ひて誠の献げ物  仕へ奉らむ今日の旅
 国武丸に今乗れる  百人、千人、万人は
 恵みも深き天地の  神の心を嬉しみて
 身も魂も荒磯の  潮に清めて仕へよや
 凡て天地の大神の  誠の道に叶ひなば
 只一口の言霊も  神は諾ひ給ふべし
 祈れや祈れ諸人よ  心一つに祈るべし
 アヽ惟神々々  御霊幸ひましませよ』
と歌つて元の席に着く。
甲『イヤお蔭で、神様の此世に在ると云ふ事が明瞭して来た様だ。吾々は彼の時に、宣伝使が祈つて呉れなかつたら、今頃は魚腹に葬られて居る処だつた。天からは美はしい女神様が沢山な供を連れて現はれ、何とも知れぬ馨の高い花を降らして下さつた。もう此れ限り神様の事は俺は疑はない。神は無いと思へばある。有ると思へば無い。兎も角、心の誠一つに神が宿つて下さると云ふ事丈けは承知が出来たよ』
乙『それだから、己が何時も云うて居るのだ。神を認める迄のお前の心と、神を認めてからのお前の心と、どれ丈け違ふか』
甲『何だか今迄は此の世の中が不安で、向ふが暗い様で何時も恟々として、世間を怖れ人を疑ひ、遂には女房迄疑つて、修羅の妄執に悩まされてゐたが、今日は初めて世界晴れがした様な爽快な心になつたよ。これと云ふのも矢張吾々を守り給ふ、大慈大悲の神様の御恵みは云ふも更なり、三五教の宣伝使が真心籠めて、天地にお祈り下さつたお蔭だナア』
乙『今、宣伝歌を歌はれたのは、お前誰だか知つてるか』
甲『何だか聞いた様な声だが、余りよく変つて居るので早速には思ひ出せない』
乙『あの方は何時やら、黒野ケ原の孔雀姫の館で御目に掛つた御方ぢやないか』
丙『さうださうだ、捕手に向つた時に孔雀姫の館で、吾々五人の者が、猫を摘むだ様に提げられ、どうなる事かと震々慄つて居た所、酒を飲まして結構な教を聞かして呉れた宣伝使だ。その時俺達が、捕手の役は厭になつたから辞めると云つたら「お前達はそれが天職だから」と仰有つた方だ。何と悪い事は出来ぬものだなア。世間が広いと云つても、何処で出会すか分つたものぢやない。オイお前達もお礼旁、コーカス山で御無礼を働いた事をお詫びしようぢやないか』
甲『そいつは一寸考へ物だぞ。牛、馬、鹿、虎の四人は随分寝返りを打つて、あつちに付きこつちに付き余り宜くない事をやつてゐるから、迂闊名乗つて出ようものなら、今度こそ、どんな目に逢ふか分りやしない。マア知らぬ顔して居る事だなア』
丁『それでも何だか済まぬ様な心持がする、一視同仁を旨とする三五教の宣伝使様がどうして吾々を苦しめる様な事をなさるものか。従順に名乗つて、お詫びもし御礼も申上げたら何うだ』
甲『お前達はそれで宜いが、この牛公は巌の中まで、沢山な宣伝使を引張込むで苦しめた、ウラル姫の捕手の頭だつたから、到底俺丈けは助かりつこはない。貴様達が名乗つて出ると其序に俺の事が現はれて来るから俺を助けると思つて名乗るのは見合して呉れないか』
乙『そんな、股倉に何やらを挟むで居る様な気味の悪い事が出来るものかい。此船には三五教の宣伝使が六人も乗つて厶るぞ。兎も角従順に、尾を掉つて此場を逃れるのだ、改心した様な顔して居れば宜いのだ。然しながら俺達は心の底から改心して居るのだが、どうしても貴様は発根の改心が出来ねば、貴様丈けは柔順うして改心らしう見せて居れば宜いぢやないか。向ふの方から、オイ、其処に居るのは牛、馬、鹿、虎ぢやないかと云はれてからは余り気が利かぬぢやないか。お月様が御出ましになつて、其処らが明くなり、風が止むで波がをさまり、ヤレ楽ぢやと思へば三五教の宣伝使の顔がアリアリと見え出した。こちらが見えると同様に、向ふも俺達の顔が透きとほる様に見えて居るに違ひない。嗚呼照る月も恨めしいが曇るのも恨めしいだらうな、牛公』
牛公『マアマア一寸思案さして呉れ。何だか大勢の前で、謝罪つたり叱られたりするのは見つとも宜くない。マア行く処まで行かうぢやないか』
丙『貴様は淡白せぬ物臭い男だナア。徳利に味噌を詰めて逆に振つて出す様な男だ。綺麗な座敷の真中で、裃を着けた儘、沢山糞を垂れて、立つにも立たれずと云ふ体裁だ。貴様は牛公だから、最前からグヅグヅ云つて、謝罪りに行かうと云ふのにビクともせぬのは、大方股に牛糞でも挟むで居るのだらう。体好く、余り海が荒れて怖かつたので牛糞が出たと白状せぬかい』
牛公『鹿公の云ふ通り、大きな声では云へぬが、実は動く事が出来ぬのだよ、糞忌々しい』
 かく語る折しも、時置師の宣伝使は、スツクと立つて此方に、人を分けて進み来り、
『イヤ牛公か、随分貴様は悪い奴だ、何うだ、最前の嵐は何う思つたか。貴様の様な悪人が乗つて居るものだから、竜神様が御立腹遊ばしたのだ。俺がこれから貴様の身体の悪魔を、引抜いてやらう』
『何、私の首を引抜く。それはマア待つて下さい』
『否、逢うた時に笠脱げと云ふ事がある。時に取つての時置師の荒料理だ、其処動くな』
乙『オイ牛公、本当に動くな、動くと臭いからな』
 時置師神は委細構はず、牛公の前に進むで来る。牛公は、ヤアと一声叫び乍ら月照り渡る波を目がけて、ザンブと許り飛び込み、ブルブルブルと音を立てて黒き姿は後白波と消え失せにけり。
 折柄の順風に真帆を上げたる国武丸は何の容赦もなく此悲劇を振り捨てて先へ先へと進行を続くる。
(大正一一・三・一〇 旧二・一二 藤津久子録)
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