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文献名1霊界物語 第13巻 如意宝珠 子の巻
文献名2第4篇 奇窟怪巌よみ(新仮名遣い)きくつかいがん
文献名3第15章 蓮花開〔541〕よみ(新仮名遣い)れんかかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-11-26 18:01:58
あらすじ三人(音彦、亀彦、駒彦)が荒れ野の道を行くと、四五人の荒男が行く手をふさいだ。中でも頭目の男はうわばみの野呂公と名乗った。音彦は、荒男たちの脅しもどこ吹く風で、喧嘩腰に応対している。しかし不思議にも野呂公を名乗る男は、昨晩三人が大蛙の背に乗って喧嘩していたことを知っていた。そして、自分は昨日の蛙の化身だと言う。音彦は野呂公の正体を問いただすが、逆に醜の岩窟での修行が足りないと言われてしまう。気がつくと、布留野ケ原の荒野にいたと思った三人は、不思議にも岩窟の中をまださまよっていた。岩窟の中に丸い光が現れると、そこから美女が現れた。三人は好い気になって、女が差し招くほうに歩を進めていった。岩窟の道はほのかに明るくなってきた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月20日(旧02月22日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年10月30日 愛善世界社版179頁 八幡書店版第3輯 95頁 修補版 校定版179頁 普及版76頁 初版 ページ備考
OBC rm1315
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本文  音、亀、駒の三人は、荒野ケ原を西北指して進み行く。傍の丈なす草原の中より現はれ出でたる五六人の怪しの男、大手を拡げて四方を取囲み、
『ヤイ、何処の奴か知らぬが、此処を何と思つて踏ん迷うて来たか、サア所有物一切を悉皆此処へ、おつ放り出して赤裸になれ。さうすれば生命丈は助けてやらう』
音彦『何吐しよるのだ、泥棒奴が、情ない奴だナア。大きな図体をしよつて、人の物を盗らねば生活が出来ないとは、何といふ因果の生れ付だ。一体貴様は何と云ふ奴だい』
男『俺は蟒の野呂公さまだい』
音彦『道理で、のろのろしてけつかるワイ、この辛い時節に労働もせずに、遊んで食ふと云ふ様な悪い了見を出すな』
野呂公『何を古い事を言ふのだ。是でも当世向の新しい男だぞ。今の人間に泥棒根性の無い奴が、一匹でも半匹でもあるかい、鬼と賊との世の中だ。ナンダ貴様は、宣伝使面をしよつて、偽善者の骨頂奴が。馬の顔にハンモックを附けた様な長いシヤツ面をしよつて………貴様もやつぱり顔ばつかりぢやない、手も足も長い、手長彦や長髄彦の眷属だらう』
音彦『何を吐しよるのだ、マア俺の宣伝歌を、落着いて聴聞しろ』
野呂公『貴様は、神だとか、道だとか、善だとか、悪だとかほざきよつて、世界の人間を圧制に廻る宣伝使だらう。チツト頭脳が古いぞ、是程民衆運動の盛んな世の中に、守旧的な事を言つても、通用せないぞ。吾々は、貴様のやうな奴を、ケープスタンぢやないが、片つ端から一所へ巻き寄せて、ガタガタと片付ける積りだ。通常の泥棒だと思ふな。斯う見えても選を異にして居るのだぞ』
音彦『ア、ナント危ない原野だ。全然浮流水雷の濫設した中を、超努級艦が航海してる様なものだ。………ヤイ浮流水雷!、こちらも探海船があるぞ。爆発さしてやらうか』
野呂公『ヘン何を吐しよるのだい。ベンチレータの様な鼻をしよつて、鼻々以て不恰好千万な、鼻息ばつかり荒くても、石油の空缶ぢやないが、風が吹いても散る様なビクビク腰で……ナアンだ、蟇に池の底へ放り込まれよつて…………』
音彦『ナニ、蟇に抛り込まれた?、貴様どうして知つてるのだ』
野呂公『アハヽヽヽヽ、それだから貴様の宣伝使は零点と云ふのだ』
音彦『ソンナら貴様は一体何者だ』
野呂公『蟇の現実化したのが、蟒の野呂さまだよ』
音彦『オーさうか、貴様蛙なら、裸体で暮して居ればよいのだ。何故に此方の御衣服が必要なのだ、………オイ亀公、駒公、しつかりしよらぬかい。俺ばつかりに交渉させよつて、貴様はそれでいいのか、冷淡至極な奴だなア』
亀、駒『オイ音サン、お前は身魂の因縁で、難局に当らなならぬ役に生れて来て居るのだよ。吾輩は、後の烏が先になる、先を見て居て下されよだ。最後の神業に参加して、抜群の功名手柄を現はすのだよ』
音彦『二十世紀の三五教の宣伝使の様な事を言うて居やがる、なまくらな奴だナ。何時まで待つても、棚から牡丹餅は落ちては来ないぞ、天地間の真相を能く考へて見よ。霜雪を凌いで苦労をすればこそ、春になつて梅の花が咲くのだ。花が咲くから実を結ぶのだ。苦労なしに誠の花が咲くと思ふか』
野呂公『オイオイ、喧嘩の宿替は困るよ。俺をどうするのだ、俺の方から解決をつけぬかい』
音彦『八釜敷い言ふない。暫く中立を厳守して居れ』
野呂公『俺等の一部隊は六人だ、貴様の一行は僅に三人、三人を裸にした所で、帯に短し襷に長し、エー仕方がない、今回に限りて、見逃してやらう。以後はツト心得て、改心を致すがよからう。アハヽヽヽヽ』
音彦『アハヽヽヽ、洒落やがるない。こちらが言ふ事を、泥棒の方から云つてゐよるワ』
野呂公『先んずれば人を制す、貴様の守護神が俺に憑つて言つたのだよ』
音彦『合点のいかぬ代者だ。一体全体貴様は何者だ』
野呂公『ハテ執拗い奴だナ。のろはのろぢや、貴様のやうな気楽な奴、世界を吾物の様に思つて居る体主霊従的人間をノロウのろさんだよ』
音彦『何だかサツパリ訳が分らぬ様になつて来た。兎も角、仮りに俺を資本家として、お前達を労働者とし、労資協調会議でも、この原野の中央で開いたらどうだ。原野の案だからツト原案通過は請合だ、………アーア世の中は能うしたものだ、日の出別さまや、鷹公、梅公、岩公に棄てられたと思へば、また新しい六人の耄碌連が殖えて来た』
野呂公『アハヽヽヽ、盲ばかりの宣伝使だな、俺の正体が分らぬ様な事では、所詮駄目だ。醜の岩窟の中での探険は、到底不可能ぢやワイ』
音彦『コラ野呂公、何れ貴様は普通の奴ぢやない、何でも変つた化物だらうが、不幸にして岩窟の探険を中止するの已むを得ざる、不可抗力が加はつたものだから、中途に計画をガラリと転覆させて了つたのだ。帰つて土産がないから、貴様化者なら詳しいだらう。どうだ、俺に限つて話して呉れないか』
野呂公『話すとも話すとも、一体此処は何処だと思つてるのだい』
音彦『定つた事だい、布留野ケ原のタカオ山脈の手前ぢやないか』
野呂公『サア、それだから馬鹿だよ、此処はやつぱり、醜の岩窟の中心点だぞ』
 音公は眼を擦り、能く能く四辺を見れば、岩窟が四方八方に開展して居る。
音彦『オイ亀公、駒公、貴様どう見える』
亀彦『さうだなア、何だか、岩窟の中のやうな気もするワイ』
駒彦『ホンに、睡とぼけて居たらしい、夢ではなからうかナア』
野呂公『左様なら……』
と云ふかと見れば、野呂公外五人の姿は消えて巌窟は白煙に全然包まれて了つた。忽ちボーとした円い光が現はれた。
駒彦『ヨー変なものが顕現したぞ、用心せよ。是から先に、ドンナ不思議な事が続出するか測定し難い、先づ身魂の土台をぐらつかせぬ様に、天の御柱を確乎立てて進む事にしようかい』
音彦『貴様は神経過敏だから、直にさう云ふ深案じをするのだ、何事も惟神だ、刹那心だ。行く所まで行かねば分るものぢやない。取越苦労は禁物だ』
駒彦『ヤアヤアあれを見よ、何だか彼の玉の中には、綺麗な顔が見えるぢやないか、全然木花姫の様な御面相だぞ』
音彦『ヨー、本当に、容色端麗、桜花爛漫たるが如しだ。最前出現した野呂公に比ぶれば何となく気持が良いワ』
 美女の影は瞬く間に、全身を露はし、手招きし乍ら、三人を一瞥して、足早に何処ともなく走り行く。
音彦『ヤア、此奴は素的だ。白煙に包まれて、たうとう姿を見失つたが、吾々はどうでも其踪跡を探索し、モ一度面会して、事の実否を糺したいものだ』
亀彦『美人だと思つて居ると、当が違つて、四つ目小僧のお化かも知れぬぞ。そこになつてから……ヤアやつぱり是は別嬪ではナイスなんて云つた所で、ガブリとやられてからはどうも仕方がない。慎重の態度を以て漸進的に進む事だ。サアサア足許に注意し、この処徐行区域だ』
音彦『それでも吾輩に向つて手招きをし、あの美しい柳の眉の涼しき電波を送つた時は、何とも云へぬ電気に打たれた様な恍惚たる次第なりけりだ。阿片煙草に熟酔した時の様な気分に襲はれたよ』
亀彦『電波といふ事があるかい、秋波の間違だらう』
音彦『秋波と云ふのは、それは古い奴の言ふ事だ。二十一世紀の人間は気が早いから、電波は一秒時間に地球を七回半すると云ふ速力で、以心電心「ネー音サン」とも何とも云はずに往つた時の容子と云つたら、有つたものぢやない。あの涼しい眼をジヤイロコンパスの様にクルクルと廻して、目は口程に物を言ひ……とか云つて、二十世紀の人間の様に、口で物言ふ様な古めかしい事はやらない、流石は文明的だ。一分間に八千回転といふ恋の速力だから、最も破天荒のレコード破り……アーア色男になると煩さいものだワイ』
駒彦『アハヽヽヽ、何寝言を言つて居るのだ、頭から冷水でも被せてやらうか、チト春先でボヤボヤするものだから、逆上して居よるのだナ』
音彦『それでも、事実は事実だから、如何ともする事が出来ぬぢやないか。恋に苦労した事のない貴様は、門外漢だ、マア黙つて居るがよからう。近代思潮に触れない、旧思想人間に、恋が語れるものかい。恋には上下貧富美醜善悪の区別がないものだ、エツヘン』
亀彦『アハヽヽヽ、コンナ訳の分らぬ魔窟へ入つて来て、ソンナ能い気な事を言つてる所ぢやあるまいぞ。寸善尺魔だ、何が出て来るか知れやしない。チツトたしなんだが宜からう』
音彦『アー、何だか没分暁漢ばかりと旅行して居ると、気分が悪くなつて、頭に脚気が起り、足に血の道が起つて来て、足は頭痛がする、頭は腹痛がする、実に不快千万だ。マアマア世の中は酒と女だ、女の事を言つてる間にでも、コンパスが進むのだ。長い道中に、堅苦しい事ばかり言つて居つて、御用が勤まるかい』
亀彦『苟くも宣伝使たる者は、女だの、酒だのと言ふ事は、仮りにも口にすべきものでない、穢らはしいワイ。モチツト真面目にならないか、世間の奴に誤解される虞があるぞ』
音彦『それは杞憂だ。寛厳宜しきを得、伸縮自在、変幻出没極まりなくして、始めて神業が完成するのだ。路端に涎掛を何十枚も首に掛て居る様な、無情無血漢では、混濁せる社会の人心を救済する事は、到底不可能だ。操縦与奪其権我に有りと云ふ態度を以て、衆生を済度するのが、三五教の御主意だ。枯木寒巌に凭る、三冬暖気無しと言ふ様な、偽善的頑迷不霊の有苗輩では、どうして完全に神業が勤まると思ふか。貴様の堅い亀の甲をもぎ取つて、少しく軟化せなくつては、勤まりつこはないぞ。竜宮の一つ島の宣伝の様な失敗だらけに終らねばなるまい』
 この時白煙は俄に消散し、広き隧道内は、又もや明るくなつて来た。
音彦『ヤア、女ならでは夜の明けぬ国、天の岩戸も、音サンの言霊で、サラリと開いた、開いた開いた菜の花が開いた、蓮草の花も開いた、天明開天だ、アハヽヽヽ』
(大正一一・三・二〇 旧二・二二 松村真澄録)
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